花森えりか My Room

─愛と官能について語る部屋─

愛人女性の本音

2012-07-24 16:21:45 | P子の不倫
 電話でお喋りしていたP子の携帯に、彼女の不倫相手からのメールがきたため、電話は中断。
 その後、かけ直してきたP子、私の言葉にショックを受けたと言った先刻の、ションボリした口調と打って変わって、いきいきした声になってるんです。きっと、P子が〈旦那様〉と呼んでいる彼からのメールのせいでしょう。女心って、刻々と変わるもの。
「神様の罰が当たらないように気をつけなさいね、っていう、あなたの言葉の真意、ちゃんとわかってるのよ」
 自信あり気な口調で、P子がそう言いました。
「真意だなんてオーバーね。冗談半分、たいして意味もなく言ったんだけど」
 どうでもいいことだけどという気分で、答えました。
「愛人女が、彼の妻に対して優越感を持ちながら不倫を楽しんでると、神様の罰が当たるって思ってるんでしょ」
「少しはね」
「本音を言うと、あたし、奥さんに対して、優越感や嫉妬だけ感じてるわけじゃないのよ。それは、優越感や嫉妬が少しはあるのって無理もないでしょ。それが愛人の宿命ですもの。でもね、長年、愛人してると、だんだん気持ちに変化が起こってくるのよ」
「どんなふうに?」
「嫉妬や優越感は、10%ぐらいなの。あとの90%は、感謝と尊敬の気持ち」
「感謝と尊敬……何だか意外ね」
 信じられないような気がしました。愛人女性が、彼の妻に感謝と尊敬の気持ちを持ってるなんて聞いたことありません。
「あら、本当よ。その気持ちって、彼のご両親に対しても言えるわ。こんなに魅力的な男性に成長するよう育てて下さった、ご両親への感謝の気持ち」
「確かにそう言えるかも」
「それから、彼の奥さんて、あたしより頭が良くて高学歴で、専門の資格を取得しないとできない難しい仕事してるから、尊敬しちゃうわ。本当に、奥さんのこと、尊敬してるの」
「ふうん」
「それにね、人間的に魅力的な旦那様にしてるのは、奥さんなのよ。ほら、夫を見れば、その妻がわかる、妻を見れば、その夫がわかる、って言葉、知ってるでしょう?」
「聞いたことあるかも」
「夫が妻をそういう人間にしてる、妻が、夫をそういう人間にしてるってこと。グチグチグチグチ言ってばかりの妻は、結婚生活で夫が、そういう人間にしたの。精神が軟弱な妻依存症候群の夫は、幼少時代の孤独恐怖症のトラウマがあるとは言え、結婚生活で妻がそんな人間にしたの。ウツウツとして笑顔のない妻は、夫のせい。人生を諦めてる夫は、妻のせい。これはもう、間違いないことなのよ」
「夫の、人間としての魅力は妻のお陰ってことね。男としての魅力は?」
「もちろん、愛人のひたむきな愛のお陰だわ。うふ」
「そう言うと思った」
「とにかく、魅力的な男性のままでいるような生活を共にして下さってる奥様への感謝と尊敬の気持ちが、ちゃんとあるんだもの。こんなあたしを、神様が罰すると思う? 死ぬまで旦那様に恋していたいの。そのために、神様にお祈りしてるの。どうか、あたしを罰したりしないで下さいって」
「それが言いたかったわけね」
 P子らしいわと、クスッと笑ってしまいました。「死ぬまで旦那様に恋していたい」と言うのが、P子の口癖なんです。もう、何度、聞いたことか。きっと彼に抱きつくたび、口にしている言葉なのでしょう。
 身勝手な理屈のような気もしないではないけれど、いくつになっても不倫の恋に燃えていられるP子が、ちょっぴりうらやましくなりました。

