雨の日にはJAZZを聴きながら

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Terje Gewelt 『 Hide and Seek 』

2007年02月26日 21時27分54秒 | JAZZ

前回,Dag Arnesen (ダグ・アルネセン)の新作を取り上げましたので,その流れで今日はダグ・アルネセン・トリオのレギュラー・ベーシストである Terje Gewelt (テリエ・ゲヴェルト)の作品を紹介したいと思います。

ゲヴェルトは1960年オスロに生まれ,米国に渡ってバークレー音楽院でベースを勉強する一方,ジャコ・パストリアス,デイブ・ホランド,それにアリルド・アンデルセンのプライベート・レッスンを受け,いくつかのバンドでウッド・ベースやエレクトリック・ベースを弾いていたようです。1989年には母国に戻っていますが,それまでのメジャー・レーベルへの不満,失望から1998年に自己のインディペンデント・レーベル,Resonant Music を立ち上げています。彼のスタジオはオスロ市内にある古いお菓子工場の5階に作られたため,“ The Cookie Factory ”と命名されました。

ゲヴェルトは現在までに自己レーベルから計5枚のリーダー作を発表しています。そのうちの三枚はご存知,Christian Jacob (クリスチャン・ジェイコブ)とのDuo 作品です。『 Duality 』 (2002),『 Interplay 』 (2003),『 Hope 』 (2005)の三作品ですが,個人的にはこれらの作品を“ ゲヴェルト,奇跡の三部作 ”と呼んでいます。というのも他のゲヴェルト作品(サイドメンとしての作品も含め)に比べてあまりにもこの3作品の出来が傑出しているのです。正直なところ,ゲヴェルトに関してはこの三部作で完結していると言っても過言ではありません。

僕はこの三作品中,《 The Water Is Wide 》で始まる『 Duality 』が特に好きです。《 The Water Is Wide 》は元々はアイルランド民謡で,アメリカに移住した人々によって広められ,今ではアメリカのフォーク歌手らによってたびたびカヴァーされることもある名曲です。

どれか一枚を買って聴くと,必ず残りの二枚が欲しくなるような素敵な作品です。未聴の方はどうかお試しあれ。

で,残りの二作品が『 Hide and Seek 』(1999)と『 Small World 2004)になるわけですが,まあ,大した作品ではありません。

Hide and Seek 』はピアノ,ギター,ドラム,そしてベースのカルテット編成ですが,ギターの Jon Eberson が主役的な役割を演じています。彼のギター・スタイルはあたかもパット・メセニーとビル・フリーゼルとスティーヴ・カーンの折衷様式のようです。そして悲しいことにその三人の誰をも越えられていないのです。一方,この作品でのゲヴェルトも完全に裏方に徹していて,これといって特筆すべき点は見当たりません。1曲だけですが Billy Cobham が友情出演しているのが唯一の売りでしょうか。

      
Small World 』はパーカッション(あるいは+ドラム),ギター,ベースの編成です。ピアノレスにすることでよりベースの自由度が増し,ゲヴェルトはそのスペースを利用して多彩な技を披露しているのですが,いかんせん,技術的に限界がみられ,今ひとつ訴えかける要素に欠けているように思われます。幻想的であったり宇宙的であったりと,狙いどころは明確なのですが,しかし全体にチープ感が否めず,傾聴すべき作品とは言い難いと思われます。

最後にひと言。ゲヴェルトのもっとも凄いな~と感心させられた点は,ウッドベースの技量などではなく,フェンダー・ジャズ・ベースで奏でられるなんとも柔らかで歌心に満ち溢れた音色とラインでした。エレクトリック・ベースであれだけアコースティックなジャズに違和感なく溶け込めるベースマンはほとんどいないのではないでしょうか。フェンダー・ジャズベーにもこういった奏法があるんだ! と,目から鱗のベースマンでした。


Dag Arnesen 『 Norwegian Songs 』

2007年02月24日 21時03分22秒 | JAZZ

Dag Arnesen
(ダグ・アルネセン)の新作  Norwegian Songs 』をこのところ就寝する際に連日聴いていたのですが,あまりの気持ちよさにすぐに寝入ってしまい,最初の2,3曲は聴いたのを覚えているのですが,それ以後の曲は聴けずじまいでした。今日,やっと全曲通して聴くことができて,なるほどこんな気持ちがいい曲が並んでいたら快眠できるはずだと,へんな納得をしてしまった次第です。

まさに至福の子守唄集であり極上の睡眠導入音楽であります。どれも何となく聴き覚えのあるような郷愁を誘うメロディーを持つスローからミディアム・テンポの曲ばかり。ドラムもブラシュ主体で煩くない。こんな条件を満たしてるので子守唄には最適なわけです。

《 この作品で私は,自己の音楽的ルーツを再発見したいと思いました。この作品に登場するノルウェーのフォーク・ソング,それにエドヴァルド・グリークやオレ・ブルの音楽などに幼少期から触れてきたことで,私の音楽的な個性が形成されたのです。子供の頃,日曜の朝には両親がこれらの音楽をバイオリンとピアノで弾いていて,その音楽を聴きながら目覚めることがよくありました。そして驚いたことに,これらの音楽がモダン・ジャズのアレンジを施しても非常に美しい音楽であることに気付いたのです。これらの音楽は時間が経っても忘れられずに生き残った非常に強い楽曲ばかりなのです。》
                
                    Dag S. Arnesen

作品としての完成度という点すると, Time Enough 』や『 Movin’ 』に一歩譲るかもしれません。でも,ノルウェーの光と風と瑞々しさに溢れた快作ではないでしょか。

ここでちょっとアルネセンの現在までの作品を見てみましょう。

1) Ny Bris  ( 1982 Odin Records )
2) Renascent  ( 1989 Odin Records )
3) Speak Low  ( 1985 Taurus Records )
4) Thoughts  ( 1989 Taurus Records )
5)The Day After  ( 1990 Taurus Records )
6) Photographs  ( 1992 Taurus Records )
7) Movin'  ( 1994 Taurus Records )
8) Inner Lines  ( 1998 Resonant Music )
9) Time Enough  ( 2005 Trurus Records )

1) 『 Ny Bris 』
これは持っていません。1曲目の《 SULA-FU 》がスキャット入りのメロー・ブラシリアン・グルーブだそうで,クラブ系の方々には有名らいしです。ノルウェーの音楽サイト「 This Is Music From Norway 」こちらで試聴できます。ちょっとキワモノっぽい感じがしますねぇ~。

2) 『 Renascent 』
残念ながらこれも持っていません「 This Is Music From Norway 」試聴する限りではやや気難しい楽曲が多そうですが,なかなか良さそうです。

3) 『 Speak Low 』 4) 『 Thoughts 』
このあたりも全然しりません。ここからtaurus records への吹き込みが始まりました。サックスの Odd Riisneas という人とやっているようですが。

