戦場でトラウマを負った男の再生はありえるのだろうか? 別人のように変わってしまった夫を妻は受け入れることができるのだろうか? 反戦思想を底流にしつつ、傷ついた人間のトラウマからの回復を静かに見つめる感動のラストへと向かう愛の物語。
アフガニスタン復興支援のために現地に赴任した将校ミカエルが戦死した。理想的な息子・夫・父であったミカエルが死んで、遺された家族は悲しみにくれる。彼には不良の弟ヤニックがいて、刑務所から出所してきたばかりだった。それまでぎくしゃくしていたミカエルの妻サラとヤニックはミカエルの死をともに悲しむことにより、急速に親しみを増す。ミカエルの愛らしい遺児たちもヤニックおじさんにすっかりなつくようになった。そんなとき、死んだはずのミカエルが戻ってきた、別人のように暗く粗暴な性格になって…
サラを演じたコニー・ニールセンがとてもいい。美しく凛として、夫の死を嘆き悲しみながらもなんとか立ち直ろうと懸命に努力する。愛らしい娘もいることだし、夫の家族も支えてくれる。だが、彼女の寂しさは埋まらない。そんなとき、優しく接してくれるようになった義弟であるヤニックに惹かれていくことを誰も責めることはできないだろう。そのころ、ミカエルは捕虜となっていたのだ。愛する妻子のもとに戻りたい、その一心で生き抜いたミカエルは大きな心の傷を負っていた。
突然戻ってきた「死者」を前に家族は歓喜の涙にむせぶけれど、その喜びもつかの間、サラとミカエルの間に齟齬が生まれる。怒りっぽくなり猜疑心の固まりとなったミカエルに、思春期に入ったばかりの長女が反抗する。少しずつ家族が壊れていくのだ。スザンネ・ビア監督は繊細なタッチでその様子をじっと食い入るようなカメラで描き出す。極端なクローズアップの多用と手持ちカメラによって緊迫感の高い映像が生み出され、親子・夫婦の危機感ある会話のキャッチボールに観客もまた胸が締め付けられていく。
ミカエルの一家ははこれまで自分たちの生活になんの疑問も抱いていなかった。理想的な息子は心身共に健康に育ち、立派な軍人となった。職業軍人である以上、戦争があれば戦地に赴かなくてはならないし、ひとたび出向けばそこが地獄の入り口であるかもしれないことを忘れていたのではないだろうか。世界の対立が、戦場から遠く離れた小さな家庭の幸せすら奪うことを彼らは(わたしたちは)忘れている。
傷ついた者は自分の傷を愛する者のせいにしてしまう。「君のために! 君のためにぼくは…」。妻を責める理不尽な言葉はいっそう我が身を傷つけるだろう。誰にも責めることができない罪を誰が背負うのだろう? 究極の選択を迫られたとき、愛と愛が戦ったとき、その愛の思いのために自分のために罪を背負った男の苦悩を癒すものはなんだろう? ここには、善悪を単純に決めることの出来ない悲劇が横たわっているのだ。
わたしたちは戦争よりも憎しみよりも愛し合うことを選ぶ。そう静かに語りかけているようなラストシーンだった。必見です。
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BRODRE
デンマーク、2004年、上映時間 117分
監督: スザンネ・ビア、製作: シセ・グラム・ヨルゲンセン、脚本: アナス・トーマス・イェンセン、音楽: ヨハン・セーデルクヴィスト
出演: コニー・ニールセン、ウルリク・トムセン、ニコライ・リー・コス、ベント・マイディング 、ソビョーリ・ホーフェルツ
アフガニスタン復興支援のために現地に赴任した将校ミカエルが戦死した。理想的な息子・夫・父であったミカエルが死んで、遺された家族は悲しみにくれる。彼には不良の弟ヤニックがいて、刑務所から出所してきたばかりだった。それまでぎくしゃくしていたミカエルの妻サラとヤニックはミカエルの死をともに悲しむことにより、急速に親しみを増す。ミカエルの愛らしい遺児たちもヤニックおじさんにすっかりなつくようになった。そんなとき、死んだはずのミカエルが戻ってきた、別人のように暗く粗暴な性格になって…
サラを演じたコニー・ニールセンがとてもいい。美しく凛として、夫の死を嘆き悲しみながらもなんとか立ち直ろうと懸命に努力する。愛らしい娘もいることだし、夫の家族も支えてくれる。だが、彼女の寂しさは埋まらない。そんなとき、優しく接してくれるようになった義弟であるヤニックに惹かれていくことを誰も責めることはできないだろう。そのころ、ミカエルは捕虜となっていたのだ。愛する妻子のもとに戻りたい、その一心で生き抜いたミカエルは大きな心の傷を負っていた。
突然戻ってきた「死者」を前に家族は歓喜の涙にむせぶけれど、その喜びもつかの間、サラとミカエルの間に齟齬が生まれる。怒りっぽくなり猜疑心の固まりとなったミカエルに、思春期に入ったばかりの長女が反抗する。少しずつ家族が壊れていくのだ。スザンネ・ビア監督は繊細なタッチでその様子をじっと食い入るようなカメラで描き出す。極端なクローズアップの多用と手持ちカメラによって緊迫感の高い映像が生み出され、親子・夫婦の危機感ある会話のキャッチボールに観客もまた胸が締め付けられていく。
ミカエルの一家ははこれまで自分たちの生活になんの疑問も抱いていなかった。理想的な息子は心身共に健康に育ち、立派な軍人となった。職業軍人である以上、戦争があれば戦地に赴かなくてはならないし、ひとたび出向けばそこが地獄の入り口であるかもしれないことを忘れていたのではないだろうか。世界の対立が、戦場から遠く離れた小さな家庭の幸せすら奪うことを彼らは(わたしたちは)忘れている。
傷ついた者は自分の傷を愛する者のせいにしてしまう。「君のために! 君のためにぼくは…」。妻を責める理不尽な言葉はいっそう我が身を傷つけるだろう。誰にも責めることができない罪を誰が背負うのだろう? 究極の選択を迫られたとき、愛と愛が戦ったとき、その愛の思いのために自分のために罪を背負った男の苦悩を癒すものはなんだろう? ここには、善悪を単純に決めることの出来ない悲劇が横たわっているのだ。
わたしたちは戦争よりも憎しみよりも愛し合うことを選ぶ。そう静かに語りかけているようなラストシーンだった。必見です。
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BRODRE
デンマーク、2004年、上映時間 117分
監督: スザンネ・ビア、製作: シセ・グラム・ヨルゲンセン、脚本: アナス・トーマス・イェンセン、音楽: ヨハン・セーデルクヴィスト
出演: コニー・ニールセン、ウルリク・トムセン、ニコライ・リー・コス、ベント・マイディング 、ソビョーリ・ホーフェルツ