知らない世界へ帰りたい(日本探求)

自分の祖先はどんなことを考えていたのか・・・日本人の来し方、行く末を読み解く試み(本棚10)。

「廃墟美」

2010年04月25日 10時07分42秒 | 歴史
 NHKクローズアップ現代で「大人気 ”廃墟"の旅」という特集を放映していました。
 近年、明治以降の廃棄され放置された施設が若者に人気で、一部は観光の対象になってきているとのこと。

~番組解説より~
打ち捨てられた炭鉱跡、巨大な製鉄所、役目を終えた水力発電所など、いわゆる「廃虚」が今、新たな観光地として、若者を中心にブームとなっている。中でも、去年4月に一般公開された長崎市にある端島(はしま)・通称「軍艦島」は、1年間に7万人が訪れ、15億円の経済効果が上がっている。しかし一方、歴史がさほど古くないものは文化財としての評価が難しく、保存は容易ではない。朽ち果て安全性に問題を抱えるものも多い。欧米では、「近い歴史を学ぶことは未来を生きるヒントを得ることだ」と考えられており、「廃虚」を公害など負の遺産も含めて残し、教育や地域の活性化に利用している。番組では、今、脚光をあびる「廃虚」が語りかけるメッセージと、その利用の課題を探る。(ここまで)
 
 似たような現象は昔からありました。
 鉄道マニアの「廃線めぐり」もその一つでしょうし、近いところでは足尾銅山跡も観光化されています。

 そして今、何が若者達をブームと呼ばれるほど惹きつけるのか・・・
 番組の中のインタビューでは、
 「一生懸命生きて仕事をしていた空気を感じる」
 「ヒトとヒトとの距離が近い生活感の名残り」
 など、現代失われつつある人間関係を感じたいという想いが見え隠れしていました。

 一方、解説者(国立科学博物館 参事:清水慶一氏)はこれらに「産業遺物」と名付け、
 「大きな建造物に当時の産業の勢いを感じる」
 「兵どもが夢の跡~という滅びの美学」
 などを指摘していました。

 私自身の記憶を辿ってみると、「廃墟美」を感じ取ったのは中学生の頃でした。
 確かSF作家の小松左京さんの短編集に描かれていた一場面;

・・・子ども同士で遊んでいて迷い込んだ先に洞穴(トンネルだったかな?)を見つけた。そこを通り抜けると、突然、赤茶けた土埃が舞う廃墟が眼前に広がった・・・

 この文章を読んだとき、「ハッ」として背筋に稲妻が走り、脳裏にこの殺伐とした情景が鮮やかに浮かんだのでした。
 「感動」に似ていますが微妙に異なる印象。
 言葉に言い表せない、体の奥底に眠っていた切なく哀しい感覚が呼び出されたよう。
 既視感(デジャブ)?
 何だったのだろう。

 私は古代遺跡や、縄文時代の土器や石器も好きでコレクションしています。
 1万年前に生きていた日本人の影を感じるから。
 でも、それとはちょっと違う。

 「産業遺物」は、ほんの40~100年前の日本人が暮らし働いていた場所。
 年表に書かれる偉人達の歴史ではなく、自分たちと同じ庶民の息づかいを身近に感じて安堵感を得たいのかもしれません。

 いろんな思いが巡り、自分の中でまだ「廃墟美」の魅力が何なのか、つかめないでいます。

「仏教のこころ」by 五木寛之

2010年04月16日 21時05分50秒 | 寺・仏教
五木寛之こころの新書シリーズ1。講談社(2005年)。

最近、仏教が気になる私です。

年間3万人の自殺者を出す先進国日本。
日本人にこころの拠り所はないのか?
仏教は悩める人々を救う力となり得ないのか?
「オウム真理教」など奇をてらった徒花のような新興宗教に救いを求めることしかできないのか?

