雨の日にはJAZZを聴きながら

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2007年極私的愛聴盤20選(新譜)

2007年12月26日 23時24分38秒 | JAZZ
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左上から右下に向って

1) Simona Premazzi / Looking for An Exit
ミラノ出身で現在はニューヨークで活躍中の女性ピアニスト,シーモナ・プレマッツィのデビュー作。イタリア独特の叙情的ジャズ手法とアメリカのアンダーグラウンド的先進性が融合した不思議な世界の中で響く,低音を強調した強力な左手の重厚なコード感と音間の跳躍の激しい奇抜な右手のライン。そして微妙に揺らぐ独特のタイム感。アリ・ホーニグとジョー・サンダースのブルックリン派のサポートも魅力的です。

2) Tigran Hamasyan / New Era
アルメニア共和国出身の若干20歳のティグラン・ハマシャンの『 World Passion 』(2006)に続く第二弾。今回はムタン兄弟の最強リズム隊がサポート。昨年のセロニアス・モンク・コンペティションで優勝している実力の持ち主です。アントニオ・ファラオあたりを彷彿させる疾走感のある超絶技巧派。

3) Mariano Diaz / Plan B
マドリッドを中心に活躍しているピアニスト,マリアーノ・ディアスのデビュー作。ペリコ・サンビートやOAM Trio のマーク・ミラルタが参加しているのに惹かれて購入したらこれが大当たり。ディアズのオリジナル曲はどれも硬質で都会的な機微に富んだ楽曲だが、とりわけ1曲目の疾走感抜群のモーダル楽曲≪ Zuco de laranja ≫が白眉だ。ペリコ・サンビートも激情的に吹きまくり否応なしに高揚感が高まる秀作。

4) Evgeny Lebedev / Fall
1984年モスクワ生まれのピアニスト、エヴジェニー・レベデフの2005年録音のデビュー盤。スパルタニズムなロシア音楽教育で鍛え上げられた強靭な左手から繰り出されるソリッドなリフに乗せて始まる冒頭の≪ Footprints ≫が圧巻。若い世代だからこそ生まれ得るポップな語法に満ち溢れた作曲能力も素晴らしく、特に,陰影深く夢幻的な美しさを纏った抒情的バラード・プレイは20歳そこそこの少年が紡いでいるとは俄かに信じられません。

5) Kiyoshi Kitagawa / I'm Still Here
ピアノがケニー・バロンからダニー・グリセットに交代して,より都会的で知的なトリオ・サウンドになった。個人的には本作が北川潔のベスト。

6) Hadrien Feraud / Hadrien Feraud
今話題のフランス人ベーシスト,アドリアン・フェローのデビュー作。馬鹿テク好きにはたまらない一枚かも。昔,ジャコのコピーは必死にトライしたが,アドリアン・フェローはコピーする気も起きない。ただただ唖然。やや楽曲としてはおもしろみに欠けるのが唯一の難点。

7) Avishai Cohen / As Is...Live at The Blue Note
アヴィシャイ・コーエンの通算8枚目の新作。今回はCD&DVDの2枚組で,CDには全7曲が収録され,最後の ≪ Caravan ≫ 以外は全て旧作に収められていた彼のオリジナル曲。コーエン・ファンには馴染みの美曲揃い。一方、DVDの方は全7曲で、その内4曲はCDに収められた曲と同曲、同バージョン。3曲にジミー・グリーンが参加している。

8) Andrea Sabatino / Pure Soul
1981年,イタリアのガラティーナ生まれのトランぺッター,アンドレア・サバティーノのデビュー作。3曲でファブリツィオ・ボッソが客演しているが,ボッソ参加という付加価値を抜きにしても素晴らしいファンキー・ハード・バップ作品だ。

9) Bert Joris / Magone
ブリュッセル・ジャズ・オーケストラで有名なベルギーを代表するベテラン・トランぺッター,バート・ジョリスの最新作。フランコ・アンブロゼッティを彷彿させる気品に満ちあふれた優雅な演奏。そのアンブロゼッティとも共演歴の長いダト・モロニが本作にも参加。モロニの切れ味鋭い技巧的プレイも凄い。

10) Michael Brecker / Pilgrimage
マイケル・ブレッカー伝説の最終章にして,彼の最高傑作。死を目前に自覚しながら,何故,これほどまでに研ぎ澄まされた精神を維持できるのか。凄まじい集中力で書き上げたエピタフがここにある。

11) Chris Potter / Follow The Red Line
クリス・ポッターの最新作は2枚同時発売。一枚は管楽器、弦楽器、リズム隊からなる10人編成のラージ・アンサンブル作品の『 Song For Anyone 』。そしてもう一枚は前作『 Underground 』と同メンバーによるライブ盤『 Follow The Red Line 』。どちらがイイなんて言えない。今日は『 Song For Anyone 』を聴いて,明日は『 Follow The Red Line 』を聴く。変な所へ飛んで行き、翻って捻じれ捻じれて戻ってくる、いわばメビウスの輪のようなクリポタのアドリブ・ライン。もうめちゃくちゃカッコいい。

