雨の日にはJAZZを聴きながら

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Joe Beck 『 Brazilian Dreamin’ 』

2006年04月30日 17時32分44秒 | JAZZ

昨日お話したテイラー・アイグスティの新作『 Lucky To Be Me 』ではコルトレーンの<Giant Steps>を一曲目に配し,強烈なインパクトを聴き手に植えつける快作でしたが,今日は<Giant Steps>がらみでもう一枚,Venusから最近リリースされたジョー・ベックの最新作『 Brazilian Dreamin’ 』を紹介したいと思います。

この作品はタイトルからも察しがつくようにボサノヴァ曲集で,
A. C. ジョビンらの曲を取り上げているのですが,そんな中に<Giant Steps>が何故かぽつんと1曲だけ浮いた感じで収まっているんです。さてジョー・ベックがどう<Giant Steps>を料理するのかと楽しみにディスクをセットしてみたのですが,これがなんだか拍子抜けで,曲名を知らされず聴いたら誰も<Giant Steps>とは分からないんじゃないかと思うくらい原曲にペンが入っていて,正攻法で攻めてくれると期待していたのにちょっと期待はずれに終わりました。でもまあ,<Giant Steps>をボサノヴァで演奏するわけですから,原曲のような高速でカバーしていないことは大体予想がついていましたが。

Giant Steps>が超難曲である所以はそのメカニカルな複雑なコード進行にあるわけですが,実はそれだけではなく,その目まぐるしく転調する曲をテンポ280 beat/min以上の高速でやってのけるから凄いのであって,テンポを遅くすればそれほど難曲ではないのですね。本作の<Giant Steps>もテンポ130ぐらいのミディアム・テンポで演奏されていて,コードもいじっているため,ジョー・ベックも汗だくで演奏しているわけでなく,余裕の歌ごころ満載の美フレーズで<Giant Steps>をあっさり料理してしまったわけです。その点ではアイディア賞ものです。でも昔から<Giant Steps>をスローやワルツなどにアレンジして演奏するといった事は,セッションなどでは普段からなされていたように思います。

で,話を戻しますが,本作はゆるーい感じのボサノヴァ集で,これからの季節にはうってつけのリラクゼーション・ジャズ風で,僕も
20歳若ければ,女の子とプールサイドでカクテルでも飲みながらこの『 Brazilian Dreamin’ 』を楽しんでいたでしょう。でも40歳を過ぎた中年親父が一人で聴くにはちょい寂しいアルバムですね。ジョー・ベックのフレーズはいたってオーソドックスでジム・ホールあたりに似ているように思うのですが,音色はコーラスやディレイなどの空間系エフェクターを多用したコンテンポラリーな音色で,昔のフュージョン・ギタリストとしてのジョー・ベックしか知らない人にとっては驚きの音ではないでしょうか。

基本的にギター・トリオですが,
2曲にクロマチック・ハーモニカの新鋭グレゴワール・マレーが参加しています。期せずしてこの2曲が素晴らしく,心に沁みる哀愁のフレーズでベックを完全に食っています。最近パット・メセニー・グループやマーカス・ミラー・バンドなどにも参加していて注目されるようになりましたが,もともとカサンドラ・ウイルソンのバックで吹いていました。カサンドラの最新作『 Thunderbird 』にもクレジットされています。でも最後の1曲だけですが。しかしこの1曲が全曲中一番イイんですよ。ジャズ・ハーモニカの世界では大御所,トゥーツ・シールマンスがone and onlyな存在で,ずーっと後継者が現れなかったのでとっても心配していたのですが,マレーの登場で御年83歳のシールマンスも安心して引退できそうです。

