花森えりか My Room

─愛と官能について語る部屋─

セックスは健康のバロメーター

2014-05-31 13:14:06 | P子の不倫
「ところで健康診断、行ってる?」
 今年も特定健診の通知が郵送されてきたので、郵便ケースに入れてしまってあるんですけど、
「全然、関係ない話ね」
 P子がアクビ混じりに言うんです。
「関係ないって、何が?」
「不倫とか、エッチな話題とよ。もう飽きたの?」
「あら、関係ないことないでしょう。セックスは健康のバロメーターって、いつか言ってたじゃない。健康でなくちゃセックスは楽しめない。コンスタントにセックスしてるってことは健康の証し、だからセックスは健康のバロメーターだって」
「例外もあるかも」
「それはそうだけど。健康診断、行ってるの? 行ってないの?」
「もう何年も行ってないわ。特定健診の通知、有効期限までとっといて、その期間に体調悪くなったら行こうと思ってるの。あたしって賢いでしょう。うふ」
「体調悪くなって病院に行ったら、診察代と血液検査代かかるけど、特定健診の通知持って行けば、診察代も検査代も無料だからでしょ。賢いっていうより、ケチっていうんじゃないの?」
「あら、あたしだって、ちゃんと代金払って血液検査した経験ぐらいあるわ。知人から、血液検査でガンかどうかわかるって聞いたの。ガンになると白血球だか赤血球だか、そのどっちかの数値が異常になるんだって。ガンの検査っていうとMRIとか超音波とか内視鏡とか胃カメラとか、怖~い検査機器使うと思ってたから、血液検査でガンがわかるなら簡単だって思ったの。親戚の女性がガンの手術して、周囲から検査受けなさいって、うるさく言われたしね。採血の注射針痛いの我慢して検査代も覚悟して血液検査の決心したの。知人から聞いた話で、血液検査は体調が悪いって言わないと保険扱いにならないって予備知識で知ってたから、毎月払ってる国民健康保険料金の保険証が今こそ役に立つ時って内科医院行って、「最近、体調が悪くて……」って、神様に許される<嘘も方便>で言ったのに、どう具合が悪いか医師から質問されなかったから、(保険扱いにするため、この人は嘘ついてるって見破られたのかも)って、自費扱いで高かったらどうしよう、毎月健康保険料きちんと払ってるんだから、保険扱いで安くしてくれなくちゃ嫌だわなんてことが頭の中をグルグルと……」
「P子らしいわね」
「やさしそうに見える医師がね、ガンと血糖値とホルモンの検査しましょうって言ったの」
「ガンの検査に行ったのに?」
「そこ初めてじゃなく、前に特定健診とか体調悪くて検査に行ったことあるの。だから、やさしそうに見える医師の言葉に、ハイって言うしかないでしょう」
「商売上手なお医者さんなのね、検査いっぱいすれば儲かるから」
「そんな言い方しないでよ。やさしそうに見える医師、ううん、実際、やさしい、雰囲気のいい、スタイルのいい、イケメン医師だったんだから」
「ハイハイ、それで」
「血糖値はね、糖尿病になった2人の叔母さんは肥満気味体型だったけど、太ってないこのあたしが糖尿病になるわけないでしょう、って一瞬、思ったの。ガン検査はね、腫瘍マーカーって言葉をイケメン医師が口にした時、驚愕して大ショック受けて、「しゅ、腫瘍マーカーって、ガン患者が定期健診の時、一喜一憂する検査のことですか?」って質問したら、そうだって。まだガン患者でもないこのあたしが、って、もう卒倒しそうなほど驚愕して大ショック受けたわ。それから、ホルモンの検査はね、女性ホルモンがたくさん出てるから実年齢より若く見えるのに、どうして?! って不思議に思ったけど、婦人科系の病気の検査って気がついたの。確かに婦人科系検査ずっとしてないしね」
「で、検査の結果は?」
