花森えりか My Room

─愛と官能について語る部屋─

男の中の男

2016-03-07 15:14:06 | P子の不倫
 久しぶりに会ったP子に近況を聞いてみたんです。
「このごろテレビで面白い映画もドキュメンタリーもないから、読書とネット記事ばかり読んでるわ」
「活字中毒復活ね」
「映像はYouTubeで、テレビやラジオの番組に出演した養老孟司とか近藤誠とかの話を聞いたり」
「何かいいこと言ってた?」
「でもね、教えられたり共感できたりする話は90%。100%じゃないのが、意外なのよね」
「ふうん」
「たとえば近藤誠医師の著書は好きでわりと読んだけど、YouTubeでラジオの対談を聞いたら、漢方薬を否定してるのを初めて知ったわ。ちゃんとデータがなくて効果はないみたいなコメントに驚きだった」
「西洋医学のお医者さんだからでしょう。漢方薬は東洋医学で」
「そうかもしれないけど。プラセボ効果みたいなんだって。何だか失望しちゃったわ。医師ってデータとかエビデンスに拘るのが基本なんでしょうけど、単なる習性に感じられるくらい。データとかエビデンスとかばかりで、現実をあまり見てない、現実をあまり知らないんじゃないかって思いたくなるわ。それでYouTube見るのはやめたの」
「ネット記事は面白いのあった?」
「最近は妻が夫に、自宅のトイレで、立ってだと汚れるから座ってオシッコしてもらうって記事読んでビックリ!」
「そうらしいわね。夫も協力して、そうする人が多いんだって」
「男性が便座に座ってオシッコするなんて世も末というか人類の劣化というか、何より男性の中性化ってことだわ」
「ふふ」
「だいたい想像できない、こともないけど、見たことないから、その姿想像すると、もう噴き出しそう。ちゃんと股間にアレついてるの、ついてないのって聞きたくなる」
「でも、それぞれの夫婦の生活なんだし、どんなやり方しようといいんじゃない」
「男性が便座に座ってオシッコする姿なんて、100万円、ううん1千万円もらっても見たくないわ」
「お金あげるから見てくれなんて男性この世にいないと思うけど」
「妻が夫にそうしてもらう理由が、トイレの掃除が大変だからっていうのもね。確かに男性が立ってオシッコするとハネたり垂らしたりが多少はあるかもしれないけど、そんなの1日の終わりに拭き掃除したって5分もかからないでしょう。床拭き1分、便器1分だわ。家族の人数にもよるけど。トイレ掃除なんて数日に1度だって、あたしのうちなんかいつもピカピカ清潔よ。もっとも、あまり汚れないからだけど」
「トイレに限らず何日も掃除しないで汚れを溜めると、お掃除は時間がかかるのよね」
「キッチンや浴室のほうが、お掃除の時間はかかるわ。それに較べたらトイレ掃除なんてササッと数分なのに」
「心理的にトイレ掃除を嫌う妻が多いのかも」
「どうしてかしら。トイレに入るのってあたし大好き。1分、ううん数十秒、ううん数秒ですんでしまう朝の老廃物排出後って気分さわやかだし、オシッコは1日10回は行くけど気分さわやかだし。トイレって、気分さわやかリフレッシュ・ルームだもの」
「えええッ、10回は多いんじゃない? いつかテレビで医師がコメントしてたけど、1日5、6回が健康な証拠で、それ以上は頻尿っていう病気なんだって」
「そんなのあたし全然気にしないわ。だいたいテレビの健康番組なんて医療産業のCMだからね。頻尿って病気作ったのも製薬会社と医師会と厚労省の陰謀よ。薬をジャンジャン飲ませようと思って。あたしなんか気分転換にトイレ入る時もあるから、12回か13回くらい行くんじゃないかしら」
「13回!! それは多いわよ」
「だってあたし、トイレで下着下ろして下半身に空気が触れる感覚って気持ち良くて好きなんだもの」
