花森えりか My Room

─愛と官能について語る部屋─

愛のサプリ

2015-08-16 15:01:06 | P子の不倫
 今日のP子は上機嫌。ハミングしそうなくらい、キャハハと笑い出しそうなくらい、ピョンピョン飛び跳ねたそうなくらいの上機嫌だけれど、それを隠そうとしてるんです。何故かと言うと――。
「人生最大の歓びは愛。愛の歓びこそ生きる力。愛がなければ人間は生きて行けない。心身共に健康で暮らせるのは、愛があり、愛に包まれ、愛を実感してこそなのよ」
 な~んて澄ました顔して言うんです。気取った言葉を口にしたくて、ハミングしたりピョンピョン飛び跳ねたいのを抑えていたんです。
「何か変化でもあったの? この間までは絶望的とか言ってたけど」
「大ありよう。人生がまたバラ色に……あ、これって、昔、親しい知人が言った言葉だわ。バイアグラという魔法の薬ができて、人生がまたバラ色に輝き出したって。でも、バイアグラなんかじゃないもンね」
「ということは、彼の精力アップの変化って変化?」
「精力アップなんてものじゃないわ。もうもう、男の証明そのもの。男の中の男ってことを再証明したの。あたしのひたむきな努力と苦労と時間と手間が実って」
「お疲れ様」
「来る日も来る日もネット検索して調べまくって我れながら狂気の沙汰とはこのことみたいって思ったくらい」
「それで」
「ついに、ついについに、愛のサプリを見つけたのよ。直感でね。これは絶対いいかもって」
「何ていうサプリ?」
「教えないわ。大勢が買うようになったら価格が高くなるかもしれないし、手に入りにくくなるかもしれないもの。だけど、友情に免じて、情報料100万円くれたら教えてあげる」
「100万円も払わせて何が友情よ」
「あら、友人じゃなく、ただの知人なら情報料1000万円だわ。超がいくつも付く貴重な情報なんですからねッ」
「結構よ、教えてくれなくて」
「ある記事に、中高年の医師がそれ飲んだら、もの凄い効果なんだって、詳しく書いてあったの」
「どうせ宣伝でしょ。医師がそんな超貴重な情報、もったいなくてネット記事なんかにするはずないわよ」
「医師が書いてたわけじゃないわ。そう言ってたって他の人が書いてたの。それで、そのサプリのことネット検索で調べまくって、これはいいかもって直感したの! その日は愛する旦那様とそのサプリや他に調べたいくつかの精力剤のことで1日じゅうメールのやり取りしてたわ」
「暇ね、いえ涙ぐましいわね」
「精力剤って、高いのよう。何万円もするの。でも、コウカでコウカないとコウカイ、ってメールしたりして、ククッ」
「コウカでコウカないとコウカイ?」
「コウカで、というのは高価、expensive、高い価格のこと」
 英語が得意でもないP子が、expensiveなんて単語知ってるなんて、ちょっと驚き。
「コウカない、は……」
「効き目の効果、effect」
「effectね。コウカイは……」
「regret。悔やむ、後悔する」
「expensive、effect、regret……そんな英単語、ふだん使ってるの?」
「常識よう。ま、あなたみたいな知的レベルの低い人は使わないでしょうけど」
「P子って、知的レベル、高かったかしら?」
「高くないわよ」
 と、正直な答え。
「ちょっと時間かかって思い出したの。学生時代はスラスラ出てきた単語ばかりだわ」
「ハイハイ、それで」
「結局、何万円もする精力剤じゃなくて、直感したそのサプリに決めて、通販で買ったの。サプリは精力剤ほど高くないから、コウカでコウカないとコウカイってことにならないしね」
「ふ~ん、それが効いたってわけね」
「もう、バッチリよう! まるでバイアグラ飲んだみたい! 若い時の持続力みたいだったもンね! いつもは、あたしの1人エッチ姿か、愛撫にもの凄く濡れることに昂奮する旦那様が、そのどちらもしないうちにあたしを腕の中に抱いただけで硬くたくましくなったの! 『効いた!!』って異口同音で感激の言葉を発して歓喜の絶句して深く深く深~く抱き締め合ったわ!! 愛する旦那様はやっぱり男の中の男! 男の魅力は持続力だわ! 何と言っても持続力! 中折れなんて嫌い、インポは嫌い、おしっこホースは嫌い! 男は持続力がすべて! 持続力あってこそ男だわ!!」
「P子がいつも否定してたサプリのお陰ってわけね」
「そうなの! そんな素晴らしい愛のサプリが、この世にあったなんて! 製薬メーカーが作った化学成分のない天然成分! つくづく製薬会社って見直しちゃったわ! あちこちに賄賂ばらまいてる濡れ手で粟の商売って認識、改めるわ! 世の女性に、ううん、男性に、ううん、社会に貢献してる、ううん、人類の歓びと幸福に貢献してる素晴らしい企業だわ!」
「結構なことね」
「愛のサプリは神様からの贈り物なの! 神様があたしと愛する旦那様の愛の絆を祝福して愛のサプリを与えて下さったのよ! あたし毎晩、お祈りの時、感謝の言葉を忘れないの!」
 瞳を輝かせてP子は、愛のサプリ、愛のサプリと繰り返すのでした。