5)『 The Day After 』
Wenche Gausdal (ウェンチェ・ガウスダール)とおっしゃる女性ヴォーカルが入ったクインテット作品のようですが,これも持っていません(なんだ全部持っていねーじゃねーかよぉ。まあまあそうおっしゃらすに)。このデンマーク人の女性,どうもアルネセンの奥様のようです。アルネセンをバックにリーダー作も出しています。


6) 『 Photographs 』

     
上記の『 The Day After 』でも競演していたアルネセンの奥様,ウェンチェ・ガウスダールが再び参加しているヴォーカル・アルバムです。僕は女性ヴォーカルに関しては好みがはっきりしているので,この人のようなロック系,フォーク系の歌い方は苦手です。でもここでもアルネセンは最高です。モーダル・リリシズム的な硬質なフレーズ,音色で冴えわたっています。録音はご存知レインボー・スタジオです。ヴォーカルさえいなければ....。残念。

7) 『 Movin' 』
      
オリジナルのジャケットは寺島氏に「最悪のジャケット。いい加減にしろ。」と酷評された蛇の図柄でした。上のジャケットは2003年に欧州名盤復刻レーベルとしてビデオ・アーツがら立ち上げられた「 Sarah 」から綺麗な脚ジャケでお色直しして復刻されたものです。1曲目《 Body and Soul 》からいきなりアルネセンの世界に惹き込まれます。演奏に深みとスリル感があり,それでいて耽美的なフレーズも織り交ぜつつ物語は進行します。テリエ・ゲヴェルト(b),スヴェイン・クリスチャンセン(ds)との有機的な絡みも素晴らしく,個人的にはアルネセンの最高傑作かと,思いますが。

8) 『 Inner Lines 』
     
これは失敗でした。ほとんど抽象的楽曲で,フリー・フォームに近い演奏もあり,何度か聴き返したものの,やっぱり受け付けませんでした。意味不明のジャケの図柄と『 Inner Lines 』というタイトルから内容が推し量れたはずなのに....。

9) 『 Time Enough 』
     
現在のレギュラー・トリオでの演奏です。ダグ・アルネセンのトリオはベースがテリエ・ゲヴェルトに固定し,さらにドラムがスヴェイン・クリスチャンセンからPal Thowsen (パル・トウセン?)に交代するに従い,段階的に完成度を増してきたように思われます。兎に角,このアルバムのキモはドラムです。特にブラシワークが素晴らしいですね。発売当時はかなり輸入盤店で売れたアルバムです。最近ではジャズ批評No133 『 ピアノ・トリオ vol.3 』でも紹介されました。



Paolo Di Sabatino 『 Paolo Di Sabatino 』

2007年02月22日 21時52分32秒 | JAZZ

Paolo Di Sabatino (p)
Stefano Di Battista (ss&as)
Carlitos Puerto (b)
Horacio "El Negro" Hernandez (ds)
Javier Girotto (ss)
Daniele Scannapieco (ts)
2001 Around Jazz

「ファブリツィオ・ボッソ周囲の若手ピアニスト達」をテーマにもう
1人聴いてみましょう。Paolo Di Sabatino (パオロ・ディ・サバティーノ)です。この方はナストロに比べたら有名です。ご存知『 Paolo Di Sabatino 』は「幻のCD 廃盤・レア盤 掘り起こしコレクション」に掲載されて以来人気化し,オリジナルはもちろんのことNorma から再発された際も他の再発盤の売れ残りを横目に真っ先に売り切れてしまった人気盤でした。ちなみに僕の所有する『 Paolo Di Sabatino 』はnorma からの再発盤ではなくオリジナル盤です。何処が違うって? よくわかりません。悲しいのは norma から再発されたのを知らずに Disk Union でオリジナルを高値で買ってしまったことです。DUも再発されているなら再発されていると言ってくれればいいのに
(>_<)。でもまあ,高値で仕入れたオリジナルを再発されたからと言って安値では売れないのでしょうね。それにしても「 Disk Union。おまえも悪よのォ~~ 」

それはさておき,サバティーノはボッソと『 Dialogo A Due 』,『 Introducing Paolo Di Sabatino 』,『 Italian Songs 』の3枚で競演しています。僕は後者の2枚を所有していますが Introducing Paolo Di Sabatino 』の演奏は適度の緊張感が心地よい快演で,ボッソのカルテット編成では一番出来がいい。『 Italian Songs
』は可もなく不可もなくといったところで,あまり棚から引っ張り出すことのない(デュオが基本的に駄目な僕の偏見もありますが)凡盤です。

ということで,やっぱりサバティーノのベストはステファノ・ディ・バティスタ,ダニエル・スカナピエコ,そしてオラシオ・エレナンデスが参加した,ラテン臭プンプンの熱きプレイが楽しめる『 Paolo Di Sabatino 』でしょう。ゴンザロ・ルバルカバやミッシェル・カミロほどテクニックはありませんが,そこはイタリアーノ独特の哀愁漂うメロディー・センスで補って余りあるノリのよさです。

      
Paolo Di Sabatino  『 Threeo 』1999 Hallway
Paolo Di Sabatino (p)
John Patitucci (b)
Horacio "El Negro" Hernandez (ds)

サバティーノのもう一枚の愛聴盤がパティトゥーチ,オラシオとのトリオ盤,『 Threeo 』です。哀調ラテン・ナンバーが程よく挟み込まれた,これぞ名盤。サバティーノのオリジナル,M-6 《 Negrito 》はペトルチアーニの流れを汲んだ涙色の美旋律バラードで大のお気に入りです。この人,ホントにタッチが綺麗です。

余談ですが,寺島靖国氏の著書『 Jazzピアノ・トリオ名盤500 』(だいわ文庫)の中では,前述したフランチェスコ・ナストロの『 Trio Dialogues 』を,「こんなクラシックじみたピアノ,聴いていたら耳が腐る。」と切捨てているのに対し,このサバティーノの『 Threeo 』については「ピアノの音が極限的に美しい。水晶のピアノを弾いているのではないか。」と激賞しているんですね。この気持ち,とっても良く分かります。ナストロよりサバティーノ。この評価は正しいと思います。ちなみにナストロはクラシックの分野で学位を取得しているのに対し,サバティーノはジャズで学位を取得しています。


Francesco Nastro 『 Trio dialogues 』

2007年02月20日 13時36分14秒 | JAZZ

前回はファブリツィオ・ボッソ参加のAlberto Bonacasa (アルベルト・ボナキャーサ)の新作のお話でした。とっても充実した内容で,あらためてボッソのずば抜けた技術の高さを再認識するとともに,彼をバック・アップする新人ピアニスト,ボナキャーサの今後に期待感が膨らむ秀作だったと思います。

