雨の日にはJAZZを聴きながら

FC2 に引越しました。http://jazzlab.blog67.fc2.com/

Soskin McCaslin Gisler 'N' Hammer 『 One 』

2006年02月16日 22時08分53秒 | JAZZ
こういうアルバムは困り者です。名義がマーク・ソスキン,ドニー・マッキャスリン,ファビアン・ギャスラー,マイケル・ハマーの4人の連名になっているんです。誰か一人にしてほしいところですが,ジャケットでスティックを持っている後姿の人物はマイケル・ハマーであるし,ライナーを読めば,マイケル・ハマーがマーク・ソスキン,ドニー・マッキャスリンらに一緒にやろうよと声をかけて結成されたユニットのようなので,一応リーダーはドラマーのマイケル・ハマーと考えてよいのでしょう。マーク・ソスキン以外は全く知らないミュージシャンですし,マーク・ソスキンだって一枚もリーダー作を持っていません。ソニー・ロリンズのバンドに在籍していたということは知っていましたが,なにせロリンズ嫌いなもんで,ほとんどその演奏は記憶にありませんでした。

本作はTCBからのリリースです。ご存知,スイスのジャズ・レーベルで,アルバムをタイプ別にシリーズ化し,わかりやすく4つに色に分類されています。Red Line, Green Line, Yellow Line, Blue Line の4種類ですが,本作のようなstraight Ahead なジャズはRed Lineに分類されています。

さて内容ですが,アメリカのハード・バップ志向の強い比較的素直な演奏です。取り上げている楽曲も,ウエイン・ショーターの<Children of the night>, <United>や,ホレス・シルバーの<Song for my Father>, セロニアス・モンクの<In walked Bud>などで,そのコンセプトもうなずけます。要は,アメリカン・ハード・バップを聴いて育ったスイスの若者,マイケル・ハマーが,有名なアメリカ人と一緒に憧れのミュージシャンの曲を演奏したくて作っちゃったアルバム,てなことでしょうか。

際立った個性的なアルバムではないですし,テナーのマッキャスリンは正直あまり上手くない上,鼻づまりのような伸びのない音色で,いまひとつです。ベースとドラムもこれといって特徴がありません。やっぱり耳はソスキンのピアノに向いてしまいますが,なかなかバッピッシュな軽快なソロを聴かせてくれます。4曲で参加しているカートS・ワイル?というビブラフォンも新鮮な響きがありイイ感じです。

まあ,それほど取り上げる程の傑作ではありませんが,ショーターの2曲,モンクの<In walked Bud>,それに最後のジルベルトの歌で有名なボサノバ,O Pato (アヒル)など,曲が僕の好みなんですね。極端に言えば選曲の妙だけでもっているアルバムではないでしょうか。そんなわけで,なんとなく最近,聴く機会の多いアルバムです。

Michael Naura Quintet 『 European Jazz Sounds 』

2006年02月15日 21時26分54秒 | JAZZ
ミハエル・ナウラの<幻の名盤>と言われ続けた『 European Jazz Sounds 』が澤野工房からCDで再発になりました。このアルバムは以前にやはり澤野工房からLPで復刻されたことがあるのですが,その時は買いませんでした。というのも,昔は<幻の名盤>という言葉に惑わされて数多くの駄作を買い集めて,ずいぶん無駄金を使ってしまったので,最近はそんなまやかしの甘い言葉には騙されなくなったからです。澤野のオンラインショップでLPで復刻された際も,どうせレアなだけで大した内容ではないだろうと半ば馬鹿にしておりました。

でも,先日,秋葉の石丸電気でこのCDが店内で流れていたんですね。フィル・ウッズのようなメタリックでスピード感のあるアルトに瑞々しいビブラフォンの音色が絡む熱いハード・バップでした。熱いとは言っても米国のハード・バップより温度感は低く,手法は米国的であっても出てくる音は非常に繊細でクールな響きをもっていました。数分の試聴?で一目ぼれでした。そして,誰のCDだろうと思ってレジ脇にディスプレイされてあるジャケットをみたら本作だったわけです。売り場でも一番目立つ目線の高さに<面おき>されていて,店として強くプッシュしているようでした。店内でかかっているのを買うのは抵抗があるので,後日あらためて出直しで先日やっと買ってきた次第です。

