ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

クリムト

2007年10月27日 | 映画レビュー
 この映画は無意味にカメラをぐるぐる回しすぎるので、目が疲れてしまう。クリムトの幻想的で退廃的なムードを出そうとした映像はそれなりに工夫があるのだけれど、どうも意図がよくわからない。ばしっと決まっていない。

 ウィーンのカフェで若きヴィトゲンシュタインがつかみ合いの喧嘩をしている場面とか、デカダンな雰囲気は面白かった。

 死の床にあるクリムトのもとをエゴン・シーレが訪れる場面から始まり、一転、回想シーンへとつながるつかみはなかなかいい感じ。しかし、20世紀初頭のウィーンのパーティ会場の場面で、人物二人の会話を回転で映したものだから途端に気分が悪くなった。演出上の必然性を感じないカメラワークだ。回想シーンは死を目前にしたクリムトの見る幻想のようでも夢のようでもあり、映画が進むにつれてだんだん摩訶不思議な世界へとねじれていく。

 モデルになった女性の身体に触れなければ彼女の絵が描けないといい、町のあちこちに子どもを作るという放縦な性生活を送ったクリムトは、梅毒に罹る。彼が見る回想は梅毒が脳に回った妄想かもしれない。クリムトにとってのファム・ファタール(運命の女)たる正体不明のモデル「レア」に一目惚れして彼女と密会するが、彼女を求めるクリムトの気持ちが混乱を招くのか、謎が謎を呼ぶがゆえにクリムトが求め続けるのか、レアの正体は物語が進めば進むほどいっそう謎が深まり、その行動は支離滅裂になる。凝った映像がシュールな場面を次々と見せてくれるけれど、それがクリムトにとってどのような意味をもたらしたのかわたしにはよくわからない。

 この映像の懲り方については評価が分かれそうだ。好きな人にはすごくうけると思うけれど、わたしには「狙いすぎ」と思える。しかも微妙に外している。

 クリムトの裸体画モデルの女性たちが物静かに全裸で闊歩する不思議な雰囲気の映画だが、クリムトの何を描きたかったのがよくわからない。この映画を観てもクリムトの伝記的な事実についてはほとんどわからないし、彼が何に苦悩し何を求めていたのか、判然としない。もう少しクリムトの絵も見せてほしかったし。クリムト展があればすぐに走って行きたい気分にはなったが。(R-15)(レンタルDVD)

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KLIMT
オーストリア/フランス/ドイツ/イギリス、2006年、上映時間 97分
監督・脚本: ラウル・ルイス、製作: ディエター・ポホラトコ、音楽: ホルヘ・アリアガータ
出演: ジョン・マルコヴィッチ、ヴェロニカ・フェレ、サフロン・バロウズ、スティーヴン・ディレイン、ニコライ・キンスキー

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