法律の周辺

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通報に会社の承認を求める行動規範について

2006-09-21 19:46:39 | Weblog
社員向け行動規範「権利侵害」で提訴…富士火災社員 YOMIURI ONLINE

 記事を読む限り,この確認の訴え,「具体的な紛争の存在」という要件を欠いているよう。
普通に考えれば,原告の法的地位に切迫した危険・不安があるとまでは言えず,訴えの利益なし → 訴え却下,ということになりそう。(なお,都教委通達に係る違憲判決参照)。

 それはさておき,記事には,広報グループの話しとして,「行動規範はコンプライアンスの徹底のために作成した。」とある。
しかし,公益通報者保護法もまた,法令違反行為を労働者が通報した場合に,解雇等の不利益な取扱いから保護し,事業者のコンプライアンス(法令遵守)経営を強化するために作られた法である。
通報先に順番があるわけではないが,保護要件との関係で,報道機関や消費者団体等の外部者への通報は,事業者内部等への通報に効果を期待できない,つまり,事業者内部等が自浄作用を失っているような場合に行われることが多いと思われる(公益通報者保護法第3条第3号参照)。そのような場合にまで,懲戒処分の威嚇の下に,通報に会社の承認を要求するというのは,公益通報者保護法の趣旨を損なうことにならないだろうか。
原告主張のとおり,この行動規範が通報を制限するような内容を含むとしたら,やはり問題があろう。

 なお,公益通報者保護法は,通報にあたり,他人の正当な権利(名誉,信用,プライバシー etc )などを侵害しないよう配慮することを求めている(公益通報者保護法第8条)。

内閣府 公益通報者保護制度ウェブサイト


公益通報者保護法の関連条文

(目的)
第一条  この法律は,公益通報をしたことを理由とする公益通報者の解雇の無効等並びに公益通報に関し事業者及び行政機関がとるべき措置を定めることにより,公益通報者の保護を図るとともに,国民の生命,身体,財産その他の利益の保護にかかわる法令の規定の遵守を図り,もって国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資することを目的とする。

(定義)
第二条  この法律において「公益通報」とは,労働者(労働基準法 (昭和二十二年法律第四十九号)第九条 に規定する労働者をいう。以下同じ。)が,不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく,その労務提供先(次のいずれかに掲げる事業者(法人その他の団体及び事業を行う個人をいう。以下同じ。)をいう。以下同じ。)又は当該労務提供先の事業に従事する場合におけるその役員,従業員,代理人その他の者について通報対象事実が生じ,又はまさに生じようとしている旨を,当該労務提供先若しくは当該労務提供先があらかじめ定めた者(以下「労務提供先等」という。),当該通報対象事実について処分(命令,取消しその他公権力の行使に当たる行為をいう。以下同じ。)若しくは勧告等(勧告その他処分に当たらない行為をいう。以下同じ。)をする権限を有する行政機関又はその者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生若しくはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者(当該通報対象事実により被害を受け又は受けるおそれがある者を含み,当該労務提供先の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある者を除く。次条第三号において同じ。)に通報することをいう。
一  当該労働者を自ら使用する事業者(次号に掲げる事業者を除く。)
二  当該労働者が派遣労働者(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律 (昭和六十年法律第八十八号。第四条において「労働者派遣法」という。)第二条第二号 に規定する派遣労働者をいう。以下同じ。)である場合において,当該派遣労働者に係る労働者派遣(同条第一号 に規定する労働者派遣をいう。第五条第二項において同じ。)の役務の提供を受ける事業者
三  前二号に掲げる事業者が他の事業者との請負契約その他の契約に基づいて事業を行う場合において,当該労働者が当該事業に従事するときにおける当該他の事業者
2  この法律において「公益通報者」とは,公益通報をした労働者をいう。
3  この法律において「通報対象事実」とは,次のいずれかの事実をいう。
一  個人の生命又は身体の保護,消費者の利益の擁護,環境の保全,公正な競争の確保その他の国民の生命,身体,財産その他の利益の保護にかかわる法律として別表に掲げるもの(これらの法律に基づく命令を含む。次号において同じ。)に規定する罪の犯罪行為の事実
二  別表に掲げる法律の規定に基づく処分に違反することが前号に掲げる事実となる場合における当該処分の理由とされている事実(当該処分の理由とされている事実が同表に掲げる法律の規定に基づく他の処分に違反し,又は勧告等に従わない事実である場合における当該他の処分又は勧告等の理由とされている事実を含む。)
4  この法律において「行政機関」とは,次に掲げる機関をいう。
一  内閣府,宮内庁,内閣府設置法 (平成十一年法律第八十九号)第四十九条第一項 若しくは第二項 に規定する機関,国家行政組織法 (昭和二十三年法律第百二十号)第三条第二項 に規定する機関,法律の規定に基づき内閣の所轄の下に置かれる機関若しくはこれらに置かれる機関又はこれらの機関の職員であって法律上独立に権限を行使することを認められた職員
二  地方公共団体の機関(議会を除く。)

(解雇の無効)
第三条  公益通報者が次の各号に掲げる場合においてそれぞれ当該各号に定める公益通報をしたことを理由として前条第一項第一号に掲げる事業者が行った解雇は,無効とする。
一  通報対象事実が生じ,又はまさに生じようとしていると思料する場合 当該労務提供先等に対する公益通報
二  通報対象事実が生じ,又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合 当該通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関に対する公益通報
三  通報対象事実が生じ,又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり,かつ,次のいずれかに該当する場合 その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者に対する公益通報
イ 前二号に定める公益通報をすれば解雇その他不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合
ロ 第一号に定める公益通報をすれば当該通報対象事実に係る証拠が隠滅され,偽造され,又は変造されるおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある場合
ハ 労務提供先から前二号に定める公益通報をしないことを正当な理由がなくて要求された場合
ニ 書面(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録を含む。第九条において同じ。)により第一号に定める公益通報をした日から二十日を経過しても,当該通報対象事実について,当該労務提供先等から調査を行う旨の通知がない場合又は当該労務提供先等が正当な理由がなくて調査を行わない場合
ホ 個人の生命又は身体に危害が発生し,又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合

(他人の正当な利益等の尊重)
第八条  第三条各号に定める公益通報をする労働者は,人の正当な利益又は公共の利益を害することのないよう努めなければならない。

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