ジプシーの血を引くフランス人ギタリスト、ビレリ・ラグレーンのエレクトリック・フュージョンに取り組んだ最新作。 2001年に“ Gypsy Project ”を結成してからは、マヌーシュ・スイング系のミュージシャンとの活動に軸足を置いていたので、ジプシー・スイングが苦手な僕は、しばらく疎遠になっていた。しかし今回、彼にしては比較的珍しいフュージョン作品であり、しかも超馬鹿テク・ベーシスト、エドリアン・フェローが参加していることもあり購入してみた。 ビレリが現在までにフュージョンを手掛けた作品は、知る限り本作品以外に2作品存在する。ひとつは95年にDreyfus に吹き込まれた『 My Favorite Django 』( 邦題:ジャンゴ・ライハルトに捧ぐ )であり、もうひとつは2000年に Universal に吹き込まれた 『 Front Page 』である。前者はデニス・チェンバース、アンソニー・ジャクソン、それからキーボードのクーノからなるカルテットでの演奏で、爽やか系のWR風フュージョンといった趣がる快作だった。後者は、デニス・チェンバースとドミニク・ディ・ピアッツァからなるトリオで、抜群のスピード感が心地よい傑作だった。 さて今回は、どんなフュージョン・サウンドを聴かせてくれるだろうか。メンバーは前述したようにベースのアドリアン・フェローの参加が何と言っても目を引く。ドラムの Damien Schmitt ダミアン・シュミット や キーボードの Michael Lecoq ミッシェル・ルコック はアドリアン・フェローのサポート・メンバーとして活躍しているミュージシャンである。また、サックスの Frank Wolf フランク・ウォルフ はビレリの“ Gypsy Project ” などで幾度となく共演している盟友である。スチールドラムのアンディー・ナレルが参加しているのが懐かしい。 収録曲は全9曲。そのうち7曲がビレリのオリジナル。意外にもダンサブルでポップな楽曲が並んでいる。アンディ・ナレルが参加していることから察しがつくように、アルバム全体に南国の香りが漂っている。しかし、緩くはない。ビレリはクリーンなサウンドと、フュージョン特有のオーヴァードライブ系のサウンドをうまく使い分け、多彩なサウンドスケープを作り上げる。フレーズも高速ビ・バップから、ジョージ・ベンソン風のクロマチック・ラインを多用したコンテンポラリーなものまで自由自在に織り交ぜ、聴く者の耳を釘ずけにする。個人的には9曲目 ≪ Hips House ≫ のベンソンズ・チルドレンを標榜したようなスタイルが気に入った。今更ながらアドリアンの超馬鹿テクにも腰を抜かす。もう、ここまでくると笑うしかない。スラッパーを別にすれば、今、世界で一番指が動くベーシストであることは疑う余地がない。マシュー・ギャリソン、ドミニク・ディ・ピアッツァを遥かに凌いでいる。ドラムのダミアンも手数が多く、かなりのテクの持ち主である。ただ、サックスのフランク・ウォルフが他のメンバーに比べて若干レベルが落ちるのが残念なところではある。 現代のジャズ界はあまりにも技術偏重傾向が強いのではないかと危惧する一方で、やはり「 超絶技巧の快感 」みたいなものは紛れもなく存在するわけで、ごく一部の天才的ミュージシャンにしか成しえない目も眩むような早弾きは、やはり失神するほど魅力的だ。 ハード・コア・フュージョンではないが、かなり聴きごたえのある硬質なサウンドであった。一度聴いただけではその真価が理解できないと思う。アドリアンのラインだけを傾聴しても、数十回は聴くことができそうな濃い内容だ。どうして日本にはこのようなフュージョン・バンドが生まれないのか、今更ながら悲しくなってくる。 Bireli Lagrene / Electric Side 2008 Dreyfus Bireli Lagrene (g) Hadrien Feraud (b) Frank Wolf (ts &ss) Andy Narell (steelpans) Damien Schmitt (ds) Dj Afro Cut-Nanga (dj) Michael Lecoq (key)
