日々の恐怖 3月10日 眼球5
会社を去る前に調べたことがあります。
他の課に転属させられた先輩にDさんと言う人がいました。
この人は、本社の総務部にいたらしいんですが、張り合いが無い仕事に嫌気がさしたといって辞表を提出したそうです。
上司にかけあって、彼の家族にどうしても挨拶したいと言って、売り上げの割りには安い退職金の上積みだという名目で教えてもらいました。
都内の高層マンションが彼の住所でした。
そこに訪ねていくと、表札に名前がありません。
しばらく探していると、怪しく思ったのか警備員が出てきました。
そこで、Dさんのお宅を尋ねて来た元の会社の同僚だと告げました。
名前まで告げたところで、相手の顔つきががらりと変わりました。
まるで憎んでいるような顔つきになったんです。
「 個人情報を教えるわけにはいかない。
おまえみたいな屑なら尚更だ!
帰れ!」
いきなりの剣幕に吃驚してその場は立ち去りました。
次の職場は向こうからやってきてたので、時間だけはありました。
頻繁に他社とやりあっていて、仕事を奪ったりしていたからですかね。
元々、ヘッドハントの候補になってたそうです。
一年はブランクをおかないと、元の会社ともめるからと言われ、翌年の四月から勤務する内定をもらい、そこでバイトをしながら調査に続けました。
そのころは、もう自宅ですら、アノ目玉や、たまには透き通った人影が見えるようになりました。
わたしは、警備員の目を気にしながらもそのマンションの近くに行き、せめて住んでる方から話が聞けないかなと思っていました。
そうするうちに、ある日、小さな男の子がボールを追っかけて車道に出ようとしたので、危ないと思ってその子を押さえつけたんですね。
ボールの方は車道の向こうに転がって行きました。
それを見て、その子は泣き出したんですが、ボールを取って来て渡すと泣き止みました。
直後に、母親が駆け付けて来て、感謝の言葉を口にされました。
そのまま別れようと思いましたが、親子がそのマンションに入って行こうとするのを見て声を掛けてみました。
調査開始から二ヶ月後のことです。
マンションのロビーで話をさせていただくことができました。
例の警備員がすっ飛んできたんですが、子供を助けてくれた方ですと母親が話してくれたので、つまみ出されずにすみました。
母親と、続けて少し話をしました。
すると、驚いたような顔をして、
「 聞いていた方と随分印象がちがう。」
と言われたのです。
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