花森えりか My Room

─愛と官能について語る部屋─

男と女のことわざ

2022-06-04 08:52:35 | その他
★The longest day has an end.
苦あれば楽あり。
(恋の苦悩を乗り越えた女が幸福になれるとは限らないけれど……。)

★Love is blind.
恋は盲目。
(ずっと盲目でいたい恋の歓び。)

★Love little and love long.
細く長く愛せよ。
(恋に夢中の男女にとっては意味のない言葉かも……。)

★The falling-out of lovers is the renewing of love.
恋人の仲たがいは恋の若返り。
(小さな喧嘩も、嫉妬も、誤解も……。)

★Revenge is sweet.
復讐は楽し。
(「ことに、女性には」と詩人バイロンの言葉。恋の復讐。男性はご用心。)

★Out of sight, out of mind.
去る者は日々にうとし。
(ただし、恋する男女は逢わずにいると、いっそう想いがつのることも――。)

★So many men, so many minds.
人の心は十人十色。
(男って、とか、女って、と一言では決めつけられない理由がこれです。)

★Deeds, not words.
不言実行。
(男性に望むことです。)

★All is fair in love and war.
恋と戦は手段を選ばない。 
(恋は女の本能、戦は男の本能、と言いたくなるような……。)

★All is well that ends well.
終わり良ければ、すべて良し。
(恋も、デートも、男女関係も――。始まりが良過ぎると、あまり良くない結末が待っていることも――。)

★Life is sweet.
人生は楽し。
(この世に男と女がいて――。)

★The darkest hour is that before the dawn.
最も暗い時間は夜明け前。
(このことわざ、大好きなんです。いろいろな空想が膨らむからです。たとえば――。愛し合う男女の喧嘩の直後におとずれる、甘美なひととき。空想と追想が刺激されることわざです。)

ショックの言葉

2022-06-02 08:07:13 | 官能トーク
 先日、担当編集者から、雑誌の作品掲載ページの片隅に載せる囲み記事のインタビューで、コレクションは何かと質問された。
「それは言わなくてもわかるでしょう。お金と男性です」
 と即答。編集者が楽しそうに笑って、その言葉を呟きながらメモするので、
「冗談よ、書かないで」
 慌てて、そう言い、2人でクスクス笑った。
 お金はコレクションしたいが、男性は別に集めたいと思わない。好きな男性が1人と、友達が数人ぐらいいて欲しいと思う。
 たとえば好きな男性が複数いると、その情熱が分散してしまうのではないだろうか。
 だから数人の恋人や愛人がいる女性は、よほどエネルギッシュな男好きか、またはナルシストで自分のほうからは男性を愛さないタイプなのかもしれない。
 男性だって同じだと思う。妻がいて数人の愛人がいるとして、それぞれ愛情を注げるだろうか。
 その愛も分散してしまって、真の愛情とは違うような気がする。
『英雄色を好む』というのは、もちろん英雄だからこそで、一般男性には当てはまらない。

