雨の日にはJAZZを聴きながら

FC2 に引越しました。http://jazzlab.blog67.fc2.com/

Dusko Goykovich 『 Slavic Mood 』

2006年07月25日 20時17分37秒 | JAZZ
ダスコ・ゴイコビッチ(Dusko Goykovich)と言えば,僕なんかは真っ先に名曲<Old Fisherman’s Daughter>が浮かんできて,その哀愁漂う美しいメロディーは,時に無意識のうちに鼻歌となって飛び出し,僕の周囲の人々から顰蹙を買うこともしばしばあるくらいです。

僕の手元にも『 Swinging MACEDONIA 』 , 『 Ten To Two Blues 』 (『 After Hours 』),『 ‘Round Midnight 』の計3枚に<Old Fisherman’s Daughter>が収められていて,それぞれメンバーによって構成が少しずつ違うくらいで,基本的にゴイコビッチの歌い回しは同じなんですが,いい曲は何度でも聴きたくなるもので,先日,復刻された彼の1975年のアルバム『 Slavic Mood 』 (VISTA)にも<Old Fisherman’s Daughter>が入っていると知って,早速購入してみました。

で,これが予想以上の素晴らしい出来の良さで,個人的には名盤の誉れも高い『 Swinging MACEDONIA 』や人気盤『 Ten To Two Blues 』なんかよりずーっと好きになってしまいました。好きになったらとことん聴き倒すのが僕の主義で,仕事の行き帰りの車の中から,手術中もBGMでかけっぱなしでいたところ,看護士が「これはインド音楽なの?」と人の気持ちを逆撫でするような発言まで飛び出しました。でも東欧のエキゾチックな哀感って,確かにインド音楽にも通じる所があるのかもしれません。ライナー・ノーツにも書いてあるように,アルバム全体の雰囲気は本作の8年前に吹き込まれた『 Swinging MACEDONIA 』に相通じるものがありますが,よりノリの良くて分かり易いテーマを持ったオリジナル曲で構成されていて,1曲として弛みがなく,最後まで一気に聴き通せる内容です。全く肌触りは異なりますが,Blue Note 4000番台のリー・モーガンがよく取り上げる8ビートの中近東ハード・バップ?っぽい感じもあります。

彼の傑作,ワルツ・バラード<Old Fisherman’s Daughter>は,ここではミュートでまずゴイコビッチが優しく滑り出すと,サビでテナーのベン・トンプソンがそのまま引継ぎ(ここの吹き分けに痺れます),またゴイコビッチへ。余談ですが,『 Swinging MACEDONIA 』での<Old Fisherman’s Daughter>って,ゴイコビッチのテーマの後ろで,ネイザン・デイヴィスのフルートが鳴りっぱなしですよね。あれ,とっても煩いんですよね。名曲がちょっと台無しかなと思っていたところに本作のバージョンを聴いて目から鱗ですわ。これがベスト・バージョン,と勝手に決め付けています。

いずれにしてもジャケットのダサさに比べて,内容は非常に良いです。ピアノのヴィンス・ベネディッティのセンスの良さにもビックリ。今度彼のJHM盤買おうっと。

【愛聴度 ★★★★★】

Enrico Pieranunzi 『 Live At The Berlin Jazz ~』

2006年07月23日 21時07分43秒 | JAZZ
先程,Space Jazz Trio(Enrico Pieranunzi trio)のデビュー作は1986年の『 Space Jazz Trio Vol.1 』(『 Enrico Pieranunzi trio Vol.1 』)と書きました。ほとんどのジャズ本にはそう書かれているのですが,でもこれは間違いかもしれません。2004年に<20 years on yvp music >の企画でピエラヌンツィの1984年,ベルリンフィルハーモニーのコンサートホールで開催されたライブ音源が復刻されたのです。この音源,実は以前にENJAからvinyl(LP 4094)で発売されていたようです。長らく廃盤になっていてしかもあまり知られていなかったようです。そのことは杉田宏樹氏の名著『 ヨーロッパのJAZZレーベル 』にも,ベルリン・ジャズ祭に参加したことは記載されているものの,このENJAのLPについては触れられておらず,しかもベルリン・ジャズ祭を1985年11月と記してあります(本当は上記のように1984年11月)。

まあ,細かいことはどうでもいいのですが,“Space Jazz Trio”結成ほやほやの瑞々しい感性に包まれたピエラヌンツィの演奏がたっぷり聴けます。マッシモ・ウルバニがゲストで2曲参加しているのも嬉しいですね。この人,隠れた名手ですよね。Vinylでは1曲しかカルテット演奏が入っていなかったようですが,これは当日の音響のトラブルで1曲ボツになったためだそうです。

このアルバムもよくトレーに乗る愛聴盤です。適度にliveな音響も臨場感があり素晴らしいです。

Enrico Pieranunzi 『 Live At The Berlin Jazz Days '84 』2004 yvp records
Enrico Pieranunzi (p)
Enzo Pietropaolo (b)
Fabrizio Sferra (ds)

P.S. 先日買ってきたDusko Gojkovicの『 SLAVIC MOOD 』の封を今日開けた。哀愁漂うバルカン・ハード・バップ。はまった。午後,ずっと部屋で流していたが,益々はまった。

