ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

10年後の原爆漫画

2005年02月15日 | 読書
 たいへん短い漫画で、30分もかからずに全部読めるからぜひいろんな人に読んでもらいたい。

 戦争の実相が輻輳的であるのと同じように、被爆体験も被爆者の数だけある。そして、原爆の悲劇は一瞬で終わるのではない。
 「夕凪の街」は、被爆後10年も経ってからおとずれる後遺症の悲劇を描く。画調はやさしく細かい。レトロな雰囲気のする暖かい筆遣いだ。そして、淡々と静かに、一人の若い女性の死を描く。

 生き残った者の傷。生きていることの罪悪感。これは戦火を生き延びた人々を長らく苦しめたトラウマだ。そのトラウマを日々背負いながら、それでもやっぱり生き延びたことを喜び、そして未来へ繋ごうとしていた乙女は、貧しくても懸命に生きていた。いや、貧しいからこそ懸命に生きていた。

 その「生」を無残に引きちぎる原爆後遺症。ほのかな恋も、母へのいたわりも、亡くした家族への思いも、すべてを連れ去る「死」は彼女を迎えにやってくる。

 戦火を何一つ知らないわたしは、わたしたちは、この作品を読んで静かに涙を流す。号泣ではなく、ぽろりと一粒だけ。
 涙は一粒だけ。
 
 原爆を落とした人たちは、10年経って一人の女をまた殺したことを喜んでいるだろうか。これがトルーマン大統領の言葉どおり、神の使命に叶うことだったのだろうか。

 淡々と静かに語られた原爆のその後の物語だ。物語はこうして語り継がれる。いつまで語り継がねばならないのだろう?

映画「アトミック・カフェ」もぜひ合わせてご覧ください。
「アトミック・カフェ」評はここhttp://www.eonet.ne.jp/~ginyu/050210.htm

<書誌情報>

夕凪の街 桜の国 / こうの史代著 双葉社 2004

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