エコポイント&スマートグリッド

省エネ家電買い替え促進で有名となったエコポイントとスマートグリッドの動向を追跡し、低炭素社会の将来を展望します。

「スマートグリッド革命」(シリーズ;米電力会社によるスマートメーターの大量導入)

2010-11-19 06:43:39 | Weblog
導入が活発化しているスマートメーターに関しては、アメリカの電力会社は08年前半に、家庭内の機器を電力メーターから制御するための標準仕様「OpenHAN(home area network)」を策定しています。策定の中心となったのは、カリフォルニア州の電力会社であるPG&E社やサザン・カリフォルニア・エジソン社(SCE)のほか、American Electric Power社やDetroit Edison社などアメリカの大手電力会社です。OpenHANは,さまざまなネットワーク技術を物理層として利用できます。その上で家庭内の設備系機器を制御するアプリケーション・ソフトウェアを実行するAPIを規定しています。
特に、カリフォルニア州の電力会社は、スマートメーターの設置で先行しています。カリフォルニア州北部を営業拠点とするPG&Eが最も先行しており、30億1000万ドルドルを投じて11年までに1000万個のスマートメーターを設置する計画を推進しています。同州南部を拠点とする米電力大手SCE社が3位で、09年から12年までに530万個のスマートメーター設置を進めています。
 アメリカのスマートメーター最新動向に関するパールズアソシエイツ調査会社の報告書”Residential Energy Management :Company,Alliance&Technology Profiles”によると、アメリカでは08年で全メーターの10%に相当する1万3000台のスマートメーターが設置され、それとPC,PDA、携帯、iPOD 、カメラ、センサ、RFID、車、家電、医療機器、産業用機械、さらに灌漑施設までもがネットワークにつながる”Hyperconnectivity”が出現しようとしているとしています。

政府の新成長戦略・グリーンイノベーション政策の盲点(電力会社のビジネスモデル転換を促す政策)

2010-11-18 07:07:30 | Weblog
思えば、供給が一方的に需要に合わせるという従来の電力ネットワークの考え方は、需給双方に負担を強いるものとも言えます。地域独占を保証された供給側は、供給責任を果たすためにピーク需要に合わせて発電設備を保有しなければならず、必然的に設備の稼働率は下がり、コストは上昇せざるをえません。そうなると、需要側も低稼働率ゆえのコストアップを反映した高い電気料金を受け入れざるを得ないなります。これに比して、供給側のみならず需要側からの要請も入れた電力ネットワークであるスマートグリッドは、供給側と需要側の“ウィン・ウィン”の状況を産み出す可能性を切り開くものです。
このようなスマートグリッドによる“ウィン・ウィン”の状況は、電力会社が通信キャリアモデルで“蛙とび”(リープ・フロッグギング)をすれば可能となります。09年6月の米連邦エネルギー規制委員会(FERC)スタッフ報告書によると、19年に最大188ギガワット(GW)、20%の負荷平準が需要応答により実現することができると報告されていますが、通信キャリアの世界では、通信時間、通信距離、通信計画に基づいた通信レートにより料金体系を設定しており、分単位で料金設定を変えた料金体系を設定するという「リアルタイム・プライシング」(Real Time Pricing)は当たり前のことです。 
この考え方をスマートグリッドの需要応答 により実現すれば、電力会社は収益を向上させることができます。このことは、すでに通信キャリアが実践して証明して見せたところであり、電力会社は儲かるビジネスモデルへと容易に“蛙とび”できるのです。この効果については、アメリカの場合では、ユーザが払う電気料金の低廉化のみならず電力会社のインフラコストがキロワットアワー当たり25~45セント節約されると試算されています。
 現状では、アメリカの電力会社の多くは固定料金制のみをユーザに提供しており、使用時間帯別の料金設定にはなっていません。しかし、アメリカでスマートメーターによる需要応答の効果を実証したものとして、米DOEの国立研究所であるPacific Northwest National Laboratoryが08年に行ったGridwise Olympic Peninsula Demonstration Projectがあります。これは、5分間隔のリアルタイム・プライシングによる効果をブロードバンド環境で実証したものです。実証の結果、ピーク電力を15~17%減少させ、平均的な家庭で15%電気料金が安くすることができるとことが明らかになりました。
 このようになれば、電力会社側にもよりスマートな電気の使い方を提案する新しいビジネスチャンスが生まれることになります。これらの結果として、省エネルギーやCO2削減を意識したライフスタイルが定着すれば、環境負荷の低減という社会としての課題解決にもつながります。また、それに対応した家電製品への需要が高まれば、新しい市場の開拓が進み、産業面から見ても大きな需要創出効果が望めることになるでしょう。このように、需要応答はユーザ、電力会社、経済、社会というすべてのステーク・ホルダーに対してメリットを提供しうる“ウィン・ウィン”の仕組みを提供するものなのです。
 ただし、スマートグリッドの進展は、短期的には電力会社の売り上げを減少させることも事実です。このため政府としては、電力会社の売り上げと利益を「ディカプリング」するための規制上のインセンティブ、設備投資に対する減価償却の特例などの措置を講ずる必要があります。この場合、キロワットアワー当たりだけではなく、キロワット当たりでインセンティブを付与する方式をとると促進効果が高まります。