Enrico Pieranunzi  『 E. Pieranunzi Trio Vol.1 』

2006年07月23日 18時48分52秒 | JAZZ
80年代に入ると,エンリコ・ピエラヌンツィはマーク・ジョンソン,ジョーイ・バロンら米系ミュージシャンとのトリオ作品を制作する一方で,母国イタリアの先鋭ミュージシャン達ともユニットを組み,yvp レーベルに次々と作品を発表していきました。エンツォ・ピエトロパオリ(Enzo Pietropaolo)(b)とファブリツィオ・スフェラ(Fabrizio Sferra)との,いわゆる“Space Jazz Trio”です。結成は1984年で,デビュー・アルバム『 Space Jazz Trio Vol.1 』は1986年にリリースされました。当初,LPで発売された時は“Space Jazz Trio”と表記されていましたが,90年代に入り再発されたCDでは,上の写真のように『 Enrico Pieranunzi trio Vol.1 』と書かれていて“Space Jazz Trio”の名前は消えてしまっています。結局,“Space Jazz Trio”と銘打ったアルバムは,LP発売されたVol.1 & 2のみだったようです。Enrico Pieranunzi trioのシリーズは,メンバー交代しながら存続し,現在までにyvp recordsに7枚のカタログを持つに至っています。

米国トリオがどちらかと言うとロマンティックなソフト路線であったのに対し,イタリアントリオは,エヴァンス・ソウルを更に研磨し,ちょっとばかりの毒気を注入したような精神性を感じられるトリオです。3者対等のインタープレイも米国トリオより顕著です。  既に現在のスタイルは完成されていているため,最近のアルバムと質的には大差が無いように感じられますが,当時の方が神憑りで殺気だったプレイが目立つように思います。僕の愛聴盤はVol.1 & 2。Vol.1のM-1<lost and found>,『 The Kingdom 』でも再演されたVol.2のM-3<Alba Prima>など,叙情哀愁歌に魅了されます。

Enrico Pieranunzi  『 E. Pieranunzi Trio Vol.1 』1986 yvp records
Enrico Pieranunzi (p)
Enzo Pietropaolo (b)
Fabrizio Sferra (ds)

Mads Vinding trio 『 The Kingdom 』

2006年07月23日 01時59分23秒 | JAZZ
やっぱり僕にとってピエラヌンツィと言えばこのマッズ・ヴィンディングの『 The Kingdom 』(1997 STUNT)が真っ先に思い出されます。

数あるピエラヌンツィのオリジナル曲の中でも比類なき美しさを放つM-1<Alba Prima>。

やはりピエラヌンツィのオリジナル曲M-3<The Kingdom>ではヴィンディングがまるでペデルセンのような牧歌的,民謡的な暖かいフレーズを刻むバラード。

3者のフリー・フォームからいきなりイン・テンポで始まるスリリングな高速M-4<someday my prince will come>。

M-5<my foolish heart>はイントロだけでイってしまいそうです。ヴィンディングのソロも名演です。これの人がデューク・ジョーダンの『 Flight to Denmark 』で弾いていた人とは信じられません。

M-7<new lands>は1990年のTimeless盤のタイトル曲の再演。M-9<September waltz>はIDAの『 Untold Story 』やALFAの『 Chant of Time 』でも聴かれる彼の代表的名曲。こんな旋律は彼にしか作れません。強烈に個性を放っっている美麗歌です。

最後は<I remember clifford>をヴィンディングが物悲しくメロディーを弾き静かに幕を引きます。

Enrico Pieranunzi 『 No Man's Land 』

2006年07月22日 23時53分27秒 | JAZZ
TV TOKYO の深夜のニュース番組「ワールド・ビジネス・サテライト」の7月21日の放送で, 「クチコミで仕掛ける! 脅威の主婦パワー」と題した放送がありました。

レポーターが訪れたイベント会場には300人ほどの女性。彼女達に30社もの企業が次々と新製品のサンプルを無料で配り,新製品のPRをしていくという内容でした。実は参加者の1/3は個人のBlog持っていて,彼女達は家に帰ってそれら商品の宣伝をBlogで行うこと,いわゆる<クチコミ>効果を参加企業はねらっているのだそうです。もちろんblogに書くかどうかは自由ですし,「おいしくなかった」「効果なかった」などのマイナス意見もOKです。

ブロガーの<クチコミ>を利用した企業戦略が最近は重要視されているといった主旨であったわけですが,そこまでは良いのですが,最後にメインキャスターの小谷真生子さんがこういうわけですね。「でも企業から報酬があるわけでもないのにわざわざBlogで宣伝するのね~。よく分からないわね。」(正確ではありませんが,こんな内容だったと思います)
すると隣に座っている男性アナウンサーが「やっぱり個人が情報を発信したいんじゃないでしょうかね。」とすかさず答えるといったやり取りがあり,このコーナーは終わりました。