傑作というわけではありませんし,
venusですから国内盤のみの2800円ということもあり,万人に奨められるアルバムではありません。

          
Joe Beck 『 Beck 』1975 KUDU
ご存じない方はいないと思いますが,ジョー・ベックを一躍表舞台の人にのし上げた傑作アルバムです。オリジナル・ジャケはエジプトの壁画のようなキスをしている2人の絵のやつですが,上の写真はデジタル・リマスターのリイシュー盤です。未発表曲が2曲収められています。レコードはぼろぼろになるまで聴き込んだ愛聴盤でした。クリード・テイラーがCTIのコンテポラリー・ジャズ部門として立ち上げたサブ・レーベル,KUDUから発売されました。もちろんアレンジはドン・セベスキー,エンジニアはヴァン・ゲルター。ベックもイイけど,サンボーンはもっと良かった。永遠の名盤ですよね,これ。

          
Bob Mintzer 『 Giant Steps 』1993 BMG
<Giant Steps >の話が出ましたので,ちょっと関連して。
<Giant Steps >はミュージシャンにとっても難曲なので,練習やジャムでは結構演奏していても,録音されている演奏は比較的少ないですよね。思いつく演奏としては,えーとですね~。まずはコルトレーンの『 Giant Steps 』では大恥をかいたトミー・フラナガンが名誉挽回にと,自己のアルバム,その名も『 Giant Steps 』(enja)で再演してますね。これはちゃんと最後まで破綻なく演奏できて名誉復元の名演でした。ジャキー・バイヤードもやっていましたよね。パット・メセニーのライブ盤でも聴けます。あれはなんだかよく分からない演奏でしたが。国内の人ではこの前発売されたケイ赤城の2枚組みライブ盤でもやってました(これは持ってませんが)。ギタリストのえーと,あの人,そう,矢堀孝一もやってました。でも,なんと言ってもコルトレーンと同じテナー奏者で,真っ向勝負したのが上のアルバム,ボブ・ミュンツァーの『 Giant Steps 』です。アルバムには2ヴァージョン収められていて,1曲はミュンツァーのカルテット演奏ですが,もう1曲はマイケル・ブレッカーとの2テナーでも演奏です。テンポも原曲の280より若干速めで演奏するあたり挑発的であります。ソロも完璧,凄い迫力で圧倒されます。これくらいのレベルのプロは12キー,全てで<Giant Steps >を演奏できるんでしょうね。ちなみにピアノはドン・グロルニック,ドラムはピーター・アースキンです。
これ以上の<Giant Steps >のカヴァーは今のところ知りません。

          
Cassandra wilson 『 Thunderbird 』2006 EMI
グレゴワール・マレー(グレコリー・マレット?)が最後の1曲だけ参加しています。もっと吹いて欲しかったな~。このアルバム,今までと雰囲気が違っているんですよ。これまでのアコギー中心の音作りから,シンセの打ち込み中心に変化しているんです。プロデューサーがTボーン・バーネットという有名な人らしいのですが,僕は知りません。ロック系の人みたいです。カサンドラの声は好みから言うと嫌いな部類に入ってしまうのですが,つい買っちゃうんですね。何故でしょう。売れているからかな~。どうして人気あるんだろう。あんなに暗く,低く,重たいのに。本作はジャケも怖いです。でも,2002年の『 Belly of the Sun 』は,down to earthな感じが妙に落ち着き,夏になるとベランダでビールを飲みながらぼけーと聴くには最適です。

P.S. 今(5月3日 AM0:43),突然思い出しました。ウォレス・ルーニーもGiant Stepsやってました。どのアルバムだったか忘れたけど。


Taylor Eigsti 『 Lucky To Be Me 』

2006年04月29日 23時27分41秒 | JAZZ
テイラー・アイグスティー。懐かしい名前です。2001年にDIWから『 Tay’s Groove 』や『 Taylor’s Dream 』が発売された当時は,DUあたりではかなりプッシュしていた新人だったと記憶しています。寺島氏も絶賛していて,後に彼の著書『 新しいJAZZを聴け 』でも紹介していましたし,彼の最新作『JAZZピアノ・トリオ名盤500』でも『 Tay’s Groove 』が選定されていました。僕も当時『 Tay’s Groove 』を愛聴したものです。最近はすっかりその存在を忘れていました。当時のアルバムはDIWからの発売とはいえ,実際には自主制作盤でしたが,今回はなんと名門コンコードからのリリースということで,メンバーもクリスチャン・マクブライト,ジェイムス・ジナス,ルイス・ナッシュらなど錚々たるメンバーで,かなり投資された豪華盤です。

