雨の日にはJAZZを聴きながら

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Dave Holland Quintet Live At Blue Note Tokyo

2007年10月28日 22時57分24秒 | ライブ
ブログもご覧ください。

ラズヴェル細木のジャズ漫画『 コンプリート・ジャズ・コミック・コレクション 』(1992年 双葉社 )の中にこんな件があります。

「東京でジャズ・ファンをやっていると、ホントーに頭がぼけてくる。~今回は逃しても、またじきに来るだろうという安易な気持ちが心の底にあるのだ。もっと東京という街のありがたさに気が付くべきだ。ジャズ・ファンに関しては、地方の方々のほうがずーっと熱心で良質だろうと、自分は見ていて思う。~」

まさにラズヴェル氏が言われる通りで、僕も20年間も東京で生活しているのに、ライヴに熱心に通うようになったのはこの2,3年の話です。それまでは年に4,5回ライブを観ればいいほうでしたからね。せっかく高い物価に我慢し、高い住民税を払いながら東京に住んでいるのだから、少しはその恩恵に与ろうと、最近は小まめにライヴ情報をチェックしいています。

さて、先週の火曜日、念願だったデイヴ・ホランド・クインテットのライブを Blue Note Tokyo に観に行ってきました。僕が観たのはセカンド・ステージ。

僕が意識してデイヴ・ホランドのリーダー作を聴き始めたのはつい最近のことで、99年の『 Prime Directive 』だったと記憶しています。しかも『 Prime Directive 』は完全なクリス・ポッター狙いの後追いで購入しており、リアルタイムでは聴いておりません。はじめのうちはあまりその良さが分かりませんでしたが、03年に発売された2枚組ライブ作品『 Extended Play Live at Birdland 』が素晴らしい出来で、スタジオ盤とライブ盤がこれほどまで違うバンドは珍しいと、感激したものでした。このメンバーで来日したら絶対観に行こうと決めていたので、今回の来日は個人的に待ちに待った待望の来日だったわけです。

演奏はデイヴの新曲 ≪ Ebb & Flo ≫ からスタート。お得意の変拍子のラテン・ナンバーで、いかにもデイヴらしい癖のある楽曲。いきなりネイト・スミスが激しくドライブし、その凄さを見せつけます。ビリー・キルソンの後釜としてこのクインテットに参加したネイト・スミスですが、前任者に負けず劣らずの手数の多さと、瞬間的な爆発力でホールを熱気の渦に巻き込みます。スタイル的にはビリー・キルソンと酷似していますね。2曲目の≪ How’s Never ≫ もデイヴの新曲です。これもまたロック調の変拍子。ホームレス風の貧相な風貌のスティーブ・ネルソンが奏でるヴィブラフォンとネイト・スミスのドラムの長尺なかけ合いから始まります。クリスのソロのバックで激しく煽るネイト・スミスがめちゃくちゃカッコいいです。3曲目はクリス・ポッター作の新曲 ≪ Souls Harbor ≫。これも5拍子。しかもドラマティックにリズムが変化していく難曲。クリスのブチ切れソロは、決してスタジオ盤では聴けません。クリポタって、一見するとNOVAの英語教師風のごく普通のアメリカ人ですが、一たび吹き出すと手がつけられないくらい豹変して吹きまくるのね。4曲目はまたしてもデイヴの新曲≪ Veil of Tears ≫。陰鬱なベース・ソロから始まる7拍子。そしてステージ最後の曲は『 Extended Play Live at Birdland 』にも収録されていた ≪ Prime Directive ≫。途中のロビン・ユーバンクスとクリス・ポッターの無伴奏の掛け合いなどは、『 Extended Play Live at Birdland 』と全くいっしょ。そう言えば、今回のライブは、全体的にも『 Extended Play Live at Birdland 』と似ている雰囲気があります。アンコールでやっと『 Critical Mass 』から≪ Easy Did It ≫を軽く短めに演奏し、1時間30分のブルーノートのライブとしてはかなり長めのステージが終了しました。いつものブルーノートって、だいたい1時間程度の演奏で、ちょっと物足りないライブが多かったから、このくらい演奏してくれると丁度いいかも。満足です。店を出る際、店員が「このあとサイン会がありますよ~」と、アナウンスしていましたが、時計を見たら既に11時を回っていたので、後ろ髪を引かれながらも店を後にしました。

<ライブのまとめ>
1. これで、ジョシュア、エリアレ、クリポタ、の3人全員を生で観たことになるが、やっぱりクリポタが一番凄かった。
2. ネイト・スミス。大好き!
3. デイヴ・ホランドは素晴らしいコンポーザーだ!しかし、ベースの技術は並。
4. (スティーブ・ネルソンをみるにつけ)人は外見で判断しちゃ、いけないな。

Chris Potter 10 『 Song For Anyone 』

2007年10月22日 22時59分48秒 | JAZZ
今、一挙手一投足が気になる吹き手と言えば、クリス・ポッターを置いてほかにいないでしょう。

ご存知、91年のセロニアス・モンク・コンペティションで1位のジョシュア・レッドマン、2位のエリック・アレクサンダーに次いで、3位に甘んじたクリス・ポッターですが、あれから15年。今や他の2人をも完全に凌駕する勢いを秘めた存在に成長しました。へたすると本国アメリカでは他の2人よりも人気があるかもしれません。