              ✩

 友人のT子は最近、ショックを受けたらしい。飲み会で、ある知人から、〈触れなば落ちん〉の風情だねと言われたらしい。何がショックだったかというと、〈触れなば落ちん〉という言葉を、長年誤解していて、落ちそうでなかなか落ちない女というニュアンスだと思い込んでいたのである。
 ところが、簡単に落ちそうな女という意味だと、最近知らされた。
 あるパーティの後、親しい知人が、
「男たちがみんな、やりたそうな眼で、きみを見ていた。触れなば落ちん、て」
 と言い、T子は、
「あたしってサービス精神旺盛だから。でも、やっぱり身持ちの固い真面目な女に見えるのね」
 と、ニッコリ。
 すると知人が、〈触れなば落ちん〉の正確な意味を教え、彼女は激しいショックを受けて、泣きそうなくらい落ち込んでしまったらしい。
「それだけ、きみは魅力的だってことだよ。だいたい、きみは色道の通が眼をつける、こつまなんきんタイプなんだ」
 親しい知人がそう言い、
「こつまなんきん?」
 T子は聞き返した。
 知人の話によると、鹿児島弁で小さく締まったカボチャのことで、賞賛に値する身体つきの意味だということだったので、少しは慰められたらしい。
               ✩
 T子はそのことを付き合っている男性に話した。
「最初会った時、ぼくもそんな感じがしたよ」
「触れなば落ちんて? ひどいわ、あんまりだわ。それであたしと初めて愛し合った時、やっぱりそうだったって思ったのね」
「そう怒るなよ、T子が魅力的だってことだよ」
「いいわよ、慰めてくれなくたって。どうせ簡単にあなたの手に落ちたんだから」
「もう2年だぞ、今ごろ、そんなこと」
「真実を知って、あたし死にたいほどショックなんだから」
「だけど、その2年間に、デートしてもセックスしない日だってあったし、T子だけ満足させた夜もあったじゃないか」
「あたしが、本当は触れなば落ちんじゃないってこと、信じる?」
「信じるよ」
「あたしは身持ちの固い女よ。誰とも寝る女じゃないわ。あなたを愛してから、あたし……ほかの誰とも……」
 T子は泣き声になる。 
「わかってるわかってる。ぼくだけが本当のT子を知ってるんだ。浮気女なんかじゃないよ。1人の男を真剣に愛する女だよ。素晴らしい、魅力的な女性。本当だよ」
 彼がやさしくT子を抱き締めた。一度愛し合って小休止のベッドの中である。いつもなら肌と肌を触れ合わせているだけで欲望がこみあげてくるが、その夜はそんな気にならなかった。セックスしなくても、精神的に、心から彼を愛していることを、自覚したかったし、彼にもわかって欲しかったのかもしれなかった。

