かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『泡宇宙の蛙』の一首鑑賞 128

2022-08-26 12:17:27 | 短歌の鑑賞
  2022年度版 2の17(2019年1月実施)
     Ⅱ【膨らみて浮け】『泡宇宙の蛙』(1999年)P85~
     参加者:泉真帆、M・I、K・O、岡東和子、A・K、T・S、
       曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:泉真帆   司会と記録:鹿取未放


128 暴力的にたんぽぽの絮吹き飛ばしサラリーマンははつかうつむく
 
       (レポート)
 暴力的に吹き飛ばすのがたんぽぽの絮なのだからなんだか切ない。そしてユーモラスだ。乙女のやわらかな息でさえ吹き飛ぶ絮を、暴力的に吹き飛ばしうつむく。「うつむく」の悲しみが切切とつたわる。(真帆)

(当日意見)
★誰にでも吹き飛ばせるたんぽぽの綿を吹き飛ばしているのを恥ずかしいことだとおもって
 いるのだろうなと思います。(岡東)
★初句の「暴力的に」はとても説明的なことばですが、それを敢えてもってこられたところ
 が印象的です。そのほかは共感を得やすいのですが、「暴力的に」の言葉遣いに技を感じ
 ます。他の言葉だったら平凡な一首になってしまいます。この一連はこれまで見てきたい
 わゆる渡辺節(ぶし)というものとは違う感じです。(K・O)
★126番(ひんやりとサラリーマンはひとを待つ雲見ては雲にすこしほほえみ)とこの歌
 は作り方が同じですよね。「ひんやりと」や「暴力的に」で短歌になった。(A・K)
★そうなんですが、126番は倒置ですね。「雲見ては雲にすこしほほえみひんやりとサラ
 リーマンはひとを待つ」。この128番歌は上から順番に詠まれている。対比は「暴力的
 に」と「はつか」ですね。よく計算されています。(K・O)

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グラフ入り 渡辺松男『泡宇宙の蛙』の一首鑑賞  127 

2022-08-25 12:25:29 | 短歌の鑑賞
  2022年度版 2の17(2019年1月実施)
     Ⅱ【膨らみて浮け】『泡宇宙の蛙』(1999年)P85~
     参加者:泉真帆、M・I、K・O、岡東和子、A・K、T・S、
       曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:泉真帆   司会と記録:鹿取未放




      登場する家族を名称毎にグラフにすると、こんなに複雑になる


   
   
   母も妣もママもおかあさんも「母」というように単純化するとこうなる
   ピンクが母で67%、ブルーが父で14%   



127 砂利粒のサラリーマンは砂利のなかがんばっていると妻にも言わず

      (レポート)
 サラリーマンは社会の歯車のひとつとよくいわれるが、一首では小さな砂利にすぎない自分と詠む。石ではなく砕けた砂利粒にすぎない自分がそれでもがんばっている、しかしそんな健気なことは妻には言わないのだ。照れくさいのか、男の矜持か。(真帆)


     (当日意見)
★サラリーマンの位置づけのようなものがよく出ていると思います。がんばってるんだけ
 ど、奥さんにはそんなことは言わない。照れくさいのでしょうか、空元気なのでしょう
 か、妻の立場としてはいろいろ考えさせられます。(岡東)
★砂利粒のざらざらとした音感がこの歌によく合っていると思います。(慧子)
★砂利粒のようなサラリーマンというのは誰でも持っている感覚で、いい歌とは思わない。
 天下の渡辺さんに対して申し訳ないけど、渡辺さんがわざわざ作る必要はない歌だと思
 う。(A・K)
★自分を砂とか岩に例える歌はたくさんあるけど、砂利というのは砂より少し大きい。その
 砂利に例えられたのは非凡だと思います。砂利の微妙な隙間感とか、砂だと区別が付かな
 いけど砂利だと見分けが付くというか、そこが非凡です、松男さんだから発見できた。下
 の句は平凡だし考えどころだけれど、上の句を目立たせる為には仕方がないのかなあと
 か。(K・O)
★私はだいたいA・Kさんの意見と同じだったので、K・Oさんの意見を、ああそういう読
 み方もあるのかと驚いて聞きました。ところで、「妻にも」ってあるのですが、「にも」
 って何でしょう?勢いですか。妻以外にそんなことをいう対象って無いと思うのですが。
 親や子供に言うわけもないし、まして同僚になんか言わないし。でも、出世競争の中で、
 トップに立とうとは思わないまでも周囲には負けたくないという思いはある、それで頑張
 っている、そういう自分に含羞を感じているのでしょう。私がこの歌を読んでいちばんび
 っくりしたのは「妻」という言葉で、この言葉は第一歌集にもほとんど出てこない。(2
 002年に、誰を対象にうたっているのか円グラフで描いたことがあるので、それを探し
 てみます。余談ですけど、松男さん対象の評論にこのグラフを付 けたら、こんなのは要
 らないって、小高賢さんにつっかえされましたが(笑)(鹿取)