そんなクリポタの最新作が2枚同時にsunnyside から発売されました。1枚は前作『 Underground 』(前項あり)と同メンバーによるライブ盤。そしてもう1枚が管楽器、弦楽器、リズム隊からなる10人編成のラージ・アンサンブル作品の『 Song For Anyone 』です。前者がサックス、ギター、ローズ、ドラムスのベースレス変則カルテットで吃驚しましたが、後者もフルート、クラリネットだけならまだしも、バズーンやチェロも登場し、なんだか聴く前から怪しい雰囲気プンプンの異色作です。そしてバイオリンのマーク・フェルドマンやギターのスティーブ・カルディナスなんかが参加しているあたりが、いかにもブルックリン派のアンダーグラウンド臭を漂わせていて、その道のお好きな方には堪らない作風に仕上がっています。

一聴して、90年代のデイヴ・ダグラスの作品群を彷彿させる翳りと軋みを内包した知的なサウンドだと感じましたが、そういえば、クリポタも一時期、デイヴ・ダグラス・クインテットに参加していた時期もありましたよね。クリポタはポール・モチアンのエレクトリック・ビ・バップ・バンド(EBBB)にも在籍(そう、そこでスティーブ・カルディナスといっしょだったのね)していたこともあり、どうしても彼にはアンダーグラウンドなイメージが付き纏うわけですね。

で、サウンドの方はと言うと、もっとアヴァンギャルド系かと予想していましたが、意外に美しく収まっていました。マーク・フェルドマンがいつもの狂気を押し殺して、アンサンブルに溶け込んでいるのが不気味です。

そして、限りなき自由なイマジネーションの発露ともいうべき、クリポタのアドリブラインは快感以外の何物でもありません。あの先行きの読めない捻じれたフレーズがたまらなく素敵です。要は、如何に気持ちよく聴き手の予想を裏切ってくれるか、そこがポイントなわけで、どんな時にも裏切らない調和を保ったアドリブを吹くエリアレより、変な所へ飛んで行き、翻って捻じれ捻じれて戻ってくる、いわばメビウスの輪のようなアドリブが結局は飽きない、のかもしれません。

そんなわけで、明日23日からBULE NOTE 東京に、デイヴ・ホランド・クインテットの一員として来日します。もちろん、ネイト・スミスも来ます。僕は明日の第二ステージを観に行く予定です。

Vince Mendoza 『 Vince Mendoza 』

2007年10月20日 06時33分24秒 | Large Jazz Ensemble
音楽シーンへの貢献度の割に、一般音楽ファンへの知名度が意外に浸透しないミュージシャンが少なからずいるものです。Vince Mendoza (ヴィンス・メンドーサ or ヴィンス・メンドゥーサ)もそんな一人ではないでしょうか。

80年代後半にピーター・アースキンの秘蔵っ子として颯爽と登場した彼は、89年に満を持してデビュー作『 Vince Mendoza 』を発表します。本作は全8曲で、≪ You Must Believe In Spring ≫ を除く7曲がすべて彼のオリジナルという力作で、85年から88年の間に録音された音源が集められています。ピーター・アースキンの伝手で集められたビッグバンドのメンバーはマイケル・ブレッカーをはじめ、ボブ・ミュンツァー、ボブ・マラック、マーヴィン・スタム、ドン・グロルニック、ジム・マクニーリー、マイク・スターン、チャック・ローブ、ウィル・リー、リンカーン・ゴーイング、etc。もちろんピーター・アースキンも叩いています。

今、CDのクレジットをみると、そのメンバーの豪華さにあらためて驚きます。今や押しも押されぬトップ・ミュージシャン達が名を連ねているわけで、よくも新人無名のヴィンスのもとに、しかも録音時点ではCD化も予定もなかったのにもかかわらず、これだけのメンバーが集結したものです。

こんな豪華メンバーに恵まれたせいもあり、本作の完成度は尋常ではありません。通常、これだけキャラの立ったビッグ・ネームが共演すると、お互いに相殺しあい、結局破綻し、良い結果が生まれないことも多いのですが、本作はそんなピットホールに陥ることもなく、素晴らしい出来栄えです。これもやはりヴィンスの完璧なるスコアの成せる技でしょうか。

このCDを手に入れた89年は、僕は、エリントンやベイシーにやや食傷気味になっていた時期でした。ジョージ・ラッセルやギル・エヴァンスなども聴いてはいましたが、その作為的な編曲や理屈っぽさが鼻につき、今一つ好きになれず、ビッグバンド・ジャズから遠ざかっていました。そんな時期に本作を聴き、衝撃を受けたのです。比喩的な表現ではなく、本当に身震いしたのです。こんなビッグバンド・サウンドもあったのか!こいつはホント、天才だ~!と、ひとり興奮していたのを今でも鮮明に覚えています。

