持続可能な国づくりを考える会

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『ミュルダールの経済学』を読む 4

2016年03月10日 | 経済

 

福祉世界構築に向けて 

 一方で先進国(福祉国家)における成長の好循環があり、他方で低開発国(軟性国家)における貧困の悪循環があり、また福祉国家の国民主義的限界による両者間での悪循環もあると累積的因果関係論は現実を分析するのですが、悪循環を克服して福祉世界を構築し、格差を解消するのがミュルダールの理想です。累積的因果関係論では、そのためには平等主義的政策を実施せよとなります。そこでミュルダールはそのための政策論を、低開発諸国向けと先進諸国向けの二通りに分けて展開します。「低開発諸国の自助努力」と「先進諸国の責任」とよばれるものです。そうして福祉国家から福祉世界へと発展するための全般的ヴィジョンを提示していくことになります。 

低開発諸国の自助努力(国内諸制度の改革) 

 既に述べましたように、ミュルダールは低開発諸国における「貧困の悪循環」の根本的要因は、「低開発諸国における不合理・不平等な制度であり、それと相互連関する人々の保守的・因習的な態度や思考様式」(p.232)だと考えていましたから、「貧困の悪循環」から脱却するために彼が与えた処方箋とは、「何よりも国内諸制度の改革であり、とりわけ平等主義的方向への改革」(p.232)でした。本書では234ページから236ページにかけて、ミュルダールが挙げた四つの領域での具体的な制度改革を紹介しています。それを簡単にまとめてみます。

 ①土地(農地)所有制度:より多くの収穫をもたらす新品種の栽培は、たいていより高度な農法を必要とし、肥料、灌漑、病虫害からの保護、除草などの準備をしなければならない。しかし、それが可能なのは一部の上位階層の農民にすぎないので、多くの農民は労働生産性を上昇させようというインセンティブをもちえないでいる。農地改革なしに農業の技術進歩(「緑の革命」)が進むことはさらなる不平等に結びつく。

 ②人口:人口爆発が貧困の主要因の一つだが、子どもを労働力として使用するという人々の意図が存在しているため、避妊法や家族計画の考えが普及していない。強力な公共の産児制限政策を制度化し、人々の意志や行動を変革していくより他にない。

 ③教育:国内における人々の合理性、経済的・社会的移動性を高め、「波及効果」を増大させるには、初等教育と同時に成人教育の充実が不可欠だが、教師の数や質の面から、低開発国では初等教育をより充実させる必要がある。

 ④軟性国家:地主や官僚などの低開発諸国の上層部が制度変革を妨げがちであり、また先進諸国の企業が彼らに贈賄を行い、そうした勢力を保持させる大きな一因になっている。反贈賄の厳格な制度が必要である。 

 ミュルダールの言う「低開発諸国の自助努力」とは、「低開発諸国の発展は何よりもそれらの国々自身が右記のような国内諸制度改革に向けて何をなすかによって決まる」(p.236)ことを意味します。自助努力によってこそ制度改革に内面の変化が伴い、永続化すると考えたようです。そして、「経済発展は一般にこの種の改革を容易にするので、いったん改革の手が打たれれば、発展と改革が順次に絡み合って累積的な過程をたどる可能性を秘めている」(p.237)とします。ただし、低開発国では、民主主義が政治的闘争によって勝ち取られたのではなく上から授けられたために、大衆が政治に無関心であり、国民統合が進んでいないと指摘しています。そのため、自助努力を進めにくいということなのでしょう。

 



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