12) Chick Corea / Five Trios Series No.4
先日,ついに6枚組ボックス・セットが発売させてしまった。一枚づつ買って来た僕は当然,ボックスセットは買えない。本当はボックス・セットに入っているアドリアン・フェロー,リッチー・バーシェイ参加の5枚目が一番聴きたいのに。No.4はエディー・ゴメスとアイアート・モレイアのトリオで,アイアートのパーカッションとボーカルがフィーチャーされた異色作。ラテン度高く一番のお気に入りだ。

13) Simon Spillett / Introducing
1974年イングランド生まれのテナー・サックス奏者,サイモン・スピレットのデビュー作。Bebopの常套句をこれでもかというくらい超高速で連発し,アドリブを作り上げるタイプ。古い言語なのに巧いからおもしろい。まさに半世紀の時空を超えて現代に蘇ったタビー・ヘイズ,と言ったところか。

14) Jimmy Greene / Gifts and Givers
ニューヨーク・ジャズ・シーンの今を伝える超豪華メンバーが集結したジミー・グリーンのcriss cross 最新盤。マーカス・ストリックランドに挑発されてジミーもいつもより捩れ度高し。2人揃ってウネウネと気持ちのよいアドリブを披露。コルトレーンのM-5≪26-2≫は、超難解なためコルトレーン自身も上手に演奏できず,彼の死後「The Coltrane Legacy 」(Atlantic)に収められた難曲。最近はSF Jazz Collective やフレデリク・クロンクヴィストなど、若手ミュージシャンも取り上げており、隠れたコルトレーンの名曲。

15) Nils Wogram and The NDR Bigband / Portrait of a Band
ドイツ人トロンボーン奏者、ニルス・ワグラムが、ドイツの4大公共放送局ビッグバンドの一つ、NDR(北ドイツ放送協会)ビッグバンドと共演した作品。盟友サイモン・ナバトフも参加し、非常にバラエティーに富んだ現代的ビッグバンド作品に仕上がっている。音は爆発的で強烈なので、許す限るり大音量で聴ければトリップ感が得られるはず。

16) Maria Schneider Orchestra / Sky Blue
マリア・シュナイダー・オーケストラの通算6作目となるスタジオ録音盤。 非常に優雅で微妙に揺らぎながらドラマティックに展開する楽曲はいつもながら感心させられる。オーセンティックなビッグ・バンド・ジャズのような高揚感は得られないが、爽やかなそよ風に優しく頬を撫でられたような余韻を残してくれる素晴らしい作品。

17) Di Mezzo Il Mare / Di Germano Mazzocchetti
イタリア人作曲家 Germano Mazzocchetti の書いた組曲を、エンリコ・ピエラヌンツィ、ピエトロ・トノロ、ガブリエラ・ミラバッシ等、EGEA レーベルの売れっ子達10名のラージ・アンサンブル集団が演奏した豪華盤。地中海の潮の香りをたっぷり含んだ、爽やかでエレガントな楽曲。EGEAサウンドの真髄が味わえる超名盤。

18) Baptiste Trotignon - David El Malek / Fool Time
19) Los Angeles Jazz Ensemble / Expectation
20) Mike Moreno / Between The Lines