個人的にはピンク・フロイドの『 原子心母 』、ニュー・トロルスの『 Concerto Grosso 』、イエスの『 海洋地形学の物語 』などを初めて聴いた時のような、壮大なヴィジュアル・イメージを想起させる作品だったのです。組曲ではないのですが、連続する物語を紐解いていくようなワクワク感が最後まで持続するのです。色鮮やかな景色が連続変化して、聴き手自身が主役になって進行するアドヴェンチャー映画のようでもあります。まさに仮想サウンド・トラック的な作品なのです。

つまるところ、いかに多くのヴィジュアル・イメージを聴き手の脳内に投影できるか、ということが大切だと思うわけです。その点において、まさに本作はビッグバンド史上、軽く10本の指に入る傑作だと、言いたい。

ラテンの血脈を受け継ぐヴィンスが、その血筆で記した扇動的な重層美旋律。その複雑で時に変態的ですらあるスコアを、嬉々として演奏するマイケル・ブレッカーやマイク・スターン。まさに至福のひと時をもたらす極上の一枚です。

彼は本作の後、『 Start Here 』(90年)、『 Instruction Inside 』(91年)、『 Jazzpana 』(92年)、『 Sketch 』(93年)と毎年、精力的に作品を発表。しばらく置いて、99年にはロンドン・シンフォニーとの共演盤『 Epiphany 』をリリースしていますが、その後はリーダー作を制作していないのが残念です。

近年では、ジョニ・ミッチェル、ジェーン・モンハイト、ビヨークなどの作品でアレンジャー(残念ながらストリングス・アレンジのみのことが多いのですが)として参加し、商業的にも成功しているようです。現在までに15回ものグラミー賞ノミネートを果たし、昨年の49回グラミーでは、ランディー・ブレッカーの『 Some Skunk Funk 』で「 Best Large Jazz ensemble Album 」部門で3回目のグラミー賞を受賞しています。

いずれにして、このような名盤が、今迄全然話題にならないことが、僕は、残念でたまりません。ぜひ、御一聴を。

P.S. マイケル・ブレッカーは晩年、ビッグバンドに興味を抱いていたと言われます。03年の『 Wide Angles 』が14人編成の変則 Large Ensemble でしたが、ビッグバンド・ジャズとは言い難い作品でした。マイケルのリーダー作はもちろん、膨大な彼の参加作品群の中にも、ほとんどビッグバンド作品は存在しません。そのような意味でも、本作 『 Vince Mendoza 』は、マイケルのビッグバンド・ソリストとしての演奏を記録した貴重な作品だと思います。

Vince Mendoza 『 Vince Mendoza 』1989年 Fun House 32GD-7022

Vince Mendoza の Official Web Site はこちら

Matt Dusk 『 Back In Town 』

2007年10月15日 23時19分50秒 | JAZZ
トロント生まれの若き Crooner、マット・ダスクのメジャー第二作目にして本邦デビュー盤。Swing Journal 誌 や Jazz Life 誌などにレビューやインタビュー記事が掲載され、更には見開きカラーの大々的な広告も打たれているので、このジャケットには見覚えがある方も多いのではと思います。セクシーで都会的な美声にこのイケ面。これは売れるとレコード会社 DECCA は彼に商品としての価値を見出し、二作目にしてなんとビッグ・バンド+ストリングスとの共演盤を制作したのです。大概この手のコマーシャリズムとメジャー志向に根ざした作品は、豪華な音作りなだけで飽きやすい内容であることが多いのでいつもならスルーするところですが、よく記事を読むとアレンジャーとしてなんとPatrick Williams (パトリック・ウイリアムス)、 Sammy Nestico (サミー・ネスティコ)、そしてVince Mendoza (ヴィンス・メンドゥーサ)らが名を連ねているではありませんか! こんな贅沢なアレンジャーを揃えた作品はあまり聴いたことがありません。それだけで絶対買い、です。

パトリック・ウイリアムスといえば、86年の『 10th Avenue 』が有名ですよね。リチャード・ティー、マイケル・ブレッカー、ランディ・ブレッカー、ビル・ワトラスらなどを擁した超豪華ビッグ・バンドの傑作でした。主に映画音楽、TV音楽畑のアレンジャーなので、あまり知名度は高くありませんが、硬質で堅実なアレンジをする名手です。サミー・ネスティコは知らない人はいないでしょう。カウント・ベイシー・オーケストラのアレンジャーとして一世風靡したビッグバンド界のマエストロ。兎に角、踊りたくなるようなご機嫌なアレンジをするジャズ職人です。そして、ヴィンス・メンドゥーサは僕がもっとも尊敬する現代のコンテンポラリー系アレンジャーです。エリントンやベイシーにやや食傷気味だった80年代末に耳にした彼のデビュー盤『 Vince Mendoza 』が衝撃的でした。「こいつは天才だ!」と興奮し、死ぬほど聴いた名盤でした(次回、取り上げることにしましょう)。実はもう一人、Cliff Masterson (クリフ・マスターソン)というアレンジャーが参加しています。僕は知らなかったのですが、オアシス、マイケル・マクドナルド、ライオネル・リッチーらのアレンジなどを手がける Rock/Pops 界の方のようです。

更には、レコーディング・エンジニアにアル・シュミット。ミキシング・エンジニアにクリス・ロード・アルジ、とくれば、悪いはずがありません。ちなみにドラムはヴィニー・カリウタです。