ところで,ファブリツィオ・ボッソ周辺には他にもとっても魅力的な若手ピアニスト達が沢山いますね。たとえば,Luigi Martinale(ルイジ・マルティネーレ),Paolo Di Sabatino (パオロ・ディ・サバティーノ),Pietro Lussu (ピエトロ・ルッソ),Gianni Cappiello (ジャンイ・カピエロ),それからFrancesco Nastro (フランチェスコ・ナストロ)なんていう人もいますね。ナストロはPietro Condorelli (ピエトロ・コンドレッリ)の
『 Quasimodo 』( 2001 RED ),『 Easy 』( 2005 RED )やSalvatore Tranchini (サルヴァトーレ・トランキーニ Faces 』(2004 RED)(前項あり)などでの爆走型モード系ソロにぶっ飛んで,すっかりファンになってしまったのですが元々は91年から93年頃,Bruno Tommaso (ブルーノ・トマソ)の「ユートピア」に参加していたようで,マニアの間では話題になっていたようです。1967年にナポリで生まれ,多分に漏れず始めはクラシック・ピアノを勉強し,学位もクラシックの作曲法で取得しています。調べた限りでは現在までに3枚のリーダー作を制作しているようです。

1997  『 A Tempi Alterni Quintet 』( Nadir Jazz )
1998 『 Trio dialogues 』( Jazz club Bill Evans )
2001  『 Heavy Feeling 』( yvp music )

僕は昨年『 Trio dialogues 』と『 Heavy Feeling 』は手に入れたのですが,デビュー盤は未だに目にしたことすらありません。でも,本当はデビュー盤が一番欲しいのですけどね。なにしろ,コンドレッリやスカナピエコが参加しているクインテットですから。といことで,仕方なく今日は98年の『 Trio dialogues 』を聴いております。ゲイリー・ピーコック,ピーター・アースキンとのトリオですが,最初聴いた時は我が耳を疑いました。てっきりモード系のハイ・テンションな音が飛び出してくるかと想像していたのですが,全く想像とは対極にあるジャズなんです。ピエラヌンツィを更に耽美,甘美にしたような叙情派路線なわけです。時々,強力な打鍵でモード・フレーズを披露する場面もありますが,基本的に優雅で気品あるピエラヌンツィ直系といってよいかと思います。もちろん我が愛しきピエラヌンツィ様に比べたら小粒ですがね。ということでやや期待はずれではあったのですが,先入観なしに聴くとまあ良くできた作品です。

      
2001年の『 Heavy Feeling 』の方はどうよ,と言われると,これが『 Trio dialogues 』に輪をかけて甘美で,もうジャズとは呼べない領域に行ってしまったような,なんとも評価しにくい
作品です。叙情派でもないし,かといってクラシックでもない。瞬間的にキース・エマーソンやリック・ウィクマンを思い浮かべましたが,そんなプログレっぽいラインが随所に聴かれます。

兎に角,この人はヴァーサタイルな才能をお持ちなようで,彼の正体が全く見えてきません。上手いのは確かですが。

昔は良かった。安心して聴けたものです。セロニアス・モンクは何処を切ってもモンクのあの音楽が聴けたし,ウイントン・ケリーは誰と競演してもケリー節は不変だったのに,最近のミュージシャンはあまりにも器用すぎて個性が逆にマスクされてしまうような人が多いように感じます。


Alberto Bonacasa 『 Thinking Blue 』

2007年02月17日 23時51分41秒 | JAZZ
Alberto Bonacasa (p)
Fabrizio Bosso (tp)
Marco Ricci (b)
Stefano Bagnoli (ds)
Guest: Dilene Ferraz (vo)
2001 ULTRA SOUND

久しぶりのFabrizio Bosso (ファブリツィオ・ボッソ)参加作品を入手しました。今回はイタリア人ピアニスト,Alberto Bonacasa (アルベルト・ボナキャーサ)の作品に参加。ワン・ホーン・カルテットで電光石火のごとき熱いソロが炸裂する素晴らしい作品に仕上がっています。

考えてみれば,今までボッソ参加のワン・ホーン作品で目の覚めるような出来の良い作品はなかったように思います。僕の手許にあるボッソ・ワン・ホーン・カルテット作品と言うと,

1) Renato Sellani Trio Plus Fabrizio Bosso 『 Ciao Kramer 』 ( 2002 philology )
2) Fabrizio Bosso encontra Riccardo Arrighini Trio 『 Angela 』 ( 2005 philology )
3) Mare Mosso 『 Mare Mosso 』 ( 2005 wide sound )
4) Paolo Di Sabatino 『 Introducing Paolo Di Sabatino 』( 1999 Hallway )

の4枚ですが,どれも今ひとつ愛聴盤になれない作品ばかりです。僕個人の好みもあるのですが,どうしてもボッソはスカナピエコやジュリアーニなどとの2管編成で栄えるタイプのように感じちゃうんですね。それとやっぱり相棒は上記の2人にように若いピチピチがいい。Philology にはGianni Basso (ジャンニ・バッソ)との競演盤もありますが,どうもバッソ爺さんに遠慮してか,思い切りのいい豪快な音が出てこないんですよね。

ボッソは現在の欧州では間違いなくトップの座に君臨する吹き手ですから,彼の参加作品はどれも素晴らしいのです。でもそんなボッソも沢山聴いてくると,出来の良さの中にも「 松竹梅 」とあることに気づくわけです。「 松 」が HIGH FIVE の『 Jazz For More 』,『 Jazz Desire 』であり,「 梅 」が上記のRenato Sellani Trio Plus Fabrizio Bosso やMare Mosso だとすると,本作『 Thinking Blue 』はさしずめ「 竹 」と言ったところでしょうか。十分買う価値のあるCDだと思いますよ。

話は全然関係ありませんが,お店で「 松竹梅 」の3グレードあったとすると,日本人は大体が竹を選ぶそうです。松は贅沢すぎるし身分不相応。かといって梅は貧相で寂しい。まあ竹あたり行っとくか。という日本人特有の中流意識が竹を選択させるようです。商売人はその心理を読み取り,竹が最も利益が出るように商品を仕込むわけですね。と分かっていても,僕も結局「 松 」をオーダーしちゃうんですけどね。

さて,リーダーのアルベルト・ボナキャーサ(正確な発音はわかりません)は,どんな人かイタリアのジャズ情報サイト「 jazzitalia 」で検索してみると,イタリアのヴィジェーヴァノ生まれの現在35歳。7歳の時からクラシック・ピアノを学び,ご多分に漏れず1996年に奨学金でバークリー音楽院に留学しているようです。ここ最近の10年間は,Gabriel Comeglio が指揮を務めるビック・バンド「 The Jazz Company 」に籍を置き,ボブ・ミュンツァー,スライド・ハンプトン,ランディー・ブレッカー,ジェリー・バーゴンジー,フランコ・アンブロゼッティ,チャーリー・マリアーノらと競演したようです。現在までサイドメンとして6~7枚のレコーディング歴があるようですが,リーダー作は今回の『 Thinking Blue 』だけのようです。

