花森えりか My Room

─愛と官能について語る部屋─

女の目覚め

2021-12-28 08:43:45 | 官能トーク
 かつて専業主婦をしていたころ、離婚を経験した男性の友人がいて、彼の口癖は、
「一度、家庭を持った人間が、独身生活に戻るというのは辛いことなんだ」
 という言葉だった。
 その後、私も離婚し、時々、彼の言葉を思い出すが、
(男と女って、違うのね)
 つくづく、そう感じた。
 彼の場合は、30歳を過ぎた男性が、洗濯や炊事や食料と日用品の買い物をしなければならない侘しさのような気持ちが、こもっていた。
 さらに彼の場合、サラリーマンではなく、仕事が定期的に入るミュージシャンだったが、夜中に帰宅した時、疲れきった精神と肉体を癒やしてくれる妻がいないということは、そのような安らぎを経験しているだけに、身にこたえただろうと思う。
 私の場合は独身になって、ああ、この生活が私にはピッタリなのだ、夫からの制約も束縛もない、自由にのびのびと呼吸することができる――という、この上なく自由で新鮮で輝かしい新生活だった。
 そのうち寂しくてたまらなくなるのではとも思ったが、5年経った現在も、その心境は変わらず、もし専業主婦を続けていたら、家事の手抜きはできないし、夜の外出もできず、精神的に疲れ果て、とても原稿など書けないだろうと思う。
 けれど、やはり時には、耐え難いほどの孤独感に包まれる夜がある。
 1日の終わりに、ベッドで、何も言わず黙って顔を埋められる男性の暖かい胸があったら――という想い。やさしく抱き寄せてくれる男性の腕が、本当に欲しい、切実に欲しいと心底思う。
 ところが男性たちは、離婚女性に対して偏見や先入観を持っていて、性的欲求不満なのではないかと想像する傾向があるようである。
          ✩
 離婚女性M子は、シングルに戻り自由になったとたん、もう誰の束縛もないからと、次々、男性と関係を持った。
 離婚した女性というのは、男性たちにとって口説きやすかったようだった。
 絶えず、同時に付き合っている複数の男性が、彼女にはいた。
 男たちはベッドの上で、
「ご主人と別れてから久しぶりなの?」
 などと言って刺激と昂奮に包まれるらしかった。
 M子の肉体にも火がついた。初めて知る愛撫や体位によってもたらされる快楽。
 恥ずかしい言葉も口にするようになり、いろいろな男性と付き合ってから、彼女は女として成熟したのである。
 そうなると、1日も男なしではいられなくなる。会社勤めをしていたが、昼休みにラブホテルに入ることもあるし、その夜、別の男性とベッドを共にすることもあった。
 お酒を飲みながら口説かれるのも楽しいし、それ以上にベッド・インが楽しくてたまらないのである。
 ホテルの部屋に入って、男性から抱き締められ、キスをされただけで身体の芯が熱くなってくる。
 ベッドの上に、やさしく押し倒され――。
 2人とも、まだ服を着たまま。
 ルームライトは、ついたまま。
 全身から力が抜け、何もかも忘れて、欲望の嵐に襲われそうになっていく。
      ✩
 関係を持った男たちは、M子の離婚の原因を、性の不一致だと推測し、別れた夫に同情した。
 セックス好きの女というのは、ある意味で男にとって理想のタイプかもしれない。
 けれど、一夜だけとか、たまのデートなら、ベッドで激しく燃える彼女は理想的な女だが、毎晩ではかなわないと、男たちは誰もが思った。
 女性はセックスだけで男性を惹きつけておくことは、できないものではないだろうか。
 ある時、彼女は、そのことを悟った。
 風邪を引いて寝込んでいた日である。
 会社を休み、風邪薬を飲んで、1人でベッドで寝ているのは、たまらなく寂しいなどというものではなく、もう死んでしまいそうなほどの寂しさと孤独感だった。
 男好きになってしまってから、M子には、女友達が1人もいなかった。
 男性に電話したくても、皆、家庭のある男ばかりだった。
 寂しくて寂しくて眠れない夜、気がついてみると、電話をかけられる男性が、この世にただの1人もいなかったのである。
 それ以来――。
 M子は男遊びをやめた。
 そして、心身共に愛せる恋人を見つけた。
 彼には家庭があり、決して精力的に強靱ではなかったが、そのやさしさと思いやりと愛情に、彼女はもう寂しくはなく、生きる喜びを感じるようになった。
 男性と次々、関係を持っていたころから、M子は心の底で、真に愛せる男性を求めていたのではないだろうか。

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