妻と愛人

2022-06-01 14:36:54 | 官能トーク
 先日、編集者のKさんと打ち合わせで、書き下ろしのプロットについての話の後、作品のタイトルを『妻と愛人』と書いたら、平凡過ぎると言われてしまった。
 私としては、そのタイトルこそピッタリと思い込み、気に入っていたのである。
 本の表紙にそのタイトルを見て、妻と愛人のいる男性は胸がドキンとして惹きつけられるのではないかと思った。
 そのような男性は、妻と愛人の間を揺れ動いているのではないだろうか。愛の深さがどのくらいであれ、妻も捨て難い、愛人も捨て難いというのが男心かもしれない。
 ある熟年男性は、長い間、愛人関係の続いた女性がいるらしく、その女性から自宅に電話がかかってきた時、
「女房が電話に出ると切っちゃうんだ。あれをやられると困るんだよね」
 と、苦笑し、その場にいた別の男性も深くうなずきながら同意していた。
 男性には男性の苦労があるものだと同情してしまったが、妻の立場、愛人の立場から言えば、心に悩み苦しみを秘めているものではないだろうか。
 妻と愛人と、どちらのほうが苦しみは深いだろうか。
 妻は子供やマイ・ホーム、社会的にも法的にも夫と固い絆で結ばれている。妻のほうが、その男性と一緒にいる時間が長い。さらに妻は夫の愛人を告訴することもできるらしい。
 ということは、妻のほうがいろいろ有利ということになるだろうか。夫を自分のもとに繋ぎ止める条件が、そろっていると言えるかもしれない。
 愛人は、すべてにおいて不安定である。男性の心が、いつ離れていくか、わからない。彼と会うのは週に1度か2度。ふたりの家も子供もなく、将来の保証は何もない。
 だからこそ、ふたりの愛は純粋なものと言えるかもしれない。別れの言葉を口にしても、別れられないというのも愛かもしれない。
 愛人関係の男女にとっては純粋な愛とセックスだけが、ふたりを結びつけていると言えるような気がする。
            ☆
 S子は30歳。5歳年上の愛人がいる。ふたりの関係は2年余り。
 最初のころ、S子は彼の妻に嫉妬と憎しみを感じてばかりいた。
 彼と一夜を共にできるのは週に1度。あとの6日間は、夫婦は枕を並べて寝る。
 妻には子供がいるが、S子が子供を産みたいと言っても彼は許すはずがない。
 彼に食事を作るのも、彼の肌着や下着を洗濯するのも、彼の妻。
 S子は、彼から愛されていると信じられても、彼の顔を毎日見られる妻が妬ましくてたまらなかった。
 半年が経ったころ、
「妻が勘づいている」
 と、彼がポツリと言った。
 深夜に帰宅する彼の理由を、信じていないらしいというのだった。
 けれど、問い詰められたわけではないようだった。
 賢い妻は、夫が不倫しても騒ぎ立てたりしないと世間では言われるが、もし自分が彼の妻だったら、もう私を愛していないのかと泣きながら彼の身体に縋りつくと思い、彼の妻は夫の浮気を知っていて許しているのか、問い詰めないほうが得と思っているのか、わからなかった。
 次第に、S子は彼の妻に嫉妬しなくなった。
 彼への愛が醒めたからではない。愛は深まるばかりだった。
 彼とふたりきりになった時、その時間だけは、彼は私のもので、ふたりきりの世界と思えるようになった。
 かと言って、嫉妬が完全に消えたわけではなかった。彼が身支度する帰り際に、いつもの嫉妬がこみあげる。彼が帰って行くのは妻のもと――。
 ある時、彼のワイシャツの胸元のボタンが1つ、止め忘れているのを見た。S子は注意しかけて、やめた。帰宅した夫の姿へ、何かしながら妻は眼にするかもしれない。
 また、ある時、いつもはシャワーを浴びて帰る彼が、風邪気味もあり、浴びずに帰宅した。彼の下着に、愛の行為の証しが残されているに違いない――。
 もし、気がつかなくても……。
 気づかなければ、なおさら残酷なこと。
 仕事の後の愛人とのベッド・インの疲れと眠気で、帰宅した彼は服を脱ぎパジャマに着替えてベッドに入る。つい先刻まで、ほかの女を抱いて来た身体を、妻が洗濯したシーツに横たえる。
 彼の髪にはS子の香水が、かすかにしみついているかもしれない。愛人の髪と触れたり擦れたり、交じわりの最中、汗ばんだ女の肌や下半身にも触れた髪である。
 その枕カバーもパジャマもシーツも、すべて妻が洗濯するのだ。
 そう思うと、妻より愛人のほうが幸せじゃないのとS子は思った。夫婦という法律上の約束ごとより、心身で愛を確かめ合う心の約束ごとのほうが素晴らしいようにも思えてくるのだった。
 妻は妻で、夫の愛人に対して、同条や憐れみを抱いているかもしれない。
 いずれ夫は自分のもとに戻って来る。所詮、愛人に魅力がある間だけの遊びじゃないのと。一年一年、若さを失って老いたらどうするのと。
 家族団欒(らん)も、家族旅行も、その楽しさをあなたは味わえないでしょうと、優越感を抱くかもしれない。
 けれど――。
 ほかの女を抱いた夫と毎日顔を合わせる気持ちは、どんなだろう。
 背広に女の髪が付いていたり、下着に愛の残滓が付着していたり、パジャマや枕カバーに香水の香りがかすかに匂った時――。生理的嫌悪感と怒りと嫉妬と屈辱感で気が狂いそうなほどかもしれない。
 夫と時間を多く共有するぶん、100%の安心感と幸福感に包まれているわけではなく、ふとした時に夫への疑惑と不信感に包まれる時も、あるかもしれない。
 夫の裏切りを、一度知った妻は、表面上はどうであれ、内心は決して夫を許していないものかもしれない。
 妻と愛人の間で、揺れ動く男性は大変である。
 男性より、妻と愛人の心のほうが、ずっと深く揺れ動いている。

