シンポジウム「持続可能な国家のビジョン~経済・福祉・環境のバランスは可能だ!~」
趣意書
多くの警告や専門機関、専門家、民間活動家も含めた多くの人々の努力にもかかわらず、この数十年、世界全体としての環境は悪化の一途をたどっています。
特に近年、記録的暑さ、記録的豪雪、記録的強風、記録的豪雨など、「気候変動・地球温暖化」を実感させる異常気象が頻発しています。
メディアでも、頻繁に「温暖化の影響」という言葉が使われ、「猛暑日」や「不都合な真実」が流行語にノミネートされるまでになりました。
言うまでもありませんが、「地球環境問題」はそれにとどまりません。
その他、オゾン層の破壊、森林の減少、耕地・土壌の減少、海洋資源の限界―減少、生物種の激減、生態系の崩壊、化学物質による大気・耕地・海洋の汚染、核廃棄物や産業廃棄物から生活ゴミまでの際限のない増加などなど、根本的に改善されているものは一つとしてない、地球環境が非常な危機にあることはすでにあまりにも明らかである、と私たちは捉えています。
そうした状況の中で、一般市民の意識・危機感もゆるやかではありますが、確実に高まっています。
しかし、そうした危機感は、「できることからはじめよう」という努力には結びついていますが、それだけでは社会全体の方向は変わらず、環境問題の根本的な解決にはつながりません。
環境問題は、近代先進国の人々が豊かになるという目的のために行ってきた経済活動――資源の大量使用―大量生産―大量消費―大量廃棄による経済成長――の、予想していなかった、しかしよく考えれば必然的な「目的外の結果」が蓄積し続けているものであり、問題の解決には、そうした社会・経済システムを変更するほかない、というのが私たちの考えです。
しかし多くの人が本音のところ、「環境は確かに問題だが、それに力を注ぎすぎると経済がダメになる」、「経済と環境は二者択一だ」、さらに「経済と福祉と環境は三すくみだ」と考えているようです。
確かに、経済成長を一切否定するような「昔帰り」は、近代の経済成長の恩恵を受けてきた現代人にとってはできない選択でしょう。
けれども私たちは、そうした不毛な発想は採りません。このシンポジウムにおいて、副題のとおり「経済・福祉・環境のバランスは可能だ」と主張したいのです。それこそが「持続可能な国家のビジョン」の要だと考えるからです。
私たちは、すでに2006年11月、シンポジウム「日本も〈緑の福祉国家〉にしたい!――スウェーデンに学びつつ」を開催し、環境の危機に対して「どういう対策が本当に有効かつ可能か」を、スウェーデンという国家単位の実例をモデルとして検討し、そこから大枠を学ぶことによって、日本の進むべき方向性が見えてくるのではないか、と提案しました。
かつてヨーロッパの北辺のきわめて貧しい農業国だったスウェーデンは、戦前から特に戦後にかけて、急速な近代化・工業化によって豊かな福祉国家に変貌し、単なる「経済大国」ではなく「生活大国」になりました。
しかし、70年代と90年代前半、スウェーデンが不況にみまわれた時、「それ見たことか、やりすぎの福祉のための高い税と財政の負担が経済の足を引っぱった。
やはり『スウェーデン・モデル』は無理なのだ」という印象批評がありました。
ところが実際には、90年代前半の不況をわずか数年で克服し、国の財政収支はほぼバランスし、世界経済フォーラム(ダボス会議)の経済競争力調査では2005年までの過去三年間世界第三位にランクされています。
いまや経済・財政と福祉、さらには環境とのみごとなバランスを確立しつつあるようです。
しかもそれは、たまたまうまくいったのではありません。
問題解決の手法として、目先の問題に対応するのをフォアキャスト、到達目標を掲げそれに向けて計画的に実行していくのをバックキャストといいますが、スウェーデンは、政治主導のバックキャスト手法によって、「エコロジカルに持続可能な社会=緑の福祉国家」という到達目標を掲げ、それに向けて着実に政策を実行し、目標の実現に近づいています。
「日本も『循環型社会』や『低炭素社会』というコンセプトで努力している」という反論もあるでしょう。
しかし決定的な違いは、依然として大量生産―大量消費―大量廃棄を前提とした「経済成長の持続」を路線としている点です。それは原理的に「持続可能」だと思われません。
それに対しスウェーデンは政府主導で、経済活動を自然の許容する範囲にとどめつつ高い福祉水準を維持できる経済成長を続けるという、きわめて巧みなバランスを取ることに成功してきました。
それは、政府関係者が、早くから「第二次産業革命」と呼ばれた重化学工業中心の時代から「第三次産業革命」・知識産業中心の時代に移りつつあることを認識していたことにもよるようです。
多くの人の誤解と異なり「スウェーデンは小さい国だからできた」のではありません。