「スマートグリッド革命」(シリーズ;シスコシステムズの戦略)

2010-11-17 05:32:24 | Weblog
シスコシステムズはオールIPネットワークのスマートグリッド戦略を展開しています。09年5月シスコシステムズが発表した『Cisco Smart Grid Solutions』によると、シスコの戦略は、①送電・配電の自動化(Transmission & Distribution Automation)、②スマートグリッドのセキュリティ確保(Smart Grid Security)、③スマートメーター・最終端末通信(Smart Meter & Endpoint Communication)、④事業所・家庭エネルギーマネージメント(Business & Home Energy Management)の4つで構成されています。これは、簡単に言えば、送電線網全体のコミュニケーションを実現するIPインフラの構築支援と言えます。すなわち、家屋に設置する高機能なメーター、伝送用ルーティング機器、そして送電線網自体の管理や監視を支えるソフトウェアの展開をIPベースで行おうというものです。このSmart Grid Solutions での戦略は、09年1月に発表されたCisco のネットワークの電力管理プログラム『Cisco EnergyWise』を発展させたものです。 
このためシスコは、ドイツの電力会社Yello Stormと共同で、70の家庭とオフィスビルを対象にしたオールIP実証実験を行いました。これにより、オフピークの最適制御、10%以上のエネルギー消費の削減などを期待しています。エネルギー分野におけるオールIPネットワークとしては、初めての試みとして注目されます。
電力会社との関係では、フロリダ電力会社の2億ドルの事業規模の「エネジースマート・マイアミ」(Energy Smart Miami)において、GEがスマートメーターを、シルバー・スプリング・ネットワークが無線通信のサービスを、シスコがネットワーキングを提供しています。これはシスコにとってはじめてのスマートグリッ関連プロジェクトです。さらにシスコは、より大きなスマートグリッ関連プロジェクトとしてデュークエネジーとのプロジェクトに取り組んでいます。これは10億ドルかけてデュークエネジーがスマートメーター、AMIを整備するものです。デュークエネジーは、過去5年にプラグインハイブリッド車とマイクログリッドなどの実証事業に取り組んできていますが、AMIのパートナー選定には慎重な姿勢をとってきました。そのデュークエネジーがシスコをパートナーに選定したことは、他の電力会社もその方向に動く可能性が大きいと専門家は分析しています。シスコは、この分野において、現在AMI事業のリーダー企業であるシルバー・スプリング・ネットワークと競争していくことになります。
09年9月17日、シスコはそのスマートグリッド基本戦略の体系化のメニューを公表しました。それによると、次の4本柱となっています。
① Cisco Smart Grid Ecosystemの形成:IPベースの通信方式の標準化とその拡大を図るため、コンソーシアムを結成。第1次としてArcadian Networks,Capgemini,Infosys,ITron,Ladis+Gyr,Secure Logix,Verizon,Wipro,Worldwide Technologiesの各社を結集しています。
② Cisco Smart Grid Techical Advisory Board:世界中の革新的な電力会社やエネルギー顧客を集め、顧客からCisco が提供すべき製品やサービスに対するフィードバックを受ける。
③ セキュリティサービスやソリューションの提供:新しいセキュリティ関係のサービスやソリューション群を提供します。
④ 互換性とIPベースの通信標識の標準化:シスコの最優先課題です。このためにZigbee Alliance参加し、Zigbee Smart Energy Profile 20の技術と製品を市場に供給しています。
アメリカの専門家の間では、シスコの参入は、「MicrosoftのWindows95やAppleのiPhone登場に相当するものだ」とか、「情報通信のWeb2.0や Telecom 2.0ように、次世代巨大インフラ(next vast infrastracture)であるスマートグリッドや新たな電力経済(electricity economy)の扉を開くものだ」という評価がなされています。