   ※トップに挙げたグラフはその時の一部です。
    煩雑になるので、グラフは後日まとめてブログにアップすることにします。

        (後日意見)
『泡宇宙の蛙』でも妻をうたった歌はこの1首だけかもしれない。ただし既に鑑賞した「少し哲学」の一連では7首中6首に「配偶者」という語が使われている。 
 妻が読まれなかったのは、身近過ぎたからだろうか?後年、妻が病気になり、介護し、亡くなられた後にはたくさんの妻の歌が詠まれることになるのだけれど。
 ただし、渡辺松男の家族詠はいわゆる事実に即した家族詠とは微妙に異なるので、全てが実在の家族を反映したものではないようなので、その点はお断りしておく。(鹿取)

 
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渡辺松男『泡宇宙の蛙』の一首鑑賞 126

2022-08-24 13:40:12 | 短歌の鑑賞
  2022年度版 2の17(2019年1月実施)
     Ⅱ【膨らみて浮け】『泡宇宙の蛙』(1999年)P85~
     参加者:泉真帆、M・I、K・O、岡東和子、A・K、T・S、
       曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:泉真帆   司会と記録:鹿取未放


126 ひんやりとサラリーマンはひとを待つ雲見ては雲にすこしほほえみ

       (レポート)
 お題がサラリーマンの題詠のように、この一連はサラリーマンの歌群になっている。ひんやりと待つさまが第四句の「雲見ては雲に」につながり、長い時間ぽつんとそこにいてあれこれ眺めながら人を待つ姿がよく伝わってくる歌だ。(真帆)


     (当日意見)
★頭に「ひんやりと」を持ってきたのがとてもいいと思います。下の句にどう繋がるかはよ
 くわからないのですが、感性で持ってきたのでしょうか?(慧子)
★雲と繋がっているのでしょう。雲って雨粒の塊ですから、ひんやりしているのでしょう
 ね。でも確かに「ひんやりと」でこの歌は詩になったと思います。(鹿取)
★サラリーマンが人を待つ場面って、人間としての発展があまりない場合が多い。そういう
 心象が「ひんやりと」になっている。また「ひんやりと」のヒと「ひと」のヒの音の響き
 合いとかひらがな表記も柔らかくていい感じです。(K・O)
★「サラリーマンはひんやりと」ではなく、「ひんやりとサラリーマンは」と「ひんやり
 と」を初句に持ってこられたのが素晴らしい。文法上はこの「ひんやりと」は「待つ」に
 掛かっているのだと思います。「ひんやりと」にサラリーマンの人間関係の在りようがよ
 く出ています。「さびしい」と言ったら駄目だし、「楽しい」と言ったらもっと駄目だ
 し。「雲見て」もいいし、「ほほえみ」も効いていますね。「ほほえみ」って難しいの
 で短歌には少ないですよね。(A・K)
★坂井修一さんは「ほほゑむ」をよく使われます。川漄利雄さんの雑誌に頼まれて坂井さん
 の歌集『アメリカ』の評を書いたことがありますが、その題が「ほほえむ博士」でした。
 坂井さんはそれほど「ほほゑむ」の使用頻度が多いです。この松男さんの歌については皆
 さんがおっしゃった通り「ひんやりと」がとても活きているし、「ほほえみ」もいいと思
 います。サラリーマンという〈われ〉の在りようを羞恥をもって、でも肯定しているとい
 うそんな気分かなあと思います。前回の「樹上会議」一連とはまた角度を変えた「サラリ
 ーマン」「働く」ということへの考察ですね。ここで待つ人は恋人でもいいかなと思いま
 すが、それは各人の読みでいいのでしょう。(鹿取)