肝心の内容ですが,ボッソの超音速炸裂ソロに身震いするハード・バップもあれば,斬新なアレンジで優雅に歌う《 Stella by Starlight 》もあり,更にはブラジリアン・テイストの女性ヴォーカル入りの楽曲も挟み込んで,最後まで飽きない楽しく熱い作品に仕上がっています。ボナキャーサの技術も相当なもので,作曲能力やアレンジ能力はもちろん,瞬発力のある鋭角的なフレージングもかっこいいし,バラードでの知的で流麗なフレージングも素敵で,これからおそらく脚光を浴びることになるであろう逸材だと思います。これは文句なしにイイ。ボッソ・ファン垂涎の一枚です。

Flavio Boltro 『 Road Runner 』

2007年02月16日 22時21分48秒 | JAZZ
Flavio Boltro ( tp & fluegel )
Eric Legnini ( p & key )
Pippo Matino ( b )
Stephane Huchard ( ds )
Paco Sery ( ds & perc )
Stefano Di Battista ( sax )
Daniele Scannapieco ( ts )
Lous Winsberg ( g )

1999 Blue Note France ( EMI music France )

前回のStephane Huchard (ステファン・ウシャール)のBlue Note France 盤に関連してもう一枚。トレノ生まれのイタリア人トランペッター,Flavio Boltro (フラヴィオ・ボルトロ)の1999年のアルバム,『 Road Runner 』です。ここでもウシャールが針に糸を通すような精度の高いプレーを披露しています。1曲だけですがPaco Sery ( パコ・セリ)が叩いていますが,いつものパコ・セリの手数の多い派手なプレーはしていません。パコ・セリはご存知 SIXUN のメンバーですが,どちらかと言うとザビヌル・シンジケートのドラマーとしての方が有名かもしれませんね。物凄いテクニカル・プレーヤーで,オマー・ハキムを超えているかもしれません。そんなパコ・セリには派手さでは一歩譲るウシャールですが,細部にこだわった緻密なスティック捌きはまさにジャズ職人。フロントを食っちゃうような仕事はしませんが,ちゃんと入れるべきスペースに的確なフィル・インを入れてきますし,リズムは滅茶苦茶タイト。プロ中のプロ,といった感じです。

メンバーから察しがつくようにメインストリーム・ジャズではなくてフュージョンを演奏しています。90年代のフランス・ブルー・ノートの方向性が如実に表出した作品と言えるわけですが,最近はこの手の無国籍風フュージョンって作られているんでしょうかね? ボルトロも2003年制作のBlue Note France 第二作目の『 40°』ではアコースティックに回帰してますし,ファブリツィオ・ボッソとハード・バップ作品(前項あり)なども制作していますから,現在のトレンドは確実にフォー・ビートに向かっているのでしょう。

では,ちょっと簡単に他のメンバー紹介を。

エリック・レニーニ  
バティスタの良き女房役で数々のアルバム,コンサートで競演している名ピアニストですね。純粋にフォービートをやらせても凄く上手いのですが,自己のアルバムではソウルやR&B 的なアプローチもでき,かと思えば昔はキース・ジャレットのそっくりさんとしても有名だったマルチな才能の持ち主です。

ピッポ・マティーノ
イタリアのベーシストでおそらくエレキしか弾かないと思われます。ジャコを完璧にマスターした上でマーカス・ミラーのようなスラップもできちゃう凄腕ベーシストです。以前にもロッコ・ジファレリ,マイク・スターンをフューチャーした彼の作品『 Bassa Tensione 』を拙ブログで紹介しています。詳しくはこちらで。

ルイ・ウインスバーグ
フランスの人気フュージョン・バンド,SIXUN のギタリストです。スパニッシュ・ギターもできるし,歪系の速弾きも上手。渡辺貞夫のバックも勤めちゃう器用な方です。それほど強い個性は感じませんが。

パコ・セリ
ルイ・ウインスバーグやジャン・ピエール・コモらと共に SIXUNのメンバーです。アフリカ系フランス人なのでしょうか。顔だけみるととても凄腕ドラマーには見えません。「ワタシ トムソンガゼル カリ ジョーズネ。」なんて言いそうなネイティブ・アフリカンぽいです。でもこの人,弦楽器から鍵盤まで何でもできるインテリなんですよ。凄いですね。ザビヌル爺の目に留まり,シンジケートのメンバーになって一気にブレーク。長いアーチから繰り出される目にも留まらぬ速さのシンバル連打やタム回しは前代WRドラマー,オマー様を遥かに超えてます。ザビヌル・シンジケートの『 World Tour 』は必聴です。

バティスタとスカナピエコは今更紹介するほどでもないので省略します。本作ではあまり目立った役割は演じていませんので,彼ら目当てで買うのは止めた方がよいです。




Stephane Huchard 『 Tribal Traquenard 』

2007年02月14日 21時02分09秒 | JAZZ
このところ,といっても数日前からのですが,Youtube にはまっていて,CD聴くより Youtube でジャズの動画を観ている方が多くなってしまっています。まだyoutube 初心者なので使いこなすまでには至っていませんが,好きなミュージシャンの名前を検索しては楽しんでいます。「こんな人の画像なんかないだろうな~」なんて思いながら検索して,実際にアップされていたりすると凄く嬉しくて急いで保存して繰り返し観て1人悦に浸っております。Youtube も著作権の問題などでいつまで続くか分からないので見つけ次第保存しておかねば。

一昨日もミッシェル・ペトルチアーニの『 Both Worlds 』の記事を書きながら,あのアルバムに参加していたステファノ・ディ・バティスタの映像なんかないだろうな~,と思いながら検索したら1件だけですがヒット。エリック・レニーニ,アンドレ・チェカレエリらとのカルテットの演奏で,《 Night in Tunisia 》をやっていました。それにしてもエリック・レニーニのオスカー・ピータソン似の体格と演奏には感激しました。滅茶苦茶上手いんですわ。外見はニホンアマガエルみたいな可愛い風貌なのにね。

で,他にもレニーニの映像はないかと,今度は〈 エリック・レニーニ 〉で検索かけたらこれまた他に1件ヒットしまいした。これがなんとステファン・ウシャール(ステファン・ハチャード?)・バンドの映像で更に感激。ウシャールの2005年のアルバム『 Bouchabouches 』(前項あり)からのナンバー,《 Rush 》を披露。CDで聴くよりウシャールが熱く叩きまくっていて,単なるスタジオ系凄腕ドラマーといった認識を改めざるを得ませんでした。

更に今度は〈 ステファン・ウシャール 〉で検索してみたら,またステファン・ウシャール・バンド以外に2件ヒット。特にピエール‐アラン・グァルシュのトリオの演奏では4ビート系のソロも披露し,フュージョンだけではなくちゃんとジャズもできるドラマーでることを再認識しました。

ステファン・ウシャールと来たら今度はルイ・ウィンスバーグではあるかな?おー,あった,あった,マクラフリンとやってる。しかもベースはドミニク・ディ・ピアッツァだ!!….。などと叫びながら夜更かししてしまいました。なんと幸せな時代でしょう。なんとかYoutube は存続してほしいものです。Google頑張れ!

