花森えりか My Room

─愛と官能について語る部屋─

不倫デート

2014-04-30 14:24:23 | P子の不倫
「人間、生きていれば、誰だって小さな不満はあると思うけど、P子は彼氏との不倫関係で何にも不満がないみたいね」
 ないわけないと、内心、思いながら彼女に聞いたんです。女って、どんな立場であれ、私って幸せなの満たされてるのと、同性には思い込ませ、男性にはこんなに寂しいの満たされてないのと思い込ませるのが、女の本能みたいなもの。別に意図も何もなく、自然に無意識にそうなるものと私自身の反省を含めて、そうわかってるんです。
 ところが――。
「と~んでもないッ、不満なんかいっぱいあるわあ! 大ありよう!」
 意外なことに、頬をふくらませてP子が答えたんです。案外、正直。
「あらッ、そうなの、何かあるの、小さな不満」
「小さな不満どころか、巨大不満がいっぱいよ」
「たとえば?」
「泊まらないで深夜に出かけちゃうし」
「出かけるって、どこへ?」
「自宅よ」
「そうだったわね。普通は、帰るって言うんだけど。他には?」
「1度だけじゃなく2度も仮眠するし」
「そのほうが体力回復していいんでしょ。他には?」
「ドライブ旅行とか行きたいのに、連れてってくれないの。その言い訳がいつも同じ。老後の楽しみに取っておこうだって。もう愛の交じわりをしなくなったら、あちこちへ行って楽しもうって言うの。今はまだ、ドライブするより、ベッドでこうやってP子を抱っこしてるほうがいいよ、って、あたしを抱き締めて」
「それは正直かもしれないし、そのほうがラクだからかもしれないし」
「だから、せいぜいレストランで食事のデートくらいだわ。そのあとカラオケしたり、しなかったり、あたしのマンションに帰って一緒にお風呂入ってベッド入って……その時はいつも、新鮮で興奮しちゃうのよね、2人とも。不倫デートの夜って、いつもそうなの」
「滅多にしない不倫デートだから新鮮なんでしょう。知人に見られるかもって心配じゃないの?」
「ぜ~んぜん。そんなの交通事故に遭うくらい確率低いわ。あたしたち、街中を歩く時も腕組んだり体ピッタリくっつけてるもんね。人目なんて全然気にしないもンね」
「ま、大胆。隠しカメラで撮ってユスっちゃおうかしら」
「どうぞどうぞ。ユスられたって全然平気。な~んにも怖くないわ」
「あら、そう」
「いつも部屋の中かベッドの中で見てる愛する旦那様を、外で見るのって、あたし大好きなの。今でも惚れぼれするわ。それは確かに若くはなくなったけど、独特の素敵な雰囲気がね、あたしを魅了するのよ」
「独特の雰囲気ね。結局、それはベッドを共にしてる男性だからでしょ」
「ううん、客観的に見てもね、やっぱり他の男性と違うのよ。愛する旦那様のご両親て、〈東男に京女〉なの。お父様は東京出身、お母様は京都出身。何て素敵なんでしょう! その〈東男に京女〉の血筋が脈々と、愛する旦那様の体に流れてるの。それに、〈東男に京女〉のご両親に育てられたからこそ、都会的な雰囲気と古風な雰囲気とを併(あわ)せ持ってるような魅力があるのよ。それってベッドにいる時は感じない雰囲気なの。パジャマじゃなく洋服着て、背景は店内、ビル内、道路など雑然とした外界だからこそ感じられるの」
「ふうん、それなら当分、不倫デートで満足してれば?」
「うううん、やっぱりドライブ旅行したいのよう、車の中とか、森の中とか、ベッドじゃない所でエッチしてみたいの。映画で観たことあるけど屋外って1度も経験ないの」
「でも、ドライブ旅行は愛の交じわりをしなくなった老後の楽しみに取っておこうって言われてんでしょ。ドライブ行く時はセックスしてない時なんだから経験できないじゃないの」
「そうなのよう、だから不満……だから……だから……不満なのよう」
 口をとがらせて言うP子が、おかしくてクックッと笑ってしまいました。