政府の新成長戦略・グリーンイノベーション政策の盲点(企業の「リナックス型経営」促進が必要)

2010-11-16 06:50:48 | Weblog
今後世界的に進展するグリーンイノベーションの展開および日本のポジションは、「技術」×「戦略」×「政策」で決まります。このうち「技術」に関しては、日本の優位性はかなりあると考えてよいと思いますが(ただ、韓国、中国等の追い上げのスピード早く、油断は禁物です)、むしろ、今後のポイントは「戦略」と「政策」にあります。この両者でいかにダイナミックな、かつ、グローバルな対応ができるかによって勝負が決まります。
 このうち「戦略」での対応を考える際重要なのは、「スマートグリッドの進化モデル」(こちらをご覧ください)を念頭に置くことです。今、スマートグリッドはA象限からB象限またはA象限からC象限へと進もうとしていますが、B象限やC象限はスマートグリッドが最終的に行き着く先ではありません。最終的な行き着き先はD象限であり、そこでの「スマートグリット革命」のパラダイムは、誰でもエネルギーを作れる=誰でも新しいビジネスを起こせるという「You Energy」パララダイムです。日本企業の「戦略」形成で重要なことは、D象限へのショートカット路線です。
「You Energy」パララダイムの下では、自社技術を特許等で守り、モノづくり、モノうりで収益を稼ぐという昔ながらのビジネスモデルを継続させることは、自社技術は守れたとしても他社が新たな技術を投入して市場を席巻すれば、自社技術はたちまち時代遅れになってしまいます。このことは、いち早く破壊的イノベーションに直面した電子機器やテレビの分野において、EMS(Electronics Manufacturing Service)形態をとる中国などの企業が日本のモノづくり、モノ売りを駆逐していることからもうかがい知ることができます。「スマートグリッド革命」が進展する時代においては、従来型のビジネスモデルでは、早晩韓国、中国などに競争上の優位性を奪われます。
これからは、経営のスピードを上げ、仲間をつくり、その中から競争優位性を形成するという「Linux型」経営が基本となります。たとえば、電子機器の世界でもJVC・ケンウッドは、中国のEMSを巻き込んでM-LinXという新しいサービスを提供するシステムを世界に供給しようとしています。M-LinXにより、インターネット網を活用してFM・AMラジオ放送と同じ音声を受信できるというサービスで、ネットを利用することで、電波障害などが起こらず、難聴取地域でもクリアなラジオ放送を聴けるようになります。音声とは別に画像などの付加データを受信できる技術仕様も開発中で、動画、静止画、文字情報などの情報を追加することが可能となります。
 提携先の海外のメーカーから中国のEMSに対して、M-LinXなどの多様なサービスを利用することができるBlue-ray Discレコーダー、HDD、デジタルハイビジョンチューナー、FM・AMチューナー、デジタルアンプを1台に集約したホームAVC機器であるRYOMAの生産をアウトソーシングさせ、「JVC・ケンウッド*海外メーカー*中国EMS」のビジネスネットワークにより、製品を売るだけではなく特許料収入を継続的に獲得しようというビジネスモデルの根本的転換がここにあります。

政府の新成長戦略・グリーンイノベーション政策の盲点(企業のオープン・イノベーション促進が必要)