ということで,今晩はステファン・ウシャールの1999年,仏Blue Note からの(たぶん)初リーダー作,『 Tribal Traquenard 』を聴いております。現在までに3作品をリリースしていますが,どれも似たような作品なのですが,作品ごとに参加メンバーは変えているみたいです。

本作は基本的には仏Blue Note系のミュージシャンを集めていますが,Prysm のPierre De Bethmann (ピエール・ドゥ・ベスマン),SIXUN のLouis Winsberg (ルイ・ウィンスバーグ)やJean Pierre Como (ジャン・ピエール・コモ),そしてステファノ・ディ・バティスタも参加。さらにはフランス若手アーコーディオン奏者の新鋭,Marc Berthoumieux(マルク・ベルソウミュー)もゲスト参加するなど豪華布陣で臨んだ力作です。

ウシャールの作るフュージョンって,何とも形容しがたい音なのですが,強いて言うなれば〈 サイバー・パンク・フュージョン〉かな。未来都市のアンダーグラウンド・ミュージック的なイメージと言ったらよいのでしょうか。P.K.ディックやウイリアム・ギブスンの世界のサウンド・トラックに使われそうな無機質なシークエンス。あまり温度感は高くないのですが,しかし妙に親しみやすいメロディーもあります。中近東的装飾音や南国風リズムを織り交ぜつつ,米国製ジャズ・フージョンとは全く異なるベクトルを持った方向へと発展しようとする仏製フュージョンの独自性が感じられます。その当たりが米国憧憬型フュージョンを目指すSIXUN とは全く違いますね。

Michel Petrucciani 『 Both Worlds 』

2007年02月12日 19時10分18秒 | JAZZ
普段はほとんどテレビというものを見ないのですが,昨日の夜,テレビをつけたら「さんまのからくりテレビ」という番組をやっていました。「美少女バンド」とか言って,瑠璃ちゃんというとっても可愛い小学生の女の子がギターを弾いているバンドのコーナーが放映されていました。なんでも今回はドラマーのオーディションをやるという設定だったのですが,そこに「4歳の天才ドラマー」との噂の男の子が登場していたんです。栃木県那須塩原郡からやってきたその4歳の男の子は物怖じもせず堂々と8ビートを叩き周囲を驚かせていました。

瑠璃ちゃんのギターの腕前も大したもの(7フレットでのEm7なんか押さえていたよ~,すげ~!)だったけど,ハイハットをのオープン,クローズを巧みにコントロールしてビートを作り出す那須塩原郡の4歳児にも腰が抜けそうになりました。このまま行けば将来は神保彰か石原裕次郎,間違いなし。

Michel Petrucciani (ミッシェル・ペトルチアーニ)も4歳の時に,テレビで流れていたデューク・エリントンの演奏を聴いて「僕,この音楽がやりたい!」と言ったといいます。やっぱり天才は違いますね。音楽脳力とは教育の産物ではなく,遺伝子の成せる技なんだと思いますね。

ということで,今日はペトちゃんの『 Both Worlds 』(1997 dreyfus )を引っ張り出してきました。90年代のペト作品群の中では『シャンゼリゼ劇場のミッシェル・ペトルチアーニ』(前項あり)と並んで僕の愛聴盤です。念願のスティーブ・ガットとアンソニー・ジャクソンとのトリオを結成し,ツアーの計画が進行する中,フラヴィオ・ボルトロ(tp),ステファノ・ディ・バティスタ(ss&as),それに何故かボブ・ブルックマイヤーを加えた sextet で1997年8月に録音されました。その3ヶ月後にトリオだけで来日しています。

フラヴィオ・ボルトロとステファノ・ディ・バティスタは今でこそ日本で人気がありますが,当時はほとんど日本では無名。1997年にビデオ・アーツが本作を国内発売したおかげでこの2人は一気に知名度をアップさせることになった記念すべき作品です。また同年,バティスタはlabel bleu から自己のリーダー作『 Volare 』(前項あり)でボルトロと競演していますし,1999年には今度はボルトロの仏Blue Noteからのリーダー作『 Road Runner 』でバティスタを招いたりと,何かとこの2人は仲が良く,音楽的にも相性が良いように思われます。

全曲ペトの作曲で,アレンジはこれも全てボブ・ブルックマイヤーが担当しています。そのため,俺が俺がのソロ合戦ハード・バップではなく,ウエスト・コースト風の洒落たアンサンブル重視の作風に仕上がっています。ボルトロもバティスタもソロをとるだけでなく,ペトにオブリガードをつけたり,アンサンブルしたりと,作品全体の一構成員として機能しており,かなりブルックマイヤー色の強いアルバムです。でもブルックマイヤーは上手いです。カーティス・フラーが年老いて全然吹けなくなっていったのに対して,ブルックマイヤーは全く衰えを知りません。


ところで,以前に当ブログでペトちゃんの病気,死因についての記事を書いていますので,暇なら覗いてくださいね。
ペトルチアーニは何故肺炎で死ななければならなかったのか(1)
ペトルチアーニは何故肺炎で死ななければならなかったのか(2)

この記事の中でも触れたのですが,『 Both Worlds 』のジャケットに写るペトの姿を見ると,単に低身長というだけではなく,かなり上半身,つまりは胸郭が大きい事に気づかれると思います。ペトの骨形成不全症(OI)の特徴として「 樽状胸郭 」,または「ビール樽胸郭 」というのがあります。健常人の胸郭は「 前後径<横径 」ですが,OI ではその逆で「 前後径>横径 」と変形してしまうわけです。このことが呼吸機能の低下(換気不良)を招き,呼吸器感染症のリスクを増大させてしまうのです。ペトは単なる大人の相似形としてのミニチュアではなかったのですね。

こんな元気な演奏を聴かせてくれていたのに,その録音の1年4ヶ月後に帰らぬ人となってしまったのでした。

Michael Brecker 『 The Michael Brecker Band Live 』

2007年02月11日 22時36分04秒 | JAZZ
《 マイケル・ブレッカー追悼盤 No.4 》

前項で触れた『 The Michael Brecker Band Live 』について一言。
これ,凄くテンションの効いた名ライブの記録だと思うのですが,発売元は Jazz Door なんですね。Jazz Door と言えば欧州(確かドイツかな?)のブート・レーベルというかハーフ・オフィシャルというか,ブートのくせにちゃんと大型輸入盤取り扱い店なんかに堂々と陳列されちゃう,何とも怪しい臭いのするレーベルなんですが,意外に素晴らしい記録物を所有していたりして,無視できない存在です。ハー・ビー・ハンコック,マイルス・デイビス,それにギル・エバンスとスティングの競演物などなど,素晴らしいブートを世に送り出しています。しかもブートのくせに音がいい。この『 The Michael Brecker Band Live 』も正規盤と比べても遜色ない音質のよさですからね。

