知らない世界へ帰りたい(日本探求)

自分の祖先はどんなことを考えていたのか・・・日本人の来し方、行く末を読み解く試み(本棚10)。

佐藤優×出口治明

2017年08月03日 06時30分02秒 | 震災
対談集:佐藤優(作家・元外務省主任分析官)×出口治明(ライフネット生命創業者)
1.「イスラム教もキリスト教も、なぜ戦後の日本でうまく根付かなかったのか」(2017.7.31)
2.「宗教から国際問題を理解する」(2017.8.1)

<内容>
 ライフネット生命会長・出口治明さんが「歴史」や「教養」をテーマに、さまざまな有識者をゲストに迎える対談企画「出口さんの学び舎」。技術革新やグローバル化により変化の激しい現代で、ぶれない軸を持って生きていくために必要なものとは何か、対話を通じ伝えていく――。


気になった箇所を抜粋。

・人はなぜ宗教を求めるのでしょうか? ・・・端的に言うと、死ぬからですよね。

・近代に生きている人間は、宗教とは自覚していなくても、みんな宗教を信じていると思うんです。一番近い宗教は「拝金教」。お金を信じている。もう一つは「出世教」ですね。出世教と関係しているのは、「受験教」ですね。

・そのような宗教はたくさんあると思うんだけど、一番重要なのは、宗教という形をとらないと思うんです。戦前において、「国家神道」つまり伊勢神道は宗教ではありませんでした。日本臣民の慣習だった。

・「戦後の日本で、なぜキリスト教が広がらなかったんですか?」という質問を受けたことがあります。
 イスラム教もキリスト教も、戦後の日本でうまく根付かなかったのは、商売につながらないからですよ。私はいろいろな宗教を見てきましたが、ある程度ビジネスと相性のよい宗教じゃないと残らないんですよね。

・薩長土肥の中でエリートになれなかった青年たちが、明治維新のときにキリスト教に行っているんです。だから、今の日本のキリスト教は根付かないと同時に、政府に対してちょっと後ろ向きの姿勢を取る。左翼と右翼というよりも、明治維新の恨みがあるわけです。だから薩長が嫌いなんですね、日本のキリスト教は。

・なぜキリスト教は、世界的な宗教になることができたかというと……いいかげんだからですね(笑)。
 たとえば、みんなクリスマスのお祝いをするでしょ。あれは1950年代からなんです。それまでクリスマスなんて祝わなかった。アメリカで、つい最近起きた習慣ですからね。

・キリスト教の教義では、神様が一人のはずなんだけど、一方で「父なる神」と「子」と「聖霊なる神」の3つである、というね。それから、イエス・キリストが、人間なのか神なのかもよくわからない。真の神と真の人。教義の根本のところが、ものすごくいいかげんなんですよ。正しく理屈で説明できるようになると、それは異端で火あぶりになるんです。
 たとえば、父なる神がいたとき子と聖霊はいなくて、子なる神がいるときは父と聖霊がいなくて、子なる神キリストがいなくなったら聖霊になったんだ、という考え方が昔からあるのですが、それは異端でかなりの場合、火あぶりになっているんです。
 あるいは、神様がキリストを養子にしたという説もある。これも異端とされました。理屈で説明できるのは、全部ダメなんです。

・僕はキリスト教が世界に広がったのは、寄生階級を組織化していたからではないかと思っているんです。キリスト教は、ローマ教皇から始まり、寄生階級をたくさん抱え込んでいる。そうするとお布施がなかったら生きていけません。
 たとえばルターの改革で、ドイツや北ヨーロッパを失ったら、どこかを取り戻さないと自分たちが生きていけない。取り戻すため、拡大しようとした一つが日本だった。宗教改革がなければ、ザビエルが日本に来ることはなかったですからね。
 要するにどんどん領土を広げなければ、ごはんが食べられないという構造があったから、世界宗教になったのではないかと。帝国主義と結びつくことができたのが、キリスト教が広がった大きな理由でしょうね。