デビュー当時は確か14歳か15歳であったと思いますが,現在は21歳になり,ジャケット写真からも分かるようにブラッド・ビット似のかなりのナイスガイに成長したようです。元々非常に巧い人でしたが,ピアニストとしての腕も更に磨きがかかり,緩急自在にオリジナルからスタンダード,クラシックの名曲のジャズ・アレンジ物まで,難なくこなす素晴らしいピアニストに成長しました。一曲目を飾るのは何とあのコルトレーンの泣く子も黙る難曲<Giant Steps>です。この難曲をごまかすことなく真正面からぶつかり,しかもカッコイイアレンジまで施し,立派な現代盤ジャイアント・ステップスに仕上げています。しかもクリスチャン・マクブライトのベース・ソロ(これまたごまかしなし)まで入ったおまけ付きです。個人的にはアイグスティのソロより,マクブライトのソロに感激しましが。

2曲目以降はやや静かめな叙情的な世界が繰り広げられ中だるみもありますが,終盤に<Freedom Jazz Dance>を超高音速でぶちかまし,聴き手の目を覚まさせます。僕の知らないドラマーですがこの<Freedom Jazz Dance>で叩いているビリー・キルソンって,なかなかイイです。

僕が買ったのは国内盤で,ボーナス・トラックが1曲入っています。ライナーノーツで小川隆夫氏が「こんな美しい演奏が日本盤のみのボーナス・トラックとは。それを知ったら外国のファンが羨ましがるに違いない。」と書いていますが,大した曲ではありません。安~い輸入盤で十分ですよ。
【愛聴度 ★★★★】


          
Taylor Eigsti  『 Tay’s Groove 』 2001年 DIW
1曲目がスタンレイ・タレンタインの<Sugar>で始まるのが印象的なアルバムですが,僕は2曲目のデイブ・ブルーベックのバラード<Elana Joy>に心惹かれます。ベースの音がベタベタしたアンプ臭~い音色で,はっきり言ってかなりのマイナスポイント。録音は自主制作盤にしてはなかなか良いです。

Planet Jazz 『 In Orbit 』

2006年04月23日 21時17分07秒 | JAZZ

このところ仕事が忙しくて,ほとんど病院の宿舎に寝泊りしていたのですが,今日は我が愛息チサトの1歳の誕生日であるということで,3日ぶりに帰宅しました。僕を見るなり息子は泣き出し,ちょっとショックを受けましたが,妻が言うには,僕が知らないおじさんだと思って泣いているのではなく,僕を見て初めて僕が今までいなかったことを認識し,そのことが悲しく泣いているということらしいです。しばらく抱きしめて遊んでいるとだんだん笑い出し,ほっとしました。これからまた病院に戻らなくてはならないのですが,その前に久しぶりにブログを更新しておこうと思い,パソコンの前に座っています。