政治指導者に、「社会全体は協力原理で営み、経済分野は競争原理で活性化する」という統合的な英知があり、そうした方向性で合意して市民も科学者も財界人も協力したからできたのではないでしょうか。
もちろんスウェーデンが唯一で完璧なモデルだとは思いませんが、国際自然保護連合の評価では、現在「エコロジカルに持続可能な社会」にもっとも近づきつつある国です。
そういう意味で、きわめて希望のもてる「学ぶべきモデル」だ、と考えているのです。
しかも、長らく政治アレルギーぎみだった日本の心ある市民にとって重要なことは、スウェーデンの政治権力はみごとなまでの自己浄化能力・自己浄化システムを備えているということです。
堕落しない民主的な政治権力のある国が現実に存在しているのです。
私たち日本人が今スウェーデンから学ぶべきものは、なによりも国を挙げて「緑の福祉国家」を目指しうる国民の資質とその代表・指導者たちの英知と倫理性です。
自浄能力のある真に民主的な政治権力の指導によってこそ、経済・福祉・環境のバランスのとれた、本当に「持続可能な社会=緑の福祉国家」を実現することが可能になるのではないか、それは、世界中の国々が目指すべき近未来の目標であり、日本にとっても今こそ必要な国家ビジョンである、と私たちは考えます。
きわめて残念ながら当面日本には、「緑の福祉国家」政策を強力に推進できるような国民の合意も政治勢力もまだ存在していませんが、危機の切迫性からすると早急に必要です。
そうした状況の中で、まずそうした方向性に賛同していただける方、関心を持っていただける方にお集まりいただき、希望ある国家ビジョンを共有するオピニオン・グループを創出したい、という願いをもって前回のシンポジウムを開催し、そこで得られた合意に基づき「持続可能な国づくりの会‐緑と福祉の国・日本‐」というグループを結成しました。
本シンポジウムは、私たちのいわば第二歩です。
趣旨にご賛同いただける方、次世代に手渡すことのできる「持続可能な国」をつくり出すためのステップを、ぜひご一緒にお踏みいただけますよう心からお願い致します。
2008年2月10日
持続可能な国づくりの会〈緑と福祉の国・日本〉
事務局 齊藤達也
運営委員 岡野守也 (サングラハ教育・心理研究所主幹)
顧問 大井玄 (元国立環境研究所所長)
顧問 西岡秀三 (元国立環境研究所理事)
スペシャルサポーター 小澤徳太郎(環境問題スペシャリスト)
賛同者 神野直彦 (東京大学大学院経済学研究科教授)
趣意書
多くの警告や専門機関、専門家、民間活動家も含めた多くの人々の努力にもかかわらず、この数十年、世界全体としての環境は悪化の一途をたどっています。
特に近年、記録的暑さ、記録的豪雪、記録的強風、記録的豪雨など、「気候変動・地球温暖化」を実感させる異常気象が頻発しています。
メディアでも、頻繁に「温暖化の影響」という言葉が使われ、「猛暑日」や「不都合な真実」が流行語にノミネートされるまでになりました。
言うまでもありませんが、「地球環境問題」はそれにとどまりません。
その他、オゾン層の破壊、森林の減少、耕地・土壌の減少、海洋資源の限界―減少、生物種の激減、生態系の崩壊、化学物質による大気・耕地・海洋の汚染、核廃棄物や産業廃棄物から生活ゴミまでの際限のない増加などなど、根本的に改善されているものは一つとしてない、地球環境が非常な危機にあることはすでにあまりにも明らかである、と私たちは捉えています。
そうした状況の中で、一般市民の意識・危機感もゆるやかではありますが、確実に高まっています。
しかし、そうした危機感は、「できることからはじめよう」という努力には結びついていますが、それだけでは社会全体の方向は変わらず、環境問題の根本的な解決にはつながりません。
環境問題は、近代先進国の人々が豊かになるという目的のために行ってきた経済活動――資源の大量使用―大量生産―大量消費―大量廃棄による経済成長――の、予想していなかった、しかしよく考えれば必然的な「目的外の結果」が蓄積し続けているものであり、問題の解決には、そうした社会・経済システムを変更するほかない、というのが私たちの考えです。
しかし多くの人が本音のところ、「環境は確かに問題だが、それに力を注ぎすぎると経済がダメになる」、「経済と環境は二者択一だ」、さらに「経済と福祉と環境は三すくみだ」と考えているようです。
確かに、経済成長を一切否定するような「昔帰り」は、近代の経済成長の恩恵を受けてきた現代人にとってはできない選択でしょう。
けれども私たちは、そうした不毛な発想は採りません。このシンポジウムにおいて、副題のとおり「経済・福祉・環境のバランスは可能だ」と主張したいのです。それこそが「持続可能な国家のビジョン」の要だと考えるからです。
