日々の恐怖 2月11日 レクイエム 1
これは僕が大学生だった時の話です。
田舎の学生といえば、基本車か原付で移動することが多く、僕も例に漏れずホンダの原付で大学やバイト先に出かけていた。
時には田舎から都市部まで30kmくらい走ったり、それを超えて海まで行ったりもした。
便利な足をはじめて手にした僕は、どこへでも行けるような気がした。
僕は家から10kmほど離れた大型ショッピングモールの本屋兼雑貨店でバイトしていた。
理由は二つ。
自由な金が欲しかったのと、母親に迷惑をかけずに就職まで進むための資金稼ぎ。
父親を中学生で亡くした僕は、少しでもそうした負担から母親を解放したい、いわば早く自立した男として生きていく気持ちが強かった。
田舎では仕事は少なく、給料も安い。
近所の畑の学生バイトも季節によりけりだった。
そこで少し遠方のところまで足を伸ばして働くことにしたのだ。
バイク乗りは皆知っていると思うが、夏は暑く、冬は寒い。
当然、夏は日焼けして真っ黒に、冬は帰ったらすぐに風呂に飛び込んだ。
でもバイクに乗るのは気持ちがよかった。
風を切って走る爽快感がそれに優った。
そんな気候に悩まされる時期のあいだ、寒くも暑くもない6月にそれは起きた。
バイト先のショッピングモールから出て帰路についた僕は、いつも通り原付で帰っていた。
日が長くなってきてそろそろ帰りもサングラスをかけなきゃな、と考えながら夕方と夜のあいだくらいの街を走った。
陽がちょうど落ちるか落ちないかの時で、道中サングラスをかけていないことを後悔したが、走行中に取り出すのも面倒臭くてそのまま走った。
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