このミハエル・ナウラというピアニストは初耳でしたが,ジャズ批評別冊「ヨーロッパのジャズ・ディスク」(1998年)によると,ロシア生まれのベルリン育ち。ベルリン大学では政治ジャーナリズム,哲学を学ぶ傍ら,ジャズのクラブ,フェスティバルで活躍したそうです。60年代に入りモード手法も取り入れ,ドイツのジャズの牽引者として活躍し,63年に本作を発表。しかしその直後に健康を害し活動停止。71年には北ドイツ放送のジャズ部門のヘッドに就任したそうです。本作以外には70年代にはECMから数枚アルバムを出しているようです。「ヨーロッパのジャズ・ディスク」には,巻頭のカラー・グラビアで星野秋男氏が「入手に苦労したアルバム」として紹介しています。

録音もよく,演奏も充実していて,誰にでも自信をもって推薦できるアルバムだと思います。こういう<幻の名盤>の復刻なら大歓迎なんですけどね。本作も今回の復刻で<幻>の王冠が取れて,誰でも手に入る<名盤>として沢山のジャズ・ファンに愛されるようになったわけです。あらためて澤野工房の目の付け所に脱帽です。今年になって買ったCDの中では一番頻繁にトレーに乗せているアルバムです。やっぱり60年代の管入りハード・バップはイイですね。

Jesse Van Ruller 『 Views 』

2006年02月14日 22時17分36秒 | JAZZ

 

我が家のトイレには妻の愛読書の倉田真由美著「だめんず・うぉ~か~」「突撃くらたま24時」や,僕のジャズ関連の文庫本が沢山積まれていて,夫婦そろってトイレが一番の読書スペースになっているんですが,今日トイレで例のごとく寺島靖国氏の「サニーサイド ジャズカフェの逆襲」をぱらぱらめくっていたら,意外な記事が載っていました。なんと最近はライブドア問題で何かと話題のフジテレビ会長,日枝久氏と寺島氏とは,都立杉並高校の同級生で,しかも日枝会長もジャズ・ファンであるというのです。高校時代に日枝会長よりもジャズに関しては詳しかった寺島氏は,日枝会長に向かって,「日枝,君はもうちょっとジャズを勉強してからおいで」と言ったそうです。現在,日枝会長室にはステレオ一式が置いてあり,そこでは,毎日ジャズが大音量で鳴っているんですって。ちょっと日枝会長に対する見方が変わりませんか。意外にイイおじさんかもしれないな~。

さて,ジャズのお話ですが,今日はCriss Crossの新作から,ジェシ・ヴァン・ルーラーの『 Views 』を紹介したいと思います。今回のメンバーは2002年の『 Circles 』と同じく,シーマス・ブレイク(ts),サム・ヤヘル(or),ビル・スチュアート(ds)のカルテット編成です。彼は多彩な編成でアルバムを制作していますが,彼自身が最も力を入れているのがギター・トリオのようです。でも僕はむしろサックスやトランペットとの競演物の方が好きで,ギター・ソロを永遠聴き続けるのは,ちょと辛い。そんなわけで,愛聴盤は『 Circles 』あたりになるわけですが,これが非常にかっこよかったんですね。ジョシュア・レッドマンの「エラスティック・バンド」でファンキーなオルガンを弾いているサム・ヤヘルが参加しているので,単純な4ビートだけでなく,それこそ「エラスティック・バンド」みたいな8ビート,決め物が数曲入っているかと思えば,オルガンをバックに静かでクールなギター・ソロの聴けるM-3<Here Comes The Sun>なんか,すっごく都会的な感じで,気に入っていたのですが,さて今回の新作の出来はいかがでしょうか。

今回は全曲,ルーラーのオリジナル曲ですが,基本的に『 Circles 』とイイ意味で変わっていません。ハモンドをバックにして繰り広げられるギター・バラードなども健在で,この手が好きな人にはたまりません。ほんとギターとハモンドは相性がいいです。古いところではグラント・グリーンとラリー・ヤング,パット・マルティーノとドン・パターソン,最近では,ピーター・バーンスタインとラリー・ゴールディングス,ポール・ボーレンバックとジョーイ・デフランセスコなど。どれも麻薬的な魅力があります。

ルーラーのアルバムに出来,不出来などないでしょうから,こうなるともう<好き>か<嫌い>かの問題です。僕はこの編成が無条件で好きだし,なんといってもサム・ヤヘルのハモンド・ファンなので,このアルバムも当然丸ですが,人によっては,「もっとルーラーのギターが聴きたいよ~」と,ちょっと欲求不満になるかもね。
 