さて,何を書こうか。先程までドナルド・フェイゲンの『 Morph The Cat 』を聴いていたのだけれど,今日は語るほど考えがまとまっていないしな~。ジム・トムリンソンの『 The Lyric 』も良かったけどね~。そう,ジョー・ベックの『 Brazilian Dreamin’ 』はこれからの季節にぴったりでなかなか洒落ていました。そのうちレビューします。ギターといえば,パット・マルティーノの新作『ウエス・モンゴメリーに捧ぐ』は,あまり大きな声では言えませんが,昔のパットを知る耳にはちょっと退屈な音でした。第一録音最低ですし。で,今日はSharp Nine Recordsからの新生ユニット,「Planet Jazz 」のデビューアルバム『 In Orbit 』を取り上げてみようと思います。メンバーはフロントがグランド・スチュアート(Ts),ジョー・マグナレリー(Tp),ピーター・バーンスタイン(G)で構成されたSextet です。なんだかメンバーだけ見ているとCriss Crossにもありそうなユニットですけどね~。音は聴きなれたCriss Cross物と同じです。Sharp Nine Recordsから誕生したユニットと言えば今やメンバー全員が超有名ジャズマンに成長した「 One For All  」がありますね。彼らのデビューアルバム『 Too Soon To Tell 』は今聴いても新鮮なハード・バップで,発売になった1997年に聴いたときには度肝を抜かれたアルバムですが,あの感激をまた味わえるかと期待して今回の『 In Orbit 』を買ってみたのですが,まあ,正直,あのOne For Allのようなインパクトがありませんでした。でも,楽曲は良く練られていて,やっつけなセッションではなく,丁寧に譜面に書き込まれた魅力的な楽曲で,気合の入れようが聴き手に伝わる秀逸な作品に仕上がっています。僕はグランド・スチュアートを聴くならエリアレを聴いた方がイイや,といった感じなんですが,このアルバムではスチュアートより,バーンスタインやピアノのスパイク・ウィルナーに聴き惚れてしまいます。特に,スパイク・ウィルナーのふっくらとした音色で歌心のあるファンキーなフレーズは素晴らしいです。今まで意識して聴いたことのないピアニストでしたが,ライアン・カイザーのライブ・アルバムに参加していました。これから注目したいと思います。まだ,聴き込んでいませんが,経験的にはこの手のアルバムは聴くほどに味が出てくることが多いので,期待しています。では,仕事に行ってきます。
           
僕の中では今でもOne For Allの作品中,これがベスト。1曲目のジム・ロトンディのタイトル曲<Too Soon To Tell>のテーマを聴いただけで,もうメロメロ。カッコイイ。愉しい。最高。

P.S. そうそう,以前に紹介したフィル・ウッズの『 Live From The Showboat 1997 RCA)が524日,ついにCD化されることになりました。長い間待たされました。これはホント嬉しいです。超お奨め。


UGETSU 『 Live At The Cellar 』

2006年04月16日 17時27分54秒 | JAZZ

ドイツ人のベーシスト,マーチン・ゼンカー(Martin Zenker )が中心となって1996年に結成されたUGETSUというバンドがあります。バンド名の由来はご存知,アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズのRiversideに残した傑作『 UGETSU 』からとったものです。編成も当時のJMと同じく,Tp, Ts, Tb の3管編成で,モーダルなアンサンブル重視の自作曲を中心にヨーロッパを中心にライブ活動をしているバンドです。Mons Recordsから3枚,その後Maxos Jazzから1枚の計4枚のアルバムをリリースしているんですが,先日,DUに寄ったら新譜コーナーにUGETSUのCDが並んでいたんですね。<お~,UGETSUの新譜が出てるんだ~。>とすぐさま手にとってレジへ。家に帰ってジャケットのメンバーを見てびっくり。UGETSUのリーダー,マーチン・ゼンカーがいないんです。しかもメンバーであるヴァレリー・ポノマレフ(Valery Ponomarev)(Tp),ティム・アーマコスト(Tim Armacost)(ts),アドリアン・メアーズ(Adrian Mears)(Tb)ら,全員メンバー・チェンジしているし。そしてライナー・ノーツを見て初めて理解したんです。このバンドは僕の知っているUGETSUとは別物であると。このUGETSUはどうもカナダのバンクーバーで活躍しているローカル・バンドで,ジョン・ベントレー(Jon Bentley)(ts )とバーニー・アライ(Bernie Arai)(Ds)が中心となって,やはりJMの『 UGETSU 』にインスパイアーされて結成された若手バンドのようです。M-1<Backstage Sally >はショーターの曲で,JMの『 Buhaina’s Delight 』で演奏されていた曲ですが,UGETSUはドラマーのロールやフィル・インの入れ方などブレイキーそっくりに再現しているし,バック・リフもそっくりで,かなり僕としては好みのアルバムかなと期待はしたのですが,意外に2曲目からは知性派ハード・バピッシュな彼らのオリジナル曲で占められていて,あまり“UGETSU”らしさが感じられないアルバムでした。でもピアノのロス・タガート(Ross Taggart)のソロにはとっても惹かれてしまいました。今時珍しく非常によく歌い,スウィングする古典的バッパーです。全体としては平均点以上の良くできたアルバムですが,UGETSUを名乗るからにはもうちょっとJMのような荒々しい勢いが欲しいところです。