さて、内容ですが、プロモーション・ビデオも制作されているオリジナル曲 M-1 ≪ Back In Town ≫ とM-2 ≪ All About Me ≫がこの作品の目玉で、M-1 がパトリック・ウイリアムス、M-2 がクリフ・マスターソンのアレンジ。共にジャズというよりも“ Pops with Horns and Strings ”的なアレンジで、いかにもヒットチャートを視野に入れたサウンド・デザインです。個人的にはけっこう好きですが、好みが分かれるところでしょう。僕はこの2曲を聴いて95年にリリースされた Chicago の『 Night and Day 』を思い出しました。これはビル・ワトラス・ビッグバンド(ピアノは近年俄かに人気のシェリー・バーグ)をバックに Chicago がジャズのスタンダードを歌った異色作でしたが、この『 Night and Day 』のサウンドを連想させるポップなアレンジで、この2曲だけでかなりセールスが見込めそうです。

     つづく。

Luciana Souza 『 The New Bossa Nova 』

2007年10月14日 05時37分47秒 | JAZZ

ニューヨークを中心に活躍するサンパウロ生まれのボサノヴァ/ジャズ・シンガー、Luciana Souza (ルシアナ・ソーザ)。最近ではハービー・ハンコックの『 River 』やマリア・シュナイダーの『 Sky Blue 』(前項あり)にも客演し、12月には来日も予定( Cotton Club ) されている彼女のVerve移籍第一弾、通算7作目となる最新作がリリースされました。

プロデューサーは彼女の夫君でもあるLarry Klein (ラリー・クレイン)。彼はジョニ・ミッチェルの元・夫君で、昔は夫婦で組んで数多くの作品をヒットさせました。最近ではマデリン・ペルーやティル・ブレナーらのプロデュースでも大成功をおさめた凄腕プロデューサーです。

前作ではホレロ・ルバンボ(g)をはじめ4人のギタリストとのデュオ形式で、ポルトガル語でのブラジルの優しい風を届けてくれたソーザですが、本作ではスティーリー・ダン、ジェームス・テイラー、スティング、ブライアン・ウイルソン、マイケル・マクドナルドなど、70年代~80年代のPOP/ROCK の名曲をボサノヴァにアレンジしてカヴァーし、移籍第一弾にふさわし新境地を切り開いています。

全編英語で歌っているためサウダージ感は希薄ですが、彼女の優しく深い感情のこもった歌声で綴られる懐かしい美メロは、極上の安らぎを与えてくれます。しかし単なる能天気な癒し系ボサノヴァ作品ではなく、ニューヨークの洗練されたインテリジェンスが漂うボサノヴァ作品に仕上げるところが流石です。

サポート・ミュージシャンも盟友ポレス・ルバンボはもちろんのこと、以前から共演しているエドワード・サイモンや、クリス・ポッター、スコット・コリー、アントニオ・サンチェスらなど、超豪華なジャズ・ミュージシャンを揃えるあたりもルシアナとラリーの本気度の高さがうかがえます。

ところで、僕が初めて彼女の歌声を聴いたのは、95年のジョージ・ガゾーンの傑作『 Alone 』(前項あり)でした。一曲だけですが≪ How Sensitive ≫で澄んだ透明感のある歌声を披露していたのです。その一曲で完全に彼女の魅力にとりつかれてしまった僕は、以来彼女を追っかけているのですが、02年のギターとのデュオ作品『 Brazilian Duos 』、03年のブレッド・ハーシュ、エドワード・サイモン、ブルース・バースらのピアノ・トリオをバックに歌った『 Norte E Sul ( North and South ) 』と並んで、本作も愛聴盤になること間違いなしの出来の良さだと感じました。

ただし、真摯なジャズ・ファンにはちょっとお勧めはできないかもしれません。むしろ、非ジャズ・ファンの方々に支持される可能性の方が高いかもしれません。なにしろ、先天性音楽受容体欠損症を患う我が愚妻が、「この人、バーシアみたいで素敵ね~」とか評していましたので。

Luciana Souza  『 The New Bossa Nova 』 2007年 Universal Music France / Verve 0602498485392

Down To You ( Joni Michell )  !!!
Never Die Young ( James Taylor )
Here It Is ( Leonard Cohen / Sharon Robinson )
When We Dance ( Sting )
Setellite ( Elliot Smith )
Where You Blind That Day ( Walter Becker / Donald Fagen )
Love Is For Strangers ( Walter Becker / Larry Klein )
You And The Girl ( Luciana Souza / Larry Klein )
Living Without You ( Randy Newman )
I Can Let Go Now ( Michael McDonald )
God Only Knows ( Braian Wilson / Tony Asher )
Waters Of March ( Antonio Carlos Jobim ) 

Lciana Souza の Official Web Site はこちら
  ≪ Here It Is ≫などの録音時ビデオ・クリップが見られます。


バカヤロという罵声が飛んできそうですが、前述のバティスタの新譜と並べて眺めると、俄然、バティスタの目線がイヤラしく見えてくるもんですね。


Stefano Di Battista 『 Trouble Shootin' 』

2007年10月11日 22時20分22秒 | JAZZ
イタリア・ジャズ界が生んだ夭折の天才アルティスト,マッシモ・ウルバニの財産を今に受け継ぐステファノ・ディ・バティスタの待望の最新作『 Trouble Shootin’ 』。本作は彼のソロ作品としては6作目であり,仏Blue Note からの5作目になります。