P.S. Criss Crossの新作を見たら,またデヴィッド・ヘイゼルタインの新譜が出てました。え~,この前ヴィーナスから「クレオパトラの夢」が出たばかりだし,それにSharp nineからだって「Modern Standards」出してたじゃない。ちょっとペース速すぎです。買えません。結局,上記のルーラーの新譜とジム・ロトンディーの新譜「Iron Man」だけ買って帰りました。



 


Ethan Iverson 『 Live at SMALLS 』

2006年02月12日 21時02分28秒 | JAZZ

前回,前々回と,NYのグリニッジ・ヴィレッジのジャズ・クラブ「smalls」関係のアルバムを紹介しましたので,ついでにもう一発,smallsでのライブ盤を取り上げてみたいと思います。今やThe Bad Plusのピアニストと言った方がわかりやすいポスト・モダンの急先鋒ピアニスト,イーサン・アイヴァーソン(Ethan Iverson)のアルバム,『 Live at SMALLS 』(2000年,FSNT 091)です。メンバーはビル・マクヘンリー(ts),リード・アンダーソン(b),ジェフ・ウィリアムソン(ds)のカルテット編成です。ビル・マクヘンリーはマーク・ターナー,シーマス・ブレイク,クリス・チークなどなどと同じく,いわゆるブルックリン派の一人ですが,ポテンシャルは十分なのに今ひとつはじけない,中途半端なポジションに甘んじているテナーマンだと思うのですが(その点,マーク・ターナーと似ているかも),ここではなかなか豪快でエモーショナルな演奏が聴けます。ベースのリード・アンダーソンはThe Bad Plusのメンバーでもありますが,同バンドでの低域を持ち上げたアンプ臭いミキシング音とは違って,ごく普通のジャズ・ベーシストを演じてます。

もともと僕はThe Bad Plusがあまり好きではないのですが,イーサン・アイヴァーソンのソロ・アルバムはまあまあ聴けます。彼の音楽は<クラシック発,ロック,フリー経由>でたどり着いたジャズなので,僕のようなおじさんの保守派ジャズ・マニアは,どうしても嫌悪感を感じてしまうのです。彼のフレーズには歌を感じないし,無機質的なアウトの仕方も違和感を感じます。新しいジャズだと言ってしまえばそうなのかもしれませんが,最近のESTなどと同じように,作為的なポスト・モダンの香りがプンプンして,ちょっとキワモノっぽい,偽者っぽい印象を受けてしまいます。そんな彼ではありますが,サックスのバックに回った時には,結構素敵に変身し,魅力的な旋律を奏でてくれるんですね。先日もお話したクリス・チークの2枚のライブ盤, Guilty Lazy Afternoon   (FSNT)や,今日紹介する『 Live at SMALLS 』などは,僕の愛聴盤であります。この『 Live at SMALLS 』はほぼ全曲,スタンダードで,<Night and Day>にはじまり,<Look of Love>, <Have You Met Miss Jones>, <How High The Moon>, <You’ve Changed>などを素直に演奏しています。彼はFSNTから4枚アルバムを出していると思いますが,その中では本作が一番とっつきやすいと思います。ジャケットが有名な『 Construction Zone 』と『 Destruction Zone 』とでは,スタンダード集である『 Destruction Zone 』の方が聴きやすいです。オリジナル集の『 Construction Zone 』はフリー系の曲が多く,最後まで通して聴けません。

ということで,僕はあまりアイヴァーソンやThe Bad Plusを評価していないのですが,ロック世代の若者には結構ウケが良いようです。

 
ジャケットが面白いので,両方揃えたくなるけど,どちらか1枚というなら迷わず『 Destruction Zone 』の方がいいよ。


Renee Rosenes 『 Life on Earth 』

2006年02月11日 21時46分07秒 | JAZZ
あまり大きな声で「このアルバムが好き」とは言えないのですが,結構好きで聴いています。リニー・ロスネスは87年にOTBのピアニストとして脚光を浴びて以来,一貫してBlue Noteから作品を出してきました。最近では名プロデューサー,木全信(きまた まこと)氏のKEY'STONEから「ドラモンズ」名義で,いかにもお金になりそうな綺麗なアルバムをリリースしていますね。僕が好きなアルバムはほとんど90年代のBlue Noteの作品なんですが,一番はストリングスの入った『 Without Words 』。二番がニコラス・ペイトン,クリス・ポッターらとの『 Ancestors 』。そして三番がここで紹介する『 Life on Earth 』です。

