電話でお喋りしていたP子の携帯に、彼女の不倫相手からのメールがきたため、電話は中断。
その後、かけ直してきたP子、私の言葉にショックを受けたと言った先刻の、ションボリした口調と打って変わって、いきいきした声になってるんです。きっと、P子が〈旦那様〉と呼んでいる彼からのメールのせいでしょう。女心って、刻々と変わるもの。
「神様の罰が当たらないように気をつけなさいね、っていう、あなたの言葉の真意、ちゃんとわかってるのよ」
自信あり気な口調で、P子がそう言いました。
「真意だなんてオーバーね。冗談半分、たいして意味もなく言ったんだけど」
どうでもいいことだけどという気分で、答えました。
「愛人女が、彼の妻に対して優越感を持ちながら不倫を楽しんでると、神様の罰が当たるって思ってるんでしょ」
「少しはね」
「本音を言うと、あたし、奥さんに対して、優越感や嫉妬だけ感じてるわけじゃないのよ。それは、優越感や嫉妬が少しはあるのって無理もないでしょ。それが愛人の宿命ですもの。でもね、長年、愛人してると、だんだん気持ちに変化が起こってくるのよ」
「どんなふうに?」
「嫉妬や優越感は、10%ぐらいなの。あとの90%は、感謝と尊敬の気持ち」
「感謝と尊敬……何だか意外ね」
信じられないような気がしました。愛人女性が、彼の妻に感謝と尊敬の気持ちを持ってるなんて聞いたことありません。
「あら、本当よ。その気持ちって、彼のご両親に対しても言えるわ。こんなに魅力的な男性に成長するよう育てて下さった、ご両親への感謝の気持ち」
「確かにそう言えるかも」
「それから、彼の奥さんて、あたしより頭が良くて高学歴で、専門の資格を取得しないとできない難しい仕事してるから、尊敬しちゃうわ。本当に、奥さんのこと、尊敬してるの」
「ふうん」
「それにね、人間的に魅力的な旦那様にしてるのは、奥さんなのよ。ほら、夫を見れば、その妻がわかる、妻を見れば、その夫がわかる、って言葉、知ってるでしょう?」
「聞いたことあるかも」
「夫が妻をそういう人間にしてる、妻が、夫をそういう人間にしてるってこと。グチグチグチグチ言ってばかりの妻は、結婚生活で夫が、そういう人間にしたの。精神が軟弱な妻依存症候群の夫は、幼少時代の孤独恐怖症のトラウマがあるとは言え、結婚生活で妻がそんな人間にしたの。ウツウツとして笑顔のない妻は、夫のせい。人生を諦めてる夫は、妻のせい。これはもう、間違いないことなのよ」
「夫の、人間としての魅力は妻のお陰ってことね。男としての魅力は?」
「もちろん、愛人のひたむきな愛のお陰だわ。うふ」
「そう言うと思った」
「とにかく、魅力的な男性のままでいるような生活を共にして下さってる奥様への感謝と尊敬の気持ちが、ちゃんとあるんだもの。こんなあたしを、神様が罰すると思う? 死ぬまで旦那様に恋していたいの。そのために、神様にお祈りしてるの。どうか、あたしを罰したりしないで下さいって」
「それが言いたかったわけね」
P子らしいわと、クスッと笑ってしまいました。「死ぬまで旦那様に恋していたい」と言うのが、P子の口癖なんです。もう、何度、聞いたことか。きっと彼に抱きつくたび、口にしている言葉なのでしょう。
身勝手な理屈のような気もしないではないけれど、いくつになっても不倫の恋に燃えていられるP子が、ちょっぴりうらやましくなりました。
その後、かけ直してきたP子、私の言葉にショックを受けたと言った先刻の、ションボリした口調と打って変わって、いきいきした声になってるんです。きっと、P子が〈旦那様〉と呼んでいる彼からのメールのせいでしょう。女心って、刻々と変わるもの。
「神様の罰が当たらないように気をつけなさいね、っていう、あなたの言葉の真意、ちゃんとわかってるのよ」
自信あり気な口調で、P子がそう言いました。
「真意だなんてオーバーね。冗談半分、たいして意味もなく言ったんだけど」
どうでもいいことだけどという気分で、答えました。
「愛人女が、彼の妻に対して優越感を持ちながら不倫を楽しんでると、神様の罰が当たるって思ってるんでしょ」
「少しはね」
「本音を言うと、あたし、奥さんに対して、優越感や嫉妬だけ感じてるわけじゃないのよ。それは、優越感や嫉妬が少しはあるのって無理もないでしょ。それが愛人の宿命ですもの。でもね、長年、愛人してると、だんだん気持ちに変化が起こってくるのよ」
「どんなふうに?」
「嫉妬や優越感は、10%ぐらいなの。あとの90%は、感謝と尊敬の気持ち」
「感謝と尊敬……何だか意外ね」
信じられないような気がしました。愛人女性が、彼の妻に感謝と尊敬の気持ちを持ってるなんて聞いたことありません。
「あら、本当よ。その気持ちって、彼のご両親に対しても言えるわ。こんなに魅力的な男性に成長するよう育てて下さった、ご両親への感謝の気持ち」
「確かにそう言えるかも」
「それから、彼の奥さんて、あたしより頭が良くて高学歴で、専門の資格を取得しないとできない難しい仕事してるから、尊敬しちゃうわ。本当に、奥さんのこと、尊敬してるの」
「ふうん」
「それにね、人間的に魅力的な旦那様にしてるのは、奥さんなのよ。ほら、夫を見れば、その妻がわかる、妻を見れば、その夫がわかる、って言葉、知ってるでしょう?」
「聞いたことあるかも」
「夫が妻をそういう人間にしてる、妻が、夫をそういう人間にしてるってこと。グチグチグチグチ言ってばかりの妻は、結婚生活で夫が、そういう人間にしたの。精神が軟弱な妻依存症候群の夫は、幼少時代の孤独恐怖症のトラウマがあるとは言え、結婚生活で妻がそんな人間にしたの。ウツウツとして笑顔のない妻は、夫のせい。人生を諦めてる夫は、妻のせい。これはもう、間違いないことなのよ」
「夫の、人間としての魅力は妻のお陰ってことね。男としての魅力は?」
「もちろん、愛人のひたむきな愛のお陰だわ。うふ」
「そう言うと思った」
「とにかく、魅力的な男性のままでいるような生活を共にして下さってる奥様への感謝と尊敬の気持ちが、ちゃんとあるんだもの。こんなあたしを、神様が罰すると思う? 死ぬまで旦那様に恋していたいの。そのために、神様にお祈りしてるの。どうか、あたしを罰したりしないで下さいって」
「それが言いたかったわけね」
P子らしいわと、クスッと笑ってしまいました。「死ぬまで旦那様に恋していたい」と言うのが、P子の口癖なんです。もう、何度、聞いたことか。きっと彼に抱きつくたび、口にしている言葉なのでしょう。
身勝手な理屈のような気もしないではないけれど、いくつになっても不倫の恋に燃えていられるP子が、ちょっぴりうらやましくなりました。