まあ,そういう僕も同じようなことをしているな~と自分に照らしあわせてしばし考え込んでしまいました。忙しい時間を割いて,誰に頼まれるわけでもなく,止めようと思えばいつでも止められるのに,何だかんだと1年もジャズの記事を書き続けてしまって,ふと,何でこんなことしてるんだろうと思うこともあります。僕は決して「情報を発信したい」わけではないと思っています。というより「情報を共有したい」「自分が気に入った好きなものを同じ趣味嗜好を持った人々と分かち合いたい」という気持ちが強いから,お金にもならない,一見無駄とも思える作業をこうして続けていけるのだろうと思ったりしています。

つまりは,好きな物,好きな音楽を人に<sending>するのではなく,人と<sharing>する事の喜びをBlogを通じて味わうことができると,最近は実感しております。

サンプル百貨店のHPは こちら

今日も前回に続きエンリコ・ピエラヌンツィの愛聴盤を取り上げてみたいと思いますが,こうしてあらためてCD棚に並ぶピエラヌンツィのアルバムを眺めていると,この人って万人が認める名盤ってないんだなーって思ったりしています。ビル・エバンスのRIVERSIDEの4部作や,キース・ジャレットの『 KOLN CONCERT 』,オスカー・ピーターソンの『 We Get Requests 』みたいな,そのミュージシャンの存在を決定つける歴史的名盤って,ピエラヌンツィの場合はないんじゃないのでしょうかね(僕が知らないだけかも)。

ということ事で,それじゃ勝手に好きなアルバムを挙げてみよかと思いますが,実はこの人,かなりの多作で,しかも昔のアルバムには既に廃盤で高額商品にのしあがっている作品も多く,たとえばIDAが復刻したチェット・ベイカーとの競演盤『 Soft Journey 』,Philologyのフィル・ウッズとの競演盤『 Elsa 』,オモチャのピアノを弾いているジャケのMusica Jazzの『 In That Dawn Of Music 』,それからレアではないけど,どうも好きになれないEGEAの一連のアルバム群などは聴いていないので,あんまりピエラヌンツィの作品について,あーだ,こーだと偉そうなことは言えませんけどね。

前回の記事の中でも愛聴盤として挙げましたが,この1989年の『 No Man’s Land 』(Soul Note)は,昨日,VENTO AZULさんからの一押しの称号を頂いたアルバムです。う~ん,これは非常にイイです。個人的にはマッズ・ヴィンディング(Mads Vinding)の『 The Kingdom 』(1997 STUNT)でのピエラヌンツィがベストと思っていますが,こうして久しぶりに『 No Man’s Land 』を聴いてみると,これも実に品格のある素晴らしい作品です。よく欧州ピアニストに対して<叙情的な>という形容詞を使ってしまいますが,本当の<叙情性>は彼のようなピアニストに使われるべき形容であるとつくづく感じます。ピエラヌンツィの深遠な陰影をもった音列。寄り添うマーク・ジョンソンのベース。1曲目のタイトル曲<No Man’s Land>の美旋律が気持ちよくスピーカーから解き放たれら瞬間,本作が名盤であることを確信するでしょう。M-5<land breeze>でも高速アドリブなど,今まで何処で聴くことができたでしょう。彼の超人的技巧を持って初めて実現される究極の美の世界。

ピエラヌンツィはどうも神経質で堅苦しくて駄目だという方。『 No Man’s Land 』を聴けば絶対彼のファンになりますよ。

Enrico Pieranunzi 『 Untold Story 』

2006年07月19日 23時01分41秒 | JAZZ
いわゆるエンリコ・ピエラヌンツィ(Enrico Pieranunzi)のIDA 3部作と言えば,ピアノ・ソロの『 Parisian Portrait 』(1990),マーク・ジョンソンとデュオで羽の生えたウサギ?のジャケが印象的な『 The Dream Before Us 』(1990),そしてマーク・ジョンソン,ポール・モチアンとのトリオ『 Untold Story 』ですが,今回,ずっと廃盤のままになっていた例の「レア本」でも有名になってしまった『 Untold Story 』がEGEAから復刻されました。

僕もピエラヌンツィの大ファンですが,レア盤に高いお金を払ってコンプリート・コレクションを目指すほど収集欲がないもので,この3枚は今だ所有していませんでした。でも再発されて安く手に入るなら聴かない手なないと,発売日に早速購入し,何度も繰り返し聴きこんでおります。

ピエラヌンツィは非常に陰影表現の巧いピアニストですが,この作品では他よりもさらに深く沈む陰影が表現されていて,彼の心の奥底の幽遠な世界に引きずり込まれていくようなちょっと怖い空気が漂う作品です。彼の作品には,よくアブストラクトでややフリー・フォーム的なオリジナルの楽曲が見られ,本作でもM-3<episode>, M-7<improlude>がそれらの部類の曲ですが,僕はそんなところが苦手です。この2曲さえなければかなり好みのアルバムなんですけどね~。

M-4<for your peace>~M-5<september waltz>~M-6<mode VI>の流れがとっても素敵です。この計22分をループにして聴きながら眠ると,熟睡間違いなしです。<september waltz>ってALFAの『 Chant of Time 』にも収録されていた彼の名オリジナルですね。