男の自信

2012-07-06 14:02:36 | 男と女
 最近はテレビ離れの傾向にあると聞きますが、確かに面白い番組が少ないような気がします。
 面白い映画もあまりないし、深く掘り下げたドキュメンタリーも少なく、退屈なドラマや芸能人出演番組以外で、やたらと多いのは健康と美容と生活に関する情報番組。比較的テレビを見る中年以上の世代の視聴者向け番組が多いような気がします。
 テレビはわりと見るほうで、ビデオ録画した番組がどんどん溜まっていくので1日平均5時間ぐらい見ています。食事しながらの時間を含めてですけど。
 番組が、そう面白くないからという理由だけでもないのですが、出演者の顔や体型を眺めては、好きとか嫌いとか感じがいいとかキモイとか爽やかとかの印象の後、その生活ぶりや人生など、あれこれ想像するという楽しみがあるんです。
 主に情報番組やドキュメンタリーを見るので、アナウンサー、評論家、大学の教師、医師、弁護士、音楽家、作家、画家、美容専門家、生活アドバイザー、スポーツ・インストラクターなどが出演するのを見ることになります。それと、街頭インタビューされるサラリーマンや中高年熟年世代の男女も、よく見ます。
 やはり、何と言っても、さまざまな男性を見ると、いろいろ想像力を刺激されたりします。
〈男の顔は履歴書〉という言葉があるけれど……。顔を見て、体型を見て、ヘア・スタイルを見て、ネクタイを見て、服を見て……。
 それから、手や指が映ると、じっくり見たくなります。
 男性の手と指はセクシーと、常々、思っている私は、すべての男性のではないのですけど、2人に1人、いえ、3人に2人ぐらいの男性の手と指に、何とも言えない魅力を感じてしまうんです。とは言え、愛する男性の手と指が、世界で一番、魅力的ですけど。
 それと、コメントだの解説だのを聞きながら、時々、チラッと、
(この人って、愛人いるかしら?)
 なんて考えが、浮かんでしまうことも。もちろん、愛人というのは、お小遣いをあげて遊ぶ浮気相手ではなく、不倫関係の愛人。何年もの歳月、妻以外に、愛し合っている女性がいるかどうか、という想像なんですけど、これが結構、楽しいんです。
(愛人、いそう……)
 なんて感じられる男性をテレビで見ることは、あまりありませんが、何となく、雰囲気に感じられたりするんです。それは、男としての自信、のようなものが垣間見えるというか、よぎるというか、一瞬、または数瞬、セクシーな表情がかすめることがあるんです。
 何か専門的な権威とか肩書きとかは、関係ないんです。そういうのは人間としての自信、であって、〈男としての自信〉とは違うんです。かといって、女を口説き落とすのが巧みなプレイボーイでもないんです。
 大半の男性には、自分の価値を否定したり低くしたりしてしまうような〈コンプレックス〉が、心のどこかにあるような気がします。女性はコンプレックスを簡単に解消できることが多いんですけど、男性のコンプレックスは容易に解消できないようです。もちろん、それは、他人に気づかれないように秘められていたり、無自覚、無意識のコンプレックスだったりするんですけど。
 そのコンプレックスが、何年間も愛人関係を続けている男性には、ないんです。コンプレックスがないからといって、容姿抜群とかリッチとか地位名誉を得たとかいうことではなく、努力して解消したということでもありません。それは、何故か──。
 愛人のいる男性というのは、自分の、男としての価値、人間としての価値に、自信があるからなんです。愛人という1人の女性から愛され続けている、という事実からにじみ出る〈男の自信〉。その愛人を、この上なく幸福にしてあげている、という〈男の自信〉。そしてそれは、自分の人生の価値にも満足にも通じるんです。さらに、それが、容姿にも影響して若々しく魅力的な男性として磨きがかかってくる──ということなんです。
 友達のP子が〈旦那様〉と呼んでいる不倫関係の男性の写真を見せられた時、P子が夢中になるのも無理はないと思えるような、若々しく素敵な熟年男性だったんですけど、P子がメンクイで最初から彼がイケメンだったのではなく、
(P子という1人の女性から愛され続けているからこそ、魅力的な男性になったのかも……)
 そんな気がしたんです。
 ──と、そんなふうに、テレビを見ていて、
(この男性って、愛人がいるのかも……)
 と、想像したくなるような男性は、滅多にいないけれど、時々、いるんです。その想像が当たっているかどうかの的中率は、わかりませんけど──。