・イスラム教はキリスト教のどのグループと似ているのでしょうか。
 カルヴァン派です。生まれる前に神様から選ばれる人たちと、選ばれない人たちが決まっているという考え方(二重予定説)があります。似ていると、磁石ってN極とN極で反発するんですよ。実は、トランプはカルヴァン派なんです。
 20世紀以降、アメリカの大統領でカルヴァン派は3人しかいません。ウィルソン、アイゼンハワー、そしてトランプ。この3人は特徴がありますね。たとえばウィルソンだったら、国民に「何やってるの?」と思われながら、「神様から言われたからやっている」という思いで国際連盟を作りました。結局アメリカ議会の反対で加盟できなかったんですが、そういうエネルギーはカルヴァン派特有です。
 アイゼンハワーも、ノルマンディー上陸作戦なんて周囲はやらないほうがいいと思っていましたからね。それが、彼のものすごく強いイニシアティブで実現したわけです。やっぱり神がかり的なところがある。
 だからトランプを理解するには、彼自身が「自分は神によって選ばれている」という理想を持っていることを知ること。不動産業で成功したので、普通に考えればそれだけでいいんだけれど、彼は「世のため人のために大統領になった」と思っているんです。だから面倒くさいんです。何かを信じている人とは、なかなか普通の話ができないですよね。

・ユダヤ教とキリスト教はヨーロッパでは仲が悪いんですが、アメリカでは仲がいいんですよ。イスラエルというのは、選ばれた人によってできた国であると、聖書に書いてある。この世の終わりに最後の審判が起きて、みんなが楽園に入る前にイスラエルが現れる、と。
 それと同時にわれわれが作ったアメリカも、同じような国だ。だからイスラエルを支持しよう。この考え方がトランプの中で強いですからね。だから、娘がユダヤ教に改宗することを全然気にしなかった。

・アラブが今これだけの力を持っているのは、たまたま石油があったからです。本当に怖いのは、イスラム世界ではイランです。イランには、ペルシャ帝国の歴史が入っているので、円環もゾロアスターも持っている。古代の世界帝国を作ってきたのは全部ペルシャ人なので、中東のカギはイランが握っていると思います。イランというのは、ローマ帝国以前の世界帝国だった。ローマ教皇と自分たちは対等だと、今でも思っていますからね。
 中東を安定させようと思ったら、やっぱりイランがカギですね。今のイランが極端な原理主義政権なので、これが続いていったら大変です。イランが怖いのは、核開発を本気でやっていて、それは民主派もリベラル派も支持していることです。「大国であるイランは、核兵器を持つべきだ」と。

・レッドライン外交というのがアメリカの伝統的外交。ここが赤い線で、この線を越えたらアメリカはやるぞと言ったら必ずやる。有言実行の国だったんですが、オバマはシリア問題では結局一線を超えてもやらなかった。それがロシアにつけ込まれる原因になったんです。
 アメリカは、3年間ISと戦っているんです。オバマが宣戦布告をして。地上軍を送らないでやっているのですが、全然効果が上がらないわけです。
 ところがロシアはわずか2カ月間で効果を上げている。
 なぜかと言えば、アメリカは絨毯爆撃ができないからです。ISの特徴はハイブリッド。アルカイダとか日本赤軍とかオウム真理教とかドイツ赤軍とか赤い旅団とか、こういうのはすべてテロの専門家集団ですよね。それに対してISは、ハイブリッド。すなわち市民社会を持っているんです。工場も、農場も、役所も、学校も、病院も持っている。それがモザイク状に入り組んでいるのでどこを攻撃したらいいか、わからないんです。
 本当は絨毯爆撃のほうがいいんですが、それをやったらISが西側のジャーナリストを入れる。そして、子どもが殺されているところ、お母さんが子どもを抱きかかえたまま死んでいるところ、そういう動画や写真を渡して、「これが事実だよ」と伝えます。
 ロシアはまずメディアがそういうことを報じないし、仮にインターネットで報じられても、ロシア国民は「そんなもんだろう」という国民性なので心配ない。
 トランプからすれば、石油がろくに出ないシリアに、なぜ投資しなければいけないんだ、と。ロシアが多少野蛮なやり方で整理してくれるなら、それで構わない
 その代わりイラクはダメ、石油が出るから。だから、むしろ不良債権処理として見たほうがいいかもしれません。シリアとイラク、両方とも不良債権なんだけれど、コスト感覚としてシリアはコスパが合わない。そこの地上げ屋に入っている半分企業舎弟みたいなロシアがいるから、そこにやらせればいいじゃないか、という感覚でしょう。

