花森えりか My Room

─愛と官能について語る部屋─

ベッドでの愛称

2012-01-31 15:41:06 | P子の不倫
 恋人でも夫婦でも愛人でも、愛し合うカップルが2人だけに通じる愛称で呼び合うケースは、よくあることだと思います。
 友達のP子は、不倫関係の相手の男性を、
 ──旦那様──
 と呼ぶらしいんです。
 それを聞いた時は、思わず噴き出してしまいました。我がままP子が、その言葉を口にするのが似合わないからです。
「ずいぶん、古めかしい言い方ね」
 似合わないと言うと怒りそうなので、そんなふうに冷やかしました。
「あら、そうかしら」
「相手の男性って、大きなお屋敷に住んでるの?」
「いいえ」
「年齢が20か30年上なの?」
「いいえ」
「生活費を援助してくれるパトロンなの?」
「いいえ」
「面白い呼び方ね。珍しいんじゃないの? 旦那様、だなんて。とってもユニークだわ」
 褒めたのではなく、さらに冷やかしました。
「最初から、旦那様っていう愛称じゃなかったの。ベッドの上でだけ、そう呼ぶことが時々あって、だんだん、ベッドの中でも外でも、旦那様って呼ぶようになっちゃったの」
 P子の話によると──。
 時々、小さな物語を作って〈ごっこ遊び〉のセックスをするらしいんです。
 その〈ごっこ遊び〉で、時代劇の大店の旦那様が彼で、下働きの使用人がP子。P子が肉体関係のある使用人の△△と蔵の中でいちゃついているのを目撃した旦那様が、P子を呼んでお仕置きをする、クビにして故郷(くに)に返すと脅す、次第に淫らなお仕置きになって、ついにP子は体を奪われ、△△より旦那様のほうが素敵と口走る──というようなストーリーの〈ごっこ遊び〉が、P子の〈旦那様〉は、お気に入りらしいんです。
 それを何度か繰り返すうち、ベッドの上でセックスしてない時も、彼を旦那様と呼ぶようになり……。
 そのうち、ベッドに入る前もベッドを出てからも、旦那様と呼ぶようになって久しいらしいんです。
「彼は自宅では家族から、お父さんと呼ばれ、職場では社長と呼ばれ、友人や知人からは姓を、母からは名を呼ばれていて、私だけが、彼を旦那様って呼ぶ、他の誰も呼ばない、私だけの呼び方の素敵な愛称だと思ってるわ。うふ」
 P子がそう言ってクスッと笑うので、
「何だか、それってSMごっこみたいじゃない?」
 私もクスッと笑って冷やかしたんです。
「あら、SMごっこも楽しいわよ。私がSになることもあるのよ。その時は、女王様って呼ばせるの。彼は、私を抱きたがってる奴隷なの。うふ」
 そう言い返されて、笑いながら、呆れてしまいました。