このアルバムは,ちょっと変わった編成で,タブラ,バイオリン,貝,マリンバ,それに変な声まで入っていて,一般的には敬遠されがちなアルバムです。エキゾチック,オリエンタル,ワールド・ミュージック,などといった言葉が合いそうな曲が多いですが,中には映画音楽風のストリングス入りの曲もあったり,かと思うと,ごく普通のそれこそ「ドラモンズ」風のピアノ・トリオがあったりと,統一感のない内容になっています。そのあたりが酷評される所以なのかもしれません。でも,このごちゃ混ぜ感が楽しくて,つい手が伸びちゃうアルバムです。そしてなんと言っても僕のお目当てはM-3<Ballad of the Sad Young Men >です。この曲はロバータ・フラックの1969年のデビュー・アルバム『 First Take 』がオリジナルですが,原曲のとっても切ないバラードをそのままピアノに置き換えたような名演だと思います。この『 First Take 』には<First Time Ever I Saw Your Face >というこれまた切ないバラードが収められていて,なんとも言えない当時の空気感が詰まった名盤です。

というわけで,お勧めはできないアルバムですが,ジャケットは一見の価値あるでしょ。こんなに綺麗にリニーが撮られている写真,ないんじゃないの。まさに奇跡の一枚ですね。

William Ash 『 the phoenix 』

2006年02月11日 19時46分15秒 | JAZZ
一昨日,取り上げたオマール・アヴィタルのアルバムはグリニッジ・ヴィレッジのジャズ・クラブ「small’s」でのライブで,レーベルもsmall’sの経営するsmalls recordsでした。そう言えば昨年発売されたアリ・ホーニッグのDVD『 Kinetic hues 』もsmalls recordsからの発売でした。でもあれは「small’s」のライブではなく「fat cat」でのライブでした。何でなのと思って調べてみたら,なんてことはない,2つのお店は姉妹店でした。元々グリニッジ・ヴィレッジにsmall’sがオープンしたのですが,狭かったために店を閉めて,同じグリニッジ・ヴィレッジの近所により大きな箱としてfat catをオープンさせたんですね。Fat catにはビリアード,バックギャモン,チェスなども置いて,より快適にくつろげるジャズ・バーを目指した作りになっていたようです。でも人気が出てきたため,昨年,small’sを以前あった場所に再オープンさせたというわけです。両店とも安くて若手のマイナーなミュージシャンがほぼ日替わりで聴けるという点で共通のコンセプトを持っています。

今日はそんな流れで,smalls recordsからの一枚,ウィリアム・アッシュ(william ash)の2001年のアルバム『 the phoenix 』を取り上げてみました。彼は以前,古いsmall'sがあった頃,6年間にわたり毎週レギュラーで出演していたようです。彼のスタイルはウェス・モンゴメリー風というか,ウェスにそっくりに弾きます。ギターもgibson L-5 でこれもウェスと同じ。色はナチュラルですが。ピッキングまで親指弾きですから,ここまで徹底的に真似するとそれだけで脱帽です。おそらく,現在のNYの第一線で活躍中のジャズ・ギタリストの中でウェス・スタイルで弾くのは彼だけではないでしょうか。

こうも似てると当然,本家のウェスの演奏と比べてしまいますが,やはり全然ウェスの方が巧いんですね。特にオクターブ奏法などは,雲泥の差です。アッシュは音に切れもないし,アップ・テンポの曲では音の粒に乱れもある。あらためてウェスの凄さを再認識するという皮肉な結果になってしまいした。雑誌などでは彼は「若き天才ギタリスト」などと評されていますが,僕にはあまり天才を感じませんね。このくらいの上手いギター弾きはいくらでもいそうだし,日本人だってこのくらいはみんな弾けるんじゃないの。ウェスを真似させたら宮之上貴昭さんの方がよっぽど上手いと思うしな~。ギター・トリオで72分飽きさせず聴かせるにはちょっとテクニック不足な気がしないでもない。ということで,僕はこのアルバムしか持っていません。