2010-11-15 00:04:43 | Weblog
前回指摘したD象限へのショートカット路線(こちらをご覧ください)の下では、企業は「選択と集中」を行うことが必要となります。ただ、絞り込みすぎると、まだ初期段階にある有望なプロジェクトの芽を摘んでしまいかねないという問題があります。このような問題を解決する上で重要な役割を果たすのが「オープン・イノベーション」です。企業の境界という伝統的な障害を取り除くことで、知識、アイデア、人材が企業内外を自由に行き来することになります。
「オープン・イノベーション」には、アウトサイド・イン型オープン・イノベーションとインサイド・アウト型オープン・イノベーションがあります。アウトサイド・イン型オープン・イノベーションとは、研究開発、マーケティングなどの活動について企業外の資源とネットワークを作り、それを内部の資源に注入というタイプのものですが、最近においては、アウトサイド・イン型オープン・イノベーションの過程に自社の主要ユーザを参加させる企業が増えてきています。そこでは、ネット検索やツイッターなどのツールが活用されて企業のあり方そのものを変えようとしており、民主化するオープン・イノベーションによる「エンタープライズ2.0」と呼ばれています。
また、インサイド・アウト型オープン・イノベーションは、企業の資産やプロジェクトの一部を企業の壁を越えて外部化するタイプのもので、パラダイムが大きく転換する時期には非常に有効です。たとえば、10億ドル規模の新規事業を発掘するためにシスコシステムズが07年に行った「I-Prize」というイノベーションの公開コンテストでは、製品・サービスの開発において、インターネットを介して世界中の人々からアイデアを集める「クラウドソーシング」という手法をとり、最終的に作業を委託しました。その過程で、世界104カ国から2500人以上の応募があり、約1200件のユニークなアイデアが寄せられ、シスコシステムズとしては、世界各地の人々がシスコについてどのように考え、シスコが追求すべき市場はどこかを理解することができたといいます。最優秀賞に選ばれたのは、センサを利用したスマートグリッドでした。

政府の新成長戦略・グリーンイノベーション政策の盲点(企業の「リナックス型経営」促進が必要)

2010-11-14 00:31:26 | Weblog
今後世界的に進展するグリーンイノベーションの展開および日本のポジションは、「技術」×「戦略」×「政策」で決まります。このうち「技術」に関しては、日本の優位性はかなりあると考えてよいと思いますが(ただ、韓国、中国等の追い上げのスピード早く、油断は禁物です)、むしろ、今後のポイントは「戦略」と「政策」にあります。この両者でいかにダイナミックな、かつ、グローバルな対応ができるかによって勝負が決まります。
 このうち「戦略」での対応を考える際重要なのは、「スマートグリッドの進化モデル」(こちらをご覧ください)を念頭に置くことです。今、スマートグリッドはA象限からB象限またはA象限からC象限へと進もうとしていますが、B象限やC象限はスマートグリッドが最終的に行き着く先ではありません。最終的な行き着き先はD象限であり、そこでの「スマートグリット革命」のパラダイムは、誰でもエネルギーを作れる=誰でも新しいビジネスを起こせるという「You Energy」パララダイムです。日本企業の「戦略」形成で重要なことは、D象限へのショートカット路線です。
「You Energy」パララダイムの下では、自社技術を特許等で守り、モノづくり、モノうりで収益を稼ぐという昔ながらのビジネスモデルを継続させることは、自社技術は守れたとしても他社が新たな技術を投入して市場を席巻すれば、自社技術はたちまち時代遅れになってしまいます。このことは、いち早く破壊的イノベーションに直面した電子機器やテレビの分野において、EMS(Electronics Manufacturing Service)形態をとる中国などの企業が日本のモノづくり、モノ売りを駆逐していることからもうかがい知ることができます。「スマートグリッド革命」が進展する時代においては、従来型のビジネスモデルでは、早晩韓国、中国などに競争上の優位性を奪われます。
これからは、経営のスピードを上げ、仲間をつくり、その中から競争優位性を形成するという「Linux型」経営が基本となります。たとえば、電子機器の世界でもJVC・ケンウッドは、中国のEMSを巻き込んでM-LinXという新しいサービスを提供するシステムを世界に供給しようとしています。M-LinXにより、インターネット網を活用してFM・AMラジオ放送と同じ音声を受信できるというサービスで、ネットを利用することで、電波障害などが起こらず、難聴取地域でもクリアなラジオ放送を聴けるようになります。音声とは別に画像などの付加データを受信できる技術仕様も開発中で、動画、静止画、文字情報などの情報を追加することが可能となります。
 提携先の海外のメーカーから中国のEMSに対して、M-LinXなどの多様なサービスを利用することができるBlue-ray Discレコーダー、HDD、デジタルハイビジョンチューナー、FM・AMチューナー、デジタルアンプを1台に集約したホームAVC機器であるRYOMAの生産をアウトソーシングさせ、「JVC・ケンウッド*海外メーカー*中国EMS」のビジネスネットワークにより、製品を売るだけではなく特許料収入を継続的に獲得しようというビジネスモデルの根本的転換がここにあります。

