ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

カンバセーションズ ~終わらせた恋のはじめ方~

2008年01月14日 | 映画レビュー
 別れた元夫婦が知人の結婚式で十数年ぶりに再会し、ベッドイン。彼女が飛行機に乗るまでの一晩の元カップルの会話だけで成り立たせた映画。

 画面を二つに分割し、一つの場面を二つの角度から映したり、またときには二人の出会いのころの若々しい姿が映し出されたりする。画面を二分割する映画じたいはそう珍しくはないが、最初から最後まで分割したのは見たことがないので、なかなか面白い演出だと思う。画面の二分割は再会した二人の心の距離や、取り戻せない過去への切ない思いを表すのにうまい表現法だ。

 かなりの低予算映画と思える会話劇で、予告編のイメージと違ってスピード感がない。どちらかというと、中年になった元カップルのだらだらした会話劇という印象のほうが強い。こういう微妙な会話を理解できるためにはそれなりの人生経験が必要だ。男は元妻に未練たらたらで、女のほうがクール。それは、男がいまだに独身で、恋人はいるけれどそれほど本気じゃなく、女のほうは既に再婚して家庭があるという事情がそうさせているのだ。

 互いに過去を語り合い、今の恋人のことを語り、心を探りあうその会話はリアルだけれど、そもそも二人がなぜ昔別れたのかそれが最後までよくわからないから、やり直せるのかどうかというスリルがいまいち盛り上がらない。ただ、「終わった恋」への心の残し方が男と女の今の感情に異なる影を落とすことはよくわかる。

 二度と戻らない青春時代、過ぎ去った時間は残酷で、今の二人はもうかつての同じ二人ではない。では違う二人だからこそやり直せるのか? それは一夜に見た夢か幻。

 わたしなら、昔の恋人と再会してベッドインなんていうことは絶対に起きない、と思いながら見たけれど、この二人がそうなるのは結局のところ今の愛に満足していないからだろう。

 最後の最後に二分割の画面が一つになる。そのときこそ、二人の本当の別れが来るというのも皮肉だ。ラストシーンが心憎い。(レンタルDVD)

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CONVERSATIONS WITH OTHER WOMEN
アメリカ/イギリス、2005年、上映時間 84分
監督: ハンス・カノーザ、製作: ラム・バーグマンほか、脚本: ガブリエル・ゼヴィン
出演: ヘレナ・ボナム=カーター、アーロン・エッカート

フランシスコの2人の息子

2008年01月14日 | 映画レビュー
 これはまあなんと素直に作られたごく普通の感動物語なのでしょう。ちょっと恥ずかしくなるくらいにストレートなサクセスストーリー。だなんて、貶しているようだけれど、ラストシーンで思わず泣いてしまったわ。

 ブラジルでは国民的人気を誇るという兄弟デュオ、ゼゼ・ヂ・カマルゴ&ルシアーノの伝記映画。

 貧しい小作農の一家の主は音楽好きな働き者の父親。彼の夢は息子たちを音楽の道で出世させることだった。なけなしの金をはたいて7人きょうだいの長男にはアコーディオンを次男にはギターを買い与え、懸命に練習させる。最初のうち、どうしようもない音痴だった息子たちがどんどん上達していくのには驚きを禁じ得ない。それにしてもベートーベンの父じゃあるまいし、息子たちに無理矢理音楽をやらせたりして、たまたま才能があったからよかったものの、箸にも棒にもかからなかったらどうするつもりだったんでしょうねぇ。

 こういう映画を見るといつも思うけど、こんな親の無理強いや親の思いが成功に結果したからよかったものの、もしどうしようもなくこれで子どもがぐれたり一家離散になったりしたらどうするのだろう? 息子たちの楽器を買うために穀物をすべて売り払ってしまった父親は地代も払えなくなって都市へ流れてくる。小作地を失った農民は都市に集まればスラムの住民にしかなりようがなく、下手をすればそのままホームレス、子どもはストリート・チルドレン。

 とまあ、暗いほうへと考えは泳いでしまうが、そうなる寸前でフランシスコの息子達は親の苦境を見かねて二人、街に立つ。親を助けるために雨の中を重い楽器を持って出かける姿には涙がちょちょぎれるではないか。街角に立って歌う二人の姿に人々は足を止め、耳を傾ける。見よう見まねで置いた投げ銭入れにはみるみるうちに金が溜まった。目を輝かせる二人の愛らしいこと。やがて彼らに目をつけたプロモーターが二人を連れて巡業の旅に出るが…

 この後、山あり谷あり悲劇ありの下積み時代を経て、フランシスコの息子たちはトップスターへと上り詰める。映画のラストでは本物の兄弟が登場してコンサート場面が映る。両親もステージに上り、息子達を抱きしめる姿を見て思わず涙が出てしまった。こんなに素直な映画も珍しいけど、これで泣かされるわたしも素直な人間だと自分に感動した(笑)。


 男の子が頑張る映画に弱い人にはいいかもしれません。(レンタルDVD)

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2 FILHOS DE FRANCISCO - A HISTO'RIA DE ZEZE' DI CAMARGO & LUCIANO
ブラジル、2005年、124分
製作・監督: ブレノ・シウヴェイラ、脚本: パトリシア・アンドラージ、カロリーナ・コトショ、脚本協力: ルシアーノ・カマルゴ、ドミンゴス・デ・オリヴェイラ、ブレノ・シウヴェイラ、音楽: カエターノ・ヴェローゾ
出演: アンジェロ・アントニオ、ジラ・パエス、ダブリオ・モレイラ、マルコス・エンヒケ、マルシオ・ケーリング、チアゴ・メンドンサ