William Ash 『 the phoenix 』2002 smalls records SRCD-0006
William Ash (g)
Dwayne Burno (b)
Mark Taylor (ds)

the omer avital group 『 asking no permission 』

2006年02月09日 21時01分33秒 | JAZZ
今日,4月からの人事がほぼ決定しました。僕は都内某大学附属病院の医局員で,今は都内の民間病院に出向という形で勤めているのですが,4月からは千葉県の病院に異動になりそうです。現在の病院は救急もなくかなり時間の余裕がある病院なので,こうしてブログ書きもできるのですが,4月からの病院は救急もガンガンやる総合病院で,毎日帰宅するのが10時過ぎになってしまうような第一線の病院です。数年前に4年間務めていたので内情はよく知っているので働きやすいことは働きやすいのですが,そうなると今のようにブログなど書いている暇がないんじゃないかと今から心配です。恐らく週末ブロガーになってしまうでしょう。トホホです。しかも今年末には専門医関係の試験もあり,ますます忙しくなりそうで,今から戦々恐々としています。でも,毎日とはいかないまでも,暇を見つけてはブログを更新していくつもりですので,どうかよろしくお願いいたします。

さて,ジャズのお話に戻りますが,昨日,仕事帰りに例のごとく御茶ノ水DUに寄って数枚仕入れてきましたが,その中からの1枚。OAMのベーシスト,オマール・アヴィタルのリーダー・アルバム『 asking no permission 』を取り上げてみたいと思います。メンバーはアヴィタルのベースに,アリ・ジャクソンのドラム。そしてフロントはマーク・ターナー,グレゴリー・ターディー,マイロン・ウォルデン,チャールス・オーエンズの4管という豪華顔ぶれです。ジャケットのクレジットを見て即買いしてきたCDです。このアルバム,新譜かと思って買ったのですが,実は1996年のライブ録音なんですね。NYCのダウンタウンにあるライブハウス,Small’s でのライブです。このSmall’sは20ドルほどで有能な若手売り出し中のミュージシャンが深夜遅くなで聴けるライブハウスとして人気がありますが,当時としてはまだみんなメジャーデビュー前の新人で,熱気が感じられるすごくダークでスピリチュアルな演奏です。マーク・ターナーなども,先日ご紹介したワーナーからのアルバム群に比べて,かなりワイルドにブローしています。まるで別人です。アルティストのマイロン・ウォルデンは「アルトを持ったコルトレーン」と僕は勝手に評価しているのですが,今,手元のある彼のデビュー・アルバム『 Hypnosis 』のライナーを見たら,同年に『 Hypnosis 』のデビュー作を祝ったライブを同じSmall’sで開いているんですね。ニグロ臭ぷんぷんで,ファズトーンで歪んだフレーズで叫びまくりです。楽曲は1曲以外全部アヴィタルのオリジナルで,何処となくユーモラスな,ちょっとミンガス・バンドみたいな曲が多いです。録音もまあまあで,何しろ小さな箱の最前列で観ているような臨場感があり,歓声,拍手も怖いほど生々しく,特にアリのドラミングなどリアリティーが強烈でgoodです。1990年代には,NYCのいたるところで何か新しいジャズをやろうと暗中模索しているこのような若きミュージシャンが夜な夜なライブを繰り広げていたのでしょうね。

Paul Motian 『 Garden of Eden 』

2006年02月07日 20時52分33秒 | JAZZ
ポール・モチアン・バンドの『 Garden of Eden 』(エデンの園)が発売になりました。詳しい記載がありませんが,90年代のポール・モチアン・エレクトリック・ビバップ・バンド(以下EBBB)の最新作と考えてよさそうです。ポール・モチアンという人はどうしてもビル・エバンス・トリオの黄金期のドラマーという形容がされがちですが,実際にはその後の活動の方が長く,評価されるべきものだと思います。でも,どうしてもビル・エバンス・トリオの呪縛から逃れられず,その反動で,彼自身のリーダー・アルバムにはピアノレスが圧倒的に多いという皮肉もあります。彼のリーダーとしての活動には大きな柱が2つあり,ひとつは80年代から現在まで続くビル・フリーゼル,ジョー・ロヴァーノらとのトリオとしての活動。もうひとつは前述した90年代からのEBBBとしての活動です。EBBBとしては,知るかぎり6枚のアルバムをリリースしています。第1作~第2作がBAMBOOからで,第3作~第6作がWinter&Winterからの発売でした。最初は1テナー,2ギター,ベース,ドラムの編成で始まりましたが,第2作目からは2テナー,2ギターが基本構成になっています。今までに在籍したテナー奏者には,デビュー間もないジョシュア・レッドマン(第1作),クリス・ポッター,クリス・チーク,ピエトロ・トノロらがいます。ギターではカート・ローゼンウィンケル,ウォルウガング・ムースピール,スティーブ・カルディナスらがいます。いわゆるブルックリン系の先鋭達のユニットであったわけです。その名前が示すように,エレキギター2本とテナー2本でビバップを演奏するという趣旨で結成されたユニットでしたが,徐々にオリジナル曲の比率が多くなり,第6作の『 Holiday for strings 』あたりになると,だいぶビバップ色は薄らいできていました。