《 Gossip 》,《 Nothing Personal 》,《 Original Rays 》の3曲収録で計43分42秒。CDとしては短めの収録時間ですが,最初から最後まで息も付かせぬ緊張感が持続し,43分という時間が丁度イイ感じ。白眉は《 Nothing Personal 》で,マイケルのソロも凄いがジョーイの神憑りの爆走ソロには観客も狂気の雄叫びを上げて応戦。それから,ジョーイ君のヤン・ハマー真っ青の疾走シンセソロも聴けちゃうし。いや~,このライブはたまりません。

こういったブートが正規流通経路に乗るおかげで容易に手に入ることは有難いのですが,でもこの Jazz Doorって,平気で詐欺まがいのブートも出しているので要注意です。

Franco Ambrosetti  『 Gin And Pentatonic 』

2007年02月11日 21時37分38秒 | JAZZ
《 マイケル・ブレッカー追悼盤 No.3 》

2006年夏に MUZAK の Enja原盤権の使用契約が切れて,代わりに ward records が原盤権利を取得しました。その ward records から《 WARD/Enja名盤復刻シリーズ 》として発売されたのがフランコ・アンブロゼッティの『 Gin And Pentatonic 』です。

実は本作,『 Wings 』( 1983 enja )と『 Tentets 』( 1985 enja )というマイケル・ブレッカーがゲスト参加したアンブロゼッティの2枚のLPをカップリングしたコンピなのです。ただし編集にあたり2曲はカットされていますが。初発売は1992年ですので,今回はreissue ということになりますが, reissue にあたり未発表トラックとして《 Uptown ED 》が 追加収録されています。《 Uptown ED 》は1978年の『 Blue Montreux 』で演奏されているマイケル・ブレッカーの曲です。

話はちょっと逸れますが,先程,youtube で 「 Franco Ambrosetti 」で検索かけたら1つだけですがヒットしましてびっくりしました。なんとアンブロゼッティの映像があるんですよ。しかもマイケル・ブレッカー・バンドと競演した映像なんです。Goo ブログでは残念なことに objectタグが使用できないので仕方なくリンクだけ貼っておきます。

1988年のライブで,マイケル・ブレッカー・バンドのメンバーは,マイク・スターン,ジョーイ・カルデラッツォ,ジェフ・アンドリュー,そしてアダム・ナスバウムです。丁度マイケルの第二作目のリーダー作『 Don’t Try this At Home 』( 1988 Impulse )の頃のメンバーですね。アップされている曲は《 Nothing Personal 》で,これは初リーダー作 『 Michael Brecker 』( 1987 Impulse )や『 The Michael Brecker Band Live 』( 1993 Jazz Door )で聴くことが出来ます。個人的には『 The Michael Brecker Band Live 』収録の《 Nothing Personal 》 でのブレッカーのソロが大好きです。「 Michael Brecker’solo Best 5 」に入る名演かと思います。Youtube にアップされている映像はブレッカーとマイク・スターンのソロがカットされたアンブロゼッティだけの映像ですが,これが実にカッコイイ。インテリジェンス溢れるルックスで,ヴィジュアル的にもイイ感じで,16分音符で綴る怒涛の白熱ソロは,可愛そうだが完全にランディー・ブレッカーを超えています。

Franco Ambrosetti 『 Light Breeze 』

2007年02月11日 20時20分13秒 | JAZZ
今日の東京は強く冷たい風が吹くものの,雲ひとつない青空が広がる良い天気で,春がそこまで来ているような爽やかな一日でした。僕はお昼までは仕事だったのですが,午後からは自宅でのんびりできました。掃除→子供と遊ぶ→ネット(主にyoutube閲覧)→掃除→子供と遊ぶ~,と循環作業を繰り返しながら気がつけばもう夜の8時。子供も寝たのでやっと静かにジャズが聴ける時間の到来です。昼間は煩い妻や騒がしい子供がいて,音楽なんて聴けたもんじゃありませんからね。

さて,こんな春風の吹く爽やかな日にぴったりのアルバムがFranco Ambrosetti (フランコ・アンブロゼッティ)の『 Light Breeze 』(1998 enja )です。ジャケットも綺麗でしょ。メンバーはアントニオ・ファラオ,ミロスラフ・ヴィトウス,ビリー・ドラモンド,そしてジョン・アーバンクロンビーと,豪華布陣で制作された本作は,アンブロゼッティの90年代を代表する傑作と呼ぶにふさわしい出来です。

特にアントニオ・ファラオのソロはいつもよりキレがあって名演ぞろいです。なかでも僕が大好きなのがM-6 《 My Foolish Heart 》です。 《 My Foolish Heart 》の名演と言えばビル・エバンスの『 Waltz For Debby 』に収められたヴァージョンが有名ですが,その次にランクされる名演がこの『 Light Breeze 』に収められた《 My Foolish Heart 》ではないでしょうか。

芳醇な香りを放ちつつもちょっと甘酸っぱいアンブロゼッティの音色。巨体から繰り出される重低音と高音を激しく往復するヴィトウスのソロ。高速パッセージを事も無げに連発し,格の違いを見せ付けるファラオ。いずれもヴァーチュオーソ満載の凄い演奏です。アンブロゼッティは2000年に出されたチューリッヒ,ドルダー・グランド・ホテルでのライブ作品 『 The Winners 』( TCB )(前項あり)で,ティエリー・ラング・トリオをバックにやはり14分におよぶ《 My Foolish Heart 》を聴かせてくれていますね。あれも良かったのですが,この『 Light Breeze 』でもヴァージョンには遠く及びません。

アンブロゼッティとファラオの付き合いはいつごろからなのか,ちょっとBiography を調べてみたのですが正確には記載されていません。本作が1997年の録音ですが,その前年にはアントニオ・ファラオの『 Expose 』でアンブロゼッティが3曲だけですが客演しています。

では,もうちょっとアンブロゼッティ絡みで聴いてみましょう(今日は夜更かしできるので)。

Jacky Terrasson 『 A Paris 』

2007年02月10日 22時21分47秒 | JAZZ
一週間に一回ぐらいのペースでDisk Union などの輸入盤店を覗いているのですが,最近,新譜を買うことが極端に減ってしまいました。今日も仕事帰りに新宿のDUに寄ってきたのですが,膨大な数の新譜達を前にただただ呆然とするばかりで,何に手を出していいのやら全く分からないのです。なにしろ7~8割の新譜が名前も聞いたこと無いようなミュージシャンです。それでも玉石混淆の新譜コーナーの中から自分の今まで培った嗅覚を頼りに1枚,2枚と買っていたのですが,このところはことごとく敗退。ちょっと自信消失気味であります。こんな時は無理して新譜などには手を出さず,往年の愛聴盤をじっくり聴きこんでみるのが一番。といことで,ちょっと棚から一掴みしてきました。

