ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

ブロークン・フラワーズ

2007年10月27日 | 映画レビュー
 人生の謎には答なんてない! いかにもジャームッシュ!

 20年前に別れた女からある日突然手紙が届く。「実は、あなたと別れた後で妊娠に気づいたの。一人で生んで育てました。その息子は今19歳。父を捜す旅に出てしまったわ。あなたを訪ねていくかも」

 住所も名前も記されていない手紙の差出人を捜す旅に出た初老の男、ドン・ジョンストン。探す相手は4人に絞られた。親友が調べてくれて、現在の住所もわかった。さて、彼女たちの反応やいかに?!

 ドン・ジョンストンは決して笑わない。ほんの少し唇の端を持ち上げることはあっても、声を出して笑うことがなく、いつも不機嫌な仏頂面をしている。しかも、ひねくれ者だ。なんでこんな男がもてまくって「ドン・ファン」などと呼ばれたのかさっぱりわからない。

 で、訪ねた相手の一人目がシャロン・ストーン。老けたとはいえ、まだまだイケてます、姉御さま。再会するなりいきなり「ドニィ?」と言って破顔となり、たちまち抱きついて「久しぶり!」だなんて、そんなこと! おまけに彼女の娘は母親似のべっぴんさんで、中年男の前で平気で全裸ってそんなバカな! そのうえ久しぶりに会った中年男女はたちまちベッドインってそんなバカな! とにかくこの旅はドン・ジョンストンにとっては美味しいことずくめ。なのに彼は相変わらず不機嫌な仏頂面。んなバカな!

 二人目は夫と二人で不動産業を営む女性。彼女も戸惑いながらもやっぱりドンを歓待してくれる。むしろ彼女の夫がドンを歓待するのだけれど、どうにも話題が盛り上がらない夕食となる。ここでもやっぱりドンは仏頂面。こういったシーンでのジャームッシュの演出はまさにジャームッシュ節です。どうにも気まずい雰囲気の間合いの入れ方。これ、ほかの監督にはできないんじゃないかというぐらいのものすごいタイミングのとりかただ。見ているほうが気まずくなるぐらいの切ないリズム。

 三人目は動物と会話できるという博士。彼女の不思議な診療所を訪ねていくが、ここでもやっぱりドンは不機嫌。四人目はド田舎という風情の森の奥に入ったところに住む女性。彼女がいちばん不機嫌にドンを迎え、悪い想い出が蘇るのか、ドンに怒りをぶつける。

 で、けっきょく彼の息子を生んだ女性が誰なのかはわからずじまい。ところがここに怪しげな若者が現れて…
 

 すっとぼけた雰囲気はいかにもジャームッシュなのだが、ここにはきちんとストーリーがある。その点が「ストレンジャー・ザン・パラダイス」なんかと違うところだ。人生の謎に立ち向かうのが過去の自分との再会=過去の恋人との再会というあたりが初老にさしかかった男の発想しそうなことなのかもしれない。といってもそもそもそれはドンのオリジナルな考えではない。それに、昔の恋人に20年ぶりに会いにいくというのはかなり勇気の要ることだ。わたしならやりたくないね。この旅を「中年の自分探し」と見立てたくなるところなのだが、そうはいかないところがジャームッシュらしい。やはり「自分探しの旅なんてナンセンスなんだよ」。そう言いたげです。

 とにかく最後まで目が離せない作品で、最後が「あ、やっぱり」と思わせるところがいい。けっこうお奨め作です。

 ところで、作中にかかるエチオピア音楽の旋律が日本の古い歌謡曲か民謡みたいに聞こえるのはわたしだけ?(レンタルDVD)


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BROKEN FLOWERS
アメリカ、2005年、上映時間 106分
監督・脚本: ジム・ジャームッシュ、製作: ジョン・キリク、ステイシー・スミス
出演: ビル・マーレイ、ジェフリー・ライト、シャロン・ストーン、フランセス・コンロイ、ジェシカ・ラング、ティルダ・スウィントン、ジュリー・デルピー


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2 コメント

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喉に刺さった魚の小骨 (ひろぼう)
2007-10-28 20:58:47
・・・の様に気に掛かっていた作品でした。
彼の行動が腑に落ちず、ラスト間際で説教する姿が更に見苦しくて、ダメ男のダメ振りを描いた映画なのって思ってました。
カタルシスも教訓すら感じられない映画で、“水”に合わないって放棄してたんですが、再見します。

ジェシカ・ラング出演してたんですねぇ。感慨深いです。
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Unknown (ピピ)
2007-10-29 20:47:21
この映画から教訓を得ようなんて思わないほうがいいのではないでしょうか… ダメ男の話です。でもそこが情けなくも面白いです。あ、やっぱり教訓的かも(^^;
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