・韓国は遅れているんです。意外と知られていませんが、韓国のミサイル技術、ロケット技術はいまだに大気圏外にも出すことができません。学力でいうと、韓国が公立中学3年生くらいだとすると、北朝鮮のミサイルは東工大の大学院くらいです。
 だから、韓国は弾道ミサイルと、核兵器がほしいんですね。
 核に関して言えば、日米原子力協定で、日本は六ヶ所村でプルトニウムの抽出、ウランの濃縮をしていますね。ところが韓国は認められていません。韓国の燃料はアメリカの原発からもらうだけなんです。
 どうしてかというと、朴正煕大統領の時代に密かに原爆を作ろうとして、アメリカがそれをやめさせたから。だから、日本レベルでのプルトニウムの抽出とウランの濃縮を認めさせてくれといっても、アメリカは認めません。今後も認めないでしょう。

・北朝鮮の核開発の最大の問題は、あそこでウランが掘れてしまうことなんです。ウランさえ採れなければ、封じ込めは簡単にできるんですが。

・テロには3つの形がある、と言っていました。
 1番目がローンウルフ、一匹狼です。これは自分の心の中でテロをやろうと決めて、誰にも言わないタイプ。
 2番目はローカルネットワークと彼は言っているのですが、夫婦や兄弟で行うテロ。このテロの特徴は、なたやナイフを使う。あるいは自動車のジグザク運転。これは夫婦や兄弟でやるので、情報が洩れません。命を賭けてやるから、最後は当日か前日に決意表明を書いて、インターネット空間に遺書を残す。できるだけ多くの人に見てほしいわけですからね。そこには、パターンとなったフレーズなどがあって、それに特化した検索エンジンシステムを、今、イスラエルは作っているそうです。だいたい20分くらいで見つけられる、と。
 そこに警官が「お話聞かせてください」と訪ねていく。そしてあぶないと思ったら予防拘禁するわけです。実は、日本国政府を暴力によって転覆させようと考えている人たちは、いくらでもいる。革命派とか、中核派とか。ところが、具体的な活動に着手しない限り、これは網にかかりません。
 ところが、イスラムのテロリズムというのは、思いついたら即行動なんです。その間の距離が短いから、近代法的な枠組みの中では脅威を除去できない。だから新しい防止策が必要になるのです。
 3番目は組織テロ、ISなどです。これの特徴は、爆弾を使うこと。自爆テロであるか、時限爆弾であるかを問わず、爆弾をつかうものには組織背景があると考えていい。
 自爆テロリストの養成について聞いたのですが、サンクトペテルブルグで自爆テロがありましたね。あれは1カ月前まではおとなしい青年だったというから、「1カ月で自爆テロリストにできるのか」と言ったら「佐藤、おまえ、何眠たいことを言っているんだ、簡単だよ」と言われた。「どうするの?」と聞いたら「自殺願望のある奴を見つけるんだ」と。
「理由は何でもいい。借金でも、失恋でも、とにかく自殺するってことを決めている奴を見つける」と。そしてこう説得する。「自殺するのは人生の敗者だよな。みじめだ。虫けらのような一生でみんなから忘れられる。でも、自殺ではなく、お前が命を投げ出す決意が重要なんだ。イスラムの聖戦に加わらせてやろう。そこで戦えば、天国に行く道の扉が開く」。


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