DUのpopには<数あるエンリコ作品の中でも1.2を争う名盤でありながら長らく廃盤。>とありますが,ちょっと幾らなんでも<1.2を争う名盤>っていうのは褒めすぎではないかとは思います。個人的には『 Deep Down 』(1986 soulnote),『 no Man's Land 』(1989 soulnote),それになんと言ってもyvpに吹き込まれたSpace Jazz Trioとしての作品群。特にVol.1&2あたり。国内盤では比類なき美旋律<Thiaki>で始まる『 Chant of Time 』。最近ではヘイン・ヴァン・ダ・ゲイン,ウマチェカとのライブ『 Live in Paris 』(challenge)など,『 Untold Story 』と比べても決して遜色ないアルバムだと思いますけどね。

近いうちに,それらの記事も書いてみようかと思っています。

Dannielle Gaha 『 You Dont't Know Me 』

2006年07月17日 18時51分52秒 | JAZZ

一昨日の深夜,ビデオレンタル店でDVDを物色しているたった10分ほどの間に,路上駐車違反でステッカーを貼られてしまい,結構落ち込んでいる今日このごろです。一方,天気も今日は一日中どんよりした曇り空で,時折小雨が降るすっきりしない一日でした。しかも待機番でビールも飲めず,子供とオモチャで遊びながらブログを更新したりして,何となく怠惰な休日を過ごしています。

こうもじめじめした気分の晴れない日には,涼しげな女性ヴォーカルが聴きたくなるというもの。というわけで,久しぶりにダニエル・ガー(Dannielle Gaha)のアルバムを取り出して聴いています。フー,涼しい。

実は全くこの人のことを知りません。3年ほど前に本作が店頭に並んだ際,思わずジャケ買いしたアルバムなんです。その後,この人が新作を出しているかも知りません。でも,とっても気に入っているアルバムなんです。夏になると引っ張り出して,夜な夜なビールを飲みながら聴いているんです。このアルバム,確か,発売当時はDUの山本隆氏がプッシュしていて(記憶違いだったらごめんなさい),相当売れたアルバムだったと思います。

清涼感のある,それでいてしっかりした歌唱力と備えた歌手です。パーカッションとのデュオの<blue skies>で始まり,<my romance>,<moon river>,<the masquerade is over>,<the nearness of you>などなど,日本人の企画ではないのに,とっても日本人の琴線に触れる選曲で,自然に彼女の瑞々しい世界に引き込まれます。

今日,一年ぶりの再会。この夏もお世話になります。

        
蛇足になりますが,以前に当ブログで紹介したガブリエラ・アンダースのジャケと似てませんか。このアルバムも夏向きですよ。


OAM Trio & Mark Turner 『 Live in Sevilla 』

2006年07月17日 17時50分29秒 | JAZZ
ゴールドバーグの本領はやはりライブなのでは,と思いたくなる2001年,スペインのセビリアでのライブ盤。OAM Trioにゲストでマーク・ターナーが参加しています。ゴールドバーグ関連で『 flow 』以外にもう一枚挙げるなら本作以外に考えられません。ミラルタもアヴィタルもターナーも,そしてゴールドバーグも,息もつかせぬ最高にスリリングな演奏です。

個人的には,本作を聴いてマーク・ターナーを惚れ直しました。いつもはアウトサイド・トーナリティーで,フニャフニャ,フワフワと空中浮遊するようなフレーズが得意のターナーですが,ここでは一本芯が通ったかのような地に足がついたステディーな音色で激しくブローします。ミラルタのドラムも瞬間昂揚型の激しい叩きで痺れますよ。M-4<flow>でのイントロ,ゴールドバーグのバッキング・リフに乗せてのミラルタのソロは圧巻。

<LOLA!>というマドリッドのマイナー・レーベルからの発売なので,ちょっと入手困難かもしれませんが,ゴールドバーグ好きには絶対押さえておきたいアルバムです。

【愛聴度 ★★★★★】

P.S. 本作は以前に「週末ジャズのページ」のVENTO AZULさんに教えていただいたディスクです。本当にありがとうございました。


Aaron Goldberg 『 Unfolding 』

2006年07月17日 17時20分01秒 | JAZZ
OAM trioのデビュー盤『 Trilingual 』(FSNT 070)が1999年5月の録音。次いでゴールドバーグの第二作目『 Unfolding 』(J-Curve 1014)が2000年2月の録音。そして再びOAM trioとしての『 flow 』が2000年12月の録音。『 Trilingual 』と『 Unfolding 』が良い作品であるものの,何となく物足りない(あくまで『 flow 』や『 Live in Sevilla 』に比べてではあるが),方向性に乏しい印象を受ける作品であるのに対して,『 flow 』はピアノのタッチもより鋭くなり,繊細で複雑な美旋律で構成された傑作でありました。

こうして時系列でその作品の出来具合を見てみると,明らかにゴールドバーグは2000年頃を境に進化のスピードを速めていることがわかります。丁度その頃はジョシュアのバンドに参加し,『 Beyond 』と『 Passage of Time 』(共にwarner)という2大傑作アルバムを制作していた頃と符合します。やはりジョシュアというビックネームとの競演が彼にもたらした影響は大きかったのでしょうか。

