花森えりか My Room

─愛と官能について語る部屋─

P子のヘンな習慣

2013-04-01 14:41:19 | P子の不倫
 深夜に近い時刻。遊びに来た友達のP子と、ワインを飲みながら宅配ピザを食べ、飲み足りないと言うので、しまっておいた大事なワインを出しました。辛口白ワインのシャブリ。大事なワインと言っても『シャブリ・ラ・ピエレレ 2010』、近所のスーパーで買った安ワインですけど。
 白ワインは魚料理に合うと、皆が言うけれど、私は何も食べずに飲むのが好きなんです。時々、深夜に本を読みながら、グラスに2杯か3杯ほど。
「あ~ら、シャブリだなんて、あたし、だ~い好き!」
 P子は大喜び。
「わかってるわよ、大好きな理由。男と女の愛撫を連想させるシャブリっていう名が気に入ってるんでしょ」
「当たり~」
 アルコールにそう強くもない女が2人、おしゃべりの内容がエッチ談義&愛人談義のため、ついついグラスを重ねてしまい……と、こんな夜があっていいかもと思ったんです。
 ほどよく冷えてるシャブリを2つのグラスに注いで、同時に口に運びます。
「美味しい~。傍に愛する旦那様がいたら、口移ししてもらって飲みたい~」
「悪かったわね、傍にいるのが私で」
「あ~ら、あなたは一番の親友、と~っても楽しいひとときよう」 
「ねえ、そう言えば、いつか打ち合わせで飲んだ時、結婚して7年経つ女性編集者がね、不倫相手の奥さんが洗濯した男の下着って触(さわ)れないし、さわるのを想像するだけで気持ち悪い、だから家庭のある男性とは不倫なんてできないと思う、って言ってたわ」
「それはね、家庭のない男、つまり年下の若いシングル青年との不倫願望の表れよ」
「そうかしら。でも、共感できなくもないわ。P子はどうなの? 彼氏の下着、さわれる?」
「もちろんよ、さわりまくってるわ。入浴前に肌着だってパンツだって愛撫しながら。脱いだ後は畳んでおく時にさわるし、奥さんが洗濯したなんて意識、全然、浮かばないわ」
「ふうん」
「その女性はね、家庭のある男性を愛したことがないのよ。観念で、不倫とか不倫愛をとらえてる。年下シングル青年との不倫願望も、観念によるものなのよ。家庭のある男は中年、年下シングル青年は若さの魅力という観念。それはテレビや映画での映像でなら若さの魅力を感じるけど、現実には中年の魅力、中高年の魅力、熟年の魅力、それは現実に愛と恋を体験しないと知ることができないし、その魅力に酔うことはできないわ」
「それはそうかもね」
「第一、愛する男性の肌に触れた肌着、下半身のアレに触れてたパンツって思うと、もう、いとしいじゃない! いとしくていとしくてキスしたり頬ずりしたりしたくなっちゃうわ」
「ま、ヤラシイ」
「それに、愛する旦那様がお出かけした後、あたしの部屋で愛する旦那様が着てたパジャマ着て寝るのって、最高に楽しいんだから」
「お出かけって、どこへ?」
「あたしの部屋から出て自宅へ行くことよ」
「それ、出かけるじゃなく、帰るって言うんじゃないの?」
「一般的にはね。でも、いつも旦那様は、行くよ、とか、出かけるよ、って言う習慣なの。帰るっていう言葉が出ると、修羅場になるから」
「単純人間のP子としては、不倫相手の彼が家に帰る、帰宅する、ということじゃなく、P子の部屋から出かける、っていうことにすれば、穏やかな心情でいられるってことね」
「そうでもないわ。玄関で、行ってらっしゃいと行って来ますを言い合って、必ずキスと抱擁するの。ドアの外に愛する旦那様の姿が消えた時の寂しさ、その寂しさといったら、もうもう死んでしまいたいくらいだわ、しゃがみ込んでシクシクシクシク泣き続けたことが何度あったことか」
「わかるわ。可哀想……」
「でもね、ある時、その寂しさがやわらぐ方法を見つけたの。愛する旦那様が着てたパジャマの上下を素肌の上に着て寝るの。翌日朝寝坊して、洗面の後、コーヒー入れてベッドで飲む時も、愛する旦那様が着てたパジャマを着たまま、食事もリンゴやイチゴとオレンジケーキとおせんべいと紅茶をトレイに乗せてベッドで食べたり飲んだり。片付けて歯磨きした後、またベッドに戻るの。テレビを見る気もしないしパソコンに向かう気もしないし、愛する旦那様が着てたパジャマの匂いに包まれてベッドの中にいるのって最高に幸せなんだから。ぜ~んぜん寂しくないことに気づいたの。うふ。もうずっと前からよ。愛する旦那様がお出かけした後、愛する旦那様が着てたパジャマを着て眠る楽しみがあるから、帰りぎわの修羅場はなくなったわ。うふ」
「じゃ、パンツも、はくのオ?」
「うふふ、まさか、そんなはしたないこと、1度か2度はいてみたけど、はしたないでしょ、レディがそんなこと」
「安心したわ、その点はノーマルで。いくらP子でも寝る時は女性用下着で寝るわよね」
「あら、さっきも言ったでしょ、肌着もショーツもつけないで素肌に愛する旦那様が着てたパジャマ着て寝るって」
「やっぱり、あんまりノーマルでもなかった……う、ううん、それで、朝寝坊してコーヒー飲んでお菓子食べて、ベッドの中で何してるの? 彼との愛に浸ってるってわけ?」
「愛する旦那様と交わした会話や愛撫思い出したり、純粋な愛の余韻と、昨夜の快楽の余韻に浸ったり……」
 うっとり、そう呟いた後、「うふ」と含み笑ってはワインを1口飲み、また「うふ」と含み笑ってはワインを1口飲み、また「うふ」と含み笑ってはワインを1口飲む、ヘンなP子でした。