「変態P子……いえ、ちょっぴり変人P子だからね」
「でも、夜の睡眠中は1度も起きないわ。よく、夜中にトイレ行きたくなって目が覚めるって聞くけど、そういう人は身体のどこかに不調があるのよね。だって睡眠中は脳が眠ることだけを指令してるのに、尿意はその指令を邪魔するし中断するってことだわ。だからそういう人って脳に、自覚しない異常と不調があると思うわ。隠れ脳梗塞とかね」
「そうかしら。そう言われれば……」
「そんな気がするでしょ。だいたい、あたし、このごろ医師の話って机上の空論だって気づいたの。データがないから漢方薬は効かない、プラセボ効果っていう考え方も机上の空論に感じられるわ。だから1日オシッコ5、6回以上は頻尿という病気って決めるなんて机上の空論中の空論よ。だって現実に、この年齢まで元気に暮らせて精神的には時々おかしくなるけど肉体的には毎日ご飯が美味しく食べられて毎日8時間は熟睡して、不足の日は仮眠して、運動やストレッチ楽しんで、お風呂に気持ち良く入って、時々、愛する旦那様に可愛がられて……ま、ちょっと最近はパワー不足気味だけど不満は言わずに愛の表現して、っていう生活で、話に聞く頭痛肩こり腰痛膝痛めまいとか尿漏れ、シビレ、耳鳴り、花粉症とか、その他な~んにも不調がないわ。だからね、1日オシッコは5、6回が健康な証拠でそれ以上は頻尿という病気だなんていうのは、医者の話がまさに机上の空論に他ならないという証明なのよ。なんたらかんたらのデータと机上の空論で仕事してる医者って、職業柄想像力が不足か欠如してるから、トイレの回数なんて個人の体質&感覚&生活&主義&好み&生き方&感性&経験&健康度&トイレ観によって違う、っていうことを全く想像できないのよ」
「ま、それもそうかも。考えてみれば、在宅日も何となくだったり、出かける日も外出先でトイレ行かないように外出前には必ず行くし、帰宅したら行くし、起床時に就寝時に毎食後も行くし、誰かと一緒にビールやお酒飲むと数回は行くしコーヒー飲むと行くし……何回かしら」
「ほうらね、机上の空論のその医者は自分が1日オシッコ5、6回しか行かないってことは体内に余分な水分溜まって尿意の指令が脳からこないから病気になるのも時間の問題ね。だって5、6回ってことは、起床時と就寝時と毎食後で5回だわ、あと1回しか16時間も起きてて尿意の指令がないのは、脳の異常よ。利尿作用のあるコーヒーもお酒も飲まない健康オタク医者かもしれないけど」
「そうかも」
「外出先のトイレって実家以外は何となくバッチイし、我慢できない時だけ行くから、正確に言うと10回は行かないけど、在宅日は12、3回どころか15回ぐらい行く時もあるかも」
「だんだん増えてくるみたい。オーバーに言ってない?」
「ほんとよう、今度、時間を記録してメールするわ」
「そんな記録、メールしないでよ」
「自宅の気分さわやかリフレッシュ・ルームに、1日何回行こうと、あたしの自由でしょう」
「それはそうだけど」
「ところでこの間、最近トイレで男性も座ってオシッコする人多いんだって、って愛する旦那様に話したら、そうらしいな、って知ってたわ。その後に続けた言葉がいいの! 愛する旦那様らしいの! 男の中の男の言葉、って惚れ直しちゃったもンね」
「何て、言ったの?」
「『そうらしいな』の後に、『情けない』って言ったの! 男の中の男でしょう! 男はやっぱり、立ってオシッコするものなのよ。愛する男性が立ってオシッコする姿って、写真に撮りたいくらい超セクシーだしね」
「セクシー?! ま、人は好きずきだから、それぞれ家庭の事情で便座に座るやり方もいいと思うけど」
「男はやっぱり立ってこそ! 立ってこそ男よ! トイレでもベッドでも!」
 それが一番P子が言いたかった言葉みたいでした。