「ダウン・ウィンダーズ~アメリカ・被爆者の戦い~」
NHK、2014.3.15放映
<番組説明>
大国アメリカが「フクシマ・ショック」に揺れている。1月27日、米国である集会が開催された。「ダウンウィンダーズ(風下の人びと)記念集会」。福島原発事故の直後に連邦議会が制定した記念日だ。参加するのはネバダ核実験で飛散した放射性降下物(フォール・アウト)によって被ばくした米市民。フクシマ報道に接した住民たちは、被災者を自分に重ね合わせた。自分たちも政府から十分な情報を与えられないまま、被ばくしてしまったからだ。被ばくの影響と疑われる症状に苦しみながら、補償されないまま亡くなる住民も多数いる。フクシマを契機に「真実を知りたい」と声を上げる米市民の姿を追いながら、アメリカに残された「知られざる核被害」の傷あとをみつめる。
今度はアメリカ国民の被爆者の現状を扱った番組です。
「ダウン・ウィンダーズ」とは「風下の住人達」という意味です。
なんとなくロマンチックな響きがある言葉ですが、さにあらず。
「核実験の風下で被曝した住人達」が正確な意味なのです。
アメリカはそれまで、核実験をマーシャル諸島で行ってきましたが、ソ連との開発競争に勝つために迅速に対応可能な国内のネバダ州へ変更しました。
ネバダ州では1951年からの40年間に1000回(!?)もの核実験が行われたそうです。
数が半端ではありませんね。
その後、周辺の住民に健康被害が発生していることがわかり、放射線被ばく補償法(RECA, Radiation Exposure Compensation Act)が制定され、認定者には一人当たり500万円が支払われました。
しかし、救済対象は20万人とも云われる被爆者のほんの一部。
東日本大震災~福島原発事故後、被爆者の意識が高まるとともに救済地域の範囲を広げるべきだという意見が強くなり、RECA改正案が議会に提出されました。
しかし「予算不足」というシンプルな理由で却下されました。
RECA改正案を通すべく運動している住民達は「国は時間が経って我々が死ぬのを待っているようだ。歴史から抹消されようとしている。」という不安・不満を持っていました。
「核実験は自国民を毒殺するようなもの」という重い言葉が耳に残りました。
予想外のアメリカの現状を知り、愕然としました。
日本の補償どころか自国民の補償さえ不十分なのです。
冷戦を勝ち抜くため、アメリカという国を維持するために自国民さえ犠牲にしてきた歴史。
これをどう評価すべきなのか?
善なのか、悪なのか?
私には答えが見つかりません。
気になったのが、日本のビキニ環礁での被曝以上に「調査がなされていない、あるいは隠蔽されている」事実。
あのアメリカという訴訟社会で、健康被害を訴える根拠がないと嘆いている住民の姿が意外でした。
もっとしたたかな人達だと思っていたのに。
<参考>
・日米におけるヒバクシャ研究の現状と課題(竹本 恵美)
一般的に「ヒバク」は、放射線を浴びることを指す。原爆の炸裂による被害や被害者を指す場合は「被爆/被爆者」、放射線による被害や被害者を指す場合 は「被曝/被曝者」、その両者を指す場合は「 ヒバク/ヒバクシャ」と表記する。原子力燃料はエネルギーを生み出す際に、必ず放射能を持つ核分裂生成物を放出し、原子力利用は必ずヒバクとヒバクシャを伴う。原子力の軍事利用と平和利用といった区分は原子力利権者側にとっての違いであり、被害を受ける側から見れば、ヒバク源が何であれ、その恐ろしさや被害には大差がないと考える。
放射線物理学者のアーネスト・J.スターングラスは、1978年に原発周辺住民が原子力規制委員会と政府を相手に起こした訴訟で原告側の証人として、数多くの疫学調査結果を提示した。スターングラスは、原子炉がある州で低体重乳幼児率と乳幼児死亡率が高いことを示し、ネバダ核実験の死の灰による影響で、米国で約100万人の乳幼児が死亡したと結論づけた。X線と低レベル放射線の影響に関し、米最高の権威と見なされるラッセル・モーガンは、スターングラスの論文を賞賛した。元ローレンス・リバモア核兵器研究所研究員であり地質学者のローレン・モレは、低体重乳幼児の身体・精神・知的問題を研究している。米大学進学適性試験(SAT)の点数を調査し、平均点とネバダ核実験の規模との相関関係を明らかにし、平均点下降の原因は核実験が放出した放射能の影響を胎児時に受けたことと結論づけた。また、カリフォルニア州で自閉症が核実験開始に合わせて出始め、チェルノブイリ事故や原発の発電量の増加に従って上昇していることを明らかにした。