【愛聴度 ★★】


Aaron Goldberg 『 Turning Point 』

2006年07月17日 16時00分39秒 | JAZZ
アーロン・ゴールドバーグのデビュー・アルバム『 Turning Point 』がオハイオ州シンシナティの新興インデペンデント・レーベル,J-Curve(1997~)からリリースされたのは1999年の事。丁度,ゴールドバーグはジョシュア・レッドマン(Joshua Redman)のカルテットのメンバーに抜擢された頃でした。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いのゴールドバーグが満を持してリリースしたのが本作だったわけです。メンバーはジョシュアが1曲だけ友情出演している以外はマーク・ターナー(Mark Turner)がフロントを務め,バックはリューベン・ロジャーズ(Reuben Rogers),エリック・ハーランド(Eric Harland)で固め,オリジナルとアレンジされたスタンダードを手堅くまとめ,気合と情熱をたっぷり注入されて制作された好盤です。でも世間の評判は総じて良くありません。確かに先鋭的ではありますが強烈な個性があるわけでもなく,今ひとつ印象に残りにくい作品かもしれません。でも僕はそれほどつまらないアルバムとも思っていないんですね。

アルバムの冒頭を飾るのはジャズ・メッセンジャーズの演奏でお馴染みのシダー・ウォルトンの<fantasy in D>。これをターナーと女性ヴォーカル,カーラ・クック(Carla Cook)のスキャトの美しいハーモニーで奏でます。<fantasy in D>がこんなにも美しいメロディーであったことに気づくでしょう。この曲はOAM Trio&Mark Turnerの『 Live in Sevilla 』でも再演しています。M-3<turkish mooomrise>はトルコに住む友人を訪ねた際に作曲した哀感を湛えたバラード。M-4<jackson’s action>は,インド旅行がきっかけでインド音楽に興味を抱くようになったゴールドバーグが初めてタブラを導入したオリジナル曲。M-5<the shadow of your smile>はやはりOAM trioの『 Flow 』でも演奏されていますが,ここではジョシュアを加えてのカルテットで,現在のゴールドバーグに通じる切れのいいアレンジが施されてます。ジョシュアの泣きの旋律美にため息が出ますね。ガレスビーのM-6<con alma>は5/4拍子にアレンジされています。非常に品格のある洒落たアレンジです。M-7<head trip>はハービー・ハンコックの<one finger snap>のコード進行を元にゴールドバーグが作曲したオリジナルで,高速モードで新主流派(死語?)っぽい所を覗かせています。

こうして改めて聴き直しみると,決して悪い作品ではありません。今まさに孵化したばかりのゴールドバーグが聴ける,ゴールドバーグの原点が記された彼の必須アイテムではないでしょうか。

“I already feel like I’m someplace else,” Goldberg confessed when we discussed Turning Point two months after it was recorded, ~

【愛聴度 ★★★】

OAM Trio 『 Flow 』

2006年07月12日 22時35分23秒 | JAZZ
アーロン・ゴールドバーグ(Aaron Goldberg)と言えば,兎に角『 Flow 』(2002 FSNT)が傑出した出来の良さです。これまでにゴールドバーグ名義とOAM Trio名義で3枚づつのアルバムをリリースしていますが,なんと言ってもこの『 Flow 』の鮮烈な印象が忘れられません。

ご存知のようにOmer Avital (b), Aaron Goldberg (p), Marc Miralta (ds)の頭文字をとってOAMと名づけたトリオ・ユニットですが,アヴィタルがイスラエル出身,ミラルタがバルセロナ出身,ゴールドバーグがボストン出身の多国籍ユニットです。そのことが少なからず彼らの作り出す音楽性に影響を与えていると思われます。OAM Trioの1999年のデビュー盤『 Trilngual 』や彼名義の1999年『 Turning Point 』,2001年『 Unfolding 』も決して駄作ではなかったし,それなりにニューヨーク・アンダーグラウンドの先進気鋭のジャズという点では目を見張るものがありましたが,今ひとつ,ゴールドバーグ度が低い感じが否めなかったのも事実です。しかし,本作ではstage upしたone and onlyのゴールドバーグ・ワールドが全編にわたり聴くことが出来ます。

3人が繰り出すジャズは今までに聴いたことのない強烈な独特のノリで疾走していきます。アヴィタルの顔も野獣のようですが,演奏もまさに野人です。アンプに頼った柔なベースマンが多い昨今,彼は弦を力いっぱい指盤に叩きつけながら,少々のピッチのぶれなど物ともせず猛々しく弾きまくります。ミラルタもこれに負けじと次々と斬新なリズムを繰り出します。ゴールドバーグは知性的ではあるけど,決して行儀の良い優等生ではなく,臨界点ギリギリでの鋭角的先進的フレーズを連射していきます。

コルトレーンの<Equinox>から始まり,最後のガレスビーの<Con Alma>まで,どれも非常に個性的で存在感のあるアレンジが施され,全く飽きることのない,捨て曲なしの全8曲。現代のピアノ・トリオの新機軸を打ち立てた傑作だと思います。

【愛聴度 ★★★★★】

OAM Trio 『 Flow 』 2002 FSNT
Omer Avital (b)
Aaron Goldberg (p)
Marc Miralta (ds)