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渡辺松男『泡宇宙の蛙』の一首鑑賞 125

2022-08-23 13:42:28 | 短歌の鑑賞
  2022年度版 渡辺松男研究2の16(2018年11月実施)
    【樹上会議】『泡宇宙の蛙』(1999年)P80~
     参加者:泉真帆、岡東和子、A・K、T・S、曽我亮子、
         渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:泉真帆   司会と記録:鹿取未放


125 ラジオたんぱで山岳情報聞きていしメボソムシクイ年休をとる

      (レポート)
 当歌集『泡宇宙の蛙』出版当時は現在のようなインターネットの普及がまだなく、山岳の気象情報は、NHKラジオ第二放送の「気象通報」か、ラジオたんぱ(現ラジオNIKKEI)の「高層気象放送」から得ていたという。山岳ではAM放送より短波放送の方が受信も安定しているのだそう。ラジオたんぱにはかつて山岳教室といった番組もあり気象情報のほかに登山に役立つ番組もあったようだ。
 一首をみてみよう。メボソムシクイは四国以北の高山の林に飛来する全長13センチほどの鳥で、チョリチョチョとやや濁った声を繰り返す(さえずり)鳥だという(日本野鳥の会のホームページより)。樹上会議のメンバーにメボソムシクイもいたのだ。メボソムシクイはラジオたんぱの山岳情報を聞いていてむくむくとその山へ飛んで行きたくなり、年次有給休暇(年休)を取ったのだという。はて、どこの山へゆくのだろう。(真帆)


        (当日意見)
★ラジオを聞いていたのはメボソムシクイですね。(A・K)
★メボソムシクイは樹上会議の一員であり、作者の自画像ののでしょう。ラジオたんぱを聞
 いていたら興味をかき立てられて、むしょうに山に行きたくなって年休を取った、そんな
 楽しい歌。ネットで見るとメボソムシクイはかわいい鳥ですね。(鹿取)
★この辺りの下の句はいいですね。「メボソムシクイ年休をとる」、「虫がこんなにはっき
 り見える」、「羽毛ほど吾はかるくなりたり」みんな端的で詩情があって。(A・K)

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渡辺松男『泡宇宙の蛙』の一首鑑賞 124

2022-08-22 13:52:14 | 短歌の鑑賞
  2022年度版 渡辺松男研究2の16(2018年11月実施)
    【樹上会議】『泡宇宙の蛙』(1999年)P80~
     参加者:泉真帆、岡東和子、A・K、T・S、曽我亮子、
         渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:泉真帆   司会と記録:鹿取未放


124 鳥の目を獲得をしてしまいたり虫がこんなにはっきり見える

       (レポート)
 鳥のように高所から全体を見渡すことを鳥瞰というが、実際鳥の視力は人間の六倍もあるのだとか。物がはっきり見えると説明的に詠まず、「虫」と一語の具体を出したところで鳥と虫との距離感も読者に手渡されリアルな一首となったのではないか。私も鳥になれたようで読んでいて楽しかった。(真帆)


      (当日意見)
★「鳥の目を獲得を」の「を」二つはどうなんでしょうか。(真帆)
★そう言われてみると二つめは無くてもいいような気もします。(T・S)
★自分でも驚いている感じが二つめの「を」じゃないですか。まあ二つめがないと二句が六
 音になるてこともありますが。(鹿取)
★接写している感じですね。楽しい歌ですね。(A・K)
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