「血糖値も腫瘍マーカーの数値も異常なしだけど、コージョーセンのホルモンが少ないとか低いとか指摘されて、いくつかの専門用語はよく理解できなかったけど。ホルモン検査って女性ホルモン検査じゃなく、違うのよ、コージョーセンとかっていうの。薬も治療もないけど定期的に検査するほうがいいって言われて、もう気を失いそうなほど大ショック受けて、帰宅してネットで調べたけど症状が1つも当てはまらないから血液検査会社のミスだわって思い込んで、数日後に大学病院へ行ったら、検査の結果は正常値。あの時の検査代の高かったこと! 7千円、ううん8千円、ううん1万円近く取られ、いえ請求されたわ! もうもう大学病院の検査なんて懲りたわ。若いイケメン研修医がいたって絶対行かないことに決めたわ。あたしの血と汗と涙の結晶の大事なお金を……ああ!」
「それはケチケチP子にとっては大災難だったわね。ククッ」
「笑い事じゃないわよ、他人事(ひとごと)だと思って。フン」
「ごめんごめん。その3つの検査の必要性を、そのイケメン医師から説明してもらえばよかったのに」
「インフォームド・コンセントってことでしょ。そう言えば医療掲示板だったか医療ブログだったかで、患者との対話やコミュニケーションは難しいと愚痴ってる医師たちのコメントを読んだけど、それはね、違うのよ。医師の想像力欠如に問題があると言えるわ。医療従事者たちって、病院や内科医院に来る人間は、み~んな、病院に来慣れていると思い込んでいるのよ。確かに病院に行き慣れている患者は、医師との対話もコミュニケーションも慣れている、だから、医師側にとって、患者との対話やコミュニケーションは難しい、という言葉は成立するわ。でもね、病院に行き慣れていない患者にとっては、ドラマや映画で見る診察室や、医師の白衣、デスクの上のカルテ、それらを現実に眼にしてドキドキして緊張して、医師の専門的な難しい説明を聞き返すこともできずに、「はい」と「ええ」と「そうですか」と「わかりました」、この4言しか口にできないわ。「はい」と「ええ」と「そうですか」と「わかりました」しか言えない患者や受診者と、医療機関に来慣れていない患者や受診者がこの世にいることを想像できない想像力欠如の医師。そこには対等の対話もコミュニケーションも存在しないのよ。対等の対話もコミュニケーションも存在しないのに、患者との対話やコミュニケーションは難しい、とは言えないでしょう! 患者との対話やコミュニケーションが在ってこそ、患者との対話やコミュニケーションは難しい、と言えるのよ。どうしてそのことに思いが至らないんでしょう。想像力の欠如というほかないわ。多分、SF映画やオカルト映画ばかり観てるんでしょうね、科学者だから。ああいう映画は奇想天外の映像で、すべて説明する映像だから想像力は必要としないしね」
「それもそうかも」
「体調が悪くなくて血液検査したのは、無料でできる健康診断と有料の人間ドックを除けば、その時だけ。ほんとにもう、つくづく懲りたわ。それに採血の注射器の痛かったこと! 時間がかかったこと! あれは神様の罰かも。ううん、もしかしたらここは、来院する患者や受診者の身体中から血液を抜いてしまう悪魔の館なのかもって恐怖の空想が一瞬、かすめたほどだわ」
「ホラー映画の見過ぎよ」
 ケタケタ笑ってしまいました。想像力豊かなP子らしいって。
「笑い事じゃないわよ、他人事(ひとごと)だと思って。フン。あなただって、そのうち経験するわ。大学病院なんてボッタクリみたいな高額料金請求するんだもの。もう2度と大学病院なんて行かないわ。最先端検査とか最先端医療なんて、まやかしよ、あれは新興宗教の“イメージ”と同じなのよ」
「新興宗教の“イメージ”と同じね」
 それはちょっと同感かもって思ったんです。