
題詞に「五月(さつき)の晦日(つごもり)に、富士の山の雪白く降れるを見て」とあるから、もう真夏の雪。万葉以来、夏の雪は畏敬の目で詠われている。
ひらかなy128:なつなのに ときをしらない ふじなのか
まだらもように ゆきがふるとは
ひらかなs1614:ときしらぬ やまはふじのね いつとてか
かのこまだらに ゆきのふるらん
【略注】○時=季節。
○在原業平=悠 077(10月07日条)既出。
【補説】富士の歌。三首並ぶ。
1612 世の中を心高くも厭ふかな
富士の煙を身の思ひにて 慈円
1613 風になびく富士の煙の空に消えて
ゆくへも知らぬわが思ひかな 西行
慈円の「思ひ」とは、世俗から離れて、自らを高く修行する決意。
西行は、自選の最高の一首としたと。家集で「恋」の部に。二、三
年後に死ぬことになるのだが、それを追って慈円が「俺は彼とは
違うぞ」と、上の歌を残した。