Jacky Terrasson (ジャッキー・テラソン)の通算8枚目のリーダー作です。仏Blue Note から2001年に発売されている作品で,テラソンの作品中,最も好きなアルバムです。本作は彼が愛して止まないフランスの古謡やシャンソンを中心に自身のオリジナルも織り交ぜつつ,静かに優しく綴った珠玉の小品集です。《 Plaisir d’amour 》(愛の叫び)や《 Les Chemins de l’amour 》(愛の小径)など,何処かで聴いたことのある美しいフランス歌謡が並んでいます。激しく鍵盤を叩くテラソンもイイですが,こんな切ない哀愁美曲を奏でるテラソンもゾクゾクしますよ。

メンバーも凄くて,ステファノ・ディ・バティスタ(as),ビレリー・ラグレーン(g),レミ・ヴィニョーロ(b),テリオン・ガリー(ds),グレゴア・マレ(harm),ステフォン・ハリス(vib)などなど,錚々たる顔ぶれです。

ワン・フレーズの究極美旋律で聴き手を虜にするその技は,キース・ジャレットやブラッド・メルドーに通じる天賦の才能を感じずにはいられません。企画物っぽい作りではありますが,かなり出来のイイ作品だと思いますよ,これ。

Billy Childs 『 The Child Within 』

2007年02月07日 21時37分45秒 | JAZZ

愛娘の登場するジャケットですと Jack Wilson の『 Song For My Daughter 』( Blue Note BST-84328 )(前項ありや Joe Chindamo の『 Anyone Who Had A Heart 』( atelier sawano AS056 )などが真っ先に思い浮かびますが,愛息子ジャケとなると僕なんかはすぐにこの Billy Childs (ビリー・チャイルズ)の『 The Child Within 』( 1996 Shanachie 5023 )が思い出されます。息子を静かに見守る父親の姿が表現されたイイ写真です。

ビリー・チャイルズと言っても日本では今ひとつ人気のないピアニストですが,本国では結構売れている中堅どころのミュージシャンです。グラミー賞にもたびたびノミネートされ,昨年は Best Instrumental Composition 部門と Best Instrumental Arrangement Accompanying Vocalist 部門でそれぞれグラミー賞を受賞しています。これだけ日本と米国との間に人気度に乖離があるミュージシャンは珍しいです。

例の『 幻のCD 廃盤/レア盤 掘り起こしコレクション 』に『 Portrait of a Player 』 (1993 Windham Hill )が紹介されて局地的に話題になりましたが,僕にしてみれば取り立てて騒ぐほどの作品ではなく,むしろこの『 The Child Within 』や,あとで紹介しますが『 Portrait of a Player 』の2年前にリリースされたWindham Hill Recordds の第3作目となる『 His April Touch 』あたりの方が,彼のずば抜けた作曲能力が堪能できる秀逸な作品だと思うのです。

本作はテレンス・ブランチャード(tp),スティーブ・ウイルソン(as&ss),ラヴィ・コルトレーン(ts),ルイス・ボニーラ(tb)の4管+デイヴ・ホランド(b),ジェフ・ワッツ(ds)とう豪華編成です。チャイルズは作曲法で博士号を取得しているだけあって,手の込んだ緻密な構成,アレンジが施された曲を作らせると右に出るものがいません。多彩なキメと変拍子をたくみに織り込み,スケール感のある独特の楽曲を披露してくれます。14歳の時にエマーソン・レイク&パーマを聴いてピアノに目覚めた,というだけあって,曲によってはプログレッシブ・ロックに通じるフレーズやキメが垣間見られ,その手が好きな人にはたまらない魅力です。ちなみに,息子アーロン君のために書いた3曲目の美麗バラード《 Aaron’s Song 》は1997年のBest Instrumental Composition 部門でグラミー賞にノミネートされています。

        
Bill Childs 『 His April Touch 』 (1997 Windham Hill )
最も愛聴しているのが本作です。滅茶苦茶カッコイイです。これでもかというくらいのキメと変拍子。切れ味抜群のチャイルズのモーダルなソロ。これを聴いちゃうと他の彼の作品が色褪せて見えます。Bob Sheppard (ボブ・シェパード)のテナーなどブレッカーそっくりで上手いし。大好きなJimmy Johnson (ジミー・ジョンソン)のベースも聴けるし,Mike Baker (マイク・ベイカー)という全然知らないドラマーがこれまたビリー・キルソン風でカッコイイし,なんでこのアルバムが知られていないのか不思議です。

話はちょっと逸れますが,ボブ・シェパードってホント,ブレッカーに似ているですよ。以前に紹介したオーベ・イングマールソンと同じくらい極似です。昨年発売されたマイク・スターンのパリでのライブDVDにおまけで1曲だけボブ・シェパードが参加している曲が入っていたので喜んで買ったのですが,《 Jean-Pierre 》のテーマだけしか吹かしてもらえず,可愛そうな扱いだったのは残念でした。それから,ドラムのマイク・ベイカーって,無名ですが凄く上手いのに,その後全く耳にしませんがいったい何処へ行ってしまったのでしょうかね。

        
Bill Childs 『 Bedtime Story 』(2000 M&I)
チャイルズの場合,総じて管入りフォーマットの作品の方が出来が良いという印象を受けます。この『 Bedtime Story 』もそれほど良いとは思いませんが,彼のルーツでもあるハンコックの曲をメインにスティングの《 Fragile 》やショーターの《 Oriental Folk Song 》などを挟み込み,とっても聴きやすい作品に仕上がっている快作です。Key'stone の木全信氏による非常にコマーシャリスティックな作品ですが,日本では過小評価されているチャイルズにスポットライトを当てたという点では評価されるべき作品です。

それにしても,なんでしょう,このジャケット。Bedtime Story って,寝る前に子供に聞かせてあげるおとぎ話のことでしょ? 全然関係ないジャケットですよね。ちなみに< 32 Jazz >
というreissue label から本作が再発されていますが,そこでのジャケはチャイルズが眠っている実息子を抱きしめている写真で数倍素敵です。

あと,ついでにこのジャケットについて。どうしても脚線美に目がいってしまいますが,ジャケの上の方をよく見ると,奥の男性と手錠で繋がれているんですよね。いったいなんなんでしょうかね~。