「スマートグリッド革命」(シリーズ;マイクロソフトのスマートグリッド戦略)

2010-11-13 07:01:16 | Weblog
Google Power Meterに対抗してマイクロソフトは、09年6月家庭のエネルギー管理ビジネスに無料のウェブアプリケーションHohmで参入することを発表しました。Hohmは、消費者に電気と天然ガスを節約する方法を提供するために設計されたアプリケーションです。
この動きは、家庭のエネルギー管理を大きく変えることになります。このビジネスには、すでに数多くの新興企業や、Google、Cisco Systems、VerizonといったIT業界の有力企業が参入を始めていますが、マイクロソフトの特徴は、HohmをオンラインOS「Windows Azure」と検索エンジン「Bing」上で稼働するクラウドコンピューティングアプリケーションとして設計したことです。これにより、ユーザはバックエンドのデータ分析を利用して、より自分にあったアドバイスを受けられるようになります。マイクロソフトによれば、Hohmで提供されるアドバイスは、米エネルギー省およびローレンスバークレー国立研究所からライセンスを受け、何年分ものデータを用いて開発されたモデルに基づいているということです。
もう1つ他社と異なっているのは、マイクロソフトがソフトウェア開発キット(SDK)を電力会社が利用できるように計画していることです。このSDKは10年2月より供給が開始されており、顧客の請求情報を自動的にHohmに取り込むことができます。マイクロソフトは、初めのうち、ほとんどのユーザはデータを手作業で入力する必要があるものの、今後多くのユーティリティ企業がこのサービスを提供するようになると考えています。また、09年9月15日、マイクロソフトは電気自動車向け電池の交換サービスを手がけるベタープレイスやインテルとともに、充電システムの開発を明らかにしました。
以上のようにHAN&V2Gの世界には、IT大企業が続々参入してGooglePower Meter、Microsoft Hohmなどのサービスが提供されようとしていますが、これに対抗するスタートアップ企業が出現してきました。ニューヨークに本社を置くEfficiency 2.0がそれで、ユーザに関するあらゆる情報を収集、分析してエネルギーマネージメントを行う高度なアルゴリズムで、GooglePower MeterやMicrosoft Hohmなどに対抗しようとしています。

「スマートグリッド革命」(シリーズ;オンデマンド電力ネットワーク)

