花森えりか My Room

─愛と官能について語る部屋─

愛の魔法

2014-09-30 14:35:09 | P子の不倫
 P子の不倫相手の男性が、この間、膝に湿布してたと言うので、
「湿布! それは興ざめだったでしょう」
 ケタケタと笑って冷やかしたら、
「あ~ら、全然そんなことなかったわ」
 澄ました顔どころか、うっとりした表情を浮かべて答えたんです。
「嘘~。ベッドでこれから愛の交じわりをする時に、相手の身体に湿布なんて貼ってあったら醒(さ)めちゃうわよ」
「それは、あなたみたいに深~い恋をしたことがない女はそうでしょうけど」
「じゃ、どんな気持ちになったわけ?」
「可哀想! って母性本能刺激されちゃったわ。それにベッドの中じゃなく、ズボンを脱いだ時よ。あたし、愛する旦那様がズボンを脱ぐ姿を見るのって大好きなの。何年見ても、飽きないわ」
「どこに貼ってあったの?」
「左の膝よ。テニス膝。左利きだから左足にぐっと力が入って痛くしちゃったんだって」
「おトシだから仕方ないわね」
「湿布貼ってあったの、初めてじゃないわ。テニス肘もあったし、ふくらはぎの肉離れもあったし、長年愛し合ってれば、いろんなことがあるわよ」
「それはそうでしょう。母性本能刺激されて、マッサージでもしてあげた?」
「もちろんよ。あたし、筋肉の痛みを和(やわ)らげるマッサージって得意中の得意。左右の掌をすり合わせて<気>を出してね……」
「き?」
「元気の気、気功の気よ。こうやって……」
 P子が左右の掌をすり合わせてみせました。
「その掌を痛みのある筋肉にやさしく当てると、じわーっと気が染み込んで痛みが和らぐの。昔、子供のころ、お腹が痛くなると、祖母があたしのお腹に手を当ててさする時、いつもそうしてたわ。祖母は<気>っていうことを知らないで、温めた掌でさするためにそうしたのだけど、いつか<気>についての本を読んだら、そのやり方が出ていて、祖母の掌に出た<気>があたしのお腹の痛みを取ったんだってわかったの。今でも、お腹が痛くなると、掌をすり合わせてお腹に当ててさすると治るのよ」
「筋肉の痛みじゃなくても?」
「筋肉でも内臓でも痛みは消えるの。寝違いの時もそうすると、かなり和らぐの。本当よ。冷湿布のほうが対症療法ですぐ効くけどね。とにかく身体の痛みは左右の掌をよ~くさすって<気>を出して、やさしくソフトにマッサージすると効果があるの」
「それをしてあげて、テニス膝、本当に治ったの?」
 何だか半信半疑です。そんな情報、どこにも出ていません。
「あなたって単純ね。すぐ完治したわけじゃないけど、痛みが和らいだのは間違いないのよ。だって、それをしてあげながら愛する旦那様に、どう? 痛みが薄れてきた? 和らいできた? って聞くと、『うん、治った!』って元気な声で答えるもの。今回だけじゃないわ。他の時だって、いつも、そうだったもの」
「それは、一応そう言わないとP子が延々とマッサージを……」
「ま、失礼ねッ、一応だなんて。だから完治じゃなくても、ほんとにほんとに痛みが和らぐのよ。今度、実証してあげる、と言いたいけど、女のあなたの身体にマッサージなんてツマラナイから、や~めた」
「結構よ。私って筋肉痛も身体の痛みもあまり起こらない体質ですからねッ」
「あたしの愛の<気>のマッサージをした翌週は、もう湿布してないもンね。愛の<気>のマッサージをしたことで早く治るっていう証明よ。あたしだけができる愛の魔法なの! 何て素晴らしい魔法なんでしょう! 神様が与えてくれた愛の神秘パワー!」
 そう言った後、
「ああ、湿布になりた~い! 愛の神秘パワー発揮した後、完治するまでの1週間、湿布になって愛する旦那様の身体に貼り付いてれば、ずうっとずうっと一緒にいられるわ! 自宅でも会社でも車の中でもトイレでも!」
 うっとりと、そう呟いたので、何だか呆れてしまいました。