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枇杷の葉なし

枇杷の生育や、葉・花芽・種のことを日々の生活のなかで書いていく。

龍の庭・4

2023年07月07日 | Weblog
 魔法使いは、ユノーのしていることをお見通しでした。いつまで経っても、見習いな訳は力を持て余してとんでもないことをしでかすからです。ユノーの体を小さくしているのには、計り知れないエネルギーを溜めてだからです。暴走させると庭の命はむろんですが、数多の磁場も破壊され修復は不可能になります。

 ユノーはその力に気づいてはいませんがサンドラの想いが膨らめば、遅かれ早かれ此処の宇宙も吹っ飛びます。そうなることを避けるのも、傷ついた心のサンドラには時間も必要なのです。いくら魔法使いであろうとも、何かを犠牲にさせるのは好みませんから。子どもとは離し、記憶も消して別々な場所に移して。

 ユノーは、庭の仕事に向き直しました。地上に下ろす命の選択もですが、変わらぬ気持ちを注いで一心にします。明日は、深紅のバラが行く予定になっています。ユノーはベルベットの花弁にそっと触れて『待ってくれているよ、あちらでも元気でね』すると『この魅惑で虜にするわ』高慢に満ちて云い放ちました。

 深紅の薔薇の見事さは、庭にいても際立ち匂い輝いてなのですから無理のないことでした。ユノーには、その言葉が信じられません。綺麗さや美しさを自慢してはいけないよ、見た人の心を捉えても咲けなくなるから…。深紅のバラは、ユノーから目を離して地上を睨んでいます。胸の中には、黒雲が沸き立ちます。

 深紅のバラの下りた先には、物静かな若者が棲んでいました。兄弟が大勢でしたので、早くから一人で暮らしていて玄関に赤いバラを植えたのです。若者は、深紅のバラの思い通りになりました。明けても暮れても、深紅のバラ以外には思えず手がつきません。身体が痩せ細って、眼は窪み起きているのさえ苦痛に。

 最初に異変に気付いたのは母親でした。若者は丹精込めた作物を手に、訪ねて来るのがありません。胸騒ぎに足を向けてみれば、家を隠す勢いになった深紅のバラが行く手を阻みます。同時に若者は深紅のバラから魂を奪われたと、母親は知りました。その両目から流れる涙は地を這い、深紅のバラを溶かしました。

 二十四節気 小暑 暑熱いよいよ盛んとなるので、小暑と云う。毎年、七月七日頃である。
コメント (2)
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