武本比登志の端布画布(はぎれキャンヴァス)

ポルトガルに住んで感じた事などを文章にしています。

186. カーボベルデとサントメ・プリンシペの珈琲豆 Café em grão de Cabo Verde e São Tomé Príncipe

2021-07-01 | 独言(ひとりごと)

 カーボベルデの珈琲豆とサントメ・プリンシペの珈琲豆をリスボンの弘子さんから頂いた。

 弘子さんがお住いの近くに高級店舗が並ぶ『ローマ通り』というところがあるが、そこの老舗珈琲専門店で購入されたのだそうだ。

 カーボベルデとかサントメ・プリンシペの珈琲と言うものを飲むのも初めてだが、そもそもカーボベルデやサントメ・プリンシペで珈琲が栽培されているということも知らなかった。

 毎朝、珈琲は必ず飲む。朝に珈琲を飲まないと1日が始まらない。その珈琲豆は近くのスーパーで買う。セトゥーバルには珈琲専門店なるものは恐らくない。ポルトガルに住み始めた当初は毎週のようにリスボンに出かけていたのでアウグスト通りにある珈琲専門店で何度かは買ったことはあるが、最近はリスボンにも行かないし、行っても珈琲専門店にまでは足を延ばさない。

 セトゥーバルのスーパーの棚にもいろんな種類の珈琲豆が揃っている。ブラジル、コロンビア、キューバ、ケニヤ、ガーナ、アンゴラ、インド、インドネシア、ニューギニア、チモール、それにヴェトナムと言った物もある。勿論、幾つかのポルトガルブレンドもある。

 メーカーもデルタやシーカル、ブオンディなど数種類が揃っていて、挽いていない豆そのものも売られているが、細かく挽いたエスプレッソ用と比較的粗目のドリップ/サイフォン用があり、いつもドリップ/サイフォン用を買う。が日本で売られている物より焙煎は深く挽きは細かい。

 産地はいろいろと買って順繰りに使っている。あまりこだわりはない。どれも美味しい。ポルトガルの味に慣れてしまえば日本の珈琲は頼りなく感じてしまうかもしれない。スーパーにもたくさん揃ってはいるがカーボベルデやサントメ・プリンシペの珈琲豆はない。狭い国だから栽培面積もそれ程はない筈だから貴重品に違いない。

 弘子さんはローマ通りの珈琲専門店で僕たちにプレゼントするためにわざわざ日本式に焙煎を浅く挽きを荒く、と注文して買われたそうだ。香りは申し分なく良い。今までと同様の豆の量で淹れてみたら挽きが荒いのでお湯の落ちるのが早く少し薄く感じたので、次からはたっぷりの量で淹れた。文字通り贅沢な味わいになった。コク、苦み、適度の酸味がバランスよく、そして絶妙に香りたち。今までに味わったことのない絶品である。我が家では普段から濃いめの珈琲に砂糖もミルクも入れないでブラックで飲む。

 ポルトガルに住み始めてからカーボベルデとかサントメ・プリンシペなどの国名をよく耳にするようになった。そもそも日本ではそんな国があることすら知らない人が多いのではないだろうか。

 カーボベルデもサントメ・プリンシペもアフリカ西海岸沖に浮かぶ小さな島国である。カーボベルデはあの『パリ=ダカールラリー』で有名なダカールから375キロ沖合にある。

 サントメ・プリンシペは日本でワールドカップサッカーが行われた時に注目を集めたカメルーンの隣大西洋に面したガボンの沖合300キロにある更に小さな島国である。何れも元々はポルトガルの統治国で1975年にポルトガルから独立したが、今もポルトガル語を公用語としている。アフリカにはその他にもモザンビークやアンゴラなどポルトガル語を公用語とする国が多く存在する。もちろん南米ブラジルの公用語もポルトガル語である。

 カーボベルデは共和国で10の島と8の小島からなり、その人口は55万人程で国土は併せて4000平方キロ、大阪府(1905㎢)の2倍の面積で。最高峰はフォゴ山の2829メートル。

 サントメ・プリンシペは民主共和国といい、さらに小さくサントメ島とプリンシペ島の2島からなり人口は22万人、国土は964平方キロで大阪府の半分。最高峰はサントメ山の2024メートル。

 元々は無人島でポルトガル人が発見し、住み着き、アフリカ大陸から黒人が奴隷として連れてこられた。

 何れも火山島国で火山のてっぺんが海から突き出ていると言ったかたち。大西洋にはポルトガルのアソーレス諸島から南下してマデイラ島、カナリア諸島、カーボベルデ諸島、そしてサントメ・プリンシペと火山列島が連なっている。

 珈琲の原産地はアフリカである。キリマンジャロ珈琲は日本でもよく飲まれ有名だが、その周辺地域が原産地である。

 カーボベルデとサントメ・プリンシペは共に急峻な山麓に霧が沸き立ち、1日の温度差が大きく、植物相が厚い。日本の屋久島と同様だ。葡萄栽培でも同じで、霧が沸き立ち、1日の温度差が大きい地域で上質の葡萄が出来る。マデイラ島には世界の銘酒と謳われるマデイラワインを産す。珈琲栽培もキリマンジャロを始めジャマイカのブルーマウンテンも急峻な山麓地帯で栽培されている。

