感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

リウマチ患者教育 -患者側ニードについて-

2016-06-01 | リウマチ

前回に続きまして、RA患者の教育についてです。当科でもいままで患者・市民向けの講座・勉強会を開催してきましたが、ほとんどの通院患者さんは参加されないこと、講座でお話していることと、日ごろの患者さんからの疑問などの観点は違うだろうことがなんとなく実感されます。“教育”という言葉も上から目線で医療者側が必要と思うものをしっかり理解してくださいといった姿勢ですが、それで良いのでしょうか?(薬剤に関する知識や注意といったところは医療者側主導も必要と思いますが) 最近、患者側ニードといった視点が論じられるようになってきています。

 

まとめ

・関節リウマチ(RA)患者におけるいくつかの研究は、疾患、医療ケア、薬物療法または医療専門家の治療に関しての知識の欠如や情報ニードを実証

・RA患者における様々な患者教育(PE)の介入に関する以前の系統的レビューは、行動、疼痛、身体障害や抑うつコーピング、知識が大幅に短期的な改善を記録するが、長期的な効果は矛盾していた。 [Arthritis Rheum. 2004 Jun 15;51(3):388-98.][ Arthritis Rheum. 2002 Jun 15;47(3):291-302.]

・RA患者教育関連文献のメタアナリシスでは、身体障害、関節数、患者の全体的な評価、心理状態、そして、うつ病、でのスコアのための最初のフォローアップでは患者教育の有意な効果を見たが、最終でフォローアップでは患者教育の有意な効果は認められなかった。不安やRA疾患活動性には有意な効果を示さなかった。 [Cochrane Database Syst Rev. 2003;(2):CD003688.]

・最近の研究では、標準化された教育的介入の長期的な効果の限定を示し、そしてより多くの患者中心とオーダーメイドのプログラムの提供が提唱されている。テーラーメイド患者教育は個人の教育ニーズに良い洞察力を必要とする

教育ニーズアセスメントツール(ENAT)英国のようなアセスメントツールの使用は、'macro'よりむしろ'micro'に焦点を当て、系統的に個々の患者の教育ニーズを評価するのに役立つ。[Clin Eff Nurs 8(2):111–117]

・ENATは関節炎患者と医師によって開発され、それは以下の7つのドメインにグループ化され39の項目がある: 疼痛管理(7項目)、運動(5ア項目)、感情(4項目)、関節炎過程(7項目)、専門家治療(7項目)、自助対策(6項目)、そして、サポートシステム(4項目)

・各ドメイン内では、患者は、質問「あなたは○についての詳細を知ることがいかに重要であるか...」をそのドメイン内のすべての項目の評価をするように求めらる。患者は5段階リッカート尺度five-point Likert scalesを用いて評価する: 「全く重要ではない」=1 「まあまあ重要」= 2 「少し重要」= 3 「重要」= 4 そして「非常に重要」=5。

・たとえば、

  ・痛みを伴う関節に温熱や冷却を使用? (疼痛管理)
  ・簡単に持ち上げる方法? (運動)
  ・気分やうつ病に対処する方法 (感情)
  ・自分の関節炎は何が引き起こしているのか? (関節炎過程)
  ・なぜ私には血液検査があるのか? (専門家治療)
  ・私がやるべき演習(自助対策)
  ・私の財政援助について尋ねることができる人?(サポートシステム)

・これは、リウマチ性疾患を持つ人々の教育ニーズの正確な推定と同様に基礎となる潜在構築物(教育ニーズ)を検証し定量化を可能にする。これは研究及び臨床の両方で有用であることが示されている。 [J Clin Nurs. 2015 Apr;24(7-8):1048-58]

