花森えりか My Room

─愛と官能について語る部屋─

秘密の歓び

2009-12-16 11:35:06 | 告白手記
 現代では30代や40代でシングルでも特に珍しいとか変わっているとか世間から思われたりしませんし、私の周囲でもそんな女性も男性も少なくありません。特にもの書き業界には多いということかもしれませんけれど。自由業の人間は自由でいるのが好きなものなんですね、きっと。
 けれど、何十年も前の当時は、35歳でシングルの男性は少し珍しかったかもしれません。
 35歳の彼がシングルだった理由は、特に聞いたことはありませんが、恋愛のチャンスはあってもゴール・インしなかったということでしょうし、周囲のすすめで、お見合いも何度かしたようです。
 そう言えば、彼も私も、恋愛経験の話を一切、しませんでした。それは、現在の2人の関係を大事に思っていたからなんです。過去の恋の話をすれば、相手の人間性も理解できるでしょうし、見えてくる相手の人間性に小さな失望も覚えるかもしれません。
 そのような不安から、互いの恋愛経験の話は全く、しませんでした。互いに、過去は関係なく、現在の愛の対象は相手だけなのだと、そう言い合っていたし、信じ合っていたからです。
 それに、そうでなくては成立しない関係とも言えたようだったんです。
 意図的に、婚約者がいることを彼に隠したとか秘密にしたとかいうわけではないんです。
 一方、婚約者の彼にも、もちろん他に好きな男性がいるということは言いませんでした。言えなかった、というほうが正確かもしれません。言いたくなかった、というほうが、もっと正確かもしれません。
 それが、秘密の歓び、ということになるんです。
 言ってしまったら、歓びは半減するどころか消え去ってしまうでしょう。それまでの愛にも関係にも変化が起こり、間違いなく、どちらかと別れることになるでしょうし、もしかしたら2人とも失ってしまうかもしれないと思ったんです。
 嘘をつくとか、騙すとか欺くとか、そんな気持ちは一切なく、12歳年上の婚約者と逢っている時には、他に好きな男性がいることで胸に小さな痛みと秘密の歓びが生じる瞬間があり、15歳年上の彼と逢っている時は、短大卒業と同時に結婚する男性がいることで胸に小さな痛みと秘密の歓びにふるえる瞬間がある──と、私の人生で、ただ1度の、そんな時期だったんです。

プラトニック・ラブ

2009-12-01 14:36:28 | 告白手記
 15年上の男性の、どこに魅力を感じたかというと──。
 35歳の彼が、人生で挫折感を経験している、ということに惹かれたんです。
 彼は大学を卒業後、病気になり、数年間の入院生活を送った人です。
 その期間に、思考する時間がたっぷりとあって、人生に希望を持てなかったと、彼は語っていました。
 私の周囲に、そんな男性はいなかったので、興味や同情が、愛に変わったのだと思います。
 元文学青年である彼とは、会うたびに、話をたくさんしたんです。
 手紙は、いかにも元文学青年という感じの文体でした。抽象的な文章が多くて……。
 ラブレターではないのが、もの足りなかったんですけど。
 でも、ずっと、プラトニック・ラブという感じで、肉体的な愛を交わしたのは、ずっと後のことですから、ラブレターにならないのは当然かもしれませんけど──。