著者の五木寛之さんは作家として有名ですから説明の必要はありませんね。
私は昔から彼の小説が好きでした。
初期の「こがね虫たちの夜」から東欧を題材にした連作や「戒厳令の夜」という映画もお気に入り(アマリア・ロドリゲスの歌が良かった~)。
彼の視線は年表に書かれる歴史ではなく、いつも名も無き人々の営みを見つめています。
そこが魅力的なのです。

近年、宗教に関する本を書き、活動・発言もしています。
「百寺巡礼」は話題になりました。
この本はその流れで書かれたものです。

日本人は古来の神道に仏教が混じり合った節操のない宗教観をもつと批判される一方、万物に神の姿を見る「八百万の神」という概念が根底にあり他の宗教を排斥しない美徳もある、とも云われています。
実際、我々の生活は結婚式は神前で(神道)、お墓はお寺(仏教)、でもクリスマスやバレンタインデーも盛り上がります(キリスト教)。

世界では一神教のキリスト教とイスラム教がいがみ合い、殺戮が行われています。
一神教は他の宗教を認める寛容さを持ち合わせておらず、ときに危険な思想となり得ます。
また人間中心の宗教には「地球を守る」という視点からみると限界があるのではないか。
万物に神が宿るという日本の「アニミズム」という考え方は原始的と評されがちですが、実は先進的な思想となり得るのではないか、と著者は記しています。

21世紀のキーワードは「寛容」と「アニミズム」。
現状では焦臭い時代に再突入しそうな雰囲気を感じるこの世界。
果たして人類は思想・発想の転換ができるのでしょうか?

「サクラ」の美しさの秘密

2010年04月11日 17時45分22秒 | 日本の美
 日本人にとって、サクラは春になくてはならない風物詩。
 この時期になるとTVで全国のサクラを中継して放映します。
 私は学生時代に弘前公園(サクラの名所)の裏方バイトを経験し、ちょっとサクラにはうるさいのです。

 今春は寒い日が続いてサクラの開花は遅れがちでしたが、散るまでに時間もかかり見頃の時期が長かったようです。
 私も近所のサクラを観て愛でて写真に収めてきました。

 なぜ日本人はこれほどまでにサクラに惹かれるのでしょう・・・NHKの「アインシュタインの眼」という番組で解説していました。

■ サクラの魅力~ポイントは4つ;

□ たくさんの花を咲かせる
 一つの芽から、梅は1つの花を咲かせますが、サクラは3~5個咲かせるそうです。

□ 一斉に咲く
 サクラの花は冬眠するそうです。
 蕾に含まれている休眠物質が冬の寒さで消費されて減ってくると目覚めます。
 さらに開花物質が増えてくることで開花のゴーサイン!
 ソメイヨシノは接ぎ木を繰り返して増えてきたため、遺伝子的には単一とのこと。
 そのため、環境が同じなら同時に一斉に開花します。

□ 一斉に散る
 サクラの花びらはしおれて枯れるまでしぶとくぶら下がってはいません。
 まだ花びらが広がっているうちに潔く散っていきます。
 ゲストの植物学者さんは「人間に大切に扱ってもらうため」と解説していましたが・・・?

□ 「サクラ吹雪」の美学
 花びらはくるくるひらひら、風に舞って「サクラ吹雪」を演出します。
 散り際の美学の秘密は・・・サクラの花びらが①丸いことと、②反っていること。

① 丸い→ くるくる回りやすい
② 反っている→ 風に乗って舞いやすい

 番組の中で実験!
 丸い花びらを紙で作って紙吹雪にしてもくるくる回るだけでひらひらはありませんでした。


■ サクラの花の色の変化
 蕾のときは桜色の花びらですが、開いて散るまでの間に白く変わっていきます。
 一方、めしべははじめ白っぽかったのが徐々にピンク色に変わります。
 なんでも、自然界ではピンク色より白の方が目立ち昆虫を惹きつけるとのこと。

■ サクラの健康状態
 一つの芽から咲く花の数が3個未満は不健康、3~5個は健康、6個以上は非常に健康。
 それから、キノコが生えている幹は瀕死状態だそうです(街並木に多い)。

 なるほど、と頷きながら番組を見終えました。

<追記>
 もう一つ、BS放送でサクラの番組を見ました。
 岐阜県にある「淡墨桜(うすずみざくら)」。
 種類は「エドヒガンザクラ」で、散り際の花びらが白ならぬ淡墨色になることからそう呼ばれているそうです。
 Wikipediaによると「樹高16.3m、幹囲目通り9.91m、枝張りは東西26.90m、南北20.20m。樹齢は1500余年と推定」とのこと。
 1500年かあ・・・聖徳太子もまだ生まれていませんねえ。
 残念ながら近年は寝たきり老人のような状態で、樹木医の治療・介護が必要となっています。
 しかし、老いてもなお盛んで、毎年たくさんの花を咲かせます。
 わずか5日間で散ってしまうそうです。
 365日のうち5日間だけの檜舞台・・・儚いですねえ。