Jack Wilson Quartet feat. Roy Ayers 『 Ramblin' 』

2007年12月23日 21時42分56秒 | JAZZ
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今年も残すところあと9日。毎年この時期になると漠然とした焦燥感にかられるのですが、その焦燥感というのは、おそらく、あまりにも高速で過ぎ去る時間への恐怖感でもあり、この「高速で過ぎ去った1年」×20~30回で、僕の人生も終わるのかと思うと、ぞっとするわけです。しかもこの「高速」は加速度をつけて年々速さを増してくるように感じらるので、ホント、怖い。ジャズ界の1年を振り返えってみましても、多くのミュージシャンらが惜しくも物故されました。著名な方々だけを列挙してみましても、1月12日 アリス・コルトレーン(1937~) 呼吸不全 1月13日 マイケル・ブレッカー (1949~) 骨髄異形成症候群 2月 6日 フランキー・レイン (1913~) 心不全 3月28日 トニー・スコット (1921~) 死因不明 4月20日 アンドリュー・ヒル (1931~) 肺癌 7月29日 アート・デイビス (1934~) 心筋梗塞 8月15日 マックス・ローチ (1924~) 死因不明 8月22日 富樫雅彦 (1940~) 心不全 9月11日 ジョー・ザビヌル (1932~) 皮膚癌 10月5日 ジャック・ウイルソン (1935~) 糖尿病の合併症 マックス・ローチは以前から認知症で音楽活動ができないことが知られていたので、驚きはありませんでしたし、マイケル・ブレッカーもドナーが見つからなず、2005年暮れにhalf matching transplantationを行ったという時点である程度は覚悟はしていましたが、9月のジョー・ザヴィヌルの訃報は突然のことで、かなりショックでした。直前までツアーを行い元気でしたからね。マイケル・ブレッカーとジョー・ザヴィヌルの死亡記事については以前に拙ブログ内で取り上げていますので、こちらをどうぞ。2007年1月16日 「マイケル・ブレッカー死去」2007年9月15日 Joe Zawinul 『 Brown Street 』ただ、個人的には彼らと同じくらいショックだったのが、10月5日に亡くなられたジャック・ウイルソンだったのです。結局、遺作となってしまった93年にDIWから発売された『 In New York 』 は僕の大の愛聴盤なのですが、このCDを聴くたびに、「今、どうしているのだろか。」と心配していたのですが、ついに亡くなられてしまいました。死因は糖尿病の合併症だったようです。88年に来日した際、すでに糖尿病に対してインスリンの自己注射をされていたようで、ツアーの際中に低血糖発作を起こし倒れてしまったことがあったようです(上條直之氏談)。糖尿病の方は一般の平均寿命より約10歳ほど短いと言われています。死因としてはやはり脳血管障害や虚血性心疾患が多いですが、このどちらかであれば「死因は糖尿病の合併症」とは記されないでしょうから、おそらく糖尿病性腎症による腎不全あたりが死因だったのではないでしょうか。僕が初めてジャック・ウイルソンを聴いたのは、20年以上前の大学生の時で、その頃は Blue Note を夢中で収集していた頃で、ちょうど彼の Blue Note 盤である『 Something Personal 』(BLP-4251) と『 Easterly Winds 』(BLP-4270) が国内盤再発され、大喜びで購入したのが出会いでした。一般的に人気のある『 Easterly Winds 』はリー・モーガンとジャッキー・マクリーンをフロントに配したハード・バップ作品で、フロントの2人を聴くには最適で、しかもキャッチーで哀愁あるウイルソンのオリジナル曲も秀逸で、素晴らしいのですが、ウイルソンのピアノを聴くにはあまり良い作品ではありませんでした。しかし、その中のA面最後の管抜きで演奏された ≪ A Time For Love ≫ というジョニー・マンデルのバラードがあまりにも美しく、その1曲でウイルソンの大ファンになってしまいました。そして、92年に発売された寺島靖国氏の『 感情的JAZZコレクション 』(講談社)の巻頭カラーでウイルソンの『 Innovations 』( Discovery 1977)が紹介され、また同時期にアトランティックの国内盤再発シリーズで『 The Jack Wilson Quartet Featuring Roy Ayers 』(Atlantic 1963)と『 The Two Sides Of Jack WIlson 』(Atlantic 1964)が再発になったこともあり、一気に収集欲が高まり、買い漁った記憶があります。結局、彼の残したリーダー作は以下の11枚です。


 1) The Jack Wilson Quartet featuring Roy Ayers (Atlantic  1963)  2) The Two Sides Of Jack Wilson (Atlantic  1964) 3) The Jazz Organs (Vault 1964)  4) Jack Wilson Plays Brazilian Mancini (Vault 1965) 5) Ramblin' (Vault 1966)  6) Something Personal ( Blue Note 1966) 7) Easterly Winds (Blue Note  1967) 8) Song For My Daughter (Blue Note  1969) 9) Innovations (Discovery 1977)10) Margo's Theme (Discovery 1979) 11) In New York (DIW 1993) Vault の3)と4)はいまだに手に入れられすにいます。同じ Vault の『 Ramblin' 』のように、Fresh Sound から再発されることを期待するしかないようです。数年前にヤフー・オークションに4)が出品されていましたが、かなり高価な取引になり、諦めたことがりました。以来、LP収集欲の減退もあり、そのままになっています。 ウイルソンのデビュー作は63年にAtlantic に記録された『 Jack Wilson Quartet~』(左)であり、経歴のわりには遅いデビューでした。同レーベルには上写真の2枚が録音されましたが、紛らわしいことに、後に Discovery から『 Jack Wilson Quartet~』(左)がジャケットをすり替えて再発されています。お間違えなく。タイトルが『 Corcovado 』 となっていますが、内容はAtlantic のデビュー盤『 Jack Wilson Quartet~』と一緒です。僕は分ってて買いましたが。Blue Note にはリーダー作を3枚残していますが、他の2枚は国内盤LPの再発やCD化もされており、中古店でも頻繁に見かけますが、この『 Song For My Daughter 』はいまだ再発されていない作品です。これでもかと言うくらい再発をあの手この手で繰り返しているBlue Note ですが、そろそろこのあたりにも目を向けて欲しいものです。なかなかリラックスした雰囲気の好盤です。 ジャック・ウイルソンの魅力は何かと聞かれたら、上條直之氏が『 ジャズ・ピアノ入門 』(ジャズ批評編集部編)の中で言われているように、≪ 風変わりな上昇下降フレーズ ≫ だと僕も思います。そして、一度好きになると止められない魅力があるのですね、これが。中音域から高音域で繰り広げられる上がったり下がったりの長尺なパッセージは彼独特のノリを作り出しています。そんな彼の一番の魅力が味わえるのが、Discoveryの『 Innovations 』と『 Morgo's Theme 』 です。両者とも昔、ジャズ喫茶の定番だった作品ですが、僕はどちらかというと『 Innovations 』(上写真左)の方が好きです。彼のオリジナル曲 ≪ Waltz For Ahmad ≫ の美メロにうっとり。この2枚は再発もなく、CD化もされず、比較的レアな盤なのですが、88年にこの2枚のカップリング盤が出ました。それが『 Autumn Sunset 』(Discovery)(上写真右)です。完全なカップリングではなく、録音時間の関係なのか、『 Morgo's Theme 』 に収められていた曲のうち半分の4曲は省かれています。彼の遺作となった93年の作品。以前のような独特の昇降パッセージはやや影を潜めていますが、圧倒的なスイング力と歌心で聴き手を虜にします。彼の作品は現在、Blue Note 盤以外はなかなか手に入れるのが難しくなってきているので、この作品だけでもゲットしておくのは懸命かもしれません。遺作と入っても、録音当時はまだ還暦前ですから、全く衰えは感じられません。非常に出来が良いです。最後に彼の愛聴盤ベスト3を挙げておきます。1位 『 Innovations 』2位 『 In New York 』3位 『 Ramblin' 』あらためまして、今年亡くなられたミュージシャンの方々のご冥福をお祈り申し上げます。