元祖UGETSUの第4作目。それまでのオリジナル・メンバーであるトランペッター,ピーター・タッシャー(Peter Tuscher )が抜けて,ヴァレリー・ポノマレフが参加しています。残念なことにデジャン・テルジクも抜けています。なかなか小気味いいファンキーな楽曲で構成された好盤です。ライナー・ノーツによると,初めマーチン・ゼンカーとバーンハード・ピフル(P)が例の『 UGETSU 』をバーで聴いて,「こんなジャズをみんなでやりたいね~。」と話をしたのがきっかけで結成されたようです。


今日,久しぶりに聴いてみましたが,やっぱり本物は格が違いますね。これだけの役者が揃っていれば出てくる音が半端じゃない。フレディー・ハバード在籍期のJMの傑作です。ところで<UGETSU>の曲紹介で,「次の曲はUGETSUという曲です。日本語で“ファンタジーという意味です。>とブレイキーがアナウンスしていますが,ちょっと変な意訳ですね。この<UGETSU>はシダー・ウォルトンの作曲で,後に<Fantasy in D>という曲名になって再演されています。


余談になりますが,僕が最もお気に入りのJMは,以前にマイブログでも書きましたが,1961年の2月から6月までの4ヶ月間で,アルバムで言うとPisces」,Roots and Herbs」,The Freedom Rider」,The Witch Doctor」,そしてこの「 Alamode 」なんですが,この「 Alamode 」はショーターの提案によってはじめてカーティス・フラーを入れた3管編成で録音されたアルバムです。ただし,まだトランペットはハバードではなくリー・モーガンですが。このアルバムの中に<Circus>というボブ・ラッセルの曲が納められているんですが,この曲が大好きで,どんなに落ち込んでいても,この曲を聴くととっても幸せな気分になるんですね。僕にとってのJMのテーマ・ソングみたいなものです。



Eldar Djangirov 『 Elder 』

2006年04月06日 20時09分36秒 | JAZZ
3月14日のマイブログで15歳のオースチン・ペラルタ( Austin Peralta )のデビューアルバムを褒めたばかりですが,5月3日にエルダー・ジャンギロフ( Eldar Djangirov )の新作『Live at the blue note 』が発売になるみたいです。丁度1年前のエルダーのデビューアルバム『 Eldar 』にはその超絶技巧,超音速フレーズに吃驚仰天したものですが,早いものであれから一年,エルダー君も19歳になり,さあ,どう大人に成長したのか楽しみな新作です。

『 Eldar 』ではオスカーピーターソンとジョーイ・カルディラッツォを足したような馬鹿テクぶりを披露し,ジャズ界に旋風を巻き起こしました。もう指が動いて動いてどうにも止まらないといった感じで,全曲聴き通すと結構疲れるアルバムでしたが,その疾走感,スピード感は素直に快感そのものでした。

エルダー君は1986年,旧ソ連のキルギス共和国に生まれました。当時のソ連はジャズという音楽が評価されていなかったため,彼が10歳の時に家族共々,私財を売却しアメリカに移住したのでした。初めはカンザス・シティーに住みながらライブハウスでの活動を地道に行っていましたが,そのうちにビリー・タイラーやマリアン・マクパートランドらに認められ,彼ら(彼女ら)の番組に出演するようになり名声を得てきたようです。本作の前に自主制作盤(?)を2枚出しているようです。

