湖北の行きたいところはだいたい廻ってしまったので、最近は湖西の高島市いったいを再訪している(今回の画像は11月28日と12月5日に撮影したものです。)。
湖西へは木之本インターを下りてから、8号線→303号線→161号線と奥琵琶湖を迂回して北から入る。その場合、湖西に入ってまず最初に出会う重要な神社は海津天神社だ。
海津天神社
澄明な大気の中に、荘重なたたずまいの社殿が並んでいる。この地域の原風景に触れる想いがする。
荘重だけど、親しみやすい。
境内社には式内社の論社が数社ある。
社殿背後の森の美しさも特筆される。
波爾布(はにう)神社は近江国高島郡の式内社。
神社へは小さな川を石橋で渡ってから石段を登る。
秋の終わりを感じさせる社頭の光景
境内は山の中の少し開けたスペースにあり、非常な聖地感がある。現在の祭神はハニヤマ姫命とミツハノメ命の二柱だが、はじめは後者だけが祀られていたらしい。境内からはこの女神に捧げたものと見られる奈良期の土馬も出土しており、古代からつづく水神祭祀の遺跡であったことがわかる(土馬は殺馬儀礼の代替品として水神に供献された)。
境内の西側には湧水があり、清泉信仰を感じさせる。
社殿の左手に杉の大木が2本そびえている。巨杉の間からのぞく社殿の光景は、一度でも当社へ来たら忘れられなくなるものだ。
根本の辺りの苔むし具合も良い。
当社の本殿は三間社流造りで、どっしりとボリューム感があり、サイズも大きい。そうじて、これと同じような三間社流造り本殿の作例が、湖西地方にはよく見られる。
どっしりとした重量感の波爾布神社本殿
じつは最初の頃、こうした湖西地方の流造りは好きになれなかった。堂々とはしているものの、ややバランスが悪く、写真を撮った時の構図への収まりもあまり良くない。また、総じて流造りというのは、屋根の曲面の美しさで全体をまとめ上げるものだが、湖西地方に見られるこのタイプのそれは、屋根より壁面のほうが強調されるので、流造りというデザインの基調にある流麗さが減殺されてしまっている。
しかしだんだんに分かってきたのだが、この建物は水や緑が豊かな環境に置かれると果然、映えるのである。
まぁ流造りに限らず、そもそも神社建築とはそのような環境で映えるデザインなのだが、しかし、例えば神明造りの場合、幽邃な自然のなかにあると厳めしすぎて近寄りがたい感じに襲われることがある。これに対し、こうした湖西地方とくゆうのどっしりとした流造りの社殿の場合、そうした自然の中に置かれると、社殿の内部で神々が憩っているという、一種どくとくの快適感がこちらに伝わってくる。神さびていて、しかもくつろげる感じ。
驚いたのは安曇川町上古賀の熊野神社。ここの本殿も波爾布と同タイプのどっしりとした三間社流造りで、それがかつては渓流の流れる神域に、樹々に囲まれて美しく鎮座していた。ところが今回、訪れてみると、そうした樹木がなくなっている。とくに社殿背後の樹木が、伐採によって完全に失われてしまったのは無惨としか言いようがない。しかも何故か本殿は新しくなっている。以前、訪れたときは建て替えが必要なほど傷んでいるようには見えなかったが、、、。
熊野神社社頭
樹々が伐採されてすっかり明るくなった神域
社殿背後の杜は切り株を残して完全に失われた。
あるいは台風による倒木の直撃などによって、運悪く昔の社殿が全壊してしまい、その再建に必要な部材と費用を捻出するために社有林を伐ってしまったものかもしれない。いずれにせよ、かつての当社の植生を取り戻すには何百年もかかるだろう。新たに建てられた本殿は、昔のそれと同サイズで建て替えられているらしいが、丸ボウズになった境内の中にそれが建っている光景の場違いな印象は、このタイプの建物は豊かな樹々の中にないと映えないことを改めて痛感させる。
新築されていた熊野神社本殿
★以前の当社の様子は玄松子さんのサイトで
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『玄松子の記憶』 熊野神社(滋賀県高島市安曇川町)
大荒比古神社の社頭は鮮やかな赤のマフラーをしていた。まさかこんなに紅葉が残っているとは思わなんだ。
もう散りかけで、石段の上に赤と黄の葉がたくさん散らばっている。色の取り合わせが榮太楼の梅干し飴を連想させた。
高島市鵜川に鎮座する白髭神社。猿田彦命を祀り、式内社ではないが全国の白髭神社の総本社として名高い。
白髭神社
この神社は琵琶湖につきだした山の尾根の先端に鎮座し、社前を通過する161号線を渡ればすぐに湖水が広がっているという立地だ。
国道を渡ればその向こうは琵琶湖
背後の山は神体山で、山頂には巨岩による磐座があるという。
背後の山は神体山
白髭神社に来ると、いつも空中庭園のテラスにいるような感覚に襲われる。こうした浮遊感は、湖面で照り返された光線が大気と入り交じり、空と湖水の境界を曖昧にすることから生じる。
交通量の多い国道をわたって湖岸に出、琵琶湖の中に立つ明神鳥居を撮影する。鳥居が空中に浮かんでいるようなイメージで撮りたかったのだが、上手くいかなかった。