「なんだかメンバーがかなり豪華なのです!」とはDisk Union の店員さんが書いたポップの賞賛句です。確かにラッセル・マーロン,エリック・ハーランド,バティスト・トロティニョン,そしてファブリツィオ・ボッソと,超豪華布陣ではあるのですが,僕はその「豪華」さよりも,むしろ,「レアな組み合わせ」に驚かされました。おそらくここに招集させられた5人はお互いがそれぞれ初対面だったのではないでしょうか,少なくとも録音ベースでは。バティスタとボッソの競演もありそうでなかったと思いますし(あったらお教えください)。


そして,アメリカ人のラッセル・マローンとエリック・ハーランドを加える事で,今までとは一風変わった作品に仕上がっているのですね。つまり,メンバーが欧州陣と米国陣の競演ならば,演奏曲もバティスタのオリジナルとケニー・バレル,ホレス・シルバー,ボビー・ティモンズらのファンキー・チューンの混成で,泥臭い中にも洗練されたイタリアン・ハード・バップの血脈が流れる,折衷美溢れる作品に仕上がっています。

さらには,バティスト・トロティニョンにハモンドB3を弾かせることで,全体にファンキー色が全面に表出した独特の世界感に溢れた作品となっています。楽器編成がオルガン,ギターの加わった2管フロントで,コテコテ・ファンキー・チューンを演奏されると,60年代末にルー・ドナルドソンがBlue Noteに残した作品群(たとえは,『 Hot Dog 』,『 Say It Loud 』,『 Everything I Play Is Funky 』などなど)を連想してしまいますが,それらよりはもちろんぐっと現代的で洗練されているのですが,今回,彼らが狙っているのは,そのあたりのソウル・ジャズではないのかと勘ぐってしまいそうです。

ただ少々残念なのが,トロティニョンのベースライン(左手)がどうしても本職でないので弱いのですね。録音レベルも低いせいもあるのですが,スイング感,グルーブ感が希薄なのです。通常,ジャズのオルガン奏者は左手でベースラインを弾きながら,左足で足鍵盤(ペダル)をスタカートで踏み,あのグルーブ感を出しているのですが,おそらくトロティニョンはペダルを使用していないのでしょうね。まあ,仕方ないことですが。

余談ですが,ジャズ・ファンの中には,オルガン奏者は足鍵盤でベースを弾いていると勘違いしている方がたまにいますが,それは間違いです。エレクトーン奏者は足でベースラインを弾いちゃいますけどね。

02年の前々作『 Round About Rome 』,04年の前作『 Parker’s Mood 』が個人的には今ひとつの出来具合だったので,今回はかなり期待していたのですが,はたして期待を裏切らないクオリティーの高い作品であったと思います。でも,一番好きなのは『 Volare 』ですけどね。

Stefano Di Battista 『 Trouble Shootin' 』2007年 Blue Note /EMI 5099950291120
Stefano Di Battista (as,ss)
Baptiste Trotignon (B3)
Eric Harland (ds)
Fabrizio Bosso (tp) 2,4,5,8,9,10
Russell Malone (g) 1,5,6,7,11
Nicola Stilo (fl) 3,6
Eric Lignini (p) 11

横濱ジャズプロムナード2007

2007年10月09日 23時48分13秒 | ライブ
爽やかな秋晴れに恵まれた今週の日曜日、恒例の横濱ジャズプロムナード2007に出かけてきました。今年は待望のクリスチャン・ジェイコブが来日するということで楽しみにしていた同フェスティバルでしたが、逆にジェイコブ以外はわざわざ横浜まで行かなくても普段観られるバンドばかりだったので少々残念でした。

さて、今年はこんな感じでプロムナードしてきました。

12:00 ~ MAYA with 松尾明 Trio ゲスト:森里子(vln)( ランドマークホール)
13:50 ~ 早坂紗知(as) MINGA( 横浜赤レンガ倉庫 )
15:40 ~ ティネカ・ポスマ・カルテット( 横浜赤レンガ倉庫 )
17:30 ~ クリスチャン・ジェイコブ・トリオ( 横浜赤レンガ倉庫 )
19:20 ~ 宮間利之とニューハード( 横浜みなとみらいホール)

意外に良かったのが早坂紗知のMINGAというバンド。ドイツ人、セネガル人、そして日本の大宜見元さんら3人のパーカッショニストが参加したアフリカン・リズムなどを取り入れた民族音楽色豊かなサウンドでした。何しろパーカッションが3人もいるとサウンドがカラフルです。早坂紗知さんもコルトレーンっぽいフレーズでガンガン吹きまくるし、こんな情熱的な女性吹き手が日本にいたなんで今まで知りませんでした。ちょっと私、勉強不足だったようで、これからしっかりチェックしていこうと思いました。