さて,今回の最新作はEBBBとしては初のECM盤になります。とはいっても録音はNew Yorkのアバター・スタジオで,エンジニアはまたまたおなじみジェームズ・ファーバーですけどね。年月が経つごとにビバップ色が弱まってきたこともあり,レーベル移籍を期にいっそうの事,ユニット名からビバップを外してしまおうと考えたのでしょうか。今回は単純に「ポール・モチアン・バンド」と表記されています。でも編成,演奏内容は今までと変わらず,3ギター,2テナー,ピアノレスであります。ギターは以前からのメンバーであるスティーブ・カルディナズ,カルディナスと同系色のベン・モンダー,それから無名の(ただ僕が知らないだけか)ジャコブ・ブロの3人で,いずれもビル・フリーゼル系のディレイ,ボリューム・ペダルの業師達です。そしてテナーにはEBBBの以前からのメンバーであるクリス・チークと,新たに今やニューヨーク若手ナンバー・ワンのトニー・マラビーが参加しています。否応なしに期待が膨らむメンバーですが,はたして出来も素晴らしいものでした。前作『 Holiday for strings 』よりもバップの楽曲を多く取り上げているのが好感が持てます。なにしろM-1<Pithecanthropus Erectus>(直立猿人),M-2<Goodbye Pork Pie Hat >と,2曲続けてミンガスの楽曲を取り上げていて,モチアン独特のハーモニー感覚が美しく,テーマのギター,サックスのユニゾン・ラインが「やっぱりEBBBBはこうでなくちゃねー」とにんまりの美旋律を奏でています。ただ,ミンガス,モンク,パーカーの楽曲を取り上げているものの,全14曲中9曲がオリジナル曲であり,昔のEBBB,たとえば僕が一番愛聴している『 Reincarnation of a Love Bird 』(Banboo 1994)のような親しみやすいバップ一色のスウィンギーで楽しいアルバムに比べると,やや聴き手を選ぶアルバムかも知れません。

聴き所はなんと言ってもトニー・マラビーとクリス・チークでしょうか。クリス・チークがセンター左に,トニー・マラビーがセンター右に定位し,二人が極上のハーモニーを奏でます。バンドの性格上,二人のテナー・バトルといった趣はありませんが,各ソリストのバップ・ソロの受け渡しが心地よく,上品なアンサンブルに仕上がっていてます。

ポール・モチアンは1931年生まれですから今年で75歳です。今でもこうしてオリジナル曲を書き,孫ほど年齢の離れた若手先鋭ミュージシャンとバンド活動を積極的に続けていくそのバイタリティーには,ただただ敬服するばかりです。

Avishai Cohen 『 The Trumpet Player 』

2006年02月05日 17時07分17秒 | JAZZ
先日,ブログ「Jazz&Drummer 」の管理人naryさんと,「サックス・トリオ」の話をしていた際,「そういえばトランペト・トリオって聴いたことあったかな~」とおっしゃっていたので,「いやいや,ありますよ~,naryさん。しかも上物が。」ということで,今日はアビシャイ・コーエンの『 The Trumpet Player 』(FSNT)を取り上げてみました。

久しぶりに取り出して聴いておりますが,いつ聴いても気分爽快,スッカっとする実に爽やかな吹きっぷりです。で,兎に角巧い。こんな凄い奴が今まで何処に潜んでいたんでしょう。このアルバムを僕が知ったのは昨年3月に発売になったジャズ批評No.124 「トランペット最前線2005 」のインタビュー記事で取り上げられていたのがきっかけでした。この記事では本作を「驚天動地の傑作」と絶賛していました。けっして過剰広告ではなく,本当に凄かった。好みにもよりますが,トランペットは荒削りでも不良っぽく,ブリブリ吹きまくる方が好きなのですが,まさに彼はそんな願望を満たしてくれる理想型です。僕は基本的にピアノレスが好きじゃないのですが,本作はそんなハンディーを差し引いても余りある出来の良さだと思います。

