「高知ファンクラブ」 の連載記事集1

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鈴木朝夫の「ぷらっとウオーク」 ・・・右肩下がりの下山の先は

2012-07-30 | 鈴木朝夫の「ぷらっとウオーク」

右肩下がりの下山の先は

                                                   情報プラットフォーム、No.298、7月号、2012、掲載 


昨年の暮れにタイトルに惹かれて何気なく手にしたのは、五木寛之氏の「下山の思想」(2011/12、幻冬社新書)である。初めは、最近多くなっている中 高年の登山者への「下山」の注意を示した警告書、あるいは人生の峠を越した人々への
老いるための心構えを説いた内容と思っていた。

登山はまだでき ると自負していても、階段の上り下りに不安を感じる歳である。若い頃、深田久弥の「日本百名山」に憧れ、その60座を登っていた。登頂の思い出は アルバムに残っているが、苦しかった「下山」は記憶の中に鮮明に残している。

 「下山の思想」を読んだ後に、鷲田精一氏の「『右肩下がりの時代』をどう生きるか」と題する論説が「潮」(2012/1)に掲載された。また、”NPO もったいない学会”から「石油文明が終わる~3・11後、日本はどう備える」(石井吉徳他著、2011/11)が出版されている。

これらを一つに 要約してみる。
  「石油ピークは既に過ぎており、使い勝手の良いエネルギー資源の観点からは、生産活動自体が下り坂になることは必然であり、経済指標は何れも前年度比マイ ナスの退却戦に入っている。これからは専門家と称する人への『お任せ』ではなく、各自が考え、意見を持つ『自立』の時が来たことを自覚しなければならない。下り行く先の未曾有の時代の姿を思い描き、どのように生きていくかを皆で考えるべきである。」

今の高齢者達の世代は、最高峰を目指した同志であった。戦後の日本の経済成長を、高品質・高効率・大量生産で担う戦士達であり、希望に満ちて大量消費を競ってきた仲間達であった。下山に際しては、固定観念を、既成概念、その価値観を捨て去る必要がある。

山を下るときの鉄則はグループをまとめ、落伍者を出さないことである。力量や経験の異なる混成部隊である。適度な休息を取り、食糧を分け合い、体を温め合うことが必要である。寒さが募る中では、眠らないことが必須である。サブリーダーの「しんがり」としての気配りは極めて重要である。そして、天 候、地形
などの環境変化を細心の注意と直感によって判断できる能力を持つリーダーの責任は更に重要である。人材の枯渇では?

  我々山仲間は「山を征服した」との表現を使ったことは一度もない。頂上では「ありがとう」と山々に感謝し、「お陰さま」と仲間と握手をした。帰りも安全に 降ろして下さいのお願いが込められている。日本人が皆で最高峰に立ったとき、我々は「お陰さま」と感謝しただろうか。今からでも遅くない。振り返り、感謝を捧げようではないか。
 

さて、右肩下がりの道を下り行くその先は? 「となりのトトロ」で宮崎駿の描いたサツキとメイの家のような暮らしか。それとも、もう少し昔の宮沢賢治が理想郷とした里山の「イーハトーブ」だろうか。 もっと昔に戻り、武士も町民も風流を愛でた江戸時代の心の豊かさの中なのだろうか。

 何れにしても、凄まじい速さで大量のエネルギーを消費することは、エントロピー増大を加速するだけである。地球温暖化はその一つの現れである。

  下山しながら、疲れてはいても懲りることなく、仲間と次の登山計画を語り合うのが常だった。この度は、次の登山計画を語れない「下山」かも知れない。私の 登山靴はすでに下山靴としての仕事も終えて下駄箱にある。もうこの歳では関係ないと思い、でも子供達・孫達の先行きは心配している。「下山の思想」は今や大ベストセラーに躍り出ている。


  参考:{『エントロピー』では読んで貰えないか?}(本誌、No248、
5(2008))、{この暑さは地球温暖化の影響?}(本誌、No241、 10(2007))

 

 

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