花森えりか My Room

─愛と官能について語る部屋─

『チャタレイ夫人の恋人』の原書

2009-09-15 11:15:43 | 告白手記
 月に1度ぐらい、彼の家の彼の部屋で、<児戯に等しいセックス>とは言わないまでも、<お行儀の良いセックス>をしていたんですけど、そんな彼とのお喋りで、性的な話題が1度だけあったんです。
 それは、『チャタレイ夫人の恋人』というイギリスの小説の話です。
 彼の本棚には、原書や洋書が、たくさん並んでたんです。それらを手に取るたび、彼に対して、尊敬の気持ちが湧いたものです。もっとも、彼は高校の英語教師ですから、当然と言えば当然ですけれど。
『チャタレイ夫人の恋人』の著者は、イギリスの小説家のD・H・ロレンス。1928年に出版された当初は、検閲で一部の描写が削除されたくらい、露骨なというか大胆な性描写のある小説です。
 日本でも伊藤整が翻訳して出版したら、<刑法175条・猥褻文書販売容疑>で起訴されたらしいんです。でも、表現の自由を保障する憲法第21条に反しているということで、裁判で闘ったらしいんです。
 小説だけでなく、絵画でも映画でも写真でも、芸術か、猥褻か、なんて、どこの国でも、いつの時代も問題になる普遍的なテーマですけど、猥褻罪(刑法第175条)なんて主観の相違ではないかしらって、私は思うんです。創作した人の主観と、検閲する人の主観の相違です。ある人にとっては芸術であり、ある人にとっては猥褻であると。
 それで──。
 この『チャタレイ夫人の恋人』という小説のあらすじはというと──。裕福な男爵と結婚したチャタレイ夫人。新婚早々、夫は戦場へ行き、負傷して半身不随となり、性的不能者になる。夫は妻に不倫をすすめ、相手の男性に条件をつける。やがて、チャタレイ夫人は、労働者階級出身で退役軍人の、たくましい森番の男と恋に落ちて……。
 そんな小説ですけど、チャタレイ夫人と森番の男のセックスに、大胆な性描写があるという衝撃的な作品なんです。伊藤整の他にも、別の翻訳者で、いくつかの出版社で出版されたみたいです。
 映画も、何作も制作されているんです。映画の原作としては、面白そうなストーリーですよネ。
 彼の本棚には、この『チャタレイ夫人の恋人』の原書と、伊藤整の翻訳と、両方あったんです。
「読んでみる?」
 と、彼から言われた私。長編で、英語がびっしり。英語は比較的、好きな科目でしたけど、お勉強があまり得意ではないタイプだった私は、怖れをなして……。
「むずかしそう……」
 そう言ったら、翻訳のほうをすすめられ、こちらは読んでみました。どんな性描写かしらとワクワクしたものです。けれど、期待したほどだったかどうか……。正直言って、伊藤整の翻訳で他の小説も読んだけれど、あまり私の感性には合わなかったような気がするんです。
 彼に言わせると、検閲による削除のない原書のほうが、凄い描写だということだったんですけど。それは当然のことですけれど。
 その日、彼が、『チャタレイ夫人の恋人』の原書の一部の性描写シーンを話してくれた時、私は初めて、彼が男性であるということを強く意識したんです。 

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