私たちは、すでに2006年11月、シンポジウム「日本も〈緑の福祉国家〉にしたい!――スウェーデンに学びつつ」を開催し、環境の危機に対して「どういう対策が本当に有効かつ可能か」を、スウェーデンという国家単位の実例をモデルとして検討し、そこから大枠を学ぶことによって、日本の進むべき方向性が見えてくるのではないか、と提案しました。
かつてヨーロッパの北辺のきわめて貧しい農業国だったスウェーデンは、戦前から特に戦後にかけて、急速な近代化・工業化によって豊かな福祉国家に変貌し、単なる「経済大国」ではなく「生活大国」になりました。
しかし、70年代と90年代前半、スウェーデンが不況にみまわれた時、「それ見たことか、やりすぎの福祉のための高い税と財政の負担が経済の足を引っぱった。
やはり『スウェーデン・モデル』は無理なのだ」という印象批評がありました。
ところが実際には、90年代前半の不況をわずか数年で克服し、国の財政収支はほぼバランスし、世界経済フォーラム(ダボス会議)の経済競争力調査では2005年までの過去三年間世界第三位にランクされています。
いまや経済・財政と福祉、さらには環境とのみごとなバランスを確立しつつあるようです。
しかもそれは、たまたまうまくいったのではありません。
問題解決の手法として、目先の問題に対応するのをフォアキャスト、到達目標を掲げそれに向けて計画的に実行していくのをバックキャストといいますが、スウェーデンは、政治主導のバックキャスト手法によって、「エコロジカルに持続可能な社会=緑の福祉国家」という到達目標を掲げ、それに向けて着実に政策を実行し、目標の実現に近づいています。
「日本も『循環型社会』や『低炭素社会』というコンセプトで努力している」という反論もあるでしょう。
しかし決定的な違いは、依然として大量生産―大量消費―大量廃棄を前提とした「経済成長の持続」を路線としている点です。それは原理的に「持続可能」だと思われません。
それに対しスウェーデンは政府主導で、経済活動を自然の許容する範囲にとどめつつ高い福祉水準を維持できる経済成長を続けるという、きわめて巧みなバランスを取ることに成功してきました。
それは、政府関係者が、早くから「第二次産業革命」と呼ばれた重化学工業中心の時代から「第三次産業革命」・知識産業中心の時代に移りつつあることを認識していたことにもよるようです。
多くの人の誤解と異なり「スウェーデンは小さい国だからできた」のではありません。
政治指導者に、「社会全体は協力原理で営み、経済分野は競争原理で活性化する」という統合的な英知があり、そうした方向性で合意して市民も科学者も財界人も協力したからできたのではないでしょうか。
もちろんスウェーデンが唯一で完璧なモデルだとは思いませんが、国際自然保護連合の評価では、現在「エコロジカルに持続可能な社会」にもっとも近づきつつある国です。
そういう意味で、きわめて希望のもてる「学ぶべきモデル」だ、と考えているのです。
しかも、長らく政治アレルギーぎみだった日本の心ある市民にとって重要なことは、スウェーデンの政治権力はみごとなまでの自己浄化能力・自己浄化システムを備えているということです。
堕落しない民主的な政治権力のある国が現実に存在しているのです。
私たち日本人が今スウェーデンから学ぶべきものは、なによりも国を挙げて「緑の福祉国家」を目指しうる国民の資質とその代表・指導者たちの英知と倫理性です。
自浄能力のある真に民主的な政治権力の指導によってこそ、経済・福祉・環境のバランスのとれた、本当に「持続可能な社会=緑の福祉国家」を実現することが可能になるのではないか、それは、世界中の国々が目指すべき近未来の目標であり、日本にとっても今こそ必要な国家ビジョンである、と私たちは考えます。
きわめて残念ながら当面日本には、「緑の福祉国家」政策を強力に推進できるような国民の合意も政治勢力もまだ存在していませんが、危機の切迫性からすると早急に必要です。
そうした状況の中で、まずそうした方向性に賛同していただける方、関心を持っていただける方にお集まりいただき、希望ある国家ビジョンを共有するオピニオン・グループを創出したい、という願いをもって前回のシンポジウムを開催し、そこで得られた合意に基づき「持続可能な国づくりの会‐緑と福祉の国・日本‐」というグループを結成しました。
本シンポジウムは、私たちのいわば第二歩です。
趣旨にご賛同いただける方、次世代に手渡すことのできる「持続可能な国」をつくり出すためのステップを、ぜひご一緒にお踏みいただけますよう心からお願い致します。
2008年2月10日
持続可能な国づくりの会〈緑と福祉の国・日本〉
事務局 齊藤達也
運営委員 岡野守也 (サングラハ教育・心理研究所主幹)
顧問 大井玄 (元国立環境研究所所長)
顧問 西岡秀三 (元国立環境研究所理事)
スペシャルサポーター 小澤徳太郎(環境問題スペシャリスト)
賛同者 神野直彦 (東京大学大学院経済学研究科教授)