持続可能な国づくりを考える会

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山林の危機 : 上勝町視察旅行の記録(12)

2008年12月24日 | 上勝町
やがて笠松町長が自家用車にてふれあい館に到着されました。

役場に寄ってからいらしたらしく、変わらずの背広姿で、たびたびかかってくる胸元の携帯電話に対応されておられました。やはりたいへんお忙しいのだと感じられます。
この日は日曜日(しかも3連休の中日)のはずですが・・・。

政治家の方の激務ぶりというのはうわさには聞いていましたが、まったくそのとおり(というかそれ以上)だと一同早くも深く納得した次第です。

にもかかわらず、町長みずから本日の視察に一部を除き同行していただけるとのことで、恐縮と同時に文字どおり何とも有り難いことだと感じました。


さて、挨拶もそこそこに町長が視察の第一のポイントについて説明してくださいました。

それは端的に、

○ 日本の林業はすでに経営が成立していないという意味で事実上崩壊しているといって過言でなく、
○ 林業の崩壊により日本全国の山林はいわば「緑の砂漠」状態にあり、
○ そこから起こる様々な問題で地方は現在非常な苦境の真っただ中にある、

ということです。

結論を先にいうと、ともかく上勝町をはじめ日本の山林と林業が、ひいては日本の国土保全政策そのものが、すでに相当以前から大ピンチにあるということです。


上勝町長が第一に説明されたこと、つまりこの上勝町視察において最も知っておいてほしいことが、なにより山林と林業の現状であることが、私たちには意外でした。

意外に感じられたというのには、もちろん町長が説明されたような山林の危機状態を、都市に住む私たちがこれまであまりに意識してこなかったということもあります。

(たとえばそのことについての情報が、ネットをはじめちょっと調べればすぐにわかることであるにもかかわらず。しかもその情報をたとえ得たとしても、実感は湧かないかもしれません。想像力の欠如です。)

上勝町の視察のポイントとは、まず何よりよく知られている“葉っぱビジネス”の「いろどり」とか“ゼロウェイスト”などの画期的な取り組みにあるはずだ、と思っていました。
それがなぜ、まず第一に山林なのか?

しかしこの説明と実際の山林の視察で、それは実は意外でも何でもないことがすぐにわかりました。

それほど、「緑の砂漠」とは衝撃的な光景でした。
(私たちにとってそれはじつは見慣れた光景なのですが・・・説明を受けて初めてそれとわかる、とても恐ろしい事実です。)


笠松町長は「たとえば」と、立っておられる脇のふれあい館の柱を叩いて示され、おっしゃいました。
「この柱をはじめ建物全体が上勝産のスギ材でできているけれども、でも実際に日本でどのくらい国産のスギ材が使われているか、みなさん知っていますか?」

(実際には町長はすべて徳島弁そのままで語っておられます。残念ながら初めて徳島を訪れたわれわれメンバーには再現不能な部分もありますので、ご了解ください。この点、東京でお会いした際もまったく変わらず徳島弁で一貫しておられました。いわゆる「郷土愛」や「地方の矜持」を示されてのことと受け取れられるかもしれませんが、そういった気負いめいたものは感じられません。その語りには素朴な独特の魅力があります。)

――そう問われ、エコロジカルな持続可能性ということをずっと勉強してきたにも関わらず、現実の日本の森林のこと、林業のことを、(すくなくともこの記事の筆者は)ほとんど考えてこなかったことに思い当ります。

きっと杉が主体である人工林の山林が国土の多くを覆っているのだから、たくさん使われているに違いないし、緑・森林があることは良いことだと単純な発想でした。

読者皆様は「国産スギの使用状況」をおわかりでしょうか?







「実際には国産のスギ材は当の日本ではほぼまったく使われていない」のだそうです。

たとえば笠松町長は、町議会の正副議長が上京したとき両者に「東京で国産のスギ材がどの程度使われているのかを実際に見てきてください」とお願いをされたのですが、しかしどこにも見つけることができなかったそうです。

結局、きわめて皮肉なことに霞が関の農林水産省本省庁舎の玄関先にだけ、しかも申し訳程度に国産スギ材が使われているのを発見した、とのことです。
(しかも、農水省があえて使っているのは地方に気を使ってのことだろう、とのことです…)

さきにふれたように、上勝町は全域の85%が山林に覆われ、しかもそのうち83%が杉の人工林となっています。

かつて上勝では主産業の林業が栄え、この山間部にもかかわらず6000人を超える人口がありました。
そして林業の盛衰は上勝町の盛衰でもあったとのこと。

その林業が、なぜいま崩壊状態にあるのか?
そもそもなぜ国土を覆っているはずのスギ材が使われないのか? 
それがなぜ「緑の砂漠」状態をまねいてしまっているのか?


その説明にあたり町長が示されたのが、「日本の経済連携協定(EPA)交渉―現状と課題―平成20年10月」という資料でした。
(外務省HPのhttp://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/fta/pdfs/kyotei_0703.pdf参照。視察メモよりこの資料にたどり着きました。EPAについて末尾に説明を載せています。)





いま日本政府にとって、アジア諸国を中心とした諸外国との外交方針の焦点となっている課題だそうですが、そのポイントはアジア諸国とのカネ・モノ・ヒト・サービスの交流をこれまでよりいっそう推し進め「自由化する」ということにあるとのことです。

これが上勝町のような地方自治体にとっては大問題であると。
なぜなら林業の崩壊を招いた最大の原因が、その「自由化」の流れそのものにあるから、というのです。



●EPAについて
経済連携協定(EPA:Economic Partnership Agreement)とは、2つ以上の国(又は地域)の間で、自由貿易協定(FTA:Free Trade Agreement)の要素(物品及びサービス貿易の自由化)に加え、貿易以外の分野、例えば人の移動や投資、政府調達、二国間協力等を含めて締結される包括的な協定をいいます。
(中略)
我が国は、WTOを中心とする多角的貿易体制を補完し、貿易自由化や経済活性化を図る上で、経済連携を推進することが重要であるという基本スタンスの下、東アジアを中心とした経済連携の推進に取り組んでいます。
(以上、財務省のHPより転載したものです)

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1 コメント

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政府調達情報 (政府調達情報)
2009-03-03 13:58:54
全国の政府調達情報(一般競争入札)を公開
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