ジプシーの血を引くフランス人ギタリスト、ビレリ・ラグレーンのエレクトリック・フュージョンに取り組んだ最新作。 2001年に“ Gypsy Project ”を結成してからは、マヌーシュ・スイング系のミュージシャンとの活動に軸足を置いていたので、ジプシー・スイングが苦手な僕は、しばらく疎遠になっていた。しかし今回、彼にしては比較的珍しいフュージョン作品であり、しかも超馬鹿テク・ベーシスト、エドリアン・フェローが参加していることもあり購入してみた。 ビレリが現在までにフュージョンを手掛けた作品は、知る限り本作品以外に2作品存在する。ひとつは95年にDreyfus に吹き込まれた『 My Favorite Django 』( 邦題:ジャンゴ・ライハルトに捧ぐ )であり、もうひとつは2000年に Universal に吹き込まれた 『 Front Page 』である。前者はデニス・チェンバース、アンソニー・ジャクソン、それからキーボードのクーノからなるカルテットでの演奏で、爽やか系のWR風フュージョンといった趣がる快作だった。後者は、デニス・チェンバースとドミニク・ディ・ピアッツァからなるトリオで、抜群のスピード感が心地よい傑作だった。 さて今回は、どんなフュージョン・サウンドを聴かせてくれるだろうか。メンバーは前述したようにベースのアドリアン・フェローの参加が何と言っても目を引く。ドラムの Damien Schmitt ダミアン・シュミット や キーボードの Michael Lecoq ミッシェル・ルコック はアドリアン・フェローのサポート・メンバーとして活躍しているミュージシャンである。また、サックスの Frank Wolf フランク・ウォルフ はビレリの“ Gypsy Project ” などで幾度となく共演している盟友である。スチールドラムのアンディー・ナレルが参加しているのが懐かしい。 収録曲は全9曲。そのうち7曲がビレリのオリジナル。意外にもダンサブルでポップな楽曲が並んでいる。アンディ・ナレルが参加していることから察しがつくように、アルバム全体に南国の香りが漂っている。しかし、緩くはない。ビレリはクリーンなサウンドと、フュージョン特有のオーヴァードライブ系のサウンドをうまく使い分け、多彩なサウンドスケープを作り上げる。フレーズも高速ビ・バップから、ジョージ・ベンソン風のクロマチック・ラインを多用したコンテンポラリーなものまで自由自在に織り交ぜ、聴く者の耳を釘ずけにする。個人的には9曲目 ≪ Hips House ≫ のベンソンズ・チルドレンを標榜したようなスタイルが気に入った。今更ながらアドリアンの超馬鹿テクにも腰を抜かす。もう、ここまでくると笑うしかない。スラッパーを別にすれば、今、世界で一番指が動くベーシストであることは疑う余地がない。マシュー・ギャリソン、ドミニク・ディ・ピアッツァを遥かに凌いでいる。ドラムのダミアンも手数が多く、かなりのテクの持ち主である。ただ、サックスのフランク・ウォルフが他のメンバーに比べて若干レベルが落ちるのが残念なところではある。 現代のジャズ界はあまりにも技術偏重傾向が強いのではないかと危惧する一方で、やはり「 超絶技巧の快感 」みたいなものは紛れもなく存在するわけで、ごく一部の天才的ミュージシャンにしか成しえない目も眩むような早弾きは、やはり失神するほど魅力的だ。 ハード・コア・フュージョンではないが、かなり聴きごたえのある硬質なサウンドであった。一度聴いただけではその真価が理解できないと思う。アドリアンのラインだけを傾聴しても、数十回は聴くことができそうな濃い内容だ。どうして日本にはこのようなフュージョン・バンドが生まれないのか、今更ながら悲しくなってくる。 Bireli Lagrene / Electric Side 2008 Dreyfus Bireli Lagrene (g) Hadrien Feraud (b) Frank Wolf (ts &ss) Andy Narell (steelpans) Damien Schmitt (ds) Dj Afro Cut-Nanga (dj) Michael Lecoq (key)