2010-11-12 00:27:06 | Weblog
「スマートグリッド革命」の実現に関し、京都大学の松山隆司教授は「オンデマンド電力ネットワーク」構想というユニークなコンセプトを提唱し、実証しています。このコンセプトは、供給者主体の“プッシュ型”の電力ネットワークをユーザ、消費者主導型の“プル型”に180度切り替えようというものです。今の電力ネットワークにおける電力需給モデルでは、電力会社にすべての需要に対して安定的な電力を供給することを義務付けています。これでは、本当に必要なもの以上の電力容量を社会全体として持たなければならなくなり、エネルギーのロス、無駄なCO2の排出が起こります。
松山教授の発想は、まず需要端で自律分散のユニットを作り、本当に必要な需要に対応した電力を供給するというシステムに転換することにより、エネルギーのロス、無駄なCO2の排出を排除すつとともに、利用者の決定権の拡大を図ろうようというものです。D象限での「You Energy」へのパラダイムシフトの典型です。
具体的には、ユーザがスイッチを入れると自動的に電気が流れてくるのではなく、まず、これだけの電力がほしいというパケットを飛ばします。システム上位置づけられた電力マネージャーが個々の家庭、家電機器からのオンデマンドの要求を受けて、その要求にどう対応するかを検討し、その後電力を提供するという仕組みです。この構想では「オンデマンドの要求→マネージャーとの交渉→給電」という手順で電気が供給されますが、見方を変えると、給電されるごとの電力が仮想的にパケット化されているととらえることもできます。
オンデマンド型にすることによる最大の変化は、需要サイドから省エネ、CO2排出削減ができるようになることです。たとえば、利用者があらかじめ電気料金を20%カットするという指示をホーム・サーバにセットすると、20%カットした電力しか流さないという利用者主体の取組みが可能になり、技術的な対応だけによる対応を超えて省エネ、CO2排出削減ができるようになります。生活の質を確保しつつ電量消費をどこまで削減できるかが重要で、そのため、生活パターンの正確な学習とそれに基づいた電力制御方式を使います。
また、「オンデマンド電力ネットワーク」システムの下では、再生可能エネルギーによるグリーン電力と化石燃料によるダーティ電力を仮想的に識別することができるようになりますので(=「電力の色づけ(カラーリング)」)、割高なグリーン電力にプラスのプレミアムを付け、他方、割安なダーティ電力からマイナスのプレミアムを徴収することにより、グリーン電力とダーティ電力の価格の平準化を図ることができるようになります。また、ユーザが再生可能エネルギー由来の電力のみを買いたいという希望を有するときに、それを可能にするという「電力の買い分け」もできるようになります。
20年までに「90年比25%減」という中期目標や50年までに「90年比80%減」という長期目標については、供給サイドから物事を見ていてはなかなか解を見出すことはできません。発想の視点を供給サイドから需要サイドに移せは、「コロンブスの卵」のごとくその実現を図ることができるようになります。そして、長距離送電をしないことによる送電ロスの節減、電力供給の平準化等に伴うCO2排出削減を実現でき、省エネ、CO2排出削減と生活の質の確保水準の両立させる道を開くことも可能となります。

政府の新成長戦略・グリーンイノベーション政策の盲点(フリー・ビジネスモデルへの着眼が必要)

2010-11-11 07:09:52 | Weblog
スマートグリッド革命による「You Energy」へのパラダイムシフトの下では、消費者はピーク時に商用電力系統から自家用発電に切り替えて料金を軽減できます。また、電力会社に売電したり、相互に融通したりできます。インターネットでのデジタル信号(京都大学の松山教授の「オンデマンド電力ネットワーク構想」)や電気自体に埋め込まれたデジタル信号(東京大学の阿部特任教授の「デジタルグリッド構想」)を通して、分散型電源システムが価格をリアルタイムでモニターできるようになるでしょう。
今後は、エンドユーザが生む出す電力を「エネルギーウェブ」を介して集めた「ヴァーチャル発電所」の電力が、電力会社が集中型の大規模発電所で発電する電力と併存するようになるでしょう。そうなれば、インターネットにより出現したデジタル経済のように、電力の生産と流通に革命が起こります。そこではが真の「プロシューマー」(生産消費者)が出現します。
インターネットにより出現したデジタル経済は、「フリー・ビジネスモデル」という新たなビジネスモデルを産み出しています。「フリー・ビジネスモデル」とは、顧客に無料で商品・サービスを提供する一方、そのことで得られる信用力などを有効に活用して、別ルートで大きな収益を得るビジネスの仕組みのことを言います。クリス・アンダーソンが09年に出版した『フリー <無料>からお金を生み出す新戦略』(“Free:The Future of a Radical Price”)で提示した考え方で、現在大きな反響を呼んでいます。
その典型は、グーグルのビジネスモデルが、Gメールなど50以上の製品を無料で提供してユーザから圧倒的な支持を勝ち取り、無料で提供されるサービスに付随する「Googleアドワーズ」(検索連動型広告)や「Googleアドセンス」(コンテンツ連動型広告)などで会社全体の収益の97%を稼ぐというものです。その底流に流れているのは、デジタル化によって価格がゼロにまで引き下げられて新たに潤沢になったものを浪費して、大量の顧客、巨大な市場にリーチするとともに、他方、希少になったものを押さえて収益率を高めるという発想の転換です。「You Tube」は、「フリー・ビジネスモデル」の前者の側面を象徴しています。
クリス・アンダーソンは、「非貨幣経済で得た信用をどうすれば貨幣に交換できるか、それが21世紀の主戦場だ」と言っています。「You Tubeのエネルギー版」と言える「You Energy」のパラダイムは、さらに、貨幣経済のみならず非貨幣経済をも包摂した経済を出現させるものです。「第3の波」の考え方を提唱したアルビン・トフラーは、『富の未来』において、貨幣経済と非貨幣経済の2つのシステムが相互に影響しあいながら新たな富を作り出し、「プロシューマー」(生産消費者)への報酬として代替貨幣が流通するという世界観を提示しています。「You Energy」のパラダイムの下では、このトフラーの世界観が現実化します。そこでは、既存のビジネスモデルは苦戦を強いられ、ラディカルなビジネスモデルが創造され、エコポイントやエコマネーが取引の媒体となることは間違いないと考えられます。