 しかし現在の最大の珈琲産国はブラジルの筈だ。ブラジルで最大の珈琲農園は日系人のものだとも聞いたことがある。でも最初はポルトガル人がアフリカからカリブ海の島々やブラジルに持って行ったと考えられる。

 大航海時代以降、珈琲に関してはポルトガル人が大いに拘わっていると考えるのが妥当だろう。

 ポルトガル人はよく珈琲を飲むが小さいデミタスカップに半分ほどの極濃い珈琲に更にたっぷりの砂糖を入れ、どろっとした物を一気に喉に流し込む。ブラジルでもほぼ同じ飲み方であったからポルトガル語圏の国々では同様なのであろう。

 我が家では薄手の磁器カップに濃いめのブラック珈琲をたっぷりと時間を掛けて楽しむのでポルトガル式とは異なる。

 僕はカーボベルデやサントメ・プリンシペには行ったことがない。弘子さんの息子さんの研ちゃんは競技ヨットの審査員をしておられてその関係で世界中を飛び回っておられるが、カーボベルデにも行かれたそうである。「でもカーボベルデの人はあまり珈琲を飲んでいなかったョ。」というはなしで、珈琲豆は重要な外貨獲得産品で地元の人の口には入らないのかもしれない。

 かつてコロンビアの珈琲産地に行ったことがある。周りは珈琲園ばかりで莚にも珈琲豆が天火に干されていた。そんな中に粗末な小屋があって『カフェ』の看板が掛っていた。「これは旨い珈琲を飲むことが出来るぞ」と期待に胸を膨らませて店に入り、珈琲を注文した。やがて出てきたのは黄色い缶に入った『ネスカフェ』とお湯であった。落語のネタではないが本当の話なのだ。ジャマイカの『ブルーマウンテン』も『カーボベルデ』も『サントメ・プリンシペ』も同様なのだと思う。外貨獲得の重要な産品なのだ。

 今、ヨーロッパではコロナ禍で延期になっていた『サッカーEURO2020』が始まっている。ポルトガル初戦のハンガリー戦ではクリスチアーノ・ロナウドが2得点し、3対0で勝利し、続いてのフランス戦では2対2の引き分けだったが、その2点はクリスチアーノ・ロナウドのペナルティーキックでの2点で、クリスチアーノ・ロナウドにとってもポルトガル選抜の得点記録の109点目だったそうで、ポルトガル国民は大いに盛り上がった。その後、FIFAランキング1位のベルギーに敗れ敗退してしまった。敗退してしまったが、街には無数のポルトガル国旗が今尚はためいている。

 クリスチアーノ・ロナウドはモロッコ沖に浮かぶマデイラ島の出身である。18歳からポルトガル選抜に選ばれ、当初はポルトガルのエースナンバー7番はフィーゴが背負っていて、クリスチアーノ・ロナウドは17番をつけていた。フィーゴが引退しクリスチアーノ・ロナウドがエースナンバーの7番を引き継ぎ『CR7』というロゴまで作った、その時、17番を引き継いだのが『NANI』であった。ナニはカーボベルデの出身である。ポルトガルに帰化しポルトガル選抜代表のフォワードとして随分と活躍をし人気も高い。

 僕たちはもっぱらテレビ観戦で『ヴィットリア・セトゥーバル』が優勝した年にもサッカー場に足を運んだことはない。我が家からそのサッカー場が見え、応援の太鼓の音や歓声なども聞こえる。ヴィットリア・セトゥーバルは残念ながら今年度は2次リーグに降格してしまった。コロナ禍で公設メルカドのカフェには「ヴィットリア・セトゥーバルの応援マスクあります」と張り紙があったが、売れている様子はない。張り紙も風に飛ばされそうだ。

 2007年にサッカー21歳以下の国際試合がアレンテージョで行われた時、日本からも選抜チームがやってきた。

 アレンテージョのカストロベルデでカーボベルデと日本選抜が対戦したのを観戦したのがサッカー場に足を運んだ初めてだった。<田舎の町でサッカー観戦

 ポルトガルに住み始めてからカーボベルデ出身の『セザリア・エヴォラCesária Évora』という女性歌手の『ソダーデSodade』というポルトガル語の歌をよく耳にした。2003年にグラミー賞を獲った歌手である。

 Quem mostrava esse caminho longe? Esse caminho pa São Tomé

 誰が遠くしてしまったのですか?サントメへのこの道。

 Sodade dessa minha terra, Sodade、Sodade

 ソダーデは私の大地、ソダーデ、ソダーデ 

と歌う。

 ポルトガルには『サウダーデ Saudade』という言葉がある。『郷愁』と訳すことが出来るだろうか?ソダーデはそのサウダーデがカーボベルデで変化した独特の言葉だそうだ。支配する側のサウダーデと支配される側のソダーデ『哀愁』とも言われている。

 セザリア・エヴォラには『カフェ・アトランティコ』(大西洋珈琲店)と言うアルバムもある。

 陽当たりの良い窓辺で大西洋の水平線を眺めながらアトランティコ(カーボベルデやサントメ・プリンシペ)の貴重な珈琲を味わう。コロナ禍にあってもこれ程の贅沢はない。VIT

 

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