さて、お目当ての横浜赤レンガ倉庫で開かれたジェイコブ・トリオのライブですが、しっかり3列目に席を確保。しかもジェイコブの手がしっかり見られるポジションということで、昼からレンガ倉庫のあの固い即席座席で待った甲斐がありました。17時30分丁度、ジェイコブ・トリオのメンバーがステージに登場です。ジェイコブが簡単にメンバー紹介した後、1曲目が静かに始まりました。ピアノとベースのユニゾンでテーマが奏でられる美しい曲。これは Jule Styne の ≪ Time After Time ≫ です。それにしても美しい音色です。早坂紗知のバンドのピアニスト、新澤健一郎、そしてティネカ・ポスマのバンドのロブ・ヴァン・バヴェルと同じピアノを使用しているのに、音色がみんな違うんですよね。もちろんジェイコブの音色がずば抜けて素晴らしのですが。同じ楽器でこれほど音色に違いがでるのは不思議です。

1曲目が終わり、ここでジェイコブのMC。

Tune is a ≪ Time After Time ≫ from my CD 『 Styne & Mine 』.
And now here is a new tune with jazz starting to play called
≪ It never entered my mind ≫.

≪ It never entered my mind ≫ は今まで録音歴がなかったと思います。

ついで3曲目が始まるのですが、MCがないので曲名がわかりません。50年代のウエスト・コーストのアルバムで何度か聴いたことのあるスタンダードだったと思うのですが。アート・ペッパーの音が頭に浮かんできますが、曲目までは思い出せません。

そして、3曲目終了後にまたジェイコブのMC。

This is a first time in Japan with the trio ,and we were very exciting to come ,so I thought I would do something special, so I asked a friend of mine from L.A. who is Japanese person. And I said what is melody something that every Japanese person knows. And so we came up with four seasons ….HANA….. I can’t ~.NATSU NO OMOIDE, YUKI NO HURU MACHI WO ~.

最後のほうはよく聞き取れませんでしたが、要は、日本の四季にちなんで、春、夏、秋、冬の名曲をアレンジして演奏します、と言って、< 春のうららの隅田川~ >で始まる滝廉太郎の ≪ 花 ≫。< 夏が来れば思い出す、遙かな尾瀬、遠い空~ >で始まる名曲 ≪ 夏の思い出 ≫。< 夕焼けこやけの赤とんぼ~ >の童謡 ≪ 赤とんぼ ≫。そして最後は ≪ 雪の降る街を ≫ で締めくくりました。どの曲のアレンジもロックビートやモード的アプローチなどで味付けされた素晴らしい曲に仕上がってして感激しました。おそらくこの4曲は、10月12日の Tokyo TUC のライブでも披露され、CDに収録されるのではないでしょうか。ぜひ、もう一度聴いてみたいものです。

8曲目は彼のオリジナルのようでしたが、よく聴きとれず曲名不明。9曲目は最新作『 Contradictions 』から、ペトルチアーニのオリジナル曲、≪ My Bebop Tune ≫ を演奏し、ひとまずステージは終了しました。当然、割れんばかりのアンコールの拍手(僕の隣に座っていた品のイイおじさんまで、脚を踏み鳴らし、叫んでいてビックリしました)に答えて、≪ Just In Time ≫ を演奏してくれました。もうこの≪ Just In Time ≫のイントロが流れだしたときは、心の中で、「やった~」と叫んでいしまいました。ジェイコブの演奏の中で一番好きな曲ですからね。このアレンジはかっこいいですよね。レイ・ブリンカーの素晴らしいアイディアが光った名曲です。


               つづく。

Tal Wilkenfeld 『 Transformation 』

2007年10月06日 23時24分12秒 | JAZZ

ナチュラル・ボディーに黒のピックガードのサドウスキー・ベースを手にした美少女。彼女の名前は Tal Wilkenfeld (タル・ウィルケンフェルド)。シドニー生まれの弱冠21歳。10代半ばで音楽やりたさで単身渡米し、はじめはギターを弾いていたようですが03年にロサンゼルスの LA Music Academy のベース科に入学。04年に卒業しましたがその頃から天才少女として脚光を浴びるようになり、ジョン・ビアズレー、オールマン・ブラザーズ・バンド、ケンウッド・ディナードらなど、一流ミュージシャンらといきなり共演をはたします。なにしろベースを手にしてまだ4年程ですからね。03年に LAMA に入学した時にはまだベース初心者だったわけですから、まずはそこに吃驚仰天です。そんな天才少女のデビュー作である『 Transformation 』にはウィエイン・クランツをはじめ、ジェフリー・キーザー、シーマス・ブレイク、キース・カーロックらが参加し、ギンギンのロック系のハード・コア・フュージョンに仕上がった快作です。まずは、ウィエイン・クランツとの複雑なユニゾンで始まるM-1 ≪ BC ≫の出だし2秒ほどでその凄さが実感できるはずです。彼女のソロ・パートはそれほど多くはないのですが、バッキングしながらも終始ベース・ラインが止まらずに歌っているのが凄いし、タイム感がずば抜けて鋭いのも驚きです。M-4≪ serendipity ≫ で聴かれるスラップなどはマーカス・ミラーを彷彿させますが、それもそのはず、マーカスと同じサドウスキー+EBS ですからね。そうそう、彼女もサドウスキーのベース&弦、EBS アンプのエンドーサーのようですね。信じられないほどの馬鹿テク・ベーシスト、たとえばリチャード・ボナとかヴィクター・ウッテン、ドミニク・ディ・ピアッツァ、最近ではアドリアン・フェローなどと比べれば、彼女のテクニックはまだまだ“ あり得る”範囲の凄さではあると思いますが、それでもベース歴4年でここまでベースを弾き倒せるその才能は信じがたいものがあります。今年に入ってからは、チック・コリア・バンド(including フランク・ギャンバレ、アントニオ・サンチェス)のオーストラリア・ツアーに参加したり、さらにはジェフ・ベック先生のバンドに参加し、ヨーロッパ・ツアーやシカゴでのクロスロード・ギター・フェスティバルにも参加したりと、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いのタルちゃんです。これからどのように “ Transformation ” していくのか、とっても楽しみなベーシストです。 Tal Wilkenfeld の Official Web Site はこちら。今年の Crossroads Guitar Festival の映像( msn video )はこちら。NAMM show 2007 での EBM ブースで、マーカス・ミラーとジャムるタルちゃん映像( Youtube )はこちら。なお、今年の Crossroads Guitar Festival のDVDも発売されるようです。ジェフ・ベック・バンドの演奏は2曲だけですが、タルちゃんのクリアな映像が見られそうです。



