知らない世界へ帰りたい(日本探求)

自分の祖先はどんなことを考えていたのか・・・日本人の来し方、行く末を読み解く試み(本棚10)。

「おらが村」(矢口高雄作)

2009年11月22日 07時46分22秒 | ふるさと
「釣り吉三平」で有名な漫画家、矢口高雄の初期の作品です。
昭和49年~51年の間「Weekly漫画アクション」誌上で連載されました。
私が小学校高学年の頃ですね。
矢口さん自身が「私の作品の中で一番愛着のあるものです」とあとがきに書かれているように、矢口漫画の原点とも言える内容です。

舞台は東北地方の鄙びた山村。
過酷な自然の中、人々は助け合いながら農業を中心に日々の生活を営んでいます。
季節の移ろいと共に変化する山村の生活を情感豊かに描ききっています。
矢口漫画の真骨頂ですね。
しかし、日本の原風景を美化するだけの内容ではありません。

折しも日本は経済成長に沸き、コメが余って減反政策が開始され(昭和45年)、農家の働き手は冬の草履作りなどの内職を捨てて都会へ出稼ぎに出るようになった時期に重なります。
都会との格差に悩む村民、農家に嫁が来ない現実的な問題なども扱っており、当時反響を呼んだそうです。

こんな場面が出てきます。
東京に出ている息子の友達が田舎暮らしを経験したいと冬に遊びに来た際、長男が
「たまに来て『田舎っていいなあ~』と暢気にいっているが、ここで暮らす大変さが都会モンにわかるのか?!」

私は大学生時代を青森県の弘前市で過ごしました。
「雪国の生活を経験してみたい」という気持ちも少しあってその大学を選びましたが、浮かれたのは最初の1年だけで、その後は雪で行動が制限される生活にうんざり。地元の人は「雪は白いゴミ」と表現していました。街中でもこうですから、山村の生活も推して知るべし。
当時の同級生に秋田の山村出身の人がいましたが、その村では冬の積雪量が3m(!?)に達するそうです。
局地的に雪が吹きだまる地形とか・・・文字通り、雪に閉ざされる生活ですね。

原作が書かれてから30年以上経過した今、私が読んでみても違和感はありません。
この30年間、農山村の状況は変わらず、農家は同じ問題を抱え続けたことになります。

昨今、TVで農業問題も多く報道されるようになりました。
先日視聴した討論番組ではこんな意見が飛び交いました。
「今までは農業の大規模化、効率化を目標に進めてきたが、日本の地形からして限界がある。」
「これ以上コメの単価が下がれば、大規模化ではなく縮小せざるを得ない。」
「効率化をして多少安くすることができても、輸入品にはとても太刀打ちできない。」
「産地直送や無農薬野菜など付加価値をつけて地産地消に方向転換が必要だ。」
生産現場からは悲鳴にも聞こえる声がたくさん聞かれました。

それから、忘れてはならないことがあります。
農業が衰退するということは、「里山の景観」も失うことを意味します。
農家の方々が守っている無形文化財・・・これは、他では代償できない貴重な財産です。
「心のふるさと」を失う危機にあることを、日本人は認識すべき時であると感じました。

<余談>
江戸時代の農民や民までも独自の視点で書かれた「カムイ伝」という漫画をご存じですか?
忍者アニメの走りである「サスケ」を描いた白土三平さんの作品です。
その内容は奥深く、社会の深部にもメスを入れており、私も大学生時代に夢中で読みました。
最近、ホントに大学の講義で使うテキストになっていることを知り、驚きました。

その流れの作品である「カムイ外伝」は2009年秋、映画化されましたね。
原作のイメージが消化不良を起こすほど強大なので、私はまだ観ていません(落胆するのが怖いのです)。