TPP参加の是非に関する「第3の本質的視点」を提示する

2010-11-10 00:42:07 | Weblog
TPP(環太平洋経済連携協定)への参加の是非について賛否両論が戦わされていますが、ここでは、誰も指摘していない本質的な問題を論じてみたいと思います。結論から先に言うと、「TPPは日本経済回生の必要条件ではあるが、十分条件ではない」ということです。6日の読売新聞朝刊「論点」のコーナーで、早稲田大学の浦田教授が「TPP不参加 大きな損失」という論陣を展開していますが、TPPに参加しなければ日本経済や日本企業の競争力がかなり低下し、輸出市場を失って大きな損失が出るとなることは理解できます。FTAやEPAにおいて韓国などに比して完全に出遅れた日本として、危機感を持っていることも理解できます。そのような観点からはTPPの参加は必要ですが、TPPへの参加それ自体では日本経済の活性化にはつながらず、参加と同時に日本経済の回生につながる十分条件を整備しなければなりません。
この結論は、次のように考えると納得していただけると思います。
TPPに参加してアジアや環太平洋諸国の成長力の活用、それらの諸国への輸出の拡大を行うことは、確かに輸出による売り上げ増にはなります。しかし、95年以来生産年齢人口の減少、就業少数の減少、消費の構造的な減退という問題を抱えている日本経済の問題は、輸出による売り上げにより外貨を稼ぐこと自体ではなく、稼いだ外貨を国内で回すようにすることです。その「回路」が壊れたままでの戦略の展開は、04年から07年の好況が結果として日本経済を活性化しなかったことの二の舞となります。
特に、この10年から15年までの5年間で「団塊の世代」600万人が65歳を超えるという状況の下では、5年以内に国内貯蓄率の低下、現在2%台の国内貯蓄率のゼロ化が起こる危険性があります。ISバランス論からすると、現在の日本の経常収支の黒字は、家計部門の黒字と企業部門の黒字が政府部門の赤字を補って余りあるからこそ実現されているものですが、家計の貯蓄率がゼロになるということは、企業部門の黒字が政府部門の赤字を補えない限り、日本の経常収支は赤字になることを意味します。この経常収支の赤字はどのようにファイナンスするのでしょうか。
また、家計の貯蓄率がゼロになるということは、家計の貯蓄を預かっている国内金融機関が国債を買えなくなることを意味します。そうすると起こるのは国債市場の暴落です。国債市場が暴落すれば、株式市場や為替市場も暴落することは必至です。回避する手段としては、世界最大の資金余剰国である中国に日本の国債を買ってもらうか、日銀が直接あるいは何らかの形で間接に国債を大量に購入して買い支えることですが、前者に関しては中国に日本経済の決定権をゆだねるという危険性があり、後者については円に対する国民の信任がなくなり、ハイパーインフレーションを引き起こすという危険があります。「団塊の世代」600万人が65歳を超えることは、こうした大きなインパクトを日本経済に与えるもので、この問題の解決に手をこまねいていては、TPPに参加してより多くの外貨を獲得しても、日本経済は死を迎えることになります。