現代イケメン・トランペッター3人衆と言えば,クリス・ボッティー,ティル・ブレナー,そしてアビシャイ・コーエンかと思っているのですが,他の2人が軟派路線であるのに対し,コーエン君は硬派であります。台所に無造作にトランペットを置いて,チューニング管をタオルで拭いちゃったりもします。こんな男っぽいコーエン君はイスラエルのテルアヴィブ生まれなんですが,年齢不詳。必至に検索したのですが,ヒットするのはベーシストのアビシャイ・コーエンの年齢だけ。写真からは30歳代前半ぐらいに見えるけど。8歳からトランペットを吹き始め,10歳時にはビック・バンドに在籍していたと言うのですからやはり天才肌なのでしょう。若い頃は様々なジャンルをこなし,スタジオやTVの仕事がメインだったようです。1997年にボストンに移住しバークリー音楽院に籍を置き,同年のセロニアス・モンク・コンペティションのトランペト部門で3位に入賞しています。現在,いくつかのバンドを掛け持ちしていますが,メインの活動はイスラエル人だけで構成された<Third World Love >のようです。このグループのアルバムは,Fresh Sound World Jazzから発売になっていますが,ラテン,ロックなどの色調が強そうで,僕の守備範囲外の危惧もあり,所有していません。なにしろ,Avishai Cohenで検索すると,同名ベーシストの記事ばかりヒットし,このトランペッターのコーエンの記事が埋もれて見つけずらいのですが,おそらく,彼のリーダーアルバムは本作『 The Trumpet Player 』だけのようです(間違っていたらすみません)。こんなに巧いんだから早くメジャー・デビューして欲しいですね。

ベースのアビシャイ・コーエンのHP  http://www.avishaimusic.com/
トランペットのアビシャイ・コーエンのHP  http://www.avishaicohenmusic.com/
ややこしいです。

本作はこちらで試聴できます。

Avishai Cohen 『 The Trumpet Player 』FSNT 161CD
Avishai Cohen (tp)
John Sullivan (b)
Jeff Ballard (ds)
Joel Frahm (ts) 3曲に参加

Kasper Villaume 『 Hands 』

2006年02月04日 22時14分49秒 | JAZZ
今日は,午後から勉強会が麹町であったので,その帰りに久しぶりに御茶ノ水のDUに寄って,数枚新作を買って帰りました。お目当てはキャスパー・ヴィヨームの最新作『 Hands 』とヘルマン・クシチの『 Y despues…Que? 』だったのですが,ついでにポール・モチアン・バンドの『 Garden of Eden 』,デイブ・ペックの『 Out of Seattle 』なども買ってしまいました。まずはヴィヨームの『 Hands 』を聴いてみました。今回のアルバムは,今までのラーシュ・メラーに代わってクリス・ポッターが参加しています。ドラムとベースもクリス・ミン・ドーキーとアリ・ジャクソンに代わってします。さて,出来はどうでしょうか…..。

いや~,素晴らしいです。かなり気合が入っています。これは“買い”です。正直,今まで僕はクリス・ポッターがあまりピンとこなかったですが,ここでのソロは凄いです。M-2<Captain Kirkland >などのモーダルな楽曲でのスピード感,疾走感のあるお得意うねうねソロは爽快です。ラーシュ・メラーとの快作『 Outrun 』,『 #2 』が霞んでしまうほど,ヴィヨームとポッターの相性は良いです。ヴィヨーム自身のライナーによると,今回のメンバーとの録音は彼の夢だったようです。かなり前から彼らとの録音を想定してオリジナル曲を書いていたようです。プロデューサーは前作『 117 Detmas Avenue 』同様,クリス・ミン・ドーキーで,録音エンジニアはご存知ジェイムス・ファーバーです。中高音域のクリアでシャープなミキシングは現代ジャズ録音のスタンダードになりつつあります。

ドラムのアリ・ジャクソンがなかなか巧いので,どんなアルバムに参加しているのかちょっと検索してみたら,カート・ローゼンウェッケルの最新作『 Deep Song 』で叩いてました。このアルバムはローゼンウェッケルの中では一番好きなアルバムなんですが,てっきりジェフ・バラードが叩いていると思い込んでいましたが,半分の曲でアリ・ジャクソンが叩いていたんですね。これから注目のドラマーかな。