不満なデート

2021-12-29 07:28:35 | 官能トーク
 女性が薄着をする季節になった。電車の中では痴漢が増えているかもしれない。
 女性にとって迷惑極まりなくゾッとする存在の痴漢は、大半の男性が秘めている本能的で潜在的な欲望の表れらしい。
 学生時代とOL時代、私も被害に遭った経験がある。
 服の上からでも手で触れられると全身に鳥肌が立ち、すぐ場所を移動するか、ラッシュの時は身体の向きを変えて避けるようにする。
 短大時代、クラスメートたちとお喋りしていて、痴漢が話題になったことがある。
 学生寮で生活するクラスメートを除いた全員が痴漢された経験があって、ペチャクチャペチャクチャとそれぞれの体験話が途切れなかった。
 その中で、大胆な発言をしたクラスメートがいた。
「私、チラッと顔を見てハンサムだったら、イタズラされても逆らわないで、じっとしてるの」
 そう言ったとたん、爆笑が起こった。
 また、別のクラスメートが、電車の中で露出変態男を見た経験を喋った後、
「あんなに大きなモノが女の身体に入るんだもの。痛いはずよねえ」
 と言い、皆を笑わせたが、彼女がいない時に、
「ね、彼女って、もう体験者ね。痛いって言葉に実感こもってたものね」
 クスクス笑いながら、ひそかに噂し合った。
            ☆
 では、女性はどんな時に性の欲望を覚えるかと、酒席で親しい知人男性から質問されたことがある。
 満員電車の中で男性が痴漢になるのは、女性の身体のラインがあらわになったブラウスやワンピースなど裸体を想像させる薄着姿に挑発されてしまうからだと思う。 
 女性だって、痴漢的要素があるかもしれない。けれど女性の場合は、男性の裸を想像してではなく、男っぽいその身体に触(さわ)りたいのである。上着の上からでもズボンの上からでも――。
 それは女性が視覚より触覚によって性的欲望を刺激される生き物だからかもしれない。
            ☆
 OLのC子は、その日、恋人とのデートが、たった1時間。
 いつもはホテルでたっぷり愛し合うのに、彼の仕事の都合があり、今週、1度も会わないのは寂しいから、ホテルで愛し合わなくても喫茶店で会うだけでもいいからとC子が甘えて言ったのだった。
 ところが、店の片隅にテーブルをはさんで向かい合っているうち、C子は次第に落ち着かなくなった。
 彼の煙草をはさんだ指を眼にしていると、その指が肌をまさぐる時の感覚がよみがえり、熱い欲望がこみあげてくる。
 彼の唇を眼にすると、唇にキスされたくてたまらなくなる。
 彼のネクタイや胸元を眼にすると、あの胸に顔を埋めたくなり……。
 彼が左右の脚を組み替えると、胸がドキンとする。あの脚、膝、太腿……。
 C子は呼吸ができなくなりそうなほど、息苦しくなってくる。
「ねえ、どこか行きたい」
 口走るように小声で言った。
「今日は1時間だけの約束だろう。無理だよ。この後、仕事がある」
 腕時計に眼を落としながら彼が答える。
「少しぐらい延ばせばいいじゃないの、その仕事」
「相手のある仕事だよ。時間の変更はできない」
「だって、どこか行きたいもの、ねえ、行きたい、行きたい、いつもみたいに行きたいのよう」
 どんなに甘えても駄目とわかっていて言わずにいられないC子。
「今度、埋め合わせするよ。ゆっくり会おう」
 彼が、なだめるような口調で言う。
「もう、あたしのこと、愛してないのね」
「愛してるよ」
「あたしの身体に飽きちゃったのね」
「違うよ。いつも言ってるじゃないか。セックスだけが目的で会ってるんじゃないって。C子だって言っただろう。セックスしなくたって、一緒にいられるだけで幸せって。だから、いつか、そういう会い方もしてみようって。ぼくの気持ちを試すんだって」
 確かに、C子はそんなことを言ったことがあった。
 欲望を満たすだけのために会うのは虚しい。本当に愛があれば、セックスしなくても、会ってお喋りするだけだって満たされるはずと。
 でも、こんなはずじゃなかった――とC子は思う。ホテルへ行かないで、もの足りないのは、きっと彼のほうで、そんなデートでも自分は満足できると思い込んでいた。
 それなのに――。
 C子は彼の身体のどこかに触りたくてたまらなかった。彼の手、彼の胸、ズボンの上から膝や脚に少しだけでも触ってみたい。けれど……。
 人目のある喫茶店の中で、そんなことはできない。
 ついに1時間が経ってしまい、店を出て、C子は彼の身体に寄り添い、腕に腕をからませた。彼の体臭や整髪料の香りが、かすかに伝わってくる。心身共にC子はせつなくてせつなくて、また息苦しくなりそうだった。
 傍に愛する男性の肉体があるのに、抱かれることなく別れるなんて蛇の生殺し――と、こんな会い方をしたことをC子はつくづく悔やんだらしい。

