花森えりか My Room

─愛と官能について語る部屋─

ショックの言葉

2022-06-02 08:07:13 | 官能トーク
 先日、担当編集者から、雑誌の作品掲載ページの片隅に載せる囲み記事のインタビューで、コレクションは何かと質問された。
「それは言わなくてもわかるでしょう。お金と男性です」
 と即答。編集者が楽しそうに笑って、その言葉を呟きながらメモするので、
「冗談よ、書かないで」
 慌てて、そう言い、2人でクスクス笑った。
 お金はコレクションしたいが、男性は別に集めたいと思わない。好きな男性が1人と、友達が数人ぐらいいて欲しいと思う。
 たとえば好きな男性が複数いると、その情熱が分散してしまうのではないだろうか。
 だから数人の恋人や愛人がいる女性は、よほどエネルギッシュな男好きか、またはナルシストで自分のほうからは男性を愛さないタイプなのかもしれない。
 男性だって同じだと思う。妻がいて数人の愛人がいるとして、それぞれ愛情を注げるだろうか。
 その愛も分散してしまって、真の愛情とは違うような気がする。
『英雄色を好む』というのは、もちろん英雄だからこそで、一般男性には当てはまらない。

              ✩

 友人のT子は最近、ショックを受けたらしい。飲み会で、ある知人から、〈触れなば落ちん〉の風情だねと言われたらしい。何がショックだったかというと、〈触れなば落ちん〉という言葉を、長年誤解していて、落ちそうでなかなか落ちない女というニュアンスだと思い込んでいたのである。
 ところが、簡単に落ちそうな女という意味だと、最近知らされた。
 あるパーティの後、親しい知人が、
「男たちがみんな、やりたそうな眼で、きみを見ていた。触れなば落ちん、て」
 と言い、T子は、
「あたしってサービス精神旺盛だから。でも、やっぱり身持ちの固い真面目な女に見えるのね」
 と、ニッコリ。
 すると知人が、〈触れなば落ちん〉の正確な意味を教え、彼女は激しいショックを受けて、泣きそうなくらい落ち込んでしまったらしい。
「それだけ、きみは魅力的だってことだよ。だいたい、きみは色道の通が眼をつける、こつまなんきんタイプなんだ」
 親しい知人がそう言い、
「こつまなんきん?」
 T子は聞き返した。
 知人の話によると、鹿児島弁で小さく締まったカボチャのことで、賞賛に値する身体つきの意味だということだったので、少しは慰められたらしい。
               ✩
 T子はそのことを付き合っている男性に話した。
「最初会った時、ぼくもそんな感じがしたよ」
「触れなば落ちんて? ひどいわ、あんまりだわ。それであたしと初めて愛し合った時、やっぱりそうだったって思ったのね」
「そう怒るなよ、T子が魅力的だってことだよ」
「いいわよ、慰めてくれなくたって。どうせ簡単にあなたの手に落ちたんだから」
「もう2年だぞ、今ごろ、そんなこと」
「真実を知って、あたし死にたいほどショックなんだから」
「だけど、その2年間に、デートしてもセックスしない日だってあったし、T子だけ満足させた夜もあったじゃないか」
「あたしが、本当は触れなば落ちんじゃないってこと、信じる?」
「信じるよ」
「あたしは身持ちの固い女よ。誰とも寝る女じゃないわ。あなたを愛してから、あたし……ほかの誰とも……」
 T子は泣き声になる。 
「わかってるわかってる。ぼくだけが本当のT子を知ってるんだ。浮気女なんかじゃないよ。1人の男を真剣に愛する女だよ。素晴らしい、魅力的な女性。本当だよ」
 彼がやさしくT子を抱き締めた。一度愛し合って小休止のベッドの中である。いつもなら肌と肌を触れ合わせているだけで欲望がこみあげてくるが、その夜はそんな気にならなかった。セックスしなくても、精神的に、心から彼を愛していることを、自覚したかったし、彼にもわかって欲しかったのかもしれなかった。

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