P.S. こんな訃報記事を書いた直後に,偶然にも大変な知らせが届きました。オスカー・ピーターソンが12月23日に腎不全で亡くなられたようです。
Canadian Jazz Great Oscar peterson Died

Tarcisio Olgiati 『 Hidden Colors 』

2007年12月21日 23時04分01秒 | JAZZ
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Mario Biondi and The High Five Quintetのライブからちょうど一週間がたちましたが、あの超絶技巧ぶりを遺憾なく見せつけたファブリツィオ・ボッソのトランペットの音がいまだに頭の中で鳴り響き、忘れられません。いや~、ホントに凄かった。ボッソが奏でる野性的でかつ繊細なジャズは、世の中に数ある音楽のなかでも僕にとって希有な存在であると、確信しました。いや、ホント。で、この一週間、暇を見つけてはボッソ参加の旧作を棚から引っ張り出して聴いていましたが、やっぱりThe High Five Quintetでの演奏が一番凄いんですね、やっぱり。特に金管(ボッソ)と木管(スカナピエコ)のカウンタータイプの繰り成す音響的な面白みや多彩なハーモニーの美しさは快感以外の何物でもありません。

それにしてもここ2,3年のボッソ参加作品の多さにはびっくりです。僕もはじめはボッソ参加作品を完全制覇してやろうなどと大風呂敷を広げてはみたものの、あまりにも次々と発売される作品群を前に最近はやや意気消沈ぎみです。

さて、今日聴いているのは Tarcisio Olgiati (タルチシオ・オルジャーティー)というイタリアの新鋭テナー奏者のリーダー作『 Hidden Colors 』( 2003 abeat ) です。隠しトラック1曲を含む全11曲中、ボッソの参加曲は3曲と、ボッソ度は低めですが、これがなかなかの出来栄えで聴きやすく、たびたび引っ張り出して聴いています。

以前にも書いたことですが、「ボッソ参加作品」はほぼ全てが秀作ではあるのですが、しかし、その出来具合にもいわば「 松竹梅 」があるわけですね。「 松 」がHigh Five Quintetの『 Jazz For More 』,『 Jazz Desire 』やSalvatore Tranchinini の 『 Faces 』であり,「 梅 」がRenato Sellani Trio Plus Fabrizio Bosso やMare Mosso だとすると,さしずめタルチシオ・オルジャーティーの『 Hidden Colors 』は「 竹 」といったところでしょうか。

このオルジャーティーの詳しい経歴はわかりませんが、1968年生まれで、93年よりプロとして活動を開始し、現在までに10枚の参加作品と2枚のリーダー作を発表しているようです。本作は彼の2枚目のリーダー作で、おそらくイタリア国内では2流の吹き手であろうオルジャーティーが、超1流のボッソを迎え、一世一代の大舞台と意欲満々で制作された作品です。

オルジャーティーはそれほど腕の立つ吹き手ではないのですが、ボッソが参加した3曲中、特にハードバップ調の2曲、≪ Tough, just enough ≫ と ≪ Dietro I’angolo... ≫ はオルジャーティーの士気が感じられる素晴らしい楽曲に仕上がっています。さらに、Michele Franzini (ミケーレ・フランチーニ)の繊細で透明感のある美しいピアノの音色も本作の魅力の一つです。フランチーニも日本ではまだまだ無名ですが、すでに6枚のリーダー作をリリースしている新鋭ピアニストです。このような「知られざる金鉱」がイタリアにはまだまだ眠っているんでしょうね。abeat からブライアン・リンチを加えたカルテット作品『 Odd Stories 』を最近リリースしています。これはCatfish Records さんから購入可能です。前作は『 Three Sides 』というトリオ作品で、こちらのほうは Vento Azul Records さんから購入できます。