Aaron Goldberg 『 Worlds 』

2006年07月11日 21時00分30秒 | JAZZ
先日,エリ・デジブリ(eli degibri)の新作,『 Emotionally Available 』のピアノは誰だろうと書いてしまいましたが,たまたま今日,アーロン・ゴールドバーグのHPを見ていたら,エリ・デジブリの新作にも参加していることが判明しました。試聴した限りゴールドバーグっぽくなかったけど。でも良かったです。エリ・デジブリの『 in the beginning 』が出来が良かったのもひとえにゴールドバーグのプロデュース器量によるところが大きいですからね。ということで,今日はゴールドバーグのちょっと前にリリースされた新作『 Worlds 』(sunnyside)について書こうと思います。実はこのところ聴き過ぎたせいか,年がら年中,頭の中で1曲目の<Lambda De Serpente>のテーマが鳴っているんですね。とってもシンプルなテーマだけど,妙に記憶に残るテーマです。彼のHPを開くと自動演奏されますので一度聴いてみてくださいね。

アーロン・ゴールドバーグの場合,僕はオマー・アビタル(Omer Avital),マーク・ミラルタ(Mark Miralta)とのOAM Trioから入ったので,どうしても彼個人名義の作品はインパクトに欠ける感じがするのです。OAM trioが三者対等の緊張感漲るインタープレイを強く打ち出しているのに対し,ゴールドバーグ自身の作品は,彼の内面のデリケートで柔らかい部分が表出した作品作りをしています。別の見方をすると,前者が緊張,後者が弛緩。ゴールドバーグはそれぞれのバンドを使い分けているのがよく分かります。そういうバンドの使い分けは当然と言えば当然のことではありますけどね。そうそう,最近,幻のレア盤『 untold story 』が再発されたエンリコ・ピエラヌンツィも,ヨーロッパ人編成のトリオ,スペース・ジャズ・トリオが<緊張>だとすれば,マーク・ジョンソン,ジョーイ・バロンとのアメリカ人編成トリオは,大雑把に言えば<弛緩>かも。

で,本作の内容ですが,今こうして記事を書くため彼のOfficial HPを読んでいたら,先程お話したM-1<Lambada De Serpente>という印象的なゆったりしたメロディーを持つ曲は,ジャヴァンの作曲でした。それにM-5<Modinha>とM-8<Inutil Paisagem>もジョビンの曲でした。彼は2000年頃,頻繁にブラジルを訪れ,多くの時間をブラジルで過ごしたようです。《 my love for Brazilian music began to grow exponentially. 》と言っています。最後の《, exponentially 》とは《指数関数的に》という意味です。なにせ彼はハーバード大学卒ですから,言う事も難しいのです。ゴールドバーグとブラジル音楽はちょっと結びつきませんけどね。

M-4<Unstablemates>はベニー・ゴルソンの名曲<Stablemates>の複雑なアレンジを施した現代版Stablematesですが,頭から鋭く切れ込むイントロはゴールドバーグらしいアレンジでカッコイイです。M-7<OAM’s Blues>というOAM風ブルースなんかをこの三人で演奏するあたり洒落が効いています。このブルースだけがテンション高い演奏です。

本作を含め今までにゴールドバーグのリーダー作は3作品リリースされていますが,本作がもっともゴールドバーグらしさが表現できているアルバムではないかと思います。作品を追うごとに鋭角繊細,神速反応型の彼独特のスタイルが確立されていき,完成度は非常に高くなってきました。同じようなことはOAM Trioの作品でも言えることですが,彼は現在もなお進化の過程にあると言ってよいでしょう。

と言うことで,ゴールドバーグの他の作品については次回お話します。

Aaron Goldberg 『 Worlds 』2006 Sunnyside
Aaron Goldberg (p)
Reuben Rogers (b)
Eric Harland (ds)
Kurt Rosenwinkel (g) 1曲のみ
Luciana Souza (vo) 1曲のみ

Eli Degibri 『 in the beginning 』

2006年07月09日 21時42分47秒 | JAZZ
僕は頻繁に好きなミュージシャンのofficial HPはブックマークに入れて,時々巡回しているのですが,久しぶりにエリ・デジブリ(eli degibri)のHPをチェックしたら,7月15日に新作がFSNTから発売になるとの情報がありました。早速,FSNTのカタログを調べてみましたが,まだ掲載されていませんでしたが。すぐには手に入らないと思いますがこの新譜は今から楽しみです。

彼のデビュー・アルバム『 in the beginning 』(2003 FSNT)は壮厳で優雅なテーマを持ったタイトル曲<in the beginnig>から始まります。紫色に地平線を染め上げた朝焼けが徐々に生命力をみなぎらせ,壮大なスケールで地空を照らしだすその瞬間,のような楽曲です。その曲想は2曲目の<painless>に受け継がれ,本作全体のアルバム・イメージを決定付けています。魂を音に乗せるように歌うデジブリのテナーも素晴らしいけど,これに拮抗し,繊細でクールな旋律を奏でるアーロン・ゴールドバーグもいつもながら美しい。カート・ローゼンウィッケルのギターは,私的にはアルバムによって好き嫌いがありますが,本作での空間系フレーズは見事にハマッています。全体に難解さはなく,哀愁を帯びた綺麗な楽曲だけで作り上げた好盤です。