いつもながら,買ってきたその日に聴きながら書いているので,なんとも漠然としたコメントになってしまいましたが,好き嫌いは別として,出来は良いのは間違いないでしょう。ヴィヨーム万歳。ポッター万歳。

Kasper Villaume 『 Hands 』stunt STUCD 05122
Kasper Villaume (p)
Chris Potter (ts,ss)
Chris Minh Doky (b)
Ali Jackson (ds)

P.S.始めにお茶の水DUに寄ってこのCDを2510円で購入。その後,秋葉石丸輸入盤フロアに寄ったら,なんと2289円で売っていた。がっくり。ヘルマン・クシチの『 Y despues…Que? 』もDUで3035円もした。高け~。

それにしても,またSTUNTのCDは裸で入っていた。しかもきつきつ。誰かジャケット破かなきゃいいけど。6面観音開きのデジパックでコストかけているんだから,もう少し考えて欲しいな。

Charlie Haden 『 American Dreams 』

2006年02月01日 21時34分27秒 | JAZZ

ここ二日間は,ブラッド・メルドーがサイドマンで参加したテナー奏者のアルバムとして,クリス・チークの『 Blues Cruise 』,マーク・ターナーの『 In this world 』を取り上げましたが,今日はその流れでチャーリー・ヘイデンの『 American Dreams 』を引っ張り出してきました。一応チャーリー・ヘイデンのリーダー・アルバムですが,メンバーはマイケル・ブレッカー,ブラッド・メルドー,ブライアン・ブレイドのカルテット編成で,曲ごとに優雅で上品なストリングス・アレンジをやらせたら右に出るものがいないアラン・ブロードベント様と,これまたつまらぬ楽曲もアレンジ力で名作に変身させてしまうヴィンス・メンドーサがアレンジを担当しています。ここまで役者をそろえれば出来が悪いはずもなく,まさにアメリカン・ドリームを想起させる名盤の出来上がりです。

以前から当ブログでチャーリー・ヘイデンの悪口を言ってきた僕ですが,まあ,相変わらず自分の緩んだパンツのゴムひもを転用して張っているんじゃないかと疑いたくなる弦で,ボーン,ボーンとキレの悪い音を出しています。何で左手親指をネックの後ろに置かないんだ。弦は指を垂直に立てて押さえると習わなかったのか。何故ネックを鷲掴みにするんだ。右手は何で人差し指一本しか使わない。何でそんなに体を揺らす。そもそもなんだその顔は
……。と,言いだしたらきりがないのでこのあたりで止めますが,どうしてヘイデンって,一流ミュージシャンに可愛がられるのでしょうかね~。メセニー,ブレッカー,キースなどから信頼を得ている根拠とは何なんでしょうか。確かにフレージングに“歌”がありますけどね。

話は戻しますが,このアルバムはぼぼ全曲がバラードという構成で,ブレッカーがまるで自分のリーダーアルバムかのように吹きまくっているのが売りです。恐らく,ブレッカーがアルバム一枚を通してバラードだけを演奏しているのは
2001年の彼のリーダーアルバム『 Nearness of you 』と本作だけだと思います。基本的に本作も『 Nearness of you 』の延長線上のアルバムと言ってよいと思います。今回,この記事を書くにあたりgoogleで『 American Dreams 』を検索したのですが,ほんと沢山ヒットしてきました。みんなこのアルバム好きなんですね。中には普段ジャズを聴かない人まで褒め称えています。「チャーリー・ヘイデンというジャズのベーシストのアルバムで,とっても癒されました。超おすすめ。」なんてね。

M-2Travels>(パット・メセニー作)のメルドーのソロ。絶品です。なんでこの人はこんなに美しく心悲しいフレーズが弾けるのでしょうか。心の中の奥底に眠っている思春期の悲しい記憶がふーと,蘇ってくるような切ない音。ブレッカーの哀愁のフラジオで泣き,さらに,メルドーの切ないソロでまた泣く。ブレイドのブラシュも哀切な音で歌ってます。いや~,ホント沁み入るアルバムです。「なんかとっても癒されました。超おすすめ。」なんてね。

                   
2001年のブレッカー初のバラード・アルバム。メセニー,ハンコック,デジョネットのオールスターズ。更にジェームス・テイラーが2曲で参加。ハンコックも頑張って慣れないリリカル・フレーズ連発してますが,やっぱりメルドーの方が深い。