そうそう,オースチン・ペラルタ君と同様,< Maiden Voyage >を演奏していましたが,ペラルタ君とは比べ物にならないくらい超ハイスピードです。そう言えば,フランチェスコ・カフィーゾのライブを開催したプロムナード銀座2005にもエルダー君は出演する予定だったんですよね。急遽,諸般の事情によりキャンセルになってしまって,初来日は果たせなかったのですが,こんど来日の際はぜひ観てみたいですね。


Brian Lynch 『 Spheres Of Influence Suite 』

2006年04月04日 21時15分11秒 | JAZZ

今月から職場が変わり,それに伴い生活も激変しました。今まで朝は8時出勤,帰宅は7時。夜間の緊急手術も皆無といった楽な生活だったのですが,今度の職場は朝は6時に起床し7時前には家を出て1時間かけて車通勤。仕事が終わり家に着くのは夜10時を過ぎるといった生活です。もちろん夜間の呼び出しや当直もあり,40歳を過ぎた衰えた体には非常にきつい生活です。でもこれも可愛い家族のためと,上司に頭を下げ,看護士には愛嬌を振舞い,患者様にはひたすらサービス精神を持って接し,日々孤軍奮闘しております。

昨日も家に着いた時には夜の
10時を回っていて,妻が体調不良で夕食の用意ができないため,コンビニのお弁当を食べながらテレビをつけると「北の国から」で有名な脚本家,倉本聡さんがニュース・ステーションに出ていました。なんでも富良野の閉鎖になったゴルフ場に15万本以上の苗木を植え,元の自然森に戻すというプロジェクトを進めているという事でした。「小泉首相は郵政民営化や年金問題に取り組む前にどうして環境問題に目を向けないのか?」と熱弁をふるっていまいした。自然懐古主義的な印象も若干受けましたが,それでも70歳になるであろう老齢の倉本さんが,次世代の若者のために今の環境問題に真剣に取り組む姿がひしひしと伝わり,感動的でした。でもちょとだけ気になることがありました。<環境問題>,<自然回帰>を掲げているわりに,塾生の前でタバコをふかしながら講義しているわけです。環境をテーマにしながら周囲の人の環境には無頓着な倉本さんが滑稽でした。そういう目でみると壮大な植林プロジェクトも単なる人気集めのためのデモンストレーションに見えてくるから面白いものです。

さて,今日の午前中は仕事が休みだったので,未聴の
CDの封を開けて片っ端から聴いております。ジョー・チンダモの『 Anyone Who Had A Heart 』,イグナシ・テラサの『 Let Me Tell You Something 』などなど。そんな中で印象に残ったのがブライアン・リンチの新作『 Spheres Of Influence Suite 』(2006 ewe records )です。以前は<ジャズ・メッセンジャーズ最後のトランペッター>などと形容されていましたが,最近はラテン・ジャズ・トランペッターとしての側面の方が有名になりました。もともと器用な人で,ホーンセクションもできれば,正統なハード・バップも吹けるし,エレクトリックもやっちゃう,とっても多彩な才能の持ち主です。本作は前作の『 Conclave 』のラテン・ジャズを更に推し進めて壮大な組曲に仕上げた大作です。キューバ出身のドラマー,ブフニス・プリエトを中心とする強烈なラテン・グルーブ隊に乗って6管編成の重厚なホーン・アンサンブルが熱くうねります。お友達のミゲル・ゼノンやロニー・キューバも参加していますよ。結構僕はラテン~ジャズが好きなのでリンチのこの路線は大賛成です。