ブルガリア人とペルシャ人の血を引くエリ・デジブリはイスラエルで生まれ育ちました。7歳でマンドリンを始めましたが,10歳の時に観にいったジャズのコンサートに感銘を受け,サックスに持ち替えています。そして16歳の時には母国のジャズ・バンドでプロとしての活動を始めていたというのですから,才能豊かだったのでしょう。1997年には全額奨学金を得てバークリー音楽大学に留学しています。1999年にはハービー・ハンコックのsextetのメンバーに抜擢され,世界ツアーに同行しています。この時は来日も果たしています。2年半のハンコックとの競演で,アルバム的には『 Gershwin’s World 』の時のツアーですが,そのアルバムにはクレジットされていませんでの,ツアー要員だっただけなのでしょう。余談になりますが,この『 Gershwin’s World 』は近年のハンコックの作品の中では最も好きなアルバムで,深夜の愛聴盤なんですよ。話は戻りますが,その後はアル・フォスター,ミンガス・ビック・バンド,エリック・リード,最近ではロン・カーター・カルテットなどにも参加しています。

これまでに2枚のリーダー・アルバムを制作しています。本作以外のもう1作は,ケビン・ヘイズとのデュオ『 One Little Song 』(2005 unknown Label)ですが,残念ながらそちらは所有していません。今回リリースされる新作『 Emotionally Available 』はデビュー盤同様,FSNTからのようですが,メンバーの記載がありません。Official HPなんだから,発売日だけでなくメンバーも告知してよとブツブツ言ってはいますが,このHPの新作の試聴は計3曲で,しかも,なんと,フェイドアウトなしのフルコーラスで試聴ができるので,感謝多々でございます。3曲とも何度も聴き返してしまいました。それにしてもピアノは誰なんでしょうかね。他の作品も数曲づつフルコーラス試聴ができますので,ぜひ聴いてみていかがでしょうか。ちなみにケビン・ヘイズとの『 One Little Song 』では,ヘイズがニック・デ・カロのようなヘタウマ声で弾き語りしています。ビックリしました。

Eli Degibri 『 in the beginning 』2003 Fresh Sound New Talent
Eli Degibri (Ts)
Aaron Goldberg (p)
Kurt Rosenwinkel (g)
Jeff Ballard (ds)
Ben Street (b)

Christophe Wallemme 『 Time Zone 』

2006年07月08日 22時11分11秒 | JAZZ

昨日のステファン・ウシャール(stephane huchard)の記事に対して,ブログ仲間のnaryさんからクリストフ・ウォーレム(christophe wallemme)の『 Time Zone 』(2004 Nocturne)の記事をトラバしていただきました。いつもながらありがとうございました。あのアルバムは僕もけっこう気に入っている作品なので,それじゃ,遅ればせながら僕も書いちゃおうかなと思い立ち,今日は久しぶりに棚から取り出し聴きながら書いています。

レミ・ヴィグノロ(lemi vignolo),フランソワ・ムタン(francois moutin)らと並び,フランスの凄腕ベーシストの一人,クリストフ・ウォーレムを紹介する時は必ずと言っていいほど<元,PRYSMのベーシスト>と紹介されてしまうのですが,それほどPRYSMというバンドは衝撃的であり,今もって新鮮さを失わない凄腕ミュージシャンの集合体でした。そんなPRYSMもBlue Noteに4枚の作品を残し2001年に解散したわけですが,その後の2003年にパリの新興レーベル,Nocturneから満を持してリリースされたのが本作『 Time Zone 』というわけです。

メンバーは,ステファン・ウシャールの第二作『 toutakoosticks 』にも参加していたマルチ・リード奏者のステファン・ギロームのほかにアコーディオンのデヴィッド・ヴェニトゥッチ,ダニエル・ミル,ボーカルのダヴィッド・リンクス,それに幻の天才ギターリストの呼び名の高いネルソン・ヴェラス。ステファン・ウシャールももちろん叩いています。このメンバーで出てくる音はやはりアコーディオンをベースとしている以上,基調はフレンチ・ジャズなのですが,スパニッシュ~ブラジル~中近東などのエスニックの匂い漂うまさにボーダレス・ミュージックと言ってよいと思います。僕はあまりこの手の音楽は馴染みがないのですが,きっとフランスのジャズ・ミュージシャンは普段から当たり前のようにこのようなボーダレス・ジャズに親しんでいるのでしょうね。本作はほとんどが彼の作曲ですが,演奏の面ではそれほど際立った所はなく,リーダーとして<こういうジャズ・アルバムを作りたいんだ>というコンセプト提示に主眼が置かれているようす。

そんな目立たないウォーレムに対して,主役を食って一番目立っているのは,ギターのネルソン・ヴェラス(nelson veras)なんです。本作を買った時は全く知らない未知のギタリストでしたが,その素晴らしテクニック,成熟した歌心には驚きました。当時は僕的にはこのアルバムはネルソン・ヴァラスを聴くためのアルバムだったのです。その後,アルド・ロマーノ(aldo romano)の『 intervista 』(1997 verve)に参加していることを知り,早速購入。バティスタ,ダニエルソンに負けない美しい演奏で魅了されました。また,最近,ジェフ・ガードナー(jeff gardner)の再発盤『 Second Home 』(1997 universal)を買ったら,2曲でヴァラスが弾いていました。リーダー作もlabel bleuから1枚だけリリースされているようです(未購入)。