04年から07年の好況では、日本経済は、世界経済のかつてない拡大と円安の進行という“幸運”に恵まれました。しかし、外需主導、輸出による売り上げ増を国内の成長に結び付けることはできませんでした。日本企業は「コスト削減の罠」にはまり、株主圧力の増大、新興国の台頭、資源・食料価格の急騰の下で、人件費の削減によりコストアップを吸収しようとひたすら努力しました。これは、90年代末から03年までのデフレ期に起こった供給過剰体質が残っていたため、各企業は販売価格の引き上げが売り上げの減少につながることを恐れたためです。
このときの日本経済においては、大企業において非正規雇用の増大とともに、成果主義の導入を広範に進めました。しかし、日本の大企業が進めたのは、本当の成果主義ではなく、成果主義の名の下に一部の人を早く昇進させる一方、多くの人材の昇進を遅らせることで全体の人件費抑制を図るというものでした。その結果、人件費抑制のため若年層での非正規雇用が増大し、若年層から中高年層への所得移転が起こるとともに、将来を担う世代の能力育成にマイナスに作用しました。また、賃金が抑制のため家計の低価格志向が強まり、ますます販売価格の引き上げが困難となりました。
この時期の象徴的な出来事は、「春闘の終焉」です。春闘は90年代末以降形骸化が進みましたが 特に01年以降は、ベア統一要求が断念され春闘が持っていた賃金底上げ機能が名実ともに崩壊しました。こうして賃金の下方硬直性の仕組みが次々と解体される一方、逆に、賃金の上方硬直性ともいうべき状況が生まれ、労働分配率が低下しました。低すぎる労働分配率は、需要サイドでは、消費の低迷を招くことになりました。さらに、企業は資本をゼロ・コストで調達していることになることから、過剰投資につながりやすくなるという体質がさらに助長されました。また、供給サイドでは、人材投資の不足や労働者のモチベーションの低下が起こったのです。
今の日本には、日本企業の優れた技術力のおかげで国債となっている分を除いても400~500兆円の個人金融資産が蓄積されています。また、毎年十数兆円の金利配当も流入している状況です。この状況の下で必要なのは、外需や輸出だけに目を向けるのではなく、バランスの取れた行動、つまり生産年齢人口の減少が引き起こす消費の減退という問題を直視し、民生部門において需要を喚起するとともに、消費を直接増加させるための対応です。
10月に日銀が発表した量的緩和策は、円高デフレに対するカンフル剤としての効果はありますが、日本経済が再びデフレに落ち込んだ原因である需給ギャップの拡大という実体経済上の問題に対応した解決策ではないため、マクロ経済政策としての効果はほとんどないものと考えられます。むしろ、企業にとっては資金調達コストが極めて低くなり、事業の収益向上へのインセンティブが働かなくなるという”副作用”により、日本経済を蝕む悪性の腫瘍を増殖させることになりかねません。
この対応の間で、同時並行的に前述した「回路」を回復する対応が必要となります。そのため、最低賃金の引き上げや正規・非正規の処遇均衡を誘導すること(就業形態に関わらず、就いている職務に応じて賃金が決まる仕組み)により所得増を実現することが必要です。また、医療、介護、保育、教育、雇用サービスを充実させることで国民の将来不安を払しょくして消費意欲を回復させ、上記で実現した所得増を需要増につなげることも必要となります。また、私が提唱している「家庭オフィスCDMとエコポイント」という仕組みを活用した消費の直接的な喚起策と民生部門の低炭素化の推進も必要です。むしろ、日本経済の回生の即効性という観点では、エコポイントの活用にアドバンテージがあります。
政府、エコノミストなどの覚醒を促したいと思います。