Tiziana Ghiglioni (ティツィアーナ・ギリオーニ ) というイタリアで人気の女性ジャズ・シンガーも2曲だけ参加しており、なかなか多彩な楽曲が詰まった飽きない作品です。探して買うほどではありませんが、見つけたら拾っておいても損はないと思いますよ。

Mario Biondi & the High Five Quintet @ Blue Note

2007年12月18日 21時42分29秒 | ライブ
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12月14日(金)に, Mario Biondi and The High Five Quintet のライブをBlue Note Tokyo に観に行ってきました。

正直なところ、直前まで観に行くかどうか迷っていました。今年の確か6月に舞浜イクスピアリにファブリツィオ・ボッソが来たときも、DJ須永辰緒氏の『 夜ジャズライブ 』というDJイベントの一環での来日だったので結局行きませんでしたが、今回も主役はマリオ・ビオンディであり、High Five Quintet はあくまでバック・バンドとしての来日でしたので、あまり気が進まなかったのです。がしかし、今、どうしても、どんな形でも、ボッソとスカナピエコをこの目で見ておきたいと思い、前日に予約を入れたというわけです。

願いはただ一つ。マリオ・ビオンディ抜きでのHigh Five Quintet の演奏が一曲でも多く観られますように、ということ。

僕が観たのは9時30分からの2nd stage。いつも開演ぎりぎりに入店するので,僕が座る席は決まって隅のほう。その日もステージ向かって左奥の,ちょうどPAの後方。ステージを左真横から観る位置。でもこの席、結構気に入っているんです。PAの手元がよく見えるからね。PAはいつもの若い女の子。客席は満席状態。マリオ・ビオンディのライブということもあり,クラブ好きのおしゃれな若者ばかりだったらどうしようと心配しいましたが,意外に僕のようなオジさん連中も散見され,ちょっと安心。

さあ、ライブの始まりです。拍手に迎えられてHigh Five Quintet のメンバーがステージに上がります。おっと、主役のマリオ・ビオンディが登場しません。徐にHigh Five Quintet だけでのハードバビッシュな演奏がはじまりました。のっけからフルスロットルでぐんぐん飛ばします。これはいい出だしです。スカナピエコのソロが凄くイイ。カッコいい。でもそのあとのボッソのソロがもっとイイ。ボッソは有無を言わさぬ存在感と説得力をもっているんです。スカナピエコだって相当上手いのに,そんな彼の存在が薄れてしまうほど,ボッソの存在感は絶大です。4小節ぐらいなら軽々とノン・ブレスで超高速パッセージを繰り出し,そのあとに切れ味鋭いタンギング・フレーズでアクセントをつけ,縦横無尽に駆け巡る。いや~、CDで聴くよりはるかに野性的なんですね、ボッソって。痺れる~。

2曲目は一転して美しいメロディーの地中海風バラードです。ボッソとスカナピエコがテーマを吹き分けます。クールダウンしたところで3曲目は彼らのオリジナル曲 ≪ Five For Fun ≫ 。BN4000番台リー・モーガン風のジャズ・ロック・スタイルの軽快な曲です。このあたりは、マリオ・ビオンディ目当てで来店したクラブ・ジャズ・ファンを意識した選曲でしょうか。まさに≪ 踊れるジャズ ≫ です。3曲目の終盤になり、やっとマリオ・ビオンディがステージに登場です。割れんばかりの拍手。やっぱりマリオ目当ての観客が大多数なのでしょうね。クラブ・ジャズ系の方々からすると、ボッソなんかは≪ マリオ・ビオンディといっしょに演ってる上手いトランペッター ≫ という位置づけですからね。

このマリオ・ビオンディという大男。71年生まれの37歳。歌いだしたのが33歳の時と言うからまだ4年程しか芸歴がないのに,このデビュー作『 Handful of Soul 』(前項あり)でイタリア国内で10万枚も売れたそうです。純ジャズ・ヴォーカルでもないし,どちらかというとソウルやAOR領域にいそうな声質,歌唱法なのです。そんな彼、なんとなく胡散臭さを感じでしまうのは僕だけでしょうかね。そんなわけで,始めから眉に唾をつけて聴き出したのですが,これが意外に心地よいのです。

AORでいうとクリス・レア。ソウルでいうとテディ・ペンダーグラスあたりを彷彿させるセクシーな濁声で、どことなくダニー・ハザウェイに歌い方がにているかもしれません。クラブ・ジャズ系の方々はこういうのを≪ 激渋・ヴォーカル≫ というのでしょうかね、わかりませんが。ただ,冷静に聴くと,それほど歌唱力があるわけでもないようです。もしかしたら一発屋で終わってしまうかもしれない?