 tribute to the trumpet masters 』(2000 Sharp Nine Records
Sharp Nine Records からカルテット編成のアルバムはVol.1Vol.22枚が発売になっています。どちらも凄く爽快で気持ちいい作品なのですが,どちらかというとVol.2の方が好き。タイトル通りにウディ・ショー,リーモーガン,フレディー・ハバード,サド・ジョーンズらのおなじみの楽曲を演奏していて楽しいアルバムです。それにしても彼ほど顔と音との間にギャップのあるミュージシャンはいないのでは。


fuchsia/red 』(2003 cellar live records
何の予備知識もなく購入しトレーに乗せ,出てきた音にびっくり仰天。一瞬別のディスクを誤ってトレーに乗せたのかと思いました。リンチが電化ペットに挑戦した意欲作。でも僕はあまり好きではないのです。電化ペットはマイルスだけで十分と思っているから。それにしても電気を通すと何でみんなマイルスになっちゃうの。


Eddie Palmieri Listen Here ! 』(2005 Concord Records
ラテン界の大御所,エディ・パリミエリの最新アルバムにリンチが参加しています。リンチの
HPを覗いてみたら,The Brian Lynch / Eddie Palmieri Project 2005 というプロジェクトで既に録音完了しているようで,この春には発売になると告示されていました。パリミエリは90年代に急速にジャズに接近し,一方リンチもジャズ・メッセンジャーズ脱退後にラテン・ジャズに傾倒していったので,2人は出会うべくして出会ったわけですね。パリミエリの書く曲はコード進行がジャズ的(II-V )なので,他の単純なラテンの楽曲(I-V-I-V)よりもジャズ・ミュージシャンに取り上げられやすいのでしょう。マイケル・ブレッカーやニコラス・ペイトン,クリスチャン・マクブライトらも参加している豪華盤です。でもコテコテのラテンですので要注意。


I Love Jackie Mclean, too!!

2006年04月02日 20時42分46秒 | JAZZ
ジャッキー・マクリーン( jackie Mclean )が3月31日に亡くなりました。切ない死です。ジャズが最もジャズらしかった時代に生きたハードバッパーがまた一人消えてしまいました。ご冥福をお祈りいたします。

考えてみれば,大学時代に無我夢中で聴いたハードバップには必ずマクリーンがいたものです。リー・モーガンの『 Cornbread 』,『 The Sixth Sense 』。ドナルド・バードの『 Fuego 』。そしてマル・ウォルドロンの『 Left Alone 』やソニー・クラークの『 Cool Struttin’ 』など。全部マクリーンがいなければ傑作になり得なかった作品ばかりです。あのひしゃげた音程の悪いマクリーン節こそジャズなんだと信じて疑わなかった青春を送りました。そしてジャズとは「哀愁の歌」であることを教えてくれたのもマクリーンでした。

今日は,『 A Long Drink Of The Blues 』のB面のバラード3曲,<Embraceable You >~< I Cover The Waterfront >~< These foolish Things >を聴きながら静かに追悼したいと思います。

Chick Corea 『 Super Trio 』

2006年04月02日 12時05分17秒 | JAZZ

チック・コリアがスティーブ・ガット,クリスチャン・マクブライトと組んだピアノトリオ,Super Trio です。一昨日仕事帰りに買って,車の中で聴いてきたのですが,率直な感想としては<緊張感のない凡庸な作品>といったところでしょうか。

スティーブ・ガットはもちろん素晴らしいドラマーであることなど百も承知ですが,
70年代のVerveの一連の作品群(「妖精」「The Mad Hatter etc)でのチックとガッドの相性は抜群でしたが,果たしてアコースティック・トリオとしてはどうかな~とちょと不安でしたが,その不安が的中してしまったようです。ガットも65才ぐらいなのかな。パワー落ちるのも仕方ないかという気持ちもあります。

