Sweet Dadaism

無意味で美しいものこそが、日々を彩る糧となる。

封蝋

2009-02-26 | 春夏秋冬

 一枚のカンヴァスが目の前にあって
 わたしはそこに紅い封蝋をぼたりと垂らす
 紅い封蝋はミルククラウンのようにはじけて
 短い触角が沢山生えた太陽のなれの果てみたいになる


 わたしが「おしまい」と云えばこの絵は完成
 わたしが「まだ途中」と云えば描きかけ
 実際のところはどちらでもない


 じっとりとまだ乾ききらない太陽のなれの果ては
 一時間すればかぴかぴになって
 一年すればぴりぴりわれて
 重力との拮抗具合によっては一部分が剥がれ落ちるし
 ときには全部がぼろりとかさぶたのように取れてしまうことも
 カンヴァスは光を浴びて黄色くなったり反りが入ったりするかもね


 樹木に覆われてゆくアンコールワットの遺跡の
 完成形や終着点がまるで見当つかないみたいに
 この絵がいつ終わるかなんてわたしにはわからない

 封蝋がぜんぶなくなったら、描いた跡形もなくなるからおしまい
 燃えて灰になったら、絵であることがわからないからおしまい

 ほんとうに?



 ほんとうに?