・これは、関節炎の患者は彼らの教育ニーズに優先順位を付けることができる。

・これはヨーロッパ9カ国のリウマチ性疾患のための一般的な道具として確認されている。

・オランダ語版を使用してのこのシステムの検証では、教育ニーズの平均スコアは、 「疼痛管理」については2.5、「運動」のための3.0、「感情」のための2.0、「関節炎・プロセス」のための4.0、「医療専門家からの治療」のための4.0、「自助対策」のための3.5、および「サポートシステム」のための2.5 だった。より下の年齢とより長い(訂正)罹患期間は、ドメイン「サポートシステム」においてより教育ニーズと関連していた。また、より若い患者はより高齢の患者よりも、疼痛管理や感情に関するより多くの教育ニーズを持っていた。[Clin Rheumatol. 2009 Sep;28(9):1073-7]

・ニーズベースのPEの効果を調べるためENATを使用しその応答は患者教育を導くため臨床看護専門家によって使用された介入群(IG)と、ENATを使用せず患者教育を受けた対照群(CG)とのRCTでは、ENAT使用は自己効力感尺度(ASES)を向上させることが示唆された。[Ann Rheum Dis. 2015 Jul 10. pii: annrheumdis-2014-207171.]

・ENATはまた、教育的介入の前および後の患者の知識を評価するための研究ツールとして使用されている。

・臨床相談の前にENATをとっておくことは即時に患者の優先順位に基づいて教育を提供するため医療専門家に可能にする。

・ENATは知識ではなく患者の教育ニーズを評価するために意図されていることを指摘する、したがってENATの使用は、RAについての全般的な知識の増加につながらないかもしれない

・ニードは共有された意思決定の原則principle of shared decision-making(SDM)と非常によくフィットする必要がある。これは患者中心のケアの最高峰と見なされ、そして、現代の医療相談を導くべき。

・ケアへのアプローチでは、患者は相談者にRAとの生活における彼/彼女の経験、嗜好、ニーズや価値観を示し、これらは最良の科学的証拠に基づいて、臨床医のスキルと知識と組み合わせて、患者のニーズに尊重し応答したケアを提供する

・リウマチにおけるSDMの重要性は、2013年EULARの勧告においても確認されており、「RA患者の治療は、患者とリウマチ専門医の間で共有された判断に基づくものでなければなりません」と述べられている.[ Ann Rheum Dis. 2014 Mar;73(3):492-509. ]

自己効力感Self-efficacyとは、所望の結果を達成するために、彼または彼女が成功した特定の動作を実行する能力を持っている個人の信念を指し、心理的な構築物である。

 研究では自己効力感は RAを持つ人々のための健康関連アウトカムを仲介し、症状管理を改善することができることが示唆されている。RAなどの慢性疾患に対処するとき、その人における自己効力感の高レベルは、有用な因子であり得る。

・PEの主な目的は、もはや単なる知識の伝達と疾患コントロールだけではなく、患者自ら自分の病気を管理しコンディションに合わせて調整し、生活の質を維持することができるようにすることである。 [Lancet. 2004 Oct 23-29;364(9444):1523-37.]


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2 コメント

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初コメント失礼します。 (臨床心理士しずく)
2016-06-12 12:47:28
 突然に失礼いたします。私は関節リウマチに関心を持ちナース向けの研修に参加している臨床心理士です。医療分野の知識がないので、先生のブログは難解です。そうではありますが今回の記事はとても勉強になりました。
「PEの主な目的は…患者自ら自分の病気を管理しコンディションに会わせて調整し、生活の質を維持することができるようにすること。」
 これには集団での教室参加に加え時折、個別でフィードバックして患者が感じていることや実状を、教室で得た内容と確認しつつ患者が自分のものとしていくことによって、よりよいセルフマネージメントが進められると思いました。(たいして研究も進んでいないので恥ずかしいですが、岩崎と申します。)
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コメントいただきありがとうございます (志智)
2016-06-12 17:23:41
岩崎さん、コメントいただきありがとうございます。とても医師のみて短時間での診察室での会話のみでは患者さん側がいいたいことを言えたり、悩みをいえたりするのは難しいと思っています。各職種からなるチーム活動も必要ですし、診察前後の看護の役割などもより深く考えたいと思っています。リウマチなど慢性疼痛は心理的なアプローチと支援も必要ですね。
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