「放射能雲の通った地域にいた方々は、極力結婚しない方がいい」。内閣府所管の公益財団法人「日本生態系協会」の池谷奉文会長(70)が、こんな発言を講演でしていたことが分かり、物議を醸している。
発言があったのは、自治体議員ら65人が出席して東京都内で2012年7月9日に行われた日本生態系協会主催の講演の中だった。
「子どもの奇形発生率がドーンと上がる」
講演名は、「日本をリードする議員のための政策塾」。その録音内容によると、池谷奉文会長は、ロシアのチェルノブイリ原発事故を引き合いに出して、日本でも事故による内部被ばくがもっとも懸念されると強調した。そのうえで、こう述べた。
「放射能雲が通った、だから福島ばかりじゃございませんで、栃木だとか、埼玉、東京、神奈川あたり、だいたい2、3回通りましたよね、あそこにいた方々はこれから極力、結婚をしない方がいいだろうと。結婚をして子どもを産むとですね、奇形発生率がドーンと上がることになっておりましてですね、たいへんなことになるわけでございまして」
これに対し、講演に出席した福島市議4人が、議長らとともに、市議会の立場として8月29日に会見し、「不適切な差別発言であり、容認できない」と発言の訂正・撤回を求めた。「福島の人とは結婚しない方がいい」と受け止められたという。地元紙「福島民報」では、科学的な根拠がないといった専門家の意見を紹介し、県民から怒りの声が出ていると報じている。所管の内閣府では、事実関係を調べているとしている。
ただ、ネット上では、池谷会長の発言に対し、賛否が分かれているようだ。
「これは酷い」「もはや、立派な差別発言」との疑問は多いが、一方で、「同じような思いの人は多い」「差別でなく警告だと思います」と一定の理解を示す声も相次いでいる。
日本生態系協会によると、30日夕までに電話などで来た4、50件の意見のほとんどが「とんでもない」「謝罪しろ」と批判的なものだった。
「差別発言ではまったくありません」
一方で、「よく言った」とする声も1、2件来ていたとした。
発言について、日本生態系協会の総務担当者は、協会が反原発の立場であるわけではなく、池谷奉文会長の私見を述べたものだと説明した。放射線の知識がある獣医として、池谷会長がチェルノブイリ事故の報告書などを調べる中で出てきた考え方だという。
池谷会長は、取材に対し、自らが反原発の立場であることを明確にしたうえで、発言についてこう説明する。
「議員の方から文書で指摘を受けましたが、差別発言ではまったくありません。もっと大きな問題を言っており、事故の重大性をきちっと認識する必要があるということです。26年前のチェルノブイリでは、奇形児が生まれたり、発がん率が上がったりしたことが現実にありました。日本の場合も、原発事故の後では環境が違っており、安易な考えで結婚することは危ないと言いたかったわけです。結婚するときは、十分に注意して下さいということですよ」
そして、「言ったことは間違っていない」とし、議員からの訂正・撤回要求については、「それに応じるというよりは、発言を真摯に受け止めてほしいということです」と言っている。
結婚への支障は見方が分かれる
ネット上では、福島県出身のため結婚に支障が出たとの報告も見られるが、実際のところ事故の影響は出ているのだろうか。
福島県内のある結婚相談所では、「福島の女性が県外の男性と結婚しようとしたところ、男性の父親にダメだと言われたという話は聞いたことがあります。福島の男性は特に、昨年あたりからお見合いが難しくなっているようです」と話す。池谷会長の発言については、「信憑性が低いのに、風評被害があったら困りますね」と漏らした。
別の相談所では、「県内のカップルは、考え方を共有しているので結婚に支障はないですね。県外の方とのケースについては、支障などは特に聞いていません」と言う。発言に対しては、「遺伝子の異常など分からないことを考えても仕方がないので、なるべく考えないようにしている人が多いようです。結婚のことが出ても、『またか』みたいな感じだと思います」と答えていた。