≪追記≫2008/3/1
先週、茶水DUを覗いたら、本作が5000円近い値段で売られていました。
もともとTowerでも3000円で売られていたCDですが、どういう流通経路を
経たら5000円という値段になるのでしょうか?

HR Big Band 『 Once In A Lifetime 』

2007年10月05日 23時56分21秒 | Large Jazz Ensemble
明日から「横濱ジャズプロムナード2007」が始まります。街吹く風も涼しくなり、街路樹の葉が色づきはじめるこの季節に、みなとみら地区を気ままにぶらつきながらライブをハシゴする。ジャズ・ファンにはたまらない秋の風物詩です。僕も明日は仕事で行けないものの、明後日の日曜日はぜひ出かけたいと思っています。遠足前夜の子供のように、今からわくわくしているのですが、実は、今年はいまひとつ盛り上がりに欠けるんですよね、個人的には。

というのも、今年の参加バンド中、本当に聴いてみたいと思わせるバンドはクリスチャン・ジェイコブ・トリオぐらいなんですよ。というか、今年って、邦人バンドばかりで、外国人バンドがほとんど参加していないではありませんか。こんな外産バンドが少ない横濱ジャズプロムナードって初めてではないでしょうか。毎年、入場者数が増加しているのですから、もう少し欧州のミュージシャンを招いても採算とれると思うんですけどね。でもまあ、クリスチャン・ジェイコブだけでも十分もとは取れそうなので行きますが。それにティネカ・ポスマのバンドにロブ・ヴァン・バヴェルも参加しているみたいだし。

さて、今日も引き続きビッグバンド作品を聴いております。HR Big Band は前述したように、フランクフルトに本部を置く HR ( Hessischer Rundfunk : ヘッセン放送協会)が運営するビッグバンドですが、他の公共放送局専属のビッグバンドよりもかなり “ Polystyle ”で “ Versatile ”な集団として本国でも人気を集めている名門ビッグバンドです。本作『 Once In A Lifetime 』も、ハモンドの名手、ジョーイ・デフランチェスコをソリストに迎えて制作された珍しい作品です。僕の知る限りデフランチェスコがビッグバンドと共演した作品は本作だけですし、そもそもビッグバンドとオルガンの共演自体、ほとんど類を見ない形体ではないでしょうか。

ヨルグ・アヒム・ケラー( Jorg Achim Keller )率いる鉄壁のビッグバンドをバックに、デフランチェスコは水を得た魚のように流暢に鍵盤を転がし、時には情熱的にレスリーをグルグル回転させ盛り上げていきます。演奏される曲は ≪ I'm a Fool to Want You ≫ や ≪Everything Happens to Me ≫ などのスタンダード。ジョビンの ≪ Once I Loved ≫ と ≪ Meditation ≫ が作品全体の中で一服の清涼剤的役割を果たしています。本作ではデフランチェスコはベース・ペダルを一切使用せず、ウッド・ベース奏者を置いているのも彼にとっては珍しいことではないでしょうか。

全体的にビッグバンド陣のソロが少なく、バランス的にはデフランチェスコに重心が置かれた作風ですが、ハモンドとホーン・アンサンブルが醸し出す音の陰影感が素晴らしい、クオリティーの高い作品ではないでしょうか。


HR Big Band 『 Once In A Lifetime 』2006年 TBC 26502
Jorg Achim Keller (arr & cond)
Heinz Dieter Sauerborn (ts,as, ss, cl, fl)
Tony Lakatos (ts,ss,fl)
Harry Peterson (ts, cl, fl)
Steffen Weber (bs,ts,as,cl,b-cl,fl)
Rainer Heute (bs,b-cl,fl)
Paul Lanzerath (tp,flu)
Martin Auer (tp,flu)
Thomas Vogel (tp,flu)
Axel Schlosser (tp,flu)
Gunter Bollmann (tb)
Peter Feil (tb)
Christian Jaksjo (tb)
Manfred Honestschlager (b-tb)
Werner Vetterer (g)
Thomas Heidepriem (b)
Joey DeFrancesco (Hammond)
Jeff Hamilton (ds)