女の目覚め

2021-12-28 08:43:45 | 官能トーク
 かつて専業主婦をしていたころ、離婚を経験した男性の友人がいて、彼の口癖は、
「一度、家庭を持った人間が、独身生活に戻るというのは辛いことなんだ」
 という言葉だった。
 その後、私も離婚し、時々、彼の言葉を思い出すが、
(男と女って、違うのね)
 つくづく、そう感じた。
 彼の場合は、30歳を過ぎた男性が、洗濯や炊事や食料と日用品の買い物をしなければならない侘しさのような気持ちが、こもっていた。
 さらに彼の場合、サラリーマンではなく、仕事が定期的に入るミュージシャンだったが、夜中に帰宅した時、疲れきった精神と肉体を癒やしてくれる妻がいないということは、そのような安らぎを経験しているだけに、身にこたえただろうと思う。
 私の場合は独身になって、ああ、この生活が私にはピッタリなのだ、夫からの制約も束縛もない、自由にのびのびと呼吸することができる――という、この上なく自由で新鮮で輝かしい新生活だった。
 そのうち寂しくてたまらなくなるのではとも思ったが、5年経った現在も、その心境は変わらず、もし専業主婦を続けていたら、家事の手抜きはできないし、夜の外出もできず、精神的に疲れ果て、とても原稿など書けないだろうと思う。
 けれど、やはり時には、耐え難いほどの孤独感に包まれる夜がある。
 1日の終わりに、ベッドで、何も言わず黙って顔を埋められる男性の暖かい胸があったら――という想い。やさしく抱き寄せてくれる男性の腕が、本当に欲しい、切実に欲しいと心底思う。
 ところが男性たちは、離婚女性に対して偏見や先入観を持っていて、性的欲求不満なのではないかと想像する傾向があるようである。
          ✩
 離婚女性M子は、シングルに戻り自由になったとたん、もう誰の束縛もないからと、次々、男性と関係を持った。
 離婚した女性というのは、男性たちにとって口説きやすかったようだった。
 絶えず、同時に付き合っている複数の男性が、彼女にはいた。
 男たちはベッドの上で、
「ご主人と別れてから久しぶりなの?」
 などと言って刺激と昂奮に包まれるらしかった。
 M子の肉体にも火がついた。初めて知る愛撫や体位によってもたらされる快楽。
 恥ずかしい言葉も口にするようになり、いろいろな男性と付き合ってから、彼女は女として成熟したのである。
 そうなると、1日も男なしではいられなくなる。会社勤めをしていたが、昼休みにラブホテルに入ることもあるし、その夜、別の男性とベッドを共にすることもあった。
 お酒を飲みながら口説かれるのも楽しいし、それ以上にベッド・インが楽しくてたまらないのである。
 ホテルの部屋に入って、男性から抱き締められ、キスをされただけで身体の芯が熱くなってくる。
 ベッドの上に、やさしく押し倒され――。
 2人とも、まだ服を着たまま。
 ルームライトは、ついたまま。
 全身から力が抜け、何もかも忘れて、欲望の嵐に襲われそうになっていく。
      ✩
 関係を持った男たちは、M子の離婚の原因を、性の不一致だと推測し、別れた夫に同情した。
 セックス好きの女というのは、ある意味で男にとって理想のタイプかもしれない。
 けれど、一夜だけとか、たまのデートなら、ベッドで激しく燃える彼女は理想的な女だが、毎晩ではかなわないと、男たちは誰もが思った。
 女性はセックスだけで男性を惹きつけておくことは、できないものではないだろうか。
 ある時、彼女は、そのことを悟った。
 風邪を引いて寝込んでいた日である。
 会社を休み、風邪薬を飲んで、1人でベッドで寝ているのは、たまらなく寂しいなどというものではなく、もう死んでしまいそうなほどの寂しさと孤独感だった。
 男好きになってしまってから、M子には、女友達が1人もいなかった。
 男性に電話したくても、皆、家庭のある男ばかりだった。
 寂しくて寂しくて眠れない夜、気がついてみると、電話をかけられる男性が、この世にただの1人もいなかったのである。
 それ以来――。
 M子は男遊びをやめた。
 そして、心身共に愛せる恋人を見つけた。
 彼には家庭があり、決して精力的に強靱ではなかったが、そのやさしさと思いやりと愛情に、彼女はもう寂しくはなく、生きる喜びを感じるようになった。
 男性と次々、関係を持っていたころから、M子は心の底で、真に愛せる男性を求めていたのではないだろうか。