武本比登志の端布画布(はぎれキャンヴァス)

ポルトガルに住んで感じた事などを文章にしています。

056. デパートの大食堂 -Restaurante de departamentos-

2018-11-18 | 独言(ひとりごと)

 今年も髙島屋での巡回個展が終った。
 デパートには独特の空気が流れていて、慣れない僕には疲れる。
 お客さんのいない時などは、スタッフの人と話をしたり、額縁のチェックをしたりと結構楽しんでいるのだが…。
 又、多くの友人知人たちも訪ねてくれる。何年ぶり、何十年ぶりという再会もある。懐かしさと嬉しさでついつい話し込んでしまう。
 勿論、初めての出会いも多い…。貴重なひと時だ。お客さんには説明をしたりするが、煩がられてもいけないので気を使う。そして緊張もする。

 そんな中、昼食はほっと一息、楽しみの一つ。
 昼食の間にお客さんが来られてもいけないので、出来るだけ迅速に済ませる。外には行かないで館内の、それに空いている時間を見計らって…。

 たいてい画廊の1階上、食堂街にはいろんな店が並んでいてどの店に入ろうかと迷う。
 最近はデパート直営は少なく、有名なチェーン店がテナントとして入っている。
 画廊の1階上だけではなく、いろんな階にも専門の飲食店が…。寿司、蕎麦、うどん、トンカツ、天ぷら、中華、鰻、洋食そして和食。パスタ専門店やタイ料理さらにマクロビオテックまでがある。
 人気の店には早くから行列が出来上がっていて、「今日は蕎麦でも食べよう」と張り切っていても、急遽トンカツに変更を余儀なくされることもある。

 昔、子供の頃はデパートというと大食堂が楽しみであった。
 父はシュウマイにビールの大瓶、母はハムサラダランチ、兄はオムライス、妹はまだ小さくて何も取らない。デパートの大食堂には和・洋・中華、何でも揃っていた。僕はうどん。僕は子供の頃からうどんが大好物。我が家では何故か、だれも「お子様ランチ」は注文しなかった。

 デパートには何でもあるが、欲しいものがない。などと揶揄されてデパート側も「それではいけない」と思っているのだろう。いろいろと趣向を凝らしてお客獲得にしのぎを削る。そんなこともあってデパート事態随分と変貌を遂げている。
 電気器具売場が姿を消し家具売場は縮小、ブランド品や婦人服売場がやたら広がっている。
 近頃は「デパ地下」が話題に上る。珍しい食材が並ぶ。老舗が軒を連ねる。

 その波が食堂にまで及んでいる。
 大食堂が姿を消しているのだ。「デパートの大食堂には、何でもあるが食べたいものはなかった。」のだろうか?
 確かに時代は変っている。
 でも昔、父は「どこどこのデパート大食堂のシューマイは絶品だ。」などと言っていた。
 デパートの大食堂でしか食べる事が出来ないものなどはいまやないのだろうか。
 母が好んで食べていた、グラタンなども珍しくはなくなった。
 立派なロースハムもどこでも買える。
 横っちょに付いていた、太いアスパラガスも手軽に手に入る。
 それを慣れないナイフとフォークで頂く。スープを音をたてないで、ライスはフォークの背に乗せて。それがデパートの大食堂の楽しみだったのだ。

 街の飲食店も専門店化し、ファミリーレストランが林立。一方、一般家庭でも珍しい食材が容易に手に入るようになって、デパートでしか味わえない楽しみも半減、お茶の間で食べるのと何ら変らなくなってしまったのかも知れない。
 でも家庭ではあの黒の蝶ネクタイと天井の高さだけは手に入らない。

 高級な割烹やホテルのレストランなど行ける筈もなかった。
 料理自慢の母はデパートの大食堂で味を確かめていたのかも知れない。

 それが岡山髙島屋には未だに大食堂が存在するのだ。
 経営は難しいのかもしれない。内装も椅子テーブルも古びている。
 何でもあるから効率は悪そうだし、残念ながら絶品とは言い難い。苦労しているのが伺える。
 消える運命にあるのかも知れないが、貴重な存在。消えないで欲しいと望まずにはいられない。
 天井の高い明るい窓からは、岡山の山並みが見える。すぐ真下には岡山駅、そして街並み。寂しい一人での食事でも退屈はしない。

 デパートの大食堂には夢があるのだ。

 リスボンでは1987年頃だったかの大火事でデパートが全焼した。そのニュースは日本でも報じられた。
 その後、焼け跡は永年、痛々しく残されていたが、数年前ようやく再建され、立派な地区に生まれ変わった。フランスのデパート「プランタン」が入った。
 その後、ジョージ7世公園近くにもスペイン資本の「エル・コルテ・イングレス」というデパートも進出した。

 レストランもあるらしいが残念ながら入ったことはない。もしかするとかつての日本のデパートの様な大食堂があるかも知れない。こんどいつか探検してみるのも悪くない。

 そして2年後の髙島屋での巡回個展が、今から楽しみだ。
 いやその前に来年、四国松山の「いよてつ髙島屋」も…。楽しみが一つ増えた。
VIT

 

 

(この文は2007年8月号『ポルトガルの画帖』の中の『端布れキャンバスVITの独り言』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルの画帖』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。)

 

武本比登志ブログ・エッセイもくじ へ  


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 055. グアダルーペへの旅 -... | トップ | 057. くち笛 -Assobio- »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

独言(ひとりごと)」カテゴリの最新記事