Jan Kare Hystad 『 Vargtime 』

2007年02月04日 02時52分40秒 | JAZZ
前回の続き。

ベン・ウェブスターといえばコールマン・ホーキンス,レスター・ヤングとともにテナー界のマエストロであり,溜息交じりのサブトーンと深いヴィブラートが印象的な豪快なテナー・マンでしたが,最近は滅多に聴く機会が減りました。昔は『 Sophisticated Lady 』 や 『 Soulville 』(ともにverve)などよく愛聴したものですが。本作『 Vargtime 』のリーダー,ヤン・コーレ・ヒスタッドの非技巧的なムーディーな語り口を聴いた時,まるでベン・ウェブスターの生まれ変わりのようだと懐かしさを覚えました。流行やトレンドなどというものとは無縁のところでしっかりジャズの伝統を継承している立派な音楽家って,素直に尊敬しちゃいました。でも売れないんですよね~,こういうタイプは。

本作はノルウェーの探偵小説を基に制作された1968年の映画 『 Vargtimmen 』(邦題:狼の時刻)の主人公で探偵であるヴァーグ・ヴェウムを題材にした,いわばサウンド・トラック的作品です。ヴァーグ・ヴェウムはスウェーデンのフィリップ・マーロウと例えられるほどの人気キャラクターのようです。

『 Vargtime 』,『 Vargtime 2 』とも,エリントン,ガーシュウィン,スタイン,ポーターらの名曲がすらりと名を連ね,1930年代の古き良きアメリカの香り漂うノスタルジックな仕上がりになっています。まるで『 Once Upon A Time In America 』の世界です。煙草を吸っているリタ・ヘイワースのジャケットも泣けますねぇ~。

ダグ・アルネセンと言えば,ノルウェーを代表する最新型のリリカル・ピアニストというイメージですが,ここでは完全にヒスタッドのカラーに染まり,スウィンギーな軽快なソロで作品全体に花を添えています。

本作を聴いていたら,なんだか清水靖晃の『 北京の秋 』を聴きたくなってきました。寒い季節にぴったりのロマンティック・バラードの傑作ですね。

話は変わりますが,今日,仕事帰りにちょっと神保町に寄って,最近できたばかりのジャズ喫茶,「 Big Boy 」に行ってきました。Disk Union 神保町店の裏手にある,15㎡程のこじんまりしたお店で,ジャズ喫茶には珍しく外から店内が丸見えでした。薄暗く空気の淀んだ隔絶空間としてのジャズ喫茶しかしらない僕としては,少々落ち着かない雰囲気でしたが,おそらくジャズ・ファン以外のお客をも取り込もうという意図があるのでしょう。

壁にはJBL 4343 がビルトインされていて,壁はJBLの色と同じくグレー。カウンター席が10席ぐらいで2人席テーブルが3つ。僕が行った時は7~8人のお客がいて結構マスターは忙しそうでした。カウンター席の常連さんやおそらくマスターの旧友らが来られていて店内は賑いをみせ,「私語厳禁」なんて無縁の明るいジャズ喫茶でした。音は意外に大きく,ジャズを本当に聴きたい人も楽しめる音量で,それでいて会話の声も聞こえる程度にボリューム調整されているようでした。

マスターはお洒落で温和な雰囲気をもった素敵な方でしたよ。いろいろな面で既成のジャズ喫茶の範疇には入らない洒落たお店で,「よし,ジャズを聴きに行くぞ~」といった覚悟など必要なく,仕事帰りに気楽に立ち寄るには良いお店だと思いました。

Jan Kare Hystad 『 Vargtime 2 』

2007年02月02日 23時16分34秒 | JAZZ
リンクを貼らしていただいているブログ「 Sugarのちょっとお寄りなさいよ 」の管理人であるSugarさんが,サウンドデザイン社のフルデジタルアンプ,SD05 を手に入れたとのことで,その導入レポートがアップされています。ホント,羨ましい限りです。50万円もするハイエンド・オーディオをポンと買えちゃうSugarさんは,さぞや裕福な方なのであろうと想像しながら,自分の貧弱な装置を前にふて腐れ気味な気分でおります。今,隣で「中居正広の金曜のスマたちへ」を見ながら大笑いしている妻の横顔を見ていると,「こいつさえいなければ,俺だってSD05買えるのに…。」と,一瞬《 離婚 》の二文字が頭をよぎったりして。

Goo ブログには「アクセス解析」という機能があり,どんな検索キーワードで拙ブログにたどり着いたのかがわかるようになっているのですが,時々,面白いキーワードで拙ブログに来られる方がいらっしゃいます。つい2,3日前のことですが,キーワード《 オーディオ 妻 説得 》で何故か拙ブログがヒットしたらしく,ご訪問いただいた方がおられました。「高級オーディオを買うための妻の説得術」などという記事を書いた覚えは無く,それぞれ別のエントリー記事にたまたま3つのキーワードが分散して記されていたためなのでしょうが,何だかPCの向こう側にいる《 妻からお小遣いをあまりもらえない可愛そうなな中年オーディオマニアさん 》の姿が浮かび,思わず微笑んでしまいました。

かく言う私も,現在,妻を説得中なのです。欲しいブツは DENON のデジタルアンプ PMA-CX3 。126.000円也。これなら何とか買ってもらえそうです。出来れば同じ DENON のCDプレーヤー DCD-CX3 といっしょにと,交渉中です。フルデジタルアンプですから軽量,小型なので,サブ・システムとして仕事部屋の本棚にすっぽり収めて使おうと思ってます。そのうちELAC の小型スピーカーも手に入れ,ギンギンのデジタル武装でジャズを聴いてみたいと夢を膨らませていますが,妻もなかなか手ごわくて,すんなり首を縦に振りませんのです,これが。まあ,手に入れたらまた報告します。

さて,今日はノルウェーの正統派(というか旧派?)テナー奏者の Jan Kare Hystad (ヤン・コーレ・ヒスタッド)の新譜『 Vargtime 2 』( Gemini GMCD123 )を聴きながら書いています。2002年の『 Vargtime 』( Gemini GMCD111 )の続編にあたります。私はピアノで参加している Dag Arnesen (ダグ・アーネセン)狙いで買ったのですが,リーダーのヤン・コーレ・ヒスタッドもなかなかイイ感じで前作同様愛聴しております。2作とも基本メンバーは同じですが,曲によって男性or女性ヴォーカルが入ったり,管が入ったりして変化をもたせています。ヒスタッドのスタイルはひと言で言うとオールド・スタイルです。ベン・ウェブスターをソフィスティケイトしたような暖色系で男性的な落ち着いたトーンです。小賢しい小手先の技は披露せず,ひたすら雄弁に歌い上げます。あまり最近は耳にしなくなったタイプですが,世の中には意外にこういったベン・ウェブスターやレスター・ヤングのような古いタイプのテナーをマスターとして地道に活動しているミュージシャンが多いのではないでしょうか。

明日につづく....