スターングラスとモレは共同研究を行ない、7~8歳の子供から取れた乳歯に含まれる放射性物質のストロンチウム90の含有量を調査し、がんを患う子供は健康な子供の2倍のストロンチウム90を有していることを明らかにし、原発の日常運転も核実験と同様に悪影響を及ぼしていることを指摘した。他にもスターングラスは、放射性物質による人体への影響調査研究を広範囲に行い、ヒバクによって糖尿病発症率や、乳がん、肺がん、白血病などによる死亡率が高まることを示し、1950~99年の間に米国で約1,930万人が死亡したと結論づけた。調査結果は米国議会でも発表され、それをきっかけとして部分的核実験禁止条約(PTBT)が締結された。統計学者のJ.M.グ ールド博士は、全米3,053郡の40年間の乳がん死亡者数を分析し、増加した1,319郡が原子炉から100マイル(約160km)以内に位置し、乳がん死亡者の死因に原子炉が 関係していることを指摘した。これらの研究により、原子力利用は事故がなくても、人類と環境に取り返しのつかない害を与えていることが明らかになったと言える。
欧州放射線リスク委員会(ECRR)は2003年、公衆の被曝合計最大許容線量を0.1ミリシーベルト、原発労働者の場合は5ミリシーベルト以下にするよう勧告した。しかし日本は、職業上放射線を浴びる人の被曝量を年間50ミリシーベルトまで、公衆の被曝量を年間1ミリシーベルトまでと規定し、従来の規定を変えようとしない。原発労働による被曝が原因で死亡した労働者の被曝量は、ほとんどの場合が規定値以下であった。50ミリシーベルトとの規定値は、人を殺す可能性のある値であり、この規則は労働者の命を守るためではなく、産業利益を守るため、危険性の高い被曝を労働者に強いるためにあると言える。
柏崎刈羽原発が中越沖地震によって事故を起こした際、CNNは日本で相次ぐ原発事故と事故隠しに対し,「政府と東京電力による悪質な隠蔽工作であり、隠蔽体質がなくならない限り、日本の放射能事故はなくならない」と批判 した。BBCは「世界に核廃止を訴えるべき被爆国日本が、狭い国土に原発を林立させ、自国が落とされた原爆何万発分にも相当する原子炉の危機管理ができず、原発周辺に住民が住んでいることは異常であり、それは政府が情報を隠蔽し続けてきたことの結果である」と批判した。
NHK、2014.3.15放映
<番組説明>
大国アメリカが「フクシマ・ショック」に揺れている。1月27日、米国である集会が開催された。「ダウンウィンダーズ(風下の人びと)記念集会」。福島原発事故の直後に連邦議会が制定した記念日だ。参加するのはネバダ核実験で飛散した放射性降下物(フォール・アウト)によって被ばくした米市民。フクシマ報道に接した住民たちは、被災者を自分に重ね合わせた。自分たちも政府から十分な情報を与えられないまま、被ばくしてしまったからだ。被ばくの影響と疑われる症状に苦しみながら、補償されないまま亡くなる住民も多数いる。フクシマを契機に「真実を知りたい」と声を上げる米市民の姿を追いながら、アメリカに残された「知られざる核被害」の傷あとをみつめる。
今度はアメリカ国民の被爆者の現状を扱った番組です。
「ダウン・ウィンダーズ」とは「風下の住人達」という意味です。
なんとなくロマンチックな響きがある言葉ですが、さにあらず。
「核実験の風下で被曝した住人達」が正確な意味なのです。
アメリカはそれまで、核実験をマーシャル諸島で行ってきましたが、ソ連との開発競争に勝つために迅速に対応可能な国内のネバダ州へ変更しました。
ネバダ州では1951年からの40年間に1000回(!?)もの核実験が行われたそうです。
数が半端ではありませんね。
その後、周辺の住民に健康被害が発生していることがわかり、放射線被ばく補償法(RECA, Radiation Exposure Compensation Act)が制定され、認定者には一人当たり500万円が支払われました。
しかし、救済対象は20万人とも云われる被爆者のほんの一部。
東日本大震災~福島原発事故後、被爆者の意識が高まるとともに救済地域の範囲を広げるべきだという意見が強くなり、RECA改正案が議会に提出されました。
しかし「予算不足」というシンプルな理由で却下されました。
RECA改正案を通すべく運動している住民達は「国は時間が経って我々が死ぬのを待っているようだ。歴史から抹消されようとしている。」という不安・不満を持っていました。
「核実験は自国民を毒殺するようなもの」という重い言葉が耳に残りました。
予想外のアメリカの現状を知り、愕然としました。
日本の補償どころか自国民の補償さえ不十分なのです。
冷戦を勝ち抜くため、アメリカという国を維持するために自国民さえ犠牲にしてきた歴史。
これをどう評価すべきなのか?