マリオが歌いだした4曲目以降の曲名は以下の通りです。すべて『 Handful of Soul 』からの選曲です。Blue Note Tokyo のホームページにも当日の演奏リストがアップされていますが、たぶん間違っていると思います。以下のリストが正解です。

4. RIO DE JANEIRO
5. NO MERCY FOR ME
6. THIS IS WHAT YOU ARE
7. I’M HER DADDY
8. HANDFUL OF SOUL
9. ON A CLEAR DAY
10. NEVER DIE
ENCORE
11. SLOW HOT WIND
12. THIS IS WHAT YOU ARE

High Five Quintet だけでの最初の3曲中、曲名が分かったのは3曲目の
オリジナル曲 ≪ Five For Fun ≫ だけでした。スカナピエコがイタリア訛りで曲紹介したのですが、1曲目と2曲目は聞きとれませんでした。イタリア人の曲みたいなこと言っていたような、いないような。

マリオ・ビオンディの曲でもボッソのソロはかなりフィーチャーされていましたので、ボッソ・ファンも最後まで飽きずに楽しめたと思います。ホント、ボッソはCDで聴くより凄かったです。あんなに吹きまくって腹筋が割れないのか? 肺に穴があいて気胸にならないのか? 酸欠でぶっ倒れないのか? そんな心配を他所にこれでもかと言わんばかりに吹きまくってくれました。感謝感激であります。

最後のアンコール曲が終わり、メンバーがPAの女の子の脇を通ってステージを降りる際、(いいですかここが大切なのですが)ボッソとスカナピエコとマンヌッツァの3人は、そのPAの女性に頭を下げてお礼の言葉をかけているんですね。これには胸が熱くなりました。あれだけビッグ・スターになっても、スタッフへの感謝を忘れない、その真摯な姿勢に感激してしまいました。イイ奴らなんですよ、きっと。

CDでは決して味わえない高揚感に満ち溢れたライブでした。このところ仕事に忙殺され、日々、憂鬱な思いが蓄積していたのですが、そんな陰鬱さもすっきり中和し、心地よい充実感までも体感できた素晴らしいライブでした。

次回、来日の際は、ぜひ High Five Quintet 単独でお願いしますね。

アトリエ澤野コンサート2007@すみだトリフォニーホール

2007年12月16日 22時09分02秒 | JAZZ
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12月8日(土)に年末恒例のアトリエ澤野コンサートを、錦糸町のすみだトリフォニーホールに聴きに行ってきました。

師走の慌ただしい生活の中、格調高い同ホールに逃げ込み、心静かに一年を振り返り、そして感謝しながら澤野のジャズを聴く。そんな素敵な時間を過ごせるコンサートとして、毎年楽しみにしている私的風物詩です。

今年で5回目となるアトリエ澤野コンサート2007は、一昨年にも出演したキヨシ・キタガワ・トリオと、澤野の看板アーティストであるウラジミール・シャフラノフ・トリオの2部構成でした。僕は仕事の関係で前売り券を前日の7日にしか買えなかったので、S席とはいっても2階のバルコニー席でした。5時30分開演にぎりぎり間に合い着席。ホール全体を見渡すと1階の後ろ1/4ぐらいは空席。2階もほとんど空席。1800人収容の同ホールですが、おそらく1000人程度しか入っていないのでしょう。澤野ブランドとは言えどこの程度なのですから、やはりジャズは音楽産業の底辺、あるいは末梢領域であると言わざるを得ません。悲しい限りです。

さて、恒例の澤野社長の挨拶から始まりましたが、なんと社長、ウラジミール・シャフラノフ・トリオのドラマーの名前を失念してしまい狼狽し、会場は爆笑というハプニングがありました。

第1部はキヨシ・キタガワ・トリオ。今年はピアニストがケニー・バロンから、新進気鋭のダニー・グリセットに交代しています。個人的には今回のコンサートで一番楽しみにしていたのがこのダニー・グリセットです。昨年Criss Cross からリリースされた初リーダー作『 Promise 』( 2006 Criss Cross Jazz 1281 ) が素晴らしい出来で、今でも時々引っ張り出しては聴く、秘かな愛聴盤です。Disk Union 全店のジャズ担当者が年間ベストの1枚を紹介する「 Disk Union Jazz Ultimate Collection 」というカラーの小冊子がありますが、その2006年度版に吉祥寺ジャズ館の桜井敦氏が紹介していた作品です。

ダニー・グリセットはロサンゼルス生まれの31歳。2003年に活動の拠点をニューヨークに移し、近年はヴィンセント・ハーリング、ニコラス・ペイトン、トム・ハレルらのレギュラー・ピアニストとして幅広く活動しているようです。先日発売になったトム・ハレルの新作『 Light On 』( 2007 High Note ) やジミー・グリーンの新作『 Gifts and Givers 』( 2007 Criss Cross ) にも参加し存在感を見せつけていました。

