かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『泡宇宙の蛙』の一首鑑賞 126

2022-08-24 13:40:12 | 短歌の鑑賞
  2022年度版 2の17(2019年1月実施)
     Ⅱ【膨らみて浮け】『泡宇宙の蛙』(1999年)P85~
     参加者:泉真帆、M・I、K・O、岡東和子、A・K、T・S、
       曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:泉真帆   司会と記録:鹿取未放


126 ひんやりとサラリーマンはひとを待つ雲見ては雲にすこしほほえみ

       (レポート)
 お題がサラリーマンの題詠のように、この一連はサラリーマンの歌群になっている。ひんやりと待つさまが第四句の「雲見ては雲に」につながり、長い時間ぽつんとそこにいてあれこれ眺めながら人を待つ姿がよく伝わってくる歌だ。(真帆)


     (当日意見)
★頭に「ひんやりと」を持ってきたのがとてもいいと思います。下の句にどう繋がるかはよ
 くわからないのですが、感性で持ってきたのでしょうか?(慧子)
★雲と繋がっているのでしょう。雲って雨粒の塊ですから、ひんやりしているのでしょう
 ね。でも確かに「ひんやりと」でこの歌は詩になったと思います。(鹿取)
★サラリーマンが人を待つ場面って、人間としての発展があまりない場合が多い。そういう
 心象が「ひんやりと」になっている。また「ひんやりと」のヒと「ひと」のヒの音の響き
 合いとかひらがな表記も柔らかくていい感じです。(K・O)
★「サラリーマンはひんやりと」ではなく、「ひんやりとサラリーマンは」と「ひんやり
 と」を初句に持ってこられたのが素晴らしい。文法上はこの「ひんやりと」は「待つ」に
 掛かっているのだと思います。「ひんやりと」にサラリーマンの人間関係の在りようがよ
 く出ています。「さびしい」と言ったら駄目だし、「楽しい」と言ったらもっと駄目だ
 し。「雲見て」もいいし、「ほほえみ」も効いていますね。「ほほえみ」って難しいの
 で短歌には少ないですよね。(A・K)
★坂井修一さんは「ほほゑむ」をよく使われます。川漄利雄さんの雑誌に頼まれて坂井さん
 の歌集『アメリカ』の評を書いたことがありますが、その題が「ほほえむ博士」でした。
 坂井さんはそれほど「ほほゑむ」の使用頻度が多いです。この松男さんの歌については皆
 さんがおっしゃった通り「ひんやりと」がとても活きているし、「ほほえみ」もいいと思
 います。サラリーマンという〈われ〉の在りようを羞恥をもって、でも肯定しているとい
 うそんな気分かなあと思います。前回の「樹上会議」一連とはまた角度を変えた「サラリ
 ーマン」「働く」ということへの考察ですね。ここで待つ人は恋人でもいいかなと思いま
 すが、それは各人の読みでいいのでしょう。(鹿取)


コメント
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