善なのか、悪なのか?
私には答えが見つかりません。
気になったのが、日本のビキニ環礁での被曝以上に「調査がなされていない、あるいは隠蔽されている」事実。
あのアメリカという訴訟社会で、健康被害を訴える根拠がないと嘆いている住民の姿が意外でした。
もっとしたたかな人達だと思っていたのに。
<参考>
・日米におけるヒバクシャ研究の現状と課題(竹本 恵美)
一般的に「ヒバク」は、放射線を浴びることを指す。原爆の炸裂による被害や被害者を指す場合は「被爆/被爆者」、放射線による被害や被害者を指す場合 は「被曝/被曝者」、その両者を指す場合は「 ヒバク/ヒバクシャ」と表記する。原子力燃料はエネルギーを生み出す際に、必ず放射能を持つ核分裂生成物を放出し、原子力利用は必ずヒバクとヒバクシャを伴う。原子力の軍事利用と平和利用といった区分は原子力利権者側にとっての違いであり、被害を受ける側から見れば、ヒバク源が何であれ、その恐ろしさや被害には大差がないと考える。
放射線物理学者のアーネスト・J.スターングラスは、1978年に原発周辺住民が原子力規制委員会と政府を相手に起こした訴訟で原告側の証人として、数多くの疫学調査結果を提示した。スターングラスは、原子炉がある州で低体重乳幼児率と乳幼児死亡率が高いことを示し、ネバダ核実験の死の灰による影響で、米国で約100万人の乳幼児が死亡したと結論づけた。X線と低レベル放射線の影響に関し、米最高の権威と見なされるラッセル・モーガンは、スターングラスの論文を賞賛した。元ローレンス・リバモア核兵器研究所研究員であり地質学者のローレン・モレは、低体重乳幼児の身体・精神・知的問題を研究している。米大学進学適性試験(SAT)の点数を調査し、平均点とネバダ核実験の規模との相関関係を明らかにし、平均点下降の原因は核実験が放出した放射能の影響を胎児時に受けたことと結論づけた。また、カリフォルニア州で自閉症が核実験開始に合わせて出始め、チェルノブイリ事故や原発の発電量の増加に従って上昇していることを明らかにした。スターングラスとモレは共同研究を行ない、7~8歳の子供から取れた乳歯に含まれる放射性物質のストロンチウム90の含有量を調査し、がんを患う子供は健康な子供の2倍のストロンチウム90を有していることを明らかにし、原発の日常運転も核実験と同様に悪影響を及ぼしていることを指摘した。他にもスターングラスは、放射性物質による人体への影響調査研究を広範囲に行い、ヒバクによって糖尿病発症率や、乳がん、肺がん、白血病などによる死亡率が高まることを示し、1950~99年の間に米国で約1,930万人が死亡したと結論づけた。調査結果は米国議会でも発表され、それをきっかけとして部分的核実験禁止条約(PTBT)が締結された。統計学者のJ.M.グ ールド博士は、全米3,053郡の40年間の乳がん死亡者数を分析し、増加した1,319郡が原子炉から100マイル(約160km)以内に位置し、乳がん死亡者の死因に原子炉が 関係していることを指摘した。これらの研究により、原子力利用は事故がなくても、人類と環境に取り返しのつかない害を与えていることが明らかになったと言える。
欧州放射線リスク委員会(ECRR)は2003年、公衆の被曝合計最大許容線量を0.1ミリシーベルト、原発労働者の場合は5ミリシーベルト以下にするよう勧告した。しかし日本は、職業上放射線を浴びる人の被曝量を年間50ミリシーベルトまで、公衆の被曝量を年間1ミリシーベルトまでと規定し、従来の規定を変えようとしない。原発労働による被曝が原因で死亡した労働者の被曝量は、ほとんどの場合が規定値以下であった。50ミリシーベルトとの規定値は、人を殺す可能性のある値であり、この規則は労働者の命を守るためではなく、産業利益を守るため、危険性の高い被曝を労働者に強いるためにあると言える。
柏崎刈羽原発が中越沖地震によって事故を起こした際、CNNは日本で相次ぐ原発事故と事故隠しに対し,「政府と東京電力による悪質な隠蔽工作であり、隠蔽体質がなくならない限り、日本の放射能事故はなくならない」と批判 した。BBCは「世界に核廃止を訴えるべき被爆国日本が、狭い国土に原発を林立させ、自国が落とされた原爆何万発分にも相当する原子炉の危機管理ができず、原発周辺に住民が住んでいることは異常であり、それは政府が情報を隠蔽し続けてきたことの結果である」と批判した。