それから,僕は全く知らないボーカルではありますが,2曲で参加しているダヴィッド・リンクスの歌声はなかなか素敵です。1曲はスペイン語で,もう1曲は英語で歌っていますが,もう少し聴いてみたい歌手です。出来れば今度はフランス語で。

          
Aldo Romano『 intervista 』(1997 verve)
ロマーノ,バティスタ,ダニエルソン,それにヴァラスのカルテット。僕はロマーノに思い入れはないが,連れて来るメンバーにはいつもながら感服する。2枚組みだが,ロマーノのインタビューに多くの時間が割かれており,実際の演奏は少なめ。僕としてはインタビューなしの1枚ディスクにして欲しかった。

          
Jeff Gardner『 Second Home 』(1997 universal)
ジェフ・ガードナーはビリー・ハート,エディー・ゴメスとの『 Continuum 』が良かったので,以降,収集しているが,本作はあまりパットしない。ヴァラスも2曲だけの参加だが,ここぞとばかり難易度の高いフレーズを高速で弾きまくっていて凄い。もっと沢山聴きたかった。録音当時,ヴァラスは17才。まさに神童。


Stephane Huchard 『 Bouchabouches 』

2006年07月07日 21時09分25秒 | JAZZ
今日は,先日紹介したジャン・ピエール・コモの作品でも超絶テクニックを披露していたステファン・ウシャール(Stephane Huchard )(ds)の新作でも聴いてみましょう。彼は現在までに『 Tribal Traquenard 』(1999 Blue Note),『 Toutakoosticks 』(2003 Blue Note),そして本作『 Bouchabouches 』(2005 Nocturne)の計3枚のリーダー作を制作しています。今回も前作『 Toutakoosticks 』の流れの延長線上の作品かと思われますが,メンバーは大幅に代わっています。ピエール・ド・ベスマン(p)に代わってエリック・レニーニ(p),ニコラ・フォルメレ(tp)に代わってアレクサンドレ・ターセル(tp),ステファン・ギローム(sax)に代わってリック・マーギッツァ(its)など。本作のテーマは<地下鉄>。彼自身のライナーノーツによると,彼の父親が元地下鉄の運転手だったようです。

《 地下鉄で幼い頃から不思議な旅に連れて行ってくれた。ブレーキのキーキーと鳴り響く不快な音。タイヤとレールのぶつかる騒音。人々の足音。列車のスライド・ドアの閉まる音。古びたエスカレーターの稼動音。どれもが最後には地中奥深くに吸い込まれて拡散していった。そして私はこの不思議な音達に何時も魅了されていた。このノスタルジックな記憶の中の強烈な地下鉄の音は,長い年月をかけて私の中でやっと音楽という形にすることができたのです。 》

本作は4ビート・ジャズではなく,むしろ16ビート系のフュージョンと言ってよい作品です。とは言うもののハード・コア・フュージョンでもライト・フュージョンや,ましてやスムース・ジャズでもありません。どんな分類のフュージョンなのか表現に困りますが,勝手に名づけてしまうとすると,<サイバー・パンク・フュージョン>てなところでしょうか。本作ではウシャール自身が録音してきたと思われる地下鉄関連生音のサンプリングが,全編にふんだんに使用されていて,ヴィジュアル的な空想を掻き立てられる不思議が音空間を作り上げています。私的にはウイリアム・ギブスンやP.K.ディックの小説でも読みながら聴くと雰囲気がでますね。リュック・ベンソンの『 The Fifth Elements 』のサントラっぽかったりもします。深夜の首都高ドライブにも合いそうです。

彼のドラムの技術的なことは僕にはわかりませんが,兎に角,正確無比なタイトでステディーなドラミングです。あまり4ビートを演奏しているアルバムは聴いたことが少ないのですが,彼の70枚にも及ぶサイドメンとしての仕事内容を見ると,あまりオーソドックスなジャズ・アルバムには御呼びがかからないようです。本作でも16ビートの曲での演奏の方が耳を奪われます。スコーンと抜けの良いスネア,シャカシャカと涼しく軽いハイハット,バスドラの連打。ソロになるとオーバーダブかと疑いたくなるような千手観音系の手数の多さ。

《 私は型に嵌まった音楽は好きではない。また,自分を自ら制約することも好まない。この世の中,制約ばかりが氾濫しているが,音楽ぐらいは自由でありたいものだ。》

本作のもうひとつの聴きどころは,やはりエリック・レニーニでしょう。ローズを弾いているのですが,これはメチャクチャ,カッコイイでのです。なんか最近,ローズを用いるアルバム増えてませんかね。古いはずの楽器が,何故か新しいジャズに合うんですね。レニーニのローズは絶品です。そう言えば,フラビオ・ボルトロの『 Road Runner 』(1999 Blue Note)でもウシャール,レニーニが参加して,そこでもレニーニはローズ弾いていました。あのアルバムも結構,本作と似たテイストを持ったアルバムだったような。