さて、演奏は北川さんの前作『 Prayer 』と最新作『 I’m Still Here 』からの全曲オリジナルで固めた彼らしい硬派な選曲でした。北川さんって、外見からは想像つきませんがかなりロマンティックで哀愁あるメロディーを書く人で、その作曲力も彼の魅力の一つなのですが、実は僕が最も魅かれるのが彼の指使いなんですね。CDで聴いていると分りませんが、彼の右手のオルタネイト・ツーフィンガーは見ていて実に美しい。しかも右手関節が柔らかく可動し、上腕~手関節~指先の理想的な一連の動きはまるでベースを愛撫しているかのようです。それでいて意外にノン・アンプリファイな堅強な音で感心します。

ダニー・グリセットの音は繊細で現代的であり、時として欧州圏の叙情派ピアニストを連想させるフレーズを散りばめ、ほとんど黒人臭さを感じさせません。肌の色など、そんなの関係ね~、と言ったところでしょう。自身のリーダー作の方が伸び伸び演奏しているように感じられましたが、北川トリオでの演奏もなかなか聴かせてくれます。

ブライアン・ブレイドはいつもながらシンプルなセットで、信じられないくらい多彩なリズムを繰り出し、北川さんの曲をより高次元に導いていきます。リズムを刻むというよりも、リズムがうねり、リズムが流れると言ったほうが適切かもしれません。シンバル、スネア、バスドラの連携が天才的に巧いのですね。

MCなしの7曲、80分。北川さんのソウルフルでロマンティックな音世界をたっぷり堪能させていただきました。

休憩を挟んで第二部はウラジミール・シャフラノフ・トリオ。正直なところ僕にとっては第二部はおまけです。あまりにも分り易く明快なジャズで、曲目もスタンダード中心。ボサノヴァありの、アンコールは≪ Ave Maria ≫と≪ニュー・シネマ・パラダイス≫とくれば、(たぶん、かなりの数いたと思う)ジャズ・ファンでない聴衆をも喜ぶサービス満点の選曲なので、僕としてはやや疲れる演奏でありました。まあ、このあたりの≪マニアックなジャズ≫ 対 ≪大衆娯楽としてのジャズ≫をラインナップするあたりが澤野氏の狙いなのでしょうね。

終演後、ロビーで開かれているサイン会に並ぶ大勢のファンのわきをすり抜け出口へ向かいながら、素敵な一夜への感謝と来年のコンサート開催を願い、帰路につきました。


北川潔トリオ 『 I'm Still Here 』 2007 Atrlier Sawano AS071
Kiyoshi Kitagawa (b)
Danny Grissett (p)
Brian Blade (ds)
今回の澤野コンサートに先立って発売された北川さんの最新作。個人的には彼の澤野での作品中、べスドの出来栄えだと思います。57分というやや短めの録音の中に、彼の美意識に貫かれた名曲が7曲つまっています。コンサートに行けなかった方はぜひ御一聴を。


Danny Grissett  『 Promise 』 2006 Criss Cross 1281
Danny Grissett (p)
Vincente Archer (b)
Kendrick Scott (ds)

Franco Ambrosetti 『 The Wind 』

2007年12月05日 23時04分51秒 | JAZZ
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ダスコ・ゴイコヴィッチと並びEnja records の看板トランペッターであるフランコ・アンブロゼッティの新作『 The Wind 』が発売になりました。

本作は2006年夏にMUZAK の Enja原盤権の使用契約が切れて,それに代わり国内配給元が WARD records に移行して以来、初となるF・アンブロゼッティの国内盤です。

ward recordsは一方で、≪ WARD/Enja 名盤復刻シリーズ≫と銘打ってEnjaのカタログの中から約10枚単位で旧譜を紙ジャケ仕様でリイシューしていますが、F・アンブロゼッティに関しては、現在までに、『 Gin And Pentatonic 』、『 Movies 』、『 Movies 2 』の3作品がリイシューされており、今月発売の第6弾では、フィル・ウッズが参加した『 Heart Bop 』がラインナップされており、さらに来年1月発売の第7弾では、ついに待望の傑作『 Close Encounter 』がリイシューされます。『 Close Encounter 』はベニー・ウォレスが参加した78年のEnja 初作品で、ダウンビート誌で四つ星半の評点を得た傑作です。年明け最初のお年玉になりそうで、今からとっても待ち遠しいです。

閑話休題。今回の新作では、近年のレギュラー・ピアニストとして活動を共にしてきたダト・モロニや盟友ダニエル・ユメールのリズム隊を一新し、ユリ・ケイン、ドリュー・グレス、クラレンス・ペンという、意表をつくニューヨークの中堅腕利き達をバックに、いつにもまして若々しい溌剌としたプレイを展開しています。

全9曲でほとんどがF・アンブロゼッティかU・ケインのオリジナル曲ですが、ラス・フリーマンの哀愁漂うラテン・リズムの名曲≪ The Wind ≫をタイトル曲として1曲目にもってくるあたり、選曲面でも感心させられます。この≪ The Wind ≫などは、まるでF・アンブロゼッティのために作曲されたかのような錯覚するほど、そのメロディーは彼の甘酸っぱい芳醇な音色にマッチしていて、聴いていて思わず心を奪われてしまいます。