The DRJO with Eliane Elias 『 Impulsive ! 』

2007年10月01日 21時55分52秒 | Large Jazz Ensemble
デンマーク放送ビッグバンド( Danish Radio Big Band )が世界初の政府支援のジャズ・ビッグバンドとして旗揚げされたのは1964年のこと。現在までに同楽団で指揮ならびにソリストとして客演したミュージシャンは100人を超え、誰もが認めるヨーッロッパを代表する名門バンドとして、ビッグバンド界に君臨しています。

そんな同楽団の歴史の中で、ビッグバンド・ファンならずとも思い出される出来事が2つあります。ひとつはサド=メル・オーケストラを辞めたサド・ジョーンズがその活動拠点をコペンハーゲンに移し、そこで同楽団のバンド・リーダーとして活躍したこと。そしてもうひとつは、1985年、コペンハーゲンのレオニ・ソンング音楽賞を受賞したマイルス・デイビスを招いて開催されたDRビッグバンド20周年記念コンサートの模様が、『 Aura 』という作品としてリリースされ、2つのグラミー賞を受賞したことです。

ところで、同楽団をDanish Radio Big Band ( DRBB ) と呼んだり、また、Danish Radio Jazz Orchestra ( DRJO ) と呼んだりと、統一されていないのを不思議に思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。実はこれは、バンド・マネージャーの交代に伴い2回、名称変更がなされたためなのです。

64年の発足当初は ビッグバンド ( DBBB ) という名称でした。しかし、92年にピーター・H・ハーセンがプロデュサー兼バンド・マネージャーに就任した際、それまでのメインストリーム系の既存の曲を演奏するビッグバンドから、今後は自己のオリジナル曲を演奏することに主眼を置くオーケストラとして活動していくことを強調するため、ジャズ・オーケストラ ( DRJO ) という名称に変更したのでした。

しかし、01年にロックやポップス業界での業績を高く評価されマネージャーに抜擢されたモルテン・ヴィルヘルムが、再び DRJO から DRBB に名称を戻したのでした。その裏には公的なバンドであってもある程度の収益を上げなければ経営存続できないという台所事情が関係していたようです。高踏的でアーティスティックなサウンドでは客が呼び込めない。より大衆にアピールする、分かりやすいビッグバンド・サウンドを奏でることが同楽団に課せられた課題だったのです。そのため、“ Jazz Orchestra ”ではなく“ Big Band ”と変更し、冬になるとせっせとクリスマス・コンサートの巡業を行い、往年のスイング・ジャズも演奏し、普段はジャズを聴かない人々にもホールに足を運んでもらうことに成功したのでした。それでも03年には同楽団への政府予算は削減されたようです。ますます営業に精を出さなければ存続が危うい、そんな苦境に立たされているのが現状のようです。

さて、今日聴いているのは、95年に同楽団の首席コンダクターに迎えられたボブ・ブルックマイヤーが、イリアーヌ・イリアスをソリストとして制作した作品『 Impulsive ! 』( 96年 stunt records ) です。この作品はホント、素晴らしい出来です。手元には10枚以上の同楽団のアルバムがありますが、もちろんその中ではベスト。さらに欧州ビッグバンドの作品群の中でも、ベスト5に入るくらいの出来の良さだと思っています。何が素晴らしいかというと、兎に角、彼女のピアノがイイのです。イリアーヌ・イリアスというと、≪ 美貌 ≫、≪ ランディ・ブレッカーの元妻 ≫、≪ ボサノヴァ・ピアニスト ≫ などと言った言葉で括られることが多いように思いますが、意外に硬派なピアノを弾かせても凄く巧い人なんですよね。本作のM-2 ≪ So In Love ≫ でもピアノ・ソロなど浮き立つような華麗さを秘めた叙情的なフレーズを連発し、もう鳥肌が立つほど感動的です。

そして彼女の持ち込んだオリジナル曲を上品に優雅にアレンジしたボブ・ブルックマイヤーの手腕もお見事です。もともとDRBB はトランペット×5、トロンボーン×5、サックス×5、リズム×5 の総勢20名の通常のフルバンよりも大編成である所が売りなのですが、本作はブルックマイヤーの気品に満ちたアレンジのために、tutti の場面でも全然高圧的でなく、聴き疲れしないのです。ですからコンボ系のジャズ・ファンでもすんなり馴染めるビッグバンド・サウンドだと思います。

本作は01年のグラミー賞にノミネートされた実績がある秀作です。DRBB でとりあえず一枚、という時にはぜひ本作を手にとってみてはいかがでしょうか。

P.S. 本作と似た企画で、ジム・マクニーリー(彼は98年から02年まで、同楽団の首席指揮者でした)指揮、リニー・ロスネス客演、作曲の『 Renee Rosnes and The Danish Radio Big Band 』 ( 03年 Blue Note ) という作品がありますが、このリニーの作品は本作とは対照的に硬質で迫力のあるサウンドで、よりコンテンポラリー度が高めな作品です。