法律の周辺

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敷金トラブル110番の設置について

2007-04-02 19:48:46 | Weblog
asahi.com 埼玉県が「敷金トラブル110番」を設置

 異動,卒業,入学 → 移動,の時期。
賃貸アパートから引っ越しという方も少なくないと思うが,埼玉県,弁護士会等の協力を得て退去時の敷金返還に係る無料相談を実施するとのこと。

 建物賃借人の原状回復義務の範囲については,賃借人の用法遵守義務違反等による毀損部分に限られ,通常損耗分は含まれないのが原則(民法第616条,同第598条,同第483条)。賃借物件の劣化は契約の本質上当然に予測されるものであり,通常使用で生ずる減価分は賃料の中で回収することが可能である。賃料とは別に,通常損耗分の補修費用を賃借人に負担させるのは,本来賃貸人が負担すべきリフォーム費用を賃借人に転嫁するに等しい。ただ,この辺り,下級審では,契約自由の問題として比較的簡単に賃借人の負担を認めるものも少なくないなど,判断が分かれていた。
この点に関し,ご存じのとおり,最判H17.12.16は,概略,通常損耗分の原状回復に係る負担は賃借人にとって予期しないものであるから,これを賃借人に負わせるには,通常損耗の範囲が条項自体に具体的に明記されているか,賃貸人が口頭で説明し,賃借人がその旨を明確に認識し,それを合意の内容としたと認められるなど,特約が明確に合意されている必要があると判示し,厳格な基準を示した。
本最判の事案は,賃貸借契約の締結時期が消費者契約法施行(H13.4.1)前のもので,該法の適用は無い。そのため,原告は, 通常損耗分の原状回復特約に係る合意は不成立ではないか, 仮に成立しているとしても,当該特約は公序良俗違反で無効ではないか,と論を立てていたが,契約書の別紙には相当詳細な負担区分表が掲載されていた。主任弁護士は,法学セミナー2月号で,主戦場はよりと考えていたと書いているが,最高裁は上記の厳格な基準を立て,結果,合意は成立していないとし,通常損耗分を除く補修費用を算定させるため原審に差し戻している。

 最判が立てた基準を充足した契約条項が現れた場合は,次に消費者契約法第10条による有効無効が一応問題となり得るが,従来この場面で論じられていた主要ないくつかは,上記最判により特約の成否の場面で先に取り上げられることとなった。特約成立とされた場合,消費者契約法第10条で検討されるべきことは以前より絞り込まれるという言い方はできようか。

判例検索システム 平成17年12月16日 敷金返還請求事件

国交省 『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』について

国交省 賃貸住宅標準契約書について


民法の関連条文

(特定物の現状による引渡し)
第四百八十三条  債権の目的が特定物の引渡しであるときは,弁済をする者は,その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。

(借主による収去)
第五百九十八条  借主は,借用物を原状に復して,これに附属させた物を収去することができる。

(使用貸借の規定の準用)
第六百十六条  第五百九十四条第一項,第五百九十七条第一項及び第五百九十八条の規定は,賃貸借について準用する。

(不当利得の返還義務)
第七百三条  法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け,そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は,その利益の存する限度において,これを返還する義務を負う。

(悪意の受益者の返還義務等)
第七百四条  悪意の受益者は,その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において,なお損害があるときは,その賠償の責任を負う。

消費者契約法の関連条文

(目的) 
第一条  この法律は,消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ,事業者の一定の行為により消費者が誤認し,又は困惑した場合について契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができることとするとともに,事業者の損害賠償の責任を免除する条項その他の消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とすることにより,消費者の利益の擁護を図り,もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第十条  民法 ,商法 (明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって,民法第一条第二項 に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは,無効とする。

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