たとえば、『 Light Breeze 』(1997 enja )に収められた≪ My Foolish Heart ≫、『 European Legacy 』( 2003 enja )に収められていたシャルル・アズナブールの≪Tu Te Laisse Aller ≫、『 Liquid Gardens 』に収められていた≪ The nearness of You ≫など、他人の書いた美メロ・バラードを、まるで自分のオリジナル曲のように情感溢れる歌心で吹き切る、彼にはそんな得意技があるんですよね。

本作でのF・アンブロゼッティは、老獪さとは無縁の覇気のある素晴らしいソロを披露してくれていますが、個人的に最も驚いたのは、U・ケインのスウィンギーな軽快なプレイでした。U・ケインはデイヴ・ダグラスのバンドでたびたび耳にしていましたので、その卓越した技術は承知していました。しかし、クラシック寄りの、というか、クラシックそのもののリーダー作も多く、どちらかというとメインストリーム系からは逸脱した異端人のようなイメージが僕の中にはあり、全く彼の作品を所有していなかったのです。こんなに歌心ある美メロが彼の指先から紡ぎだされるとは全く予想外でしたので、大変驚きました。これからU・ケインはぜひウォッチしていこうと思っています。そう言えば、F・アンブロゼッティという人は、ピアニストに切れ味の鋭い凄腕アーティストを雇いますね。アントニオ・ファラオ、ダト・モロニ、そして今回のユリ・ケイン。昔でいえばジョルジュ・グルンツなど、みんなめちゃくちゃ巧いピアニストばかりですね。

ということで、90年代以降の彼のリーダー作の中では、1位、2位を争う出来の良さであると思われる本作。F・アンブロゼッティの入門CDとしても最適な、彼の魅力が分かりやすい形で表現された秀作ではないでしょうか。


Diederik Wisseles 『 From This Day Forward 』

2007年12月01日 23時53分54秒 | JAZZ

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≪ Belgian Jazz Vol.4 ≫

静かなバイオリンの音色で始まり、それをストリングス・アンサンブルが包み込み、やがて恐ろしく澄んだ音色でメロディーが奏でられる。ただただゆっくりと、夢幻的な世界に聴き手を誘う幽玄なサウンドがディーデリク・ワイセルズの持ち味です。他の誰にも到達できない彼独自の孤高の音世界。それは幻想世界に鳴り響く鐘の音かもしれません。

ベルギーを代表するジャズ・シンガーであるデヴィッド・リンクスとの共同作品も多く制作しているディーデリク・ワイセルズの97年の代表作『 From This Day Forward 』を今、聴いています。D・ワイセルズは1960年にロッテルダムに生まれ、68年にブリュッセルに移住。その後渡米し、バークリー音楽院でケニー・ドリューやジョン・ルイスに師事し、,80年代以降は常にブリュッセルのジャズ・シーンの第一線でピアニストおよびコンポーザーとして活躍してきました。

彼の音楽は、ヨーロッパの叙情的サウンドというよりは、徹底的にクールネスとダークネスに貫かれた彼独自の音世界であり、他の欧州圏のピアニストを聴き慣れた耳には多少の違和感を感じるかもしれません。光りを求め、魑魅魍魎が蠢く霧深き森を彷徨う迷い人、そんなヴィジュアル・イメージを想起させる本作ですが、しかし、その幻想的で立体的、そしてドラマティックな音世界に一度嵌ると病みつきになること必至です。そして、D・リンクスの透明感溢れるクレヴァーなヴォーカルが絡んだ作品では、その世界観は更に深度を増し、他の何処にも存在しない極めて特異なサウンドを放散します。彼のジャズには、4ビートを基調としたスウィンギーな伝統芸能としてのジャズの要素など微塵も感じられないのです。これぞコンテンポラリー・アート。そんな音です。

「ヴォーカルはちょっとね~」とおっしゃる方には、近年の作品では2004年の『 Song of You 』がお薦めです。90年代のイヴァン・パドゥアの一連の作品を彷彿させるハーモニカ入りの哀愁味溢れる好盤です。

2006年にはDjango d’Or Award(ジャンゴ賞)を受賞しており、まさに今が旬の彼の活動に今後も注目です。

Diederik Wisseles 『 From This Day Forward 』 1996 Igloo IGL128
Diederik Wisseles (p)
Kurt Van Herck (sax)
Gwenael Micault (bandoneon)
Cecile Broche (violin)
Frans Vander Hoeven (b)
Hans Van Oosterhout (ds)
Michel Seba (perc)
Ilona Chale (vo)
David Linx (vo)

1. Ourim
2. Water, Water...
3. Evidence
4. Thorns In Plenty
5. From This Day Forward
6. Out Of The Mirrored Garden
7. Time And Again
8. A Shadow Sought
9. We Still Dance
10. Toumim