チックのピアノトリオというと,僕は
1984年の『 Trio Music Live in Europe 』(ECM )が最高傑作だと思っているので,どうしてもそれと比較してしまうわけです。とにかく『 Trio Music Live in Europe 』は凄かった。ミロスラフ・ヴィトウス,ロイ・ヘインズのトリオで,非常に自由度の高く,高次元で繰り広げられるインタープレイ。伸縮自在のタイム感。チックの煌きのある美旋律。1983年に発売されたキース・ジャレットの『 Standards Vol.1 』と共に,強く心に残っているアルバムです。

チックのアコースティック・トリオには,デイブ・ホランド,バリー・アルトシュルと組んだ
ARCトリオ。これはフリー・ジャズ路線の作品で僕の守備範囲外。それからジョン・パティトウチ,デイヴ・ウェッケルと組んだアコースティック・トリオ。これはメンバーは非の打ち所がないのですが,どうもパティツウチの動きすぎるベース音が鼻に付き,僕としてはパス。ちなみにこのトリオのアルバム2枚は既にユニオン逝きです。意外に好きなのがアヴィシャイ・コーエン,ジェフ・バラードと演ったNew Trioです。綿密に書かれた譜面が用意されていたと想像されるカッコイイ楽曲で構成された超個人的名盤『 Past, Present & Future 』。こうしてみるとチックって,多作のわりにトリオでのアルバムが少ないですね。

本作の一番不満なのは,最後の<spain>が盛り上がりに欠ける上にフェイド・アウトで終わること。なんだこれ?といった感じです。これじゃ本国での発売は無いな。というかそんなの日本だけで発売するな~。

【愛聴度 ★★★】


 


Francesco Cafiso 『 Happy Time 』

2006年04月02日 11時57分57秒 | JAZZ
フランチェスコ・カフィーゾ(Francesco Cafiso )の待ちに待った新作『 Happy Time 』がCam Jazzから発売です。前作『 A Tribute To Charlie Parker 』は短尺なスタンダード18曲入りのストリングス物だったのですが,僕としてはあまり小奇麗にまとまり過ぎたインパクトの薄い作品で,何度も聴く気にはなれなかったので,今回の『 Happy Time 』には期待していました。

本作は全8曲全てカフィーゾのオリジナルで,録音が2005年10月31日ということからも分かるように,2005年11月5日,6日の来日直前の吹き込みです。当然,来日メンバーと同じですし,曲目もほぼプロムナード銀座2005での演奏と同じ。その彼の初ライブでも演奏してくれたとっても印象的なバラード,<She Loves Me >も今回のアルバムに収録されています。ただライブでの演奏の方が数段良かったです。ライブでは最初静かに優しく始まり,徐々に激しく情熱的に昂揚していく劇的な構成なのですが,アルバムにはあまり昂揚感が感じられないんですね。ライブが富士山頂まで上り詰めた演奏だとすれば,本作での演奏は6合目で引き返してきたような印象を受けます。でもめちゃくちゃ上手いことには変わりありませんが。

バックメンバーもバンドとしてもまとまりもよく,単にビック・ネームだけを配したバンドとは違い,非常にサウンド・カラーも統一され,味のあるバッキングでカフィーゾをフォローしています。ピアノのリカルド・アルギーニ(Riccardo Arrighini )は先日紹介したボッソとの競演盤なども発売されたばかりの注目株で,顔は強面ですがとってもエモーショナルな叙情的なピアニストです。

Venusの『 New York Lullaby 』や前作『 A Tribute To Charlie Parker 』が正装姿での清新な作風であったのに対し,本作はジーンズ姿で荒々しく,でもちゃんと押さえるところは押さえ,抑揚を付けてコントロールされた,一皮剥けた大人のカフィーゾが垣間見れる傑作ではないでしょうか。カフィーゾをまだ聴いたことがないという方は,このあたりから入るのも結構いいと思いますが。

Francesco Cafiso 『 Happy Time 』2006 Cam Jazz CAMJ 7782-2
Francesco Cafiso (as)
Riccardo Arrighini (p)
Aldo Zunino (b)
Stefano Bagnolo (ds)

【愛聴度 ★★★★★】