この伊豆の旅でも、(今となっては)また愉快な?ひと騒動がありました。それは天城山中でのことでした。ここはわさびの美味しい、美しい自然に囲まれた素敵な場所です。私はまさに文字通り天城越えをしようとしていると、信じがたいことに雪が降っているではありませんか。平野部は雨がちょこっと降っているだけなのに、少し山中に入っただけで天候が全く違ったのです。雪はかなり降っており、路面に積り始めていました。そして、タイヤチェーン必須の標識が点灯いたしました。私は南国伊豆ということで、全く雪を想定しておらず、いつしか車は雪に足を取られ、少しも動かなくなってしまいました。ちょっと焦りましたが、落ち着いて車を止めて辺りを見渡せば、同じように立ち往生している車が続出しているではありませんか。もう夕方近く。ここで一夜を明かすには寒すぎでした。(気温氷点下2℃)みんな一生懸命アクセルを吹かしますがもう車は全然前に進みません。しかもハンドルを取られてあちこちで事故りそうになっています。気が付くと私は立ち往生している車に声をかけて押しまくっていました。足場の良くない上に手足が強烈にかじかむのを堪え、もう必死で押しました。軽だろうと大型車だろうと、スピードが出てなんとか動けるようになるまで押して押して押しまくったのであります。すると、同じように立ち往生していた車の中から、男衆が出てきて、みんなで声を掛け合って、一緒にたくさんの車を押しました。人間、力を合わせれば強いものです。一人では難儀していた車も、次々と前方に押し出すことができました。そうこうしているうちに、私はなんだかだんだんテンションが上がって楽しくなってきたのです。(笑)「よっしゃ!次はあの車だ!今日はお祭りじぁぁぁあーっ!!!」みたいなノリで、極寒の中、身体が火照るくらい車を押しました。しまいには、長野から来ていた観光バスまで押しました。(笑)バスを押して歩いたのは生涯初のことでした。(プロレスラーのデモストレーションみたいでした。笑)でも、こうして見ず知らずの人達と一体感を持って人のために尽くすことに、そして日頃鍛えた自分の膂力が誰かの役に立っていることに私は強烈な生きがいを感じていました。正直過酷でしたが、とても幸せな気持ちでした。
『男に生まれたことを無駄にしない。』
遠縁の佐藤浩市の車のCMのキャッチコピーがずっと頭に浮かんでいました。これからもこの通りに生きることができるなら、私は後悔することはないだろうと思います。