★「名前の大胆すぎる式内社はとても巨岩好き(1)」のつづき
そう思ってこの山のしゅうへんに古そうな神社がないかと調べると、南麓に五社大明神社という神社が見つかった。式内社ではないし、国内神名帳にも登載はないが、愛知県の埋蔵文化財地図では現社地のやや北方を古墳時代の祭祀遺跡に指定している。かなり古い神社だろう。ということで、とりあえずこの神社に注目してみる。
『愛知懸神社名鑑』によると当社は「昔、熱田神宮の高倉明神を祀っていたので高倉地と呼ばれた。また熱田高蔵宮の奥宮であったとも伝える。明応二年(一四九三)再建の棟札があり、承応四年(一六五五)にも再建したと。明治五年、村社に列し。同四十年十月二十六日、供進指定を受けた。同四十五年、同所の日吉神社と、大正七年、近くの高蔵社と厳島社を合祀した。」という。
五社大明神社
社頭のふんいき
社殿
同上
この由緒にある「熱田神宮の高倉明神」とか「熱田高蔵宮」というのはさっき紹介した高座結御子神社のことである。愛智郡の式内明神大社で、その創祀は熱田神宮と同じ頃までさかのぼると言われる。おなじく式内明神大社となっている日割御子神社と孫若御子神社とともに熱田神宮の御子神とされ、現在はその摂社であるが、他の二社が熱田神宮の神域内にあるのに対し、当社だけは神宮から北に800mほど離れた高蔵の森の中に鎮座する。境内は高蔵貝塚や高蔵古墳群といった遺跡群の所在地として知られ、古代人の著しい活動の跡がみとめられる。その奥の院が五社大明神社だというのだ。
本殿
境内の古墳
しかし、五社大明神社の現祭神は大碓尊、素盞嗚尊、菊理比売命、日本武尊、天目一命の五柱である。いっぽう、これもさっき紹介したとおり、高座結御子神社の祭神は高倉下命なので、その奥の院なら、五社大明神社も高倉下命を祀っていなければおかしい。
あまつさえ、境内にあった「五社大明神社の謂」という石碑には、「社伝は明らかではないが祭神がいずれも尾張氏の祖神であることより推して、その創立の古いことが知られる。創立当初の位置は不明である。明応二年(一四九三)再建の棟札があり、大永八年(一五二八)今の地に遷宮されたと伝えられるも、いずれの地からは不明である。」などとあった。 が、しかし、五社大明神社の祭神はいずれも尾張氏の祖神ではない。そもそも、大碓尊と日本武尊が兄弟である以外、この五柱にはまったく脈絡がなく、出鱈目に寄せ集めたようなメンバーである。はたして本当に往古からの祭神なのだろうか。あるいは、石碑のテキストの作者は、何か別の根拠に基づいてこれを書いたのではないか(例えば、当社には祭神が尾張戸神社と同躰であるという秘伝がある、とか。)、などとも疑いたくもなる。創祀年代だけでなく、最初に鎮座した場所も分からない等々、知れば知るほどつかみ所がなくなる神社だ。
そこで今度は配祀神に注目する。当社の配祀神は大己貴命、高皇産霊尊、市杵島姫命だが、その中に高皇産霊尊が入っている。このことは上田百木や栗田寛が高座結御子神社の祭神をこの神としていたことを想起させる。何か関係があるのではないか。
さきほど引用した由緒の最後に「(明治)四十五年、同所の日吉神社と、大正七年、近くの高蔵社と厳島社を合祀した。」とあったが、おそらく当社の配祀神はこの合祀された神社で祀られていたものだろう。その場合、合祀の順番と配祀神の順番はリンクしているようだから、高皇産霊尊は高蔵神社という神社の祭神だったことになる。では合祀される前の高蔵神社はどこに鎮座していたのか。
高蔵(たかくら)山の南麓で五社大明神社からもほど近い場所に高蔵(こうぞう)寺がある。中央本線の駅名としておなじみの寺院だ。さて、『尾張国名所図会』には次のようにある。「高蔵社は(高蔵)山頂にあり、俗に熱田高蔵宮の奥院と称し、其供僧を高蔵寺と云ひ、開創不詳、永正七年、僧玄慶中興とぞ。」
この高蔵社が高蔵神社のことであるのは間違いないが、これを見ると五社大明神社が高座結御子神社の奥の院であるとか、そのために高倉地と呼ばれたという伝承は、もともと高蔵山の山頂にあったこの神社に伝わっていたものとわかる。それが合祀の結果、現在のように五社大明神社の伝承として伝わるようになったのだ。
高蔵寺
承平三年(933)の創建と伝わる天台宗山門派の寺院
灯明山を号し、かつては十二坊があったのが永禄の頃、
兵火に架かって焼け残った一坊が、現在の高蔵寺という
本尊の薬師如製造は平安後期の作
高座結御子神社の奥の院と伝わる高蔵神社で、高皇産霊尊が祭神として祀られているということは、もしかすると前者の祭神がこの神であるとする伝えがあり、そのことが上田百木の考証に影響したのかもしれない(とは言っても、社名がたまたま高皇産霊尊の神名と似ていたから言い出されたにすぎないとは思うが。